2009年09月12日

[つぶやき]日本工業所有権法学会 平成21年度研究会を聴講して

神戸大学で開かれた、日本工業所有権法学会 平成21年度研究会の末席を汚してきた。
商品の容器・包装、それ自体の形状を巡って、商標法3条1項3号の判断基準として、従来と異なる基準が示されたシーシェルバー・チョコレート事件(知財高判平成20年6月30日・平19(行ケ)10293号・裁判所HP)の評価など、新しい展開について議論だけでなく、競争法との交錯領域について根源的に考える場にもなっており、大変勉強になった。

いくつかの報告を受けて考えるところがあったので、まとめていきたい。
現在関連する本ブログの記事は以下のとおりである。
なお、下記の記事には筆者がまとめた報告の概要を含むが、筆者の理解の誤りが含まれている可能性があることをご容赦いただきたい。正確な内容については来年刊行される『日本工業所有権学会年報』を必ずご参照いただきたい。

「[特許]リサーチ・ツール特許問題の解決にはソフトローで」(2009年9月12日記事)
「[意匠]スペアパーツに対する意匠権の制限」(2009年7月17日記事のアップデート)
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2009年09月02日

[特許]特許市場の形成とライセンス情報の開示

M. Lemley and N. Myhrvold, "How To Make A Patent Market", ____ Hofstra Law Review (2008)読書メモ

たった3ページのエッセイではあるが、StanfordのLemley教授とIntellectual VenturesのMyhrvold CEOの共著であり、大変興味深い。

■論文概要
特許権者がライセンス価格を秘匿しがちであるために、その価値について市場で価格形成が極めてなされにくい。
その結果、特許権侵害訴訟において当事者にとっても、陪審員にとっても(注1)合理的なロイヤリティの算定が困難となり、結果として、ホールドアップさせた特許権の利用者に対し、特許権者が不相当に高いロイヤリティを請求する事例につながっている。
特許の取引を成立させ、ホールドアップ問題を回避するためには、ライセンス条件の開示を行うことが手である。特許権者にとってライセンス条件は秘密であるべきだとの議論もあるが、全ての者がライセンス条件を開示するのであれば不利になることはない。

■特許流通促進の観点からは考えられる制度設計
おそらく、ここでは、ライセンスの相手方の開示は問題でなく、ロイヤリティ料(または料率)、ライセンスの期間に限って一律に開示する制度設計が志向されるのだろう。

特許流通促進という観点からは制度設計としては望ましい。(もちろん、ホールドアップ対策になる、という点も見逃すことは出来ないが、これは差止請求権の調整でも解決しうる)

共著者のミヤボルド氏のビジネスを考えると、この主張はうなづける。

ただし、特許権は自ら実施するものである側面が大きい。その点への配慮が気になる。論文からは十分に配慮しているとは読むことが出来ない。

■現実に開示されるであろう情報は有益な情報なの
しかし、注意しなければならない点がある。

我が国で特許権のライセンシーの保護制度のあり方を巡る議論で見られるように、ライセンス条件は必ずしも個々の特許権に紐づいているわけではない。
例えば、以下のような可能性がある。
・多数の特許権を対象としたクロスライセンス(この場合、個々の特許権の価値は常に十分に評価されているとは限らない)
・技術移転・ノウハウ移転の対価も含めたロイヤリティ料設定
・金銭以外での対価設定(たとえば、販売における協力関係の構築)

契約は柔軟な条件を設定できることが魅力である。その分、その内容は簡単に比較できない。そうであるならば、ライセンス条件の開示制度は期待した効果をあげることはできないだろう。

また、企業側は自社の交渉事情を明らかにしないためにも、契約条件に工夫を凝らして、秘匿する手段を追求するものと思われる。

(注1)米国の特許権侵害訴訟が前提となっていると考えられる。
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2009年08月18日

[商標]米国のトレードドレスの保護の詳細

教科書に書いてあることではあるのだが、備忘のため。

ランハム法第43条(a)では、トレードドレスが保護されるが、これまでの判例の積み重ねによって包装等のトレードドレスだけでなく、製品デザインのトレードドレスも保護されるようになった。しかし、後者は識別機能を有しているとは限らないため、二次的意味(secondary meaning、日本法でいう周知性に近い概念と見て(おおざっぱには)良いように思う)の獲得が求められる(注1)。
では何が包装と製品デザインを区分するのかが問題となるが、米国連邦最高裁判所は、Wal-Mart対Samara Brothers事件判決において、包装のトレードドレスは狭義に解されるべきであると示している(注2)。
we believe that courts should err on the side of caution and classify ambiguous trade dress as product design, thereby requiring secondary meaning


(注1)なお、アーサー・R・ミラー=マイケル・H・デービス(著)、藤野仁三(訳)『アメリカ知的財産権法』(八朔社、2008年)116頁は、「保護要件として二次的意味の確立を求めない製品デザインのトレードドレスの区別をルール化した」とあるが「保護要件として二次的意味の確立を求める製品デザインのトレードドレスの区別をルール化した」の誤りであろう。
(注2)芹澤先生のWebサイトに邦訳が掲載されている。
Wal-Mart Stores, Inc. v. Samara Brothers, Inc.,529 U.S. 205(2000)
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2009年08月17日

[知財一般]北川善太郎「集積回路に関する知的財産条約」読書メモ

北川善太郎「集積回路に関する知的財産条約」法学論叢128巻4・5・6号(1991年)1頁-39頁読書メモ

WIPOが事務局が務める集積回路に関する知的財産条約は日米が反対に回ったために未発効となっているが、TRIPs協定35条に基づきその一部の遵守が求められていることから、同条約は無視できるものではない。

その条約の策定交渉に携わった北川名誉教授が、論点と日本の対応を詳細にまとめている。学術的に興味深い点を以下にまとめる。

■デザイン保護を行う条約と、製品保護を行う国内法
集積回路に関する知的財産条約と半導体集積回路の回路配置に関する法律(以下、国内法という)の決定的な違いは、前者がデザイン保護を行う(=製品となっているかは問題とならない)のに対し、条約に先駆けて策定した日本法は製品保護を行う点にある。
当時、半導体生産能力は圧倒的に日米に偏っていたために、欧州からデザイン保護制度としての主張がなされたと考えられるようだ(注1)。このまま条約を批准した場合に国内法の不備が生じてしまうため、国内法23条(間接侵害規定)が実質的にデザイン保護規定となっていると説明した経緯が存在している(注2)。
最終的に批准したものではないが、国内法23条の解釈に当たって参考になる。

■批准しなかった理由は内容に問題があるからではない
日本は最終的に批准しなかったが、その理由は、保護期間の短さ、侵害物品を組み込んだ製品に権利が及ぶか不明であること、善意取得者が悪意に転換したとき(=警告を受けたとき)の補償義務がないこと、などがあるようだが、条約の内容よりは米国との協調が批准しなかった理由にあるようだ(注3)。

(注1)北川善太郎「集積回路に関する知的財産条約」法学論叢128巻4・5・6号(1991年)11頁
(注2)北川・前掲注1 18頁
(注3)北川・前掲注1 32頁
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2009年08月16日

[特許]特許制度がなかったら

石井正『歴史のなかの特許 発明への報奨・所有権・賠償請求権』(晃洋書房、2009年)読書メモ(その2)

■同書から学んだところのポイント
1850年代から欧州では特許による独占の弊害を問題視する声が登場し、特許制度を廃止することを提言するものが少なからず見られるようになっていた。その中で、無審査であり、かつ、出願公開制度のない制度を有しており、制度に対する批判の高かったオランダは、1867年に特許付与を停止し、以後、1910年に特許制度が復活するまで、特許制度がない状況にあった。

この間、国民1人・時間当たりの生産額の増加率は欧州主要国で下位に位置することとなってしまった。
また、特許制度がない間、外国における出願も低調になってしまった(これについて、石井教授は自国の制度がオランダ人・企業の特許取得に対する意欲に影響したと分析する(石井[2009]175頁))(注1)。

結局のところ、特許制度を廃止してしまったことはオランダにとってプラスの結果を生まなかった。

■私見
歴史的なものとなってしまってはいるが、特許制度の効果を測る壮大な社会実験であったことが興味深い。

なお、自国の制度がオランダ人・企業の特許取得に対する意欲に影響したとする見方については、異なる可能性も指摘しておきたい。

出願にあたっては、企業内での体制整備や、代理人が必要となることが少なくない(少なくとも当時の外国出願先の一部は、パリ条約によって、現在とほぼ同様な詳細な明細書作成が必要であった)。自国に特許制度がないことによって、そのような体制や代理人が存在しないために、結果として出願に至らなかったのではないだろうか。

■参考記事
本ブログ「[特許]特許制度の歴史をポンチ絵にしてみる(その1)」(2009年7月7日記事)

(注1)制度復活後は外国出願数が急増しており、特許制度の不存在が出願行動に影響を与えた可能性は極めて高い。なお、この点はSchiff, E. Industrialization without National Patents: the Netherlands 1869-1912: Switzerland 1850-1907, Princeton University Press, 1971, p.46-48の分析による。
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2009年08月15日

[時事][特許]XML標準へのアウトサイダーからの特許権行使事例?

2009年8月12日、米国テキサス州東部地区連邦地方裁判所は、Microsoft社のMicrosoft Wordがi4i社(カナダ)のXML関連特許を侵害するとして、約2億9000万ドルの損害賠償、および、カスタムXMLを含む「.XML」「.DOCX」「.DOCM」などのXMLファイルを開くことができるMicrosoft Word関連製品の販売等の差し止めを命じた(注1)。

Microsoft社の製品の販売差し止めが命じられた、ということに特に注目が集まっているようだが、W3Cの標準規格であるXML規格に関連した特許権行使であることも気になる。

侵害が問題となった特許は、米国特許登録第5,787,449号(注2)である。素人目ながらクレームをざっと見ると、XML規格自体に関わるような広い特許であるように読める(注3)。

なお、XML規格の特許声明書の提出状況をみると、i4i社からの提出は見られない。

仮にそうであるとすると、XML標準規格へのアウトサイダーからの特許権行使事例として位置づけられるのではないか。標準規格に対する特許権の行使はこれまでも問題となってきたが、新たな事例がつけ加わることになる(注4)。

他方で、XML規格自体には関係ない可能性もうかがえる。

CNETニュースによると
「わたしたちは、Microsoftの事業を停止させることを求めているわけではないし、世界中のすべてのWordユーザーに干渉することも求めてはいない」とOwen氏は米国時間8月12日、電話インタビューの中で述べた。今週の判決は、i4iのカスタムXML技術を使用する形態でWordを出荷することのみを禁じる差し止め命令である、とOwen氏は付け加えた。
(出典:CNET Japan「「Word」を市場からなくすことが目標ではない--i4i会長、電話取材に応じる」(2009年8月14日翻訳記事)

とある。

そうであるならば、Microsoft Wordが独自に採用したCustom XMLのみが問題となったのかもしれない(しかし、XMLファイルを開くことができるMicrosoft Wordを差し止め対象としていることとは整合性がない)。私は関連の技術が全く分かっていないために判断できない。今後の詳細な解説を待ちたい。

余談ながら、注にも記したように、本件の特許権はそもそも有効なのか?というところの疑問は少なくない。しかし、原告(特許権者)勝訴の判決が下されたのは、陪審が既に特許権侵害を認定していたからであろう。

(注1)概略はITmedia News「Microsoft、米地裁から「Microsoft Word」販売差し止め命令」(2009年08月13日08時56分記事)に詳しい。
(注2)明細書はこちら
(注3)もっとも、そうであるがために、新規性を欠いているのではないか、との指摘がWeb上には存在する。
(注4)ただし、今回の当事者であるi4i社はいわゆるパテントトロールとはほど遠く、これまでもXMLに関連した製品開発を行っている。そのような背景がある中で、おそらく、無茶な特許権はしないであろうことが推測できる。
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2009年08月14日

[知財一般]企業活動のグローバル化=同一の知的財産権の国際的な出願の促進ではなさそう

市場がグローバル化していると言われているが、ある特定の製品・サービス(そして、組織)がグローバルに展開できるかというと、そうではないことをハーバード大のGhemawat教授は示している(注1)。

文化的、社会的な隔たりがある中で、隔たりが比較的小さい適切な国・地域で集約し効率化を図ったり、その隔たりをうまく活用したり、あるいは、隔たりに適応することが望ましい、とGhemawat教授は述べている。

とくに、研究開発集約度の高い産業では国・地域を超えた組織の集約戦略をとることが望ましい場合が多く、広告宣伝集約度の高い産業では国・地域への適応戦略をとることが望ましいようだ(注2)。

この指摘が正しいとすると、知的財産権の国際的出願を評価する際に、以下の点に留意するべきであることがわかる。

・制度的な障壁があり、同一の技術を国際的に展開できないような場合(たとえば、安全基準や国別の技術標準に適合しない(注3)場合)で、かつ、輸送にコストがかかるような製品に関する技術である場合、必ずしも国際的に特許を取得することは価値を有さない。たとえば個々の特許について三極出願を行っているか否かで、その特許の価値を評価する際には注意が必要である。
・広告宣伝集約度の高い産業では、同一の意匠について国際的に権利を取得していても必ずしも評価できない。企業ごとに見たときには、そのような産業においては、出願された意匠間のリンクがない方がよいのかもしれない(ただし、企業ブランド構築の基礎となるようなデザインについては例外であろう)。

(注1)パンカシ=ゲマワット(著)、望月衛(訳)『コークの味は国ごとに違うべきか』(文藝春秋、2009年)(原著:Pankaji Ghemawat, Redefining Global Strategy, Harvard Business School Press, 2007.)
(注2)前掲注1・ゲマワット(2009)315頁。
(注3)後者についてはISO等で国際標準規格とし、WTO/TBT協定に基づいて国内規格に影響を与えるという手はあるが…。
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2009年08月03日

[つぶやき]ブランドブームはいつくる?

知的財産権のうち、商標権・意匠権というツールを使う要因となるのが、ブランドによる競争力強化であると思う。ブランドと一口にいっても、切り口が様々にある。対象によって切るとするならば、企業、事業、製品の3つに分けることが出来ると考えられるが、そのうち、企業ブランド(コーポレートブランド)が日本で注目されるようになった理由を見てみるとおもしろい。

企業ブランドに近い概念で、最初に話題に上ったものが「CI(コーポレート・アイデンティティ)」だろう。CIは日本では2度話題になっている。
第1次ブームの1970年代の要因は
、(1)米国の流行の取り入れ
(2)オイルショック等による内需伸び低迷期における売上向上への期待
にあるようだ。
第2次ブームの1980年代の要因は
、(1)バブル経済に乗った企業イメージの刷新と社員の連帯意識の醸成への要請
(2)NTT分割・JR民営化の中での大手国営企業によるCIの導入インパクトの高さ
にあることと思われる(注1)。

他方、1990年代後半から生じた「企業ブランド構築」は、
(1)経営資源の中の無形資源をしめる大きな要素としてのブランド価値の認識
(2)連結決算への転換にあたってのグループのアイデンティ確立の必要性(それまではグループ内でも統一性を欠いていた)
(3)新興企業への対抗
にあるとの見解がある(注2)。

私は、直観的にはこれらがブームだったと言い切ることは出来ないと思っている。可能性の一つとして、企業ブランドをひとたび構築しても10年程度でその効果が途切れてしまうことにもあるのではないかと推測している。

いずれにせよ、企業ブランドが注目される波がもしもあるならば、2010年を過ぎたころかもしれない。そのようなときに、「ブランドを構築するための媒体・ツールをどのように他者から守るか」、「ブランドの核となるメッセージを伝える表現をどのように抑えて独占を目指すか」が重要になる。特許権に埋もれがちな商標権・意匠権もこのときは注目されるのではないか…と思う。

(注1)深見幸男『CI入門』(日本経済新聞社、1991年)を参照した。
(注2)伊藤良二『コーポレイトブランド戦略』(東洋経済新報社、第2版、2004年)16頁
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2009年07月17日

[意匠]スペアパーツに対する意匠権の制限

今村哲也「スペアパーツの意匠保護に対する権利制限の可能性とその妥当性」〔RCLIP第28回研究会(2009年7月17日開催)〕聴講メモ
(2009年9月13日追記)


※本聴講メモは筆者の責任で作成したものであり、それに誤りが含まれている可能性があります。また、本メモは、講義を受けて筆者が感じたことをまとめることが主眼であることをどうぞご容赦ください。
※※佐藤恵太・毛利峰子「スペアパーツ意匠保護に関する除外条項の適否」〔日本工業所有権法学会 平成21年度研究会(2009年9月12日開催)〕の聴講で得た知見も、重なるところがあるため追記しました。なお、報告概要のうち、佐藤・毛利発表による知見を含む箇所は「*」印を付しています。

■報告概要
1.背景

・1998年頃、欧州で議論が持ち上がった。その10年前に、独立部品メーカーが相次いで自動車部品の意匠権を巡り敗れる事案が続いていた(なお、そのうち1件では、独立部品メーカー側は意匠権者である自動車会社の支配的地位の濫用を問題としたが、その主張は受け入れられなかった)(注1)。*
・欧州・米国でも自動車のスペアパーツに限らないが、主たる議論は自動車が対象。性格には、欧州では「複合製品の構成部品で外から見えるもの」が対象。
・意匠権者、独立系部品メーカー、損害保険事業者、消費者がステークホルダー。

2.動向
(1)世界全体の現状

・国により制度が異なり、マレーシアでは意匠法による保護を認めず、デンマーク、フィンランドでは保護期間を限定している。英国、イタリアは特定の権利行使を制限し、ギリシアは一定期間経過後に報償金スキームを採用している。
・ドイツ、フランスは修理条項を有していない。
(2)欧州の動向
・2007年12月欧州議会は、(紆余曲折を経て)部品市場の自由化を目的とする場合のみ構成部品の意匠権の制限を認める(ただし、修理製品の出所を消費者が十分に通知されることを求めている*)法改正を加盟国に許容する欧州意匠指令改正案を可決。現在、閣僚理事会で審議中。
(3)米国の動向
・1989年クライスラー社のトラックのフェンダーに係る意匠権を、機能的な形状であることを理由に意匠権による保護を連邦裁判所が否定。この直前にデザイン権法立法の動きがあったことから、スペアパーツを巡りロビイング団体が芽生え始めたと考えられる。
・2007年台湾から輸入したスペアパーツをFord社がITCに意匠特許権侵害に基づき提訴したことを契機に、利害関係人がロビイング。議員立法(H.R.5632)提出がなされた。
・知的財産権利者団体は特許取得のインセンティブを減少させること、特許と意匠特許で保護の程度が異なってしまうこと、を理由に反対を表明し、弁護士団体のAIPLA(米国知的財産権法協会)は立法の必要性が無いことを理由に反対を表明している。
・他方、独立系部品メーカーは、(i)消費者の利益、(ii)スペアパーツに関する意匠登録件数の劇的な増加(注2)、かつ意匠審査自体の質が低いことによる市場の破壊、の2点を主張し賛成の意見表明をしている。保険業界は、競争的な部品が存在することで大幅に部品価格が低下すると述べ、賛成の意見表明をしている。

3.TRIPs協定との関係
・TRIPs協定25条、26条に抵触するとの見解がACEA(欧州自動車工業会)や、Joseph Strauss(注3)から出されている(StraussはWTOでのジェネリック薬品に関する特許パネルの判断基準を用いている)が、抵触しないとする見解もJosef Drexl(注4)らから提示されている。なお、TRIPs25条、26条では意匠の保護について著作権類似の相対権での保護や不正競争行為禁止規定での保護を許容するものとなっている。
・今村講師はTRIPs協定における意匠の保護に対する加盟国の裁量の広さに鑑みて、TRIPs協定で他の産業財産権の制限に対してこれまで示されてきた基準は適用されない、と考えている。(すなわち、Straussの見解には反対)

4.今村講師の見解
・TRIPs協定との関係では疑義は乏しい(理由は上記)。
・欧州では、域内市場の自由化という理由があったために正当化する要因があった。このような要因の無い日本ではこのような規程は難しい。また、意匠法改正の審議会が権利者により構成されていることに鑑みるとそのような改正は政治過程としても困難である。

5.高林教授の見解
・構成部品に限定して権利を制限することは少なくとも日本の意匠法体系上難しい。

6.その他
・イギリスのMust Matchでは、自動車部品が登録できなかった。これが欧州指令により改正され、登録できるようになったことは利点(会場からの指摘)。なお、意匠法による保護を認めないマレーシアは法改正を予定。
・欧州では市場でのデザインの価値の保護が意匠法の目的と共通して捉えられだしているようである。

■私見
1.制度の目的の解釈について(欧州の場合)

「外から見えるもの」に限定されている点が興味深い。これは、欧州意匠規則上、複合部品に組み込まれる部品については、外から見えるものに保護が限定されているためであると、五味弁理士から指摘があり、大変参考になった。
他方そのような背景の無い、米国でも同様に扱われた法案が提出されたのかは不明である。欧州で「外観の回復」が議論の出発点にあるためだろうが、なぜ外観の回復が特別に扱いうるのかは合理的に説明できないだろう(おそらく、議員立法であるので、十分に検討していなかっただけだろう…)。
このような限定は差別的と考えられる余地がある。(ただし、差別的な取扱いがTRIPs協定25条、26条に反するかは今後の課題)。
理由はいずれにせよ外から見えるものに限定していることは、制度目的の解釈に当たって大きく影響するように思う。例えば、サードパーティによる部品流通の促進(ひいては消費者の利益)という政策的理由からは整合的な説明は出来ない。ならならば、部品は外観から見えるものに限られない(例えば、エンジン部品など)からである。

2.TRIPs25、26条との関係
TRIPsとの関係について、著作権パネルや特許パネルでの判断基準は参考となりえないとの今村講師の指摘は鋭いものがある。他方で、たとえば「権利者の正当な利益を害さない」という要件に関し、最初の販売での投資回収で正当な利益は保証されていると述べるDrexlらの見解には、「部品」としての意匠が取得されている以上、本体製品に付随した販売だけを市場として想定していると考えることは疑問である。(なお今村講師はDrexlの意見に賛同されるかは明示していないことには注意)。TRIPs26条にいう「意匠の権利者の正当な利益を害さない」の詳細な解釈が必要であろう。直感的には抵触していると考えられる余地が少なくないように思う。
なお、仮に「第三者の利益」との比較衡量が可能なのであれば抵触しないと読むことも比較的容易に出来るだろうが、そもそも、26条は第三者の利益がある場合に、権利者の利益を害さないことを条件として制限を許容している文言となっているために難しいように思われる。

■参考資料
社団法人日本国際知的財産保護協会『特許庁委託 平成20年度産業財産権制度各国比較調査研究等事業 各国における意匠保護の及ばない範囲の実態調査研究報告書』(2009年)

(注1)1988年に、独立部品メーカーが自動車部品の意匠権に関して裁判が2件登場。CICRA v. Renault[1988] E.C.R.6039では、意匠権で保護されたスペアパーツの保護が支配的地位の濫用にあたるとして、独立部品メーカーが提訴したが、敗訴した。Volvo v. Veng[1988] E.C.R.6211では、意匠権で保護された自動車部品を独立部品メーカーが無断で販売していたところ、意匠権者からは販売差止を求め、独立部品メーカーはライセンスを求めたが、独立部品メーカーが敗訴した。*
(注2)少なくとも日本の企業については中国での偽RV問題に対応するため、構成要素を各国で出願したために、出願が増加しただけであるとの重要な指摘が、会場の自動車業の知的財産担当者からなされた。
(注3)Joseph Strauss, "Design Protection for Spare Parts Gone in Europe?",27(11) European Intellectual Property Review (2005), pp.391-404
(注4)Josef Drexl, Reto M. Hilly, Anisette Kur, "Design Protection for Spare Parts and the Commission's Proposals for Repairs Caluse, 36 IIC (2005), pp.448-457, p.456
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2009年07月14日

[特許]ちょっと気になる事実関係

東京地判平成21年7月10日 平成20年(ワ)第12952号 判決を読んで

特許法解釈の上でも実務の上でも特段の意味のない判決であるのだが、その事実関係はおもしろかった。

■事実のきわめておおざっぱな概要
GPS通信を行うことで位置情報を特定し、周辺の特定の業務を行う者の電話番号(発信番号)を検索し通信を行う携帯通信端末について特許権を有する原告が、そのようなサービスを利用可能な携帯電話端末を製造した企業および販売した企業を相手取り、特許権侵害に基づく販売差し止めと損害賠償3,440万円を求めた事案である。
なお、原告はその主張の中で、位置情報に基づいて周辺の特定の業務を行う者の電話番号(発信番号)を検索し通信を行う構成は、第三者(NAVITIME)のサービスを通じて実現されることを主張している。

■きわめておおざっぱな判旨:請求棄却
特許請求の範囲を分析し、周辺の特定の業務を行う者の電話番号(発信番号)を検索することが、当該携帯通信端末のCPU上で行われていることが、特許請求の範囲に含まれる行為であるとした上で、NAVITIMEのサーバーを通じて電話番号を検索する被告の製品は構成要件を充足していないと判断した。

■判決へのコメント
当事者の主張は綿密に記述されているが、裁判所の判断は比較的あっさりした判決文になっている。出来る限り広範な特許請求の範囲を原告は抑えていると認識していたものと思われるが、その牙城を崩され、どうしようもなかった事例なのだろう。
なお、裁判所が要約した発明の構成要件は極めて簡潔に認定されており、このように認定されているのであれば、仮に被告製品が構成要件を充足していても進歩性が否定されていたようにも思われる。

■ビジネス面で警戒される原告かも…
この原告は、公式のウェブサイトを見る限りでは、開発専業企業(注1)で知的財産権ビジネスを主要な業務としており、「侵害は放置しない」との態度で臨んでいる。
業務の形態を見ると、パテントトロールと言われうる余地はあるし(注2)、一部の特許をオランダの知的財産権ビジネス企業を通じて取得していること、一部の特許で特許取得にあたって極めて多数の出願分割を繰り返すなどテクニカルな特許取得を行っていること、など、知的財産部門の人間であればおそらく警戒する要素が見てとれる。
このような訴訟にはついつい注目してしまう。

(注1)開発、というよりは、特許マップを細かく分析して抜け落ちている特許取得に特化した企業なのかもしれない。多くの発明が特定の個人による発明となっている。また、かつて「2画面型携帯電話」について特許取得をし、話題になったことがあるようだ。
(注2)定義が定まっていないことには留意が必要。
posted by かんぞう at 22:27| Comment(0) | TrackBack(0) | ☆特許 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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