2010年01月03日

[知財一般]育成者権のライセンス契約において研究開発禁止特約を独占禁止法上違法としないという選択肢について

野津喬「独占禁止法によるライセンス規制に関する経済分析―植物品種の開発市場に関する考察」日本知財学会誌第6巻1号(2009年)67頁-82頁読書メモ

知的財産権のライセンスにあたって、ライセンシーの研究開発を制限する特約を付する行為は、「知的財産の利用に関する独占禁止法上の指針」(公正取引委員会、2007年)によって、将来の技術市場または製品市場に置ける競争を減殺する恐れの強い行為として、原則として不公正な取引方法にあたる、とされている。

特許権や技術に関するノウハウを想像した場合、直観的にも理解できる法運用であるが、種苗法に基づく育成者権のライセンスについては、競争減殺は生じず、むしろ、研究開発を制限する特約を付する行為を禁止することが技術開発に負の影響を与えてるとの分析を行った研究成果が公表された。直観に反する分析であり、大変興味深い。しかし、いくつか疑問も残った。ここで簡単に紹介をする(なお、論文の概要は筆者の責任でまとめたものである。本記事をお読みの方はできる限り原典にあたって頂きたい)。

■論文概要
種苗法では、農業事業者による自家増殖には権利が及ばないこととなっているが、契約でオーバーライドが可能である。しかし、試験研究の例外があり、かつ、侵害の立証が容易でないために、仮に契約で自家増殖を禁止していたとしても、ライセンシーが試験研究の例外に基づく増殖行為であると言い逃れをし、契約に反する自家増殖行為を行うようになる。そのため、試験研究の例外に基づく言い訳をさせないよう、研究開発をそもそも禁止する(研究開発禁止特約を結ぶ)ことが育成者権者にとっては妥当な選択肢となりうる(注1)。
研究開発禁止特約を独占禁止法上禁止することが技術開発市場に与える影響を、契約のゲームモデルを構築し分析すると、ライセンシー(農業者)は契約不履行の立証費用が十分に高いならば、自家増殖をしないとの契約を締結しながらこれを履行しないことがもっとも合理的な選択となる(そのうえ、ライセンシーは研究開発をしないことも合理的な選択となる)。しかも、現状に鑑みると、契約不履行の立証費用は極めて高いことが推定される。これが意味することは、研究開発禁止特約の制限は、育成者権者へ還元される利得を減らす上に、研究開発を活性化させないと考えられる(75頁)。
また、研究開発禁止特約を締結する慣行が存在した品種と、そうでない品種の、個人による育成者権登録件数の推移を、「(研究開発禁止特約の)契約慣行定着(ダミー)」「出荷量」(切り花、球根類、鉢物、花壇用苗もの類それぞれ)で回帰分析すると、研究開発禁止特約の契約慣行が定着していることが育成者権登録件数にプラスに作用していることが示された(77頁)。
ここから考えると、研究開発禁止特約は、新品種開発市場においては、競争阻害に働くものでないと言える。そうであるならば、「育成者権の利用許諾契約における研究開発制限条項の設定に対する独占禁止法の適用には慎重に対応すべきである」(80頁)。

■私見
末尾に示すように、分析には3点の疑問を感じるものの、「知的財産の利用に関する独占禁止法上の指針」に対する実証的なアプローチとしての意義は小さくない。単純に知的財産権としてひとくくりにしてはいけない例になるかもしれない。実証研究分野として深堀が行われて良いテーマであるように思われる。
もっとも、政策的インプリケーションとしては、独占禁止法の適用を慎重にすることよりは、前提となっている契約不履行の立証費用の低減化施策の実施(種苗Gメンの強化)や、サンクションを適切に働かせること(後述の通り、育成者権侵害には刑事罰が科されているにもかかわらずその検挙を確認できない)を提案することの方が、より妥当(注2)であろう。研究開発が行われない下地を作ることは将来の消費者に害を及ぼすと、理念的には考えられるからである。

なお、私は契約理論的分析や回帰分析に明るくないので、素人的な疑問に留まるが、私が感じた疑問点は以下の通りである。

□1.契約ゲームモデル分析において、ライセンシー独自の研究開発によるライセンシーに生じる利得が含まれていない
ライセンシー(論文では農業者として代表して表記している)が行った独自の研究開発により、育成者権者(論文では種苗企業として代表して表記している)の販売する種苗を購入しなくて良いことによる利得は含まれているものの、独自に研究開発を行ったことで生じる追加余剰が考慮されていないことが気になる。これがゲームの中で当然にライセンシーが研究開発をしない要因につながっているように思う。
もちろん、研究開発から1年で独自の追加余剰が発生することがあり得ないことは、種苗の研究開発の現場から考えると妥当なものである可能性は高い(注3)が、そうであっても将来のレントへの期待値を追加して分析するべきではないだろうか。

□2.契約ゲームモデル分析において、ライセンシーが契約を履行しないことによるライセンシーのサンクションが考慮されていない
育成者権侵害は「十年以下の懲役若しくは千万円以下の罰金」が科される(種苗法67条)。決して軽い刑罰ではない。契約不履行の場合、育成者権侵害になると考えることができることを考慮すると、ライセンシーは果たしてそれほど容易に契約を履行しないという選択肢を採るのだろうか。刑事罰が科されることは、育成者権にとっては自らが費用を負担せずにライセンシーの違反行為をコントロールしうるということを意味する。この点を考慮しないことは適切でないように思う。
もっとも、統計をみる限り、育成者権侵害での検挙の例がみられないようであり(注4)、このような現状を鑑みると、現実にはサンクションとして機能していないのかもしれない。ただし、現実に機能していないのであれば、それを機能するよう運用することを促すことの方が適切な政策的インプリケーションであろう。

□3.回帰分析において、研究開発禁止特約の契約慣行が定着した品種とそうでない品種との間の育成者権登録件数の平均値の差が契約慣行定着ダミー変数の係数に影響を与えている可能性がある
回帰分析では、(契約慣行定着ダミーに関する係数)×(契約慣行定着ダミー)+(出荷額に関する係数)×(出荷額)という推計式を設定している。ところで、記述統計分析を見ると、契約慣行が定着した品種とそうでない品種との間の育成者権登録件数の平均値は、前者が1.8程度であるのに対し、後者は0.5である。契約慣行定着ダミーはあくまで0,1の値であるため、上記推計式では、契約慣行が定着した品種とそうでない品種との間の育成者権登録件数の平均値の差は、契約慣行定着ダミーに関する係数が吸収することになる。これが契約慣行定着ダミーに関する係数をプラスにさせたのではないだろうか。

(注1)この1行は論文で明示されている訳ではないが、当然に前提にしているものと考え、筆者が追加した。
(注2)より非制限的で代替的であるという意味において妥当と考えている。
(注3)野津喬「独占禁止法によるライセンス規制に関する経済分析―植物品種の開発市場に関する考察」日本知財学会誌第6巻1号(2009年)77頁も「新品種の開発には少なくとも3年程度かかる」ことを示している。
(注4) target="_blank">警察庁「平成20年中における 生活経済事犯の検挙状況について」(2009年)23頁では、2008年中における知的財産権侵害事犯の概要として、検挙件数を、商標権侵害、著作権侵害、その他の区分で紹介し、その他の内訳として「「その他」の内訳は、不正競争防止法違反(19事件、69人)、特許法違反(1事件、3人)、農林物資の規格化及び品質表示の適正化に関する法律違反(1事件、4人)、関税法違反(3事件、12人)である。」と記している。この中に育成者権侵害(種苗法違反)は含まれていない。なお、それ以前の年度における同様の統計は管見の限り見当たらない。
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2010年01月01日

[特許]2010年は「特許権の無視」をしない年にしたい

マーク=レムリー(著)・島並良(訳)「特許権の無視」財団法人知的財産研究所・島並良『岐路に立つ特許制度―知的財産研究所20周年論文集―』(2009年)67頁-89頁(Mark A. Lemley, "Ignoring Patent", 2008 Michigan State Law Review, p.19- (2007)の翻訳)読書メモ

2010年の『新成長戦略』は示された。
さて、その基盤はどうか。

特許制度がこれからの経済の発達に寄与できるものであるかどうか、新年の初日に考えてみた。

"Patent Failure"や"Patent Crisis"という言葉が特許制度を巡って登場するようになった中、特許制度のあり方について、日本、米国、欧州、中国、インド、ブラジルの代表的な研究者・実務家が著した論文をまとめた、大変読み応えのある本が出ている。
この中に、スタンフォード大学のLemley(レムリー)教授が著された興味深い論文がある。
法学、経済学双方の観点から特許制度を研究されてきた教授が示された、望ましい特許制度像は、日本の制度のあり方に示唆を与えていると私は考える。

■Lemley教授が考える特許制度の課題とあるべき方向性
Lemley教授は、産業界の多くで少なからず特許権の存在を無視している、言い換えると、すべての特許権の非侵害を確かめた事業展開が行われていない、と指摘した上で、現在の特許制度の下ですべての特許権の非侵害を確かめた事業展開を行わせる社会の非合理性を指摘している。現在の特許制度の問題の根には、知的財産制度を所有権制度のアナロジーとして制度のあり方を考えていることがあると述べている。Lemley教授は、所有権制度のアナロジーとして制度設計を行った場合の、社会が負うコストとして、以下の4点を挙げられている(注1)。
・特許出願から、(少なくとも)出願公開まで、あるいは(より厳密には)特許権として設定登録されるまで、権利の存否が不明確であるために、確実に権利侵害を避けようとするならば事業化が著しく遅れる。しかも、米国においては継続出願(Continuation)により権利範囲が不明確である。
・特許権者が自ら実施しているのであれば独占的実施を、実施していないのであれば、より高額の便益(ライセンス料)を得るために、独占的実施許諾を、それぞれ行うために、技術のイノベーションが阻害される。
・権利行使される特許権の多くがそもそも無効か、権利侵害でない場合があり、そのような権利行使によって無駄な負担が生じる。
・1製品当たり多数の特許権が関与する場合、たった1つの特許権に所有権と同じく排他権を与えると、ホールドアップが生じる。

上記の4点のうち、第1の点に掲げられた継続出願以外は、国際的に特許制度が共有している点である。言い換えれば、現在の特許制度においては国際的に普遍な社会的コストということができるだろう。

ところが、あるべき特許制度の提言(注3)をみると、米国に特有の点に焦点が当てられているように見える。
・権利範囲の早期明確化と有効性の早期確定((1)審査の迅速化、(2)継続出願の制限、(3)全出願の出願公開、(4)ピアレビュー制度の導入、(5)特許登録異議制度の導入、(6)Gold-Plating制度(Lichtman教授とLemley教授が提唱する、審査官による特許要件に関する自発的な追加調査であり、出願人に先行技術提供を求めて行うもの)(注2)の導入)
・独立発明の抗弁または先使用権の導入
・故意侵害に対する懲罰的損害賠償制度の存在による、先行特許調査回避の排除
・合理的実施料算定方法の改革

■Lemley論文から伺うことができる示唆
上記の提言をみると、権利の有効性の早期確定に関するもののうち、特許登録異議制度とGold-Plating以外は日本の制度は既に達成している。そうだとすると、実は日本の制度は望ましいものであるのかもしれない。
少なくとも、米国の現状からみると、日本の制度は望ましいものとして映っている可能性がある。(もちろん、米国の現状から望ましいからといって日本の現状に適していると、直ちにいうことはできないが。)

振り返ってみて、日本の制度に置いて課題となっているものは何だろうか。強引な言い方をすると、グローバルな制度統一がもっぱらな課題ではないだろうか。
そうならば、一度、胸を張って日本の制度を海外の標準とすることを売り込むのも手かもしれない(注4)。

そのためには、日本の制度が競争力に寄与したことを実証していくことが必要だろう。
また、停滞気味の米国の特許制度改革法案を後押しする政治的アピールも適切だろう。
日本からできることは複数ある。

(注1)マーク=レムリー(著)・島並良(訳)「特許権の無視」財団法人知的財産研究所・島並良『岐路に立つ特許制度―知的財産研究所20周年論文集―』(2009年)70頁-74頁。
(注2)Douglas G. Lichtman & Mark A. Lemley, "Rethinking Patent Law's Presumption of Validity", 60 Stanford Law Review, p.45 (2007) available at SSRN
(注3)レムリー・前掲注1「特許権の無視」76頁。
(注4)ただし、グレースピリオドの導入に関しては、日本の制度には改良点があるとの議論がある。
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2009年12月08日

[このブログについて]その4:コメント欄に認証機能をつけました

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コメント欄にスパムが多くなってしまったため、認証を導入しました。
お手数をおかけしますが、どうぞご容赦ください。

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2009年12月06日

[知財一般]知的財産部門の評価

組織評価にあたって、さまざまな定量指標が用いられているが、それが組織の価値創造と結びつかず、個々の部門の最適化にしかつながらないような指標となっていたらダメだ。

例えば、適切でない指標設定としてはこんなことが挙げられるだろうか。
・××材料分野で短期的に売り上げを伸ばすため、これまで△△材料が用いられていた○○製品分野への営業を強化することとし、○○製品分野での××材料の売上額を指標とした。だが、△△材料分野において、当社子会社は○○製品分野での供給の50%以上のシェアを有していた。→上手にやらないと単に競合してしまう。他社のシェアを奪ったことを主たる指標を設定するべき。
・事業部門の経費計上処理の遅延が適時開示の上で障害になっており、同時に、これに伴って開示期前の会計部門の過負荷が問題となっていたため、適時の経費計上処理率を事業部門の指標とするとともに、総労働時間を会計部門の指標とした。→なぜ事業部門の経費計上処理が遅れているか検討しないままに実施すると危険。例えば現場が忙しすぎる、現場と会計部門のコミュニケーションが不足している、などの可能性がある。単に会計部門を守ると、現場が不正な経費処理を行うことにつながりかねない。

知的財産部門においても同様で、組織全体の価値創造を支えるものでなくてはならない。これはあたりまえのことではあり、今更言われなくてもという思いも直観的にはもつが、間接部門一般についつい自己目的化した事項を指標としがちであることを警鐘する意見がある(注1)。

では、どのような指標を立てるのがよいのか。

評価指標のあり方を検討した論稿に拠ると、事業部門の中でも戦略がそれぞれ異なっているのであるから、それに併せた指標とするべきであるとしている。そして、以下のような行為を戒めている。

複数の事業部を包括して業績評価するような指標は設定するべきでない
(知的財産マネジメント第1委員会第2小委員会「知財マネジメントの重要業績指標(KPI)―知財目標・知財戦略とKPIに関する考察ー」知財管理59巻8号(2009年)999頁)

また、同論稿に拠ると指標設定の視点としては、知的財産部門に行ったアンケート調査結果に拠る業務分類が有効であると述べられている。

具体的な評価指標のメニュー(これは自社の各事業部門の戦略に応じて取捨選択されるものである)として、提案促進活動の活性度や、提案特許評価度、研究開発費対出願率、国内登録成長率、米国登録率成長率、警告発受比率、無効資料発見率、ライセンス阻止率(自社がライセンスを受ける必要の阻止率)、特許集中度などが一例として示されている(注3)。

同論稿に挙げられている指標を見ると、特許明細書作成の技術的な要素(いかに強い特許を作るか)という点について多く指標が挙げられている訳ではない点は、昔ながらの職人的特許屋さんにとっては寂しいところがあるかもしれない。

とはいえ、知的財産部門がいかに全社の価値創造の中で重要かというのを、意識させてくれるものとなっている。

(注1)「特集 バランス・スコアカードの実学」ハーバードビジネスレビュー2003年8月号(ダイヤモンド社)
(注2)スティーブ・マントン(著)=屋代菜海(訳)=佐々木一(訳)『統合化された知的資産マネジメント―組織の知的資産を活用、保護するためのガイドブック』(発明協会、2007年)27頁
(注3)知的財産マネジメント第1委員会第2小委員会「知財マネジメントの重要業績指標(KPI)―知財目標・知財戦略とKPIに関する考察ー」知財管理59巻8号(2009年)1002頁
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2009年12月03日

[知財一般]日本の革新力―外と内の目の格差―

忙しい、という思いに負けてしまって、すっかり勉強ができていなかった。
リハビリがてらぼちぼちと覚え書きを残していく。

日本はイノベーション力に弱い、と言われている。
言われている、というか、そういう前提で霞ヶ関の虎ノ門に近いあたりのビルにいる人たちも、本でもだいたいそういうトーンで書かれている(注1)。
確かに、世界的に目を引くようなものを、必ずしも生み出せていなくて、アメリカの発想に乗っかって稼ぎを得ているだけで、将来性がないんじゃないか、なんて思いもしないでもない(言い換えると、日本は「モノ」づくりには強いが、「こと」づくりには弱い、ように思える、ということである)。
実際、研究開発効率も落ちている(注2)。

だけど、アメリカから見るとそうではないらしい。Newsweek誌とPenn, Schoen & Berland Associatesが行った米国の成人に対するアンケート調査では、技術革新力の高い国として、米国以上に日本を挙げている(米国が技術革新力の高い国と挙げた回答者が73%であるのに対し、日本を技術革新力の高い国と挙げた回答者は81%。なお、中国は50%、ドイツは42%にすぎない)(注3)。

もちろん、これはある種の人気投票ではあるから実情を反映している訳でもない。また、回答者の中でのイノベーションの定義がどのようであったのか定かでない。いわゆるprocess innovationを含むのであれば、日本は革新的な国だろう。日本は、process innovationがお家芸と言われている。

とはいえ、アンケート結果には少し自信を持っても良いのかもしれない。日本が革新的でないとの漠然とした思いをもつ背景には、基礎研究ただ乗り論の名残がまだあるのかもしれない。あるいは、単に高齢化に伴って精神的な活気が低下しているのかもしれない。きちんと見極めた方が良い。TIME誌が先日取り上げた「アメリカが中国に学ぶべきこと」で挙げられていた一つが、"Be Ambitious"だった。
(注1)岸宣仁『知財の利回り』(東洋経済新報社、2009年)はこれに関する日本国内での問題意識も大変わかりやすく整理している(主眼は違ったところにあるが)。
(注2)『ものづくり白書2006』
(注3)ダニエル・マギン「アメリカが失ったイノベーションの力」Newsweek日本語版2009年12月9日号42頁。
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2009年10月19日

[知財一般]パリ条約上の優先権の効果を巡る解釈についての覚書

知的財産管理技能検定を受けることが私の周りでちょっとしたブームになっている。
こんな試験を受けると、いかに自分の勉強が足りないか明らかになってしまうのだが、勇気を持って申込みをし、慌てて勉強をしている。泥棒を捕えて縄を綯うとはこのことだ。

その中で、気になる問題があった。

「パリ条約上の優先権の効果は、第1国出願から12ヶ月以内に行った優先権を伴う第2国での出願における出願日が第1国出願の出願日に遡及するものである」
これは条約上「不利な取り扱いを受けない」に過ぎないのであり、「出願日に遡及する」と書いていないから誤った選択肢、とのことだ。

たしかに条約上は、以下のように定められている。
工業所有権の保護に関するパリ条約(注1)
第4条(優先権)B
…(略)…A(1)に規定する期間の満了前に他の同盟国においてされた後の出願は,その間に行われた行為,例えば,他の出願,当該発明の公表又は実施,当該意匠に係る物品の販売,当該商標の使用等によつて不利な取扱いを受けないものとし,また,これらの行為は,第三者のいかなる権利又は使用の権能をも生じさせない。…(略)…

しかし、効果を考えたら出願日遡及と捉えても良いのではないか?
日本国内では出願分割、出願変更は出願日遡及になっているので、同じように理解しても良いのではないか?と疑問がわく。
だが、調べて見ると、きちんとした理由があってそのように解釈しなければいけないことがわかった。ここでは(1)両解釈の差、(2)出願日遡及と解釈できない理由(国内法)、(3)出願日遡及と解釈することの問題点、を覚書としてまとめる(注2)。

■出願日遡及と解釈する場合と、不利な取扱いを受けないと解釈する場合の差
両者の違いは、優先権の基礎となる第1国出願の出願日と、第2国出願の出願日の間に、第2国において法改正があった場合に現れる。
出願日遡及であれば、改正前の法が適用されるが、不利な取扱いを受けないとの解釈であれば、改正後の法が適用される。

■出願日遡及と解釈できない理由(国内法)
少なくともパリ条約に基づく優先権主張を日本で行う場合においては、出願日遡及と解釈できない理由もある。

まず、明治32年法では出願日遡及とする規定であったが、その後、現行の文言「特許に関し条約に別段の定があるときは、その規定による。」(26条)に近い文言となり、パリ条約の文言が事実上採用されることになったようだ。
そうであるならば、立法者としては出願日遡及とする考え方を改めたと理解することは不自然ではない。

また、これまでの特許法改正において、改正前に優先権の基礎となる第1国出願が行われた特許出願についての遡及も認めてきていないことも理由として挙げられている(注3)。

以上のように、我が国の立法者意思を解釈の手がかりにするならば、日本の特許法においては出願日遡及と解釈することは適切でないだろう。

■出願日遡及と捉えるとこんな不都合もある!
また、出願日遡及と捉えると、特許・実用新案の優先権主張期間が条約上12ヶ月であることに対し、意匠・商標の優先権主張期間が6ヶ月であることの差がネックとなり、後者の意味が没却されることが指摘されている。

すなわち、実用新案登録出願を行い、優先権主張期間である12ヶ月以内に第2国出願として日本国で出願を行い、直ちに意匠出願に変更することが出来る。しかし、これは、優先権の基礎となる出願が意匠出願であれば優先権主張ができなかったはずである。
このような不都合が指摘されている(注4)。

(注1)特許庁訳に拠った。
(注2)以下はすべて後藤晴男『パリ条約講話 第13版』(発明協会、2007年)に拠った。
(注3)後藤・前掲注2 155頁。
(注4)後藤・前掲注2 157頁。
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2009年10月01日

[特許][時事]知的財産権の非係争条項と拘束条件付取引

標準関係を追いかけている人間には、興味深い事案が出た。

■Qualcommに対する排除命令の理由の概要

公正取引委員会から「クアルコム・インコーポレイテッドに対する排除措置命令について」とする報道発表が行われた。

Qualcommが保有するCDMA標準の必須特許のライセンス契約の中に、条件として以下の3つが含まれていた(なお、原文を言い換えている)。
(1)ライセンシーは「CDMA携帯電話端末及びCDMA携帯電話基地局に用いられる半導体集積回路等の製造、販売等のため」の知的財産権をQualcommに無償で許諾し、その知的財産権を侵害するCDMA携帯電話万末及びCDMA携帯電話基地局の使用についてQualcommに権利主張を行わないこと
(2)ライセンシーは「CDMA携帯電話端末及びCDMA携帯電話基地局に用いられる半導体集積回路等の製造、販売等のため」の知的財産権を侵害するCDMA携帯電話万末及びCDMA携帯電話基地局の製造、販売、使用について、Qualcommの顧客に権利主張を行わないこと
(3)ライセンシーは「CDMA携帯電話端末及びCDMA携帯電話基地局に用いられる半導体集積回路等の製造、販売等のため」の知的財産権を侵害するCDMA携帯電話万末及びCDMA携帯電話基地局の製造、販売について、Qualcommのライセンシーに権利主張を行わないこと

これが、拘束条件付取引に該当するとして9月28日付で排除命令を受けている。

理由を見ると、
・国内事業者においてCDMA携帯電話端末の製造・販売において当該特許のライセンスを受けることが必須と考えられていること
・「CDMA携帯電話端末及びCDMA携帯電話基地局に用いられる半導体集積回路等の製造、販売等のため」の技術の研究開発の意欲がそがれること
・Qualcommの当該技術を用いる市場(CDMA携帯電話端末市場および同基地局市場と考えられる)における有力な地位が維持されること
が要素となっているようだ。

■これまでの傾向

知的財産の非係争条項を巡る事例は、最近ではマイクロソフト非係争条項事件(公取委審判審決平成20年9月16日(注1))があり、本件同様、知的財産権者の市場支配力がポイントであった(ただし、本件はより技術上の支配力に力点がある)。

(注1)判例評釈として、栗田誠(2008)「独禁法事例速報 パソコン用基本ソフトのOEM販売契約における非係争条項が拘束条件付取引に該当するとされた事例――公取委審判審決平成20.9.16」『ジュリスト』,1367号,pp.96-97. 宮井雅明(2008)「ウィンドウズのOEM販売契約における非係争条項――公正取引委員会平成20.9.16審判審決:マイクロソフトコーポレーションに対する件」『公正取引』,98号,pp.26-31.
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2009年09月17日

[不正競争]営業秘密の刑事保護:過度の萎縮への手当はされそう

本年の不正競争防止法改正による営業秘密の保護のうち刑事罰の強化について、私はその妥当性に疑問を持っている。
とりわけ、雇用者(なかでも現場の研究者)に過度の萎縮を生じさせないかが懸念であった。

たとえば、過去の記事では以下のような事例を懸念していた(注1)。
「図利加害」目的であったかどうかは、内心の問題である。内心を構成要件とする際に、広範な要件とすることは妥当なのだろうか。
解釈次第ではあるので杞憂となるきらいはあるが、「加害」を広めに解釈すれば、何からの理由で持ち出して、結果として流出させた者も処罰されることとなる。例えば、残業が制限されている中、内規に反して自宅に持ち帰ったが、その際「何か会社に困ったことが起きるかもしれない」という程度の意図ならばどうだろうか?現場の研究者・技術者に過度の萎縮効果を与える気がしてならない。

その点について解釈上参考となるものが出ていたので取り上げる。

法改正時に、衆議院では附帯決議に以下のような文言が存在している。
「不正競争防止法の一部を改正する法律案に対する附帯決議」(第171回国会閣法第39号附帯決議)(抄)
営業秘密侵害に対する刑事罰の強化に当たっては、その趣旨に関し、事業者、労働者双方に周知徹底を図るとともに、労働者の間に疑念や過度の萎縮が生じることのないよう、労働者の正当な行為や日常業務が処罰対象とならないことを指針等により明確に示すこと。

「労働者の正当な行為や日常業務が処罰対象とならない」としており、雇用者の萎縮への対応が考慮されていると考えることができる。どこまでが「正当な行為や日常業務」を指すかは営業秘密管理指針に委ねられている構造になっている。

営業秘密管理指針は未だ改訂作業の途中であると思われるが、原課の中原室長の論稿では(注2)、以下のように述べられていた(注3)。
使用者の明示の許可を得ずに営業秘密が記載された書面等を持ち帰ったとしても、保有者の業務を遂行するために自宅等で残業をする意図にすぎないときは、同様に、図利加害目的にあたらない。

個人的な見解である可能性はあるが、営業秘密管理指針に影響を与える可能性は少なくない。
私の懸念は一つ解消しそうだ。

(注1)本ブログ「[不正競争][時事]オープンイノベーションは情報の流通を威圧的に統制する制度の上に成り立つとは思えない」(2009年2月1日)
(注2)原稿の最後に「意見にわたる部分は個人の意見」と注記してあったので、念のため経済産業省の見解と直ちに判断することはしない。
(注3)中原裕彦「「不正競争防止法の一部を改正する法律」の概要」L&T44号(2009年)46頁。
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2009年09月13日

[著作権]米国の録音物に関する著作権についての覚書

十分に調べ切れていないため間違っているところもあるかもしれないが、日米の差異として気になったので、覚書を。

米国では、1976年著作権法によって、録音物それ自体の著作権(日本では著作隣接権に位置づけられる)は、公衆に対して当該録音物を用いること(公演すること)には及ばない規定となっている(米国著作権法114条)。これは、立法者が明確に意図して作られた規定である。

つまり、録音物を公衆に対して利用する際(注1)、利用者は、録音物が音楽の著作物であれば、作曲者、作詞者(詞がある場合)、実演家(米国では媒体に固定された実演についてはその著作権者となる)から利用許諾を受ければよい。レコード会社が利用に当たっての権利処理に介在する必要が乏しいことになる(注2)(注3)。

音楽関係の著作権を巡る議論において、米国の議論を参照する際には十分に注意したい違いである。

ただし、録音された物の公衆送信には録音物に関する著作権を有する者の権利が及ぶ(つまり、レコード会社の権利が及ぶ)(米国著作権法114条)(注4)。この点を考えると、実際上は日米の違いはそれほど大きくないのかもしれない。

(注1)録音物を私的に使用する場合は「録音物を使用する際」と表現すれば良いので、厳密には「録音物を利用する際」で良いのだが、念のためこのように表記した。
(注2)録音されている著作物に関する権利の譲渡を受けていない限り、窓口として有益というものに留まるだろう。
(注3)著作権の集中処理を行う場面で、使用料についてレコード会社に分配される額が多く、伝統的な著作者(作曲家、作詞家)の取り分が少ない、といった不平が出ることもない。
(注4)Arthor R. Miller & Michael H. Davis(著)=藤野仁三(訳)『アメリカ知的財産権法』(八朔社、2008年)220頁によれば、ロビイングの成果であるとされている。
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2009年09月12日

[特許]リサーチ・ツール特許問題の解決にはソフトローで

井関涼子「リサーチ・ツール特許問題の解決方法」〔日本工業所有権法学会 平成21年度研究会(2009年9月12日開催)〕を聴講して

■報告概要
研究活動の上流に位置づけられる技術に対する特許権であり、代替手段がない場合や、基本的・汎用的手段である場合が多い。そのため、影響が極めて大きい。とりわけ、技術開発行為自体を独占し、技術についての競争を阻害しうる(注1)。
日本では、試験・研究としての実施の例外は、通説が別の研究の手段として特許権を実施する場合には及ばない(特許権侵害になる)としているため、難しい(また、仮に実施の例外を認めると、リサーチ・ツール特許を取得する意味をなくす)。強制実施圏の議論もあったが、欧米の製薬企業団体からの反対でうまくいかなかった。そこで、総合科学技術会議のガイドラインで方向性を示している。
米国では、試験・研究としての実施の例外(Bolar条項)は、立法趣旨を超えて新薬開発のための試験にも及ぶと文言から解釈する最高裁判決が登場(Merck KGaA v. Integra Lifesciences I, 545 U.S. 193 (2005))。ただし、同判決は明示的にリサーチ・ツール問題には関係がないことを述べている。強制実施件についてはアレルギーが強い。NIHグラントを受けたものについてはガイドラインが存在する。
なお、米国では非営利の研究に対して特許権の効力を制限すべきとの意見がある(注3)。また、試験研究の例外を拡大するが金銭請求権を認めるべきとの意見もある(注4)。
ではどのような手段が良いのか。
試験・研究の例外は、リサーチ・ツール特許の価値を奪う危険性がある。強制実施権は手続きが面倒であり、行政の介入を招く。ガイドラインは法的効力がないが、柔軟な解決を導くことが出来、妥当ではないか。ただし、国際的な整合性は、米国の特殊な状況を鑑みると難しい。

(注1)会場から、利用者の視点にたって特許権の制限を議論すると、発明の奨励という面が疎かにされかねない、との注意喚起があった。この点に関して言えば、リサーチツール特許問題は、利用者の障害になるだけでなく、発明の奨励という面でも障害になるだろう。
(注2)試験・研究としての実施の例外について言及している最高裁判決からは、別の要件が読み取ることが出来るのではないかとの指摘が会場からなされた。最高裁判決について、機会があれば研究したい。
(注3)K. Strandburg, "Users as Innovators: Implications for Patent Doctrine", 47 University Colombia Law Review 467 (2008)(井関教授のレジュメで紹介されていた)
(注4)J. M. Mueller, "No Dilettante Affair: Rethinking the Experimental Use Exeption to Patent Infringement for Biomedical Research Tools", 76 Washington Law Review 1, 52, footnote 255 (2001)(井関教授のレジュメで紹介されていた)

■私見
(1)リサーチ・ツール特許問題の解決の方向性について

解決の方向性として、ガイドライン等のソフトローにより調整することが妥当と考察された井関教授の見解に賛同したい。
理由を付け加えるならば、リサーチ・ツールについては、その他の技術分野と異なり、研究開発専業者という者が想定しづらい可能性があり、私的な調整に委ねても効果的にいく期待があることが挙げられる。
リサーチ・ツールが研究開発に用いる技術であるため、リサーチ・ツールの開発者は、ほぼリサーチ・ツールの利用者になりうるように思うのである。もちろん、観念的には、実験、実証に関わらない理論研究のみを行い、特許権を取得することもありうる。しかし、おそらく、そのような場合は限定的なのではないだろうか(注5)。
もしそうであるならば、リサーチ・ツール特許の行使は相当に勇気のいるものとなる。濫用的な行使を警戒する必要は必ずしも高くない。ならば、各技術領域での自由に委ねることが出来るイドライン等のソフトローにより調整は適切である。

(2)試験・研究としての実施の例外をリサーチツール特許問題解決に用いるべきでないとする意見について
なお、リサーチ・ツール特許の使用に対して、仮に実施の例外を認めると、リサーチツール特許を取得する意味をなくす、との点が、試験・研究としての実施の例外について通説どおり解釈する根拠であるように説明されていた点があったが、これにはもう少し丁寧な説明が適切であるように思う。
米国でStrandburgが述べるとおり、非営利な場合に限って試験・研究としての実施の例外を認めるなどの、中間的な制限を行う選択肢はありうる。そのような中間的な制限を取れば、リサーチ・ツール特許の意味は完全に没却されない。リサーチ・ツール特許の意味は決定的な理由とは理論的にはなりにくいように思う。
しかし、非営利な研究の実施機関と一般的には考えられる大学・国立研究機関であっても、産学連携を促す施策が進められてからは産業界との結びつきがより強くなっており、営利・非営利の区分は難しいだろう(注6)。文部科学省「平成20年度 大学等における産学連携等実施状況について」によれば、年々産学連携活動が深まっていることがわかる。
運営母体の営利・非営利で区分する手もあるかもしれないが、そのような形式的な解釈は、企業がその研究活動を積極的に大学で行う動機付けにはなるが、そもそもの特許権者との利益調整としてはうまく機能しないだろう。
つまり、営利/非営利で試験・研究としての実施の例外の適用を区分すれば、リサーチ・ツール特許の意味を完全に没却することは理論的にはないが、実質的に没却することになる、という説明が良いように思う。

(注5)この点は、現場の研究者の感覚や、何らかの実証が必要である。
(注6)米国でもその傾向が顕著である。Madey v. Duke University, 307 F.3d 1351(Fed. Cir. 2002)に対する評釈である、E. A. Rowe, "The Experimental Use Exception To Patent Infringement: Do Universities Deserve Special Treatment?", 57 Hastings Law Journal 921 (2006)が同判決の方向性を支持する理由として指摘するところである。
posted by かんぞう at 23:23| Comment(0) | TrackBack(0) | ☆特許 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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