2010年07月19日

[知財一般]中国で特許出願が増えた理由(2001年までの分析)

Alber Guangzhou Hu & Gary H. Jefferson, "A great wall of patents: What is behind China's recent patent explosion?", Journal of Development Economics 90 (2009): 57-68読書メモ

最近、中国での知的財産権の利用状況が気になっている。中でも中国企業による利用状況が知りたいところである。本研究は約10年前の動向を主な企業の計量的に分析している。古い動向であるので、現在の状況を理解する直接の情報にはならないが、基礎を理解する上で参考になると思う。

■概要
中国国家統計局が公表している1995年から2001年の大企業・中規模企業の約20,000社の企業毎のデータを用いて、特許出願件数(実用新案、意匠も含む)を説明する変数を計量的に分析している。このとき、特許出願を行っている企業がサンプルの中では少ないため、特許出願件数はポアソン分布または0過剰ポアソンモデル(Zero Inflated Poisson)に従うと仮定されている。R&D額、労働者数(企業規模の代理変数)、産業別海外直接投資、企業形態(共同所有、国営・民営、国内企業・国外企業)、年次(特に2000年)を説明変数として用いた結果、以下の結果が見られた。
1)R&D額は特許出願件数の増加にあまり寄与していない。少なくともOECDの平均(注)と比べると小さい(p.64)。国内企業と国外企業を比べると、国外企業はR&D額は特許出願件数の増加にほとんど寄与していない(国内企業の方がやや寄与している)。
2)産業別海外直接投資額は特許出願件数の増加に大きく寄与している( p.64)。
3)国営企業より民営企業の方がより特許出願件数の増加に寄与している。2000年前後の国営企業の民営化が特許出願件数の増加に貢献したものと考えられる(p.65)。
4)2000年の第二次特許法改正(PCT加盟)の影響は国外企業に見られるが、国内企業は1999年頃から特許出願件数を増加させている(p.65)。
以上のように中国の特許出願の増加は複数の要因によって生じていることが示唆された。

■私見
2001年までの特許(この場合は、特許、実用新案、意匠を含む)の増加はR&Dの増加とはそれほど関係がないとの点は納得しやすい。ここ数年、独自の技術力を有する企業が登場している(例えばBYD自動車)が、かつてはそのようなものではなかった。高い科学技術緑が見られたとしても、それは中国科学院や、清華大学、北京大学、上海交通大学などの国立大学によるものであったように思う。

特許出願の増加に対して、Huらの研究ではFDIの影響が明らかとなっていたが、それはおそらく、次のような要因があったのではないだろうか。
1)先進国企業から技術指導を受け、当該先進国では特許取得に値しないような古い技術、あるいは、品質に劣る成果しか出来ないがコスト面で優位な技術に関して、中国で合弁企業を通じて特許出願された(ただし、これは第三次専利法改正前の、世界公知基準採用前にのみ妥当する可能性があるものである)。
2)当該産業に海外直接投資が増えてきたことで、自社も海外と提携したいと考え、特許等を出願することによってアピールすることを考え、何でもかんでも特許出願をした。とくに実用新案、意匠については、無審査であることを利用してその傾向が顕著であった。

現在は、1)はあたっていないだろうが、2)はまだ妥当している可能性があるように思う。

なお、2000年から2007年の中国について、特許出願の要因を分析したものではないが、特許出願の増加に海外からの直接投資のスピルオーバー効果が目立って寄与していることを明らかにした伊藤萬里 専修大講師らによる研究が公表されている(注1)。

これを踏まえると、Huらの研究で明らかにされた傾向の一部は少なくとも2007年までは変わっていない可能性がある、と言えるのではないだろうか。
(注1)Banri Ito, Naomitsu Yashiro, Zhaoyuan Xu, Xiaohong Chen & Ryuhei Wakasugi, "How Do Chinese Industries Benefit from FDI Spillovers?", RIETI Discussion Paper 10-E-026 (2010) available at RIETI Web site
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2010年05月23日

[知財一般]オープンイノベーションで取り込むべき相手としてのリードユーザー

オープンイノベーションの言葉はやや使い古されてきた感があるが、単にbuzzwordで終わらせるのでなく、垂直統合型の製品/サービス開発に固執してしまいがちな組織には、よい頭の刺激を与える言葉であると思う。

さて、オープンの相手は誰か?ということについて、シーズを持つ者だけではないということを示唆する資料があったのでまとめておく。

LIlien、von Hippel教授らが、3M社の協力の下、同社のアイデア創造プロジェクトから生まれた製品コンセプトについて事例調査を実施した結果では、リードユーザーのアイデアによる製品コンセプトの方がより新規性があり、高い売り上げに結びつくと予想されており、追加的な製品改良に留まらない、新しい製品ラインを構成するものと理解されていることが示されている(注1)。

具体的には、3M社はリードユーザーのアイデアを取り込むプロジェクトと、そうでない従来型のアイデア創造プロジェクトがある中で、両者の成果の製品コンセプトを比べると、5年後の売り上げ高予測は8倍以上の差があるものとなり、そのすべての製品コンセプトが新しい製品ラインを構成するものとなると評価されていたとのことである。

von Hippel教授が指摘するリードユーザー・イノベーションの事例は、ソフトウエアや、スポーツなどの娯楽用品に関するものが多く、その射程についてはさらに検討が必要であると思うが、von Hippel教授が理論的に整理しているところに従えば、ユーザー側が自身の持つニッチなニーズに根付いたイノベーションを推進する可能性はどの産業分野にも当てはまるように思われる。

(注1)リック=フォン=ヒッペル(著)・サイコムインターナショナル(訳)『民主化するイノベーションの時代 メーカー主導からの脱皮』(ファーストプレス、2006年)181頁(Eric von Hippel, Democratizing Innovation (Cambridge: The MIT Press, 2005))
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2010年05月22日

[知財一般]新設された「国際標準化戦略タスクフォース」のミッションに「仕分け」を行う余地がないような運用を望む

知的財産戦略本部が2010年4月22日に設置した「国際標準化戦略タスクフォース」について、私は疑問を感じている点がいくつかある。運用によっては解消できると思われるので、素人考えながら懸念点を整理して、望ましい運用を巡る議論の基礎としたい。なお、2010年5月22日段階においてインターネット上では懸念が示されていることはないので、私の杞憂かもしれないことはご容赦頂きたい。

■知的財産戦略本部 国際標準化戦略タスクフォースのミッション
知的財産戦略本部の資料(注1)によると、第一に「国際標準化特定戦略分野」を決定することとされている。報道(注2)によると、
1)次世代自動車
2)先端医療
3)省エネや電池などのエネルギーマネジメント
4)水
5)鉄道
6)クラウドや3Dなどのコンテンツメディア
7)ロボット
に決定されたようだ。

これからのミッションは、同じ知的財産戦略本部の資料では以下のように記されている。
知的財産戦略本部において「国際標準化特定戦略分野」が決定された後は、各府省・民間における各分野の戦略策定を支援するため、次のことを行う。
a) 各分野の戦略を策定する際の基本的な考え方を提示する。
b) 各府省・民間における戦略策定プロセスについて必要な指導・助言を行う。
c) 各府省・民間が策定した各分野の戦略案を企画委員会に報告する。


■国際標準化戦略タスクフォースのミッションへの懸念
国際標準の策定はそれぞれの企業がそれぞれの思惑を持って臨む、ある種、政治的な場である(注3)。そのような場で国がリーダシップをとることはどれほど必要で、適切なのだろうか。

国際標準化戦略タスクフォースのミッションはまだ詳細化されているとは言えないものの、私は、以下の5つを懸念する。
・戦略に関する情報が漏れ、交渉上不利になる可能性が生じるのではないか。
・どの企業(あるいはコンソーシアム)の戦略を国として採用するかについて、公正に決めることは難しいのではないか。
・仮に国として特定の戦略を採用した場合に日本企業が単一の方向性にまとめられてしまい、標準化に失敗した際や、ビジネスとして失敗した際に脆弱になる懸念があるのではないのか。
・官が関わる場合、透明性が求められることとなるが、透明性は私的な経済主体の駆け引きの場では足かせになりうるのではないか。
・官が関わる場合、標準化することが望ましくないと判断できる場合に、撤退することができるのか。標準化しないことも戦略であるが、標準化を作ることが自己目的化しないか。

そもそも、標準化戦略策定になぜ官が関わらなければならないのか、なぜ民間では出来ないのか(あるいは上手くいかないのか)が明確に示されていないように思う。この考え方は事業仕分けで通底していたはずである。ミッションを具体化する際には、一つ一つ仕分けに耐えられるようにした方がよい。

なお、最後に付け足しておきたいことがある。標準化に関しては「海外でも官民一体となっている」とのことが理由となっている点がタスクフォース設置の理由の一つとなっているが、海外ではそれは民間が決めたことを政治家が売り込みの支援をしているだけなのか、それとも役所がリーダシップをとって主導しているのか(そしてそれは役所がリーダシップをとったから上手くいったのか)を見なくてはいけないのではないだろうか。

(注1)知的財産戦略本部 国際標準化戦略タスクフォース「国際標準化戦略タスクフォースのミッションについて」(2010年)
(注2)日本経済新聞 2010年5月21日朝刊5面「自動車・先端医療など7分野、国際標準化を後押し、政府の知財推進計画」
(注3)原田節雄『世界市場を制覇する国際標準化戦略―二十一世紀のビジネススタンダード』(東京電機大学出版局、2008年)、山田肇『標準化戦争への理論武装』(税務経理協会、2007年)参照。
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2010年03月13日

[知財一般]弁理士の展開先としての知的財産コンサルティング市場は本当に小さいのか

産業構造審議会 第13回知的財産政策部会の資料を見ていると、来期の知的財産(産業財産権関係)政策の柱は、(1)特許活用の促進、(2)知的財産権制度の国際的な制度調和、(3)中小企業等幅広いユーザーを支援する知財制度の利便性向上、(4)特許料金の見直し、の4つのようである。

このうち、中小企業に関する資料を読んでいると、弁理士の展開先としての知的財産コンサルティング市場(注1)は、少なくとも中小企業を相手にする限りにおいて潜在顧客は少なくないのではないかと思わせるような点がいくつかあった。もちろん、中小企業相手では十分なリターンが得られないというご指摘もあるだろうし、市場というのは潜在顧客×単価で決まってくるので、後者が小さいと意味がないというご批判もあると思うが、ここでは潜在顧客数のみを問題にする。

さて、関東経済産業局が2008年に中小企業に対して実施したアンケート調査(有効回答654社)(注3)によると、中小企業の知財経営における問題点のうち、もっとも顕著なものは、「知的財産の権利化や権利侵害への対応のための人材が不足」(50.1%)とあり、同時に「知的財産の戦略的な権利化ができていない」(25.9%)も多数指摘されているる中で、「適当な弁理士・弁護士等の専門家を確保できない」(4.5%)ことを課題に挙げている企業はごく少数にすぎない(55%)。

社内人材は不足しているが、弁理士は確保できている、という様子がうかがえる。しかも前者が課題として強調されている。ここから、中小企業の少なくとも1/3程度は権利化・権利侵害対応を内製化しようとしている傾向が示唆されないだろうか。

実際、日頃から外部専門家(弁理士、弁護士、コンサルタント)に相談していると回答した企業は21.4%(43頁)であり、多い数字とは言えないように思われる。とくに知的財産担当者をおいていない企業(兼任としてもおいてない場合も含める)が34.0%(36頁)あることを考えると少ないようにも思える。

しかもアンケート対象企業の中で弁理士を利用したことがある企業は53.2%もある(29%)。これは、かつて関わった弁理士が企業のニーズを満たしていなかったということを示唆しているのではないだろうか。もちろん、これまでは知的財産コンサルティングに対して十分な対価を払う意思が企業側になかった可能性が少なくないが、これほど知的財産権が大事と言われるようになっていると状況が違ってくるようにも思う。

(注1)特許庁「知的財産政策の今後の方向性について」産業構造審議会第13回知的財産政策部会資料1(2010年) available at JPO Web site
(注2)弁理士も従来の出願代理業務だけでは市場に限界があり(リーマンショック前の統計に基づく推計値では約1,600億円)、新たなビジネス展開が求められているようである。
(注3)関東経済産業局『中小企業のための知財支援策活用集』
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2010年01月09日

[知財一般]Qualcomm事件(日本国公正取引委員会決定不服審判)の注目点

Qualcomm社の3G標準規格に関する特許のライセンス契約において、クアルコムおよびそのライセンシーに対する知的財産権の不行使を定めた条項(非係争条項)が含まれており、この拘束条件を契約したとして、不公正な取引方法に該当すると公正取引委員会から判断された事案に関する不服審判を開始することが、2010年1月8日、報道された。

Qualcomm社の日本の訴訟代理人によると、
「拘束条件を強制した事実はない。非係争条項は競争の阻害要因ではないという点を審判で強調したい」(注1)
との主張をしたい旨報道されている。おそらく、非係争条項の競争に対する影響について反論を試みるものと推測される。

この論点は、(報道が理解を誤っていないのであれば)Qualcomm社の主張の主要な点の一つとなるものと思われるが、公正取引委員会側はその点を主に考えておらず、非係争条項の受け入れを余儀なくされた、という主観的態様をやや重視しているきらいがある、と指摘するものもある(注2)。

実質的な競争阻害性がどの程度考慮されるか、あるいは、公正取引委員会の考え方と十分にかみ合うのか、が大変興味深い。

(注1)日本経済新聞(2010年1月4日朝刊19面)「3G携帯での拘束条件付き特許契約、公取委、クアルコムに排除命令(法務インサイド)」
(注2)鈴木孝之「判例評釈」ジュリスト1391号117頁(2009年)。なお、鈴木教授はマイクロソフト事件において、審決が行為の「量的または質的な影響」の判断を求めていたにもかかわらず、同審決において非係争条項の受け入れを余儀なくされることは研究開発の意欲を妨げると述べたことに影響されすぎたために、Qualcomm事件の審決においても主観的態様が強調され、行為の「量的または質的な影響」を考慮すべきと述べたマイクロソフト事件の審決の趣旨を生かし切れていないと批判する。
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2010年01月03日

[知財一般]育成者権のライセンス契約において研究開発禁止特約を独占禁止法上違法としないという選択肢について

野津喬「独占禁止法によるライセンス規制に関する経済分析―植物品種の開発市場に関する考察」日本知財学会誌第6巻1号(2009年)67頁-82頁読書メモ

知的財産権のライセンスにあたって、ライセンシーの研究開発を制限する特約を付する行為は、「知的財産の利用に関する独占禁止法上の指針」(公正取引委員会、2007年)によって、将来の技術市場または製品市場に置ける競争を減殺する恐れの強い行為として、原則として不公正な取引方法にあたる、とされている。

特許権や技術に関するノウハウを想像した場合、直観的にも理解できる法運用であるが、種苗法に基づく育成者権のライセンスについては、競争減殺は生じず、むしろ、研究開発を制限する特約を付する行為を禁止することが技術開発に負の影響を与えてるとの分析を行った研究成果が公表された。直観に反する分析であり、大変興味深い。しかし、いくつか疑問も残った。ここで簡単に紹介をする(なお、論文の概要は筆者の責任でまとめたものである。本記事をお読みの方はできる限り原典にあたって頂きたい)。

■論文概要
種苗法では、農業事業者による自家増殖には権利が及ばないこととなっているが、契約でオーバーライドが可能である。しかし、試験研究の例外があり、かつ、侵害の立証が容易でないために、仮に契約で自家増殖を禁止していたとしても、ライセンシーが試験研究の例外に基づく増殖行為であると言い逃れをし、契約に反する自家増殖行為を行うようになる。そのため、試験研究の例外に基づく言い訳をさせないよう、研究開発をそもそも禁止する(研究開発禁止特約を結ぶ)ことが育成者権者にとっては妥当な選択肢となりうる(注1)。
研究開発禁止特約を独占禁止法上禁止することが技術開発市場に与える影響を、契約のゲームモデルを構築し分析すると、ライセンシー(農業者)は契約不履行の立証費用が十分に高いならば、自家増殖をしないとの契約を締結しながらこれを履行しないことがもっとも合理的な選択となる(そのうえ、ライセンシーは研究開発をしないことも合理的な選択となる)。しかも、現状に鑑みると、契約不履行の立証費用は極めて高いことが推定される。これが意味することは、研究開発禁止特約の制限は、育成者権者へ還元される利得を減らす上に、研究開発を活性化させないと考えられる(75頁)。
また、研究開発禁止特約を締結する慣行が存在した品種と、そうでない品種の、個人による育成者権登録件数の推移を、「(研究開発禁止特約の)契約慣行定着(ダミー)」「出荷量」(切り花、球根類、鉢物、花壇用苗もの類それぞれ)で回帰分析すると、研究開発禁止特約の契約慣行が定着していることが育成者権登録件数にプラスに作用していることが示された(77頁)。
ここから考えると、研究開発禁止特約は、新品種開発市場においては、競争阻害に働くものでないと言える。そうであるならば、「育成者権の利用許諾契約における研究開発制限条項の設定に対する独占禁止法の適用には慎重に対応すべきである」(80頁)。

■私見
末尾に示すように、分析には3点の疑問を感じるものの、「知的財産の利用に関する独占禁止法上の指針」に対する実証的なアプローチとしての意義は小さくない。単純に知的財産権としてひとくくりにしてはいけない例になるかもしれない。実証研究分野として深堀が行われて良いテーマであるように思われる。
もっとも、政策的インプリケーションとしては、独占禁止法の適用を慎重にすることよりは、前提となっている契約不履行の立証費用の低減化施策の実施(種苗Gメンの強化)や、サンクションを適切に働かせること(後述の通り、育成者権侵害には刑事罰が科されているにもかかわらずその検挙を確認できない)を提案することの方が、より妥当(注2)であろう。研究開発が行われない下地を作ることは将来の消費者に害を及ぼすと、理念的には考えられるからである。

なお、私は契約理論的分析や回帰分析に明るくないので、素人的な疑問に留まるが、私が感じた疑問点は以下の通りである。

□1.契約ゲームモデル分析において、ライセンシー独自の研究開発によるライセンシーに生じる利得が含まれていない
ライセンシー(論文では農業者として代表して表記している)が行った独自の研究開発により、育成者権者(論文では種苗企業として代表して表記している)の販売する種苗を購入しなくて良いことによる利得は含まれているものの、独自に研究開発を行ったことで生じる追加余剰が考慮されていないことが気になる。これがゲームの中で当然にライセンシーが研究開発をしない要因につながっているように思う。
もちろん、研究開発から1年で独自の追加余剰が発生することがあり得ないことは、種苗の研究開発の現場から考えると妥当なものである可能性は高い(注3)が、そうであっても将来のレントへの期待値を追加して分析するべきではないだろうか。

□2.契約ゲームモデル分析において、ライセンシーが契約を履行しないことによるライセンシーのサンクションが考慮されていない
育成者権侵害は「十年以下の懲役若しくは千万円以下の罰金」が科される(種苗法67条)。決して軽い刑罰ではない。契約不履行の場合、育成者権侵害になると考えることができることを考慮すると、ライセンシーは果たしてそれほど容易に契約を履行しないという選択肢を採るのだろうか。刑事罰が科されることは、育成者権にとっては自らが費用を負担せずにライセンシーの違反行為をコントロールしうるということを意味する。この点を考慮しないことは適切でないように思う。
もっとも、統計をみる限り、育成者権侵害での検挙の例がみられないようであり(注4)、このような現状を鑑みると、現実にはサンクションとして機能していないのかもしれない。ただし、現実に機能していないのであれば、それを機能するよう運用することを促すことの方が適切な政策的インプリケーションであろう。

□3.回帰分析において、研究開発禁止特約の契約慣行が定着した品種とそうでない品種との間の育成者権登録件数の平均値の差が契約慣行定着ダミー変数の係数に影響を与えている可能性がある
回帰分析では、(契約慣行定着ダミーに関する係数)×(契約慣行定着ダミー)+(出荷額に関する係数)×(出荷額)という推計式を設定している。ところで、記述統計分析を見ると、契約慣行が定着した品種とそうでない品種との間の育成者権登録件数の平均値は、前者が1.8程度であるのに対し、後者は0.5である。契約慣行定着ダミーはあくまで0,1の値であるため、上記推計式では、契約慣行が定着した品種とそうでない品種との間の育成者権登録件数の平均値の差は、契約慣行定着ダミーに関する係数が吸収することになる。これが契約慣行定着ダミーに関する係数をプラスにさせたのではないだろうか。

(注1)この1行は論文で明示されている訳ではないが、当然に前提にしているものと考え、筆者が追加した。
(注2)より非制限的で代替的であるという意味において妥当と考えている。
(注3)野津喬「独占禁止法によるライセンス規制に関する経済分析―植物品種の開発市場に関する考察」日本知財学会誌第6巻1号(2009年)77頁も「新品種の開発には少なくとも3年程度かかる」ことを示している。
(注4) target="_blank">警察庁「平成20年中における 生活経済事犯の検挙状況について」(2009年)23頁では、2008年中における知的財産権侵害事犯の概要として、検挙件数を、商標権侵害、著作権侵害、その他の区分で紹介し、その他の内訳として「「その他」の内訳は、不正競争防止法違反(19事件、69人)、特許法違反(1事件、3人)、農林物資の規格化及び品質表示の適正化に関する法律違反(1事件、4人)、関税法違反(3事件、12人)である。」と記している。この中に育成者権侵害(種苗法違反)は含まれていない。なお、それ以前の年度における同様の統計は管見の限り見当たらない。
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2009年12月06日

[知財一般]知的財産部門の評価

組織評価にあたって、さまざまな定量指標が用いられているが、それが組織の価値創造と結びつかず、個々の部門の最適化にしかつながらないような指標となっていたらダメだ。

例えば、適切でない指標設定としてはこんなことが挙げられるだろうか。
・××材料分野で短期的に売り上げを伸ばすため、これまで△△材料が用いられていた○○製品分野への営業を強化することとし、○○製品分野での××材料の売上額を指標とした。だが、△△材料分野において、当社子会社は○○製品分野での供給の50%以上のシェアを有していた。→上手にやらないと単に競合してしまう。他社のシェアを奪ったことを主たる指標を設定するべき。
・事業部門の経費計上処理の遅延が適時開示の上で障害になっており、同時に、これに伴って開示期前の会計部門の過負荷が問題となっていたため、適時の経費計上処理率を事業部門の指標とするとともに、総労働時間を会計部門の指標とした。→なぜ事業部門の経費計上処理が遅れているか検討しないままに実施すると危険。例えば現場が忙しすぎる、現場と会計部門のコミュニケーションが不足している、などの可能性がある。単に会計部門を守ると、現場が不正な経費処理を行うことにつながりかねない。

知的財産部門においても同様で、組織全体の価値創造を支えるものでなくてはならない。これはあたりまえのことではあり、今更言われなくてもという思いも直観的にはもつが、間接部門一般についつい自己目的化した事項を指標としがちであることを警鐘する意見がある(注1)。

では、どのような指標を立てるのがよいのか。

評価指標のあり方を検討した論稿に拠ると、事業部門の中でも戦略がそれぞれ異なっているのであるから、それに併せた指標とするべきであるとしている。そして、以下のような行為を戒めている。

複数の事業部を包括して業績評価するような指標は設定するべきでない
(知的財産マネジメント第1委員会第2小委員会「知財マネジメントの重要業績指標(KPI)―知財目標・知財戦略とKPIに関する考察ー」知財管理59巻8号(2009年)999頁)

また、同論稿に拠ると指標設定の視点としては、知的財産部門に行ったアンケート調査結果に拠る業務分類が有効であると述べられている。

具体的な評価指標のメニュー(これは自社の各事業部門の戦略に応じて取捨選択されるものである)として、提案促進活動の活性度や、提案特許評価度、研究開発費対出願率、国内登録成長率、米国登録率成長率、警告発受比率、無効資料発見率、ライセンス阻止率(自社がライセンスを受ける必要の阻止率)、特許集中度などが一例として示されている(注3)。

同論稿に挙げられている指標を見ると、特許明細書作成の技術的な要素(いかに強い特許を作るか)という点について多く指標が挙げられている訳ではない点は、昔ながらの職人的特許屋さんにとっては寂しいところがあるかもしれない。

とはいえ、知的財産部門がいかに全社の価値創造の中で重要かというのを、意識させてくれるものとなっている。

(注1)「特集 バランス・スコアカードの実学」ハーバードビジネスレビュー2003年8月号(ダイヤモンド社)
(注2)スティーブ・マントン(著)=屋代菜海(訳)=佐々木一(訳)『統合化された知的資産マネジメント―組織の知的資産を活用、保護するためのガイドブック』(発明協会、2007年)27頁
(注3)知的財産マネジメント第1委員会第2小委員会「知財マネジメントの重要業績指標(KPI)―知財目標・知財戦略とKPIに関する考察ー」知財管理59巻8号(2009年)1002頁
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2009年12月03日

[知財一般]日本の革新力―外と内の目の格差―

忙しい、という思いに負けてしまって、すっかり勉強ができていなかった。
リハビリがてらぼちぼちと覚え書きを残していく。

日本はイノベーション力に弱い、と言われている。
言われている、というか、そういう前提で霞ヶ関の虎ノ門に近いあたりのビルにいる人たちも、本でもだいたいそういうトーンで書かれている(注1)。
確かに、世界的に目を引くようなものを、必ずしも生み出せていなくて、アメリカの発想に乗っかって稼ぎを得ているだけで、将来性がないんじゃないか、なんて思いもしないでもない(言い換えると、日本は「モノ」づくりには強いが、「こと」づくりには弱い、ように思える、ということである)。
実際、研究開発効率も落ちている(注2)。

だけど、アメリカから見るとそうではないらしい。Newsweek誌とPenn, Schoen & Berland Associatesが行った米国の成人に対するアンケート調査では、技術革新力の高い国として、米国以上に日本を挙げている(米国が技術革新力の高い国と挙げた回答者が73%であるのに対し、日本を技術革新力の高い国と挙げた回答者は81%。なお、中国は50%、ドイツは42%にすぎない)(注3)。

もちろん、これはある種の人気投票ではあるから実情を反映している訳でもない。また、回答者の中でのイノベーションの定義がどのようであったのか定かでない。いわゆるprocess innovationを含むのであれば、日本は革新的な国だろう。日本は、process innovationがお家芸と言われている。

とはいえ、アンケート結果には少し自信を持っても良いのかもしれない。日本が革新的でないとの漠然とした思いをもつ背景には、基礎研究ただ乗り論の名残がまだあるのかもしれない。あるいは、単に高齢化に伴って精神的な活気が低下しているのかもしれない。きちんと見極めた方が良い。TIME誌が先日取り上げた「アメリカが中国に学ぶべきこと」で挙げられていた一つが、"Be Ambitious"だった。
(注1)岸宣仁『知財の利回り』(東洋経済新報社、2009年)はこれに関する日本国内での問題意識も大変わかりやすく整理している(主眼は違ったところにあるが)。
(注2)『ものづくり白書2006』
(注3)ダニエル・マギン「アメリカが失ったイノベーションの力」Newsweek日本語版2009年12月9日号42頁。
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2009年10月19日

[知財一般]パリ条約上の優先権の効果を巡る解釈についての覚書

知的財産管理技能検定を受けることが私の周りでちょっとしたブームになっている。
こんな試験を受けると、いかに自分の勉強が足りないか明らかになってしまうのだが、勇気を持って申込みをし、慌てて勉強をしている。泥棒を捕えて縄を綯うとはこのことだ。

その中で、気になる問題があった。

「パリ条約上の優先権の効果は、第1国出願から12ヶ月以内に行った優先権を伴う第2国での出願における出願日が第1国出願の出願日に遡及するものである」
これは条約上「不利な取り扱いを受けない」に過ぎないのであり、「出願日に遡及する」と書いていないから誤った選択肢、とのことだ。

たしかに条約上は、以下のように定められている。
工業所有権の保護に関するパリ条約(注1)
第4条(優先権)B
…(略)…A(1)に規定する期間の満了前に他の同盟国においてされた後の出願は,その間に行われた行為,例えば,他の出願,当該発明の公表又は実施,当該意匠に係る物品の販売,当該商標の使用等によつて不利な取扱いを受けないものとし,また,これらの行為は,第三者のいかなる権利又は使用の権能をも生じさせない。…(略)…

しかし、効果を考えたら出願日遡及と捉えても良いのではないか?
日本国内では出願分割、出願変更は出願日遡及になっているので、同じように理解しても良いのではないか?と疑問がわく。
だが、調べて見ると、きちんとした理由があってそのように解釈しなければいけないことがわかった。ここでは(1)両解釈の差、(2)出願日遡及と解釈できない理由(国内法)、(3)出願日遡及と解釈することの問題点、を覚書としてまとめる(注2)。

■出願日遡及と解釈する場合と、不利な取扱いを受けないと解釈する場合の差
両者の違いは、優先権の基礎となる第1国出願の出願日と、第2国出願の出願日の間に、第2国において法改正があった場合に現れる。
出願日遡及であれば、改正前の法が適用されるが、不利な取扱いを受けないとの解釈であれば、改正後の法が適用される。

■出願日遡及と解釈できない理由(国内法)
少なくともパリ条約に基づく優先権主張を日本で行う場合においては、出願日遡及と解釈できない理由もある。

まず、明治32年法では出願日遡及とする規定であったが、その後、現行の文言「特許に関し条約に別段の定があるときは、その規定による。」(26条)に近い文言となり、パリ条約の文言が事実上採用されることになったようだ。
そうであるならば、立法者としては出願日遡及とする考え方を改めたと理解することは不自然ではない。

また、これまでの特許法改正において、改正前に優先権の基礎となる第1国出願が行われた特許出願についての遡及も認めてきていないことも理由として挙げられている(注3)。

以上のように、我が国の立法者意思を解釈の手がかりにするならば、日本の特許法においては出願日遡及と解釈することは適切でないだろう。

■出願日遡及と捉えるとこんな不都合もある!
また、出願日遡及と捉えると、特許・実用新案の優先権主張期間が条約上12ヶ月であることに対し、意匠・商標の優先権主張期間が6ヶ月であることの差がネックとなり、後者の意味が没却されることが指摘されている。

すなわち、実用新案登録出願を行い、優先権主張期間である12ヶ月以内に第2国出願として日本国で出願を行い、直ちに意匠出願に変更することが出来る。しかし、これは、優先権の基礎となる出願が意匠出願であれば優先権主張ができなかったはずである。
このような不都合が指摘されている(注4)。

(注1)特許庁訳に拠った。
(注2)以下はすべて後藤晴男『パリ条約講話 第13版』(発明協会、2007年)に拠った。
(注3)後藤・前掲注2 155頁。
(注4)後藤・前掲注2 157頁。
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2009年08月17日

[知財一般]北川善太郎「集積回路に関する知的財産条約」読書メモ

北川善太郎「集積回路に関する知的財産条約」法学論叢128巻4・5・6号(1991年)1頁-39頁読書メモ

WIPOが事務局が務める集積回路に関する知的財産条約は日米が反対に回ったために未発効となっているが、TRIPs協定35条に基づきその一部の遵守が求められていることから、同条約は無視できるものではない。

その条約の策定交渉に携わった北川名誉教授が、論点と日本の対応を詳細にまとめている。学術的に興味深い点を以下にまとめる。

■デザイン保護を行う条約と、製品保護を行う国内法
集積回路に関する知的財産条約と半導体集積回路の回路配置に関する法律(以下、国内法という)の決定的な違いは、前者がデザイン保護を行う(=製品となっているかは問題とならない)のに対し、条約に先駆けて策定した日本法は製品保護を行う点にある。
当時、半導体生産能力は圧倒的に日米に偏っていたために、欧州からデザイン保護制度としての主張がなされたと考えられるようだ(注1)。このまま条約を批准した場合に国内法の不備が生じてしまうため、国内法23条(間接侵害規定)が実質的にデザイン保護規定となっていると説明した経緯が存在している(注2)。
最終的に批准したものではないが、国内法23条の解釈に当たって参考になる。

■批准しなかった理由は内容に問題があるからではない
日本は最終的に批准しなかったが、その理由は、保護期間の短さ、侵害物品を組み込んだ製品に権利が及ぶか不明であること、善意取得者が悪意に転換したとき(=警告を受けたとき)の補償義務がないこと、などがあるようだが、条約の内容よりは米国との協調が批准しなかった理由にあるようだ(注3)。

(注1)北川善太郎「集積回路に関する知的財産条約」法学論叢128巻4・5・6号(1991年)11頁
(注2)北川・前掲注1 18頁
(注3)北川・前掲注1 32頁
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2009年08月14日

[知財一般]企業活動のグローバル化=同一の知的財産権の国際的な出願の促進ではなさそう

市場がグローバル化していると言われているが、ある特定の製品・サービス(そして、組織)がグローバルに展開できるかというと、そうではないことをハーバード大のGhemawat教授は示している(注1)。

文化的、社会的な隔たりがある中で、隔たりが比較的小さい適切な国・地域で集約し効率化を図ったり、その隔たりをうまく活用したり、あるいは、隔たりに適応することが望ましい、とGhemawat教授は述べている。

とくに、研究開発集約度の高い産業では国・地域を超えた組織の集約戦略をとることが望ましい場合が多く、広告宣伝集約度の高い産業では国・地域への適応戦略をとることが望ましいようだ(注2)。

この指摘が正しいとすると、知的財産権の国際的出願を評価する際に、以下の点に留意するべきであることがわかる。

・制度的な障壁があり、同一の技術を国際的に展開できないような場合(たとえば、安全基準や国別の技術標準に適合しない(注3)場合)で、かつ、輸送にコストがかかるような製品に関する技術である場合、必ずしも国際的に特許を取得することは価値を有さない。たとえば個々の特許について三極出願を行っているか否かで、その特許の価値を評価する際には注意が必要である。
・広告宣伝集約度の高い産業では、同一の意匠について国際的に権利を取得していても必ずしも評価できない。企業ごとに見たときには、そのような産業においては、出願された意匠間のリンクがない方がよいのかもしれない(ただし、企業ブランド構築の基礎となるようなデザインについては例外であろう)。

(注1)パンカシ=ゲマワット(著)、望月衛(訳)『コークの味は国ごとに違うべきか』(文藝春秋、2009年)(原著:Pankaji Ghemawat, Redefining Global Strategy, Harvard Business School Press, 2007.)
(注2)前掲注1・ゲマワット(2009)315頁。
(注3)後者についてはISO等で国際標準規格とし、WTO/TBT協定に基づいて国内規格に影響を与えるという手はあるが…。
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2009年06月20日

[知財一般]小坂準記「知的財産信託の構造と課題」読書メモ

小坂準記「知的財産信託の構造と課題」知的財産法政策学研究14巻(2007年)281頁以下読書メモ

当時北海道大学法科大学院に在籍されていた学生さん(注1)の書かれた論稿なのだが、知的財産を基礎とする資金調達の法的仕組みと課題を非常にわかりやすくまとめていらっしゃり、また、制度設計時において知的財産研究所の指摘した法解釈上の課題について見解をまとめており、有益なものだった。
基本的には現状をまとめているものなので、概要には触れないが、小坂さんのオリジナルな見解については備忘のためにまとめておきたい。

■小坂さんの見解の概要
知的財産研究所は、知的財産信託制度が出来る前に検討事項として以下の2点の問題を挙げている(注2)。
・信託であることを登記していない場合、受託者の債権者が信託財産に強制執行を書けたり、受託者が破産し信託財産が破産財団に組み込まれたりすることを、受益者(原権利者)は信託であることをもって対抗できない。特許を受ける権利を信託財産とした場合、信託であることが登記できないと、前述のような不都合が生じる。
・自己の財産を信託することは信託宣言として無効になる(注3)。特許を受ける権利を信託財産とした場合、特許権の設定登録を受けると、信託宣言と解釈されうる。

この点について、小坂さんは、
・特許を受ける権利については特許法施行規則により信託である旨記載できることになっており(特許法施行規則26条1項、2項)、特許権の場合は特許登録令上、信託できることが定められているため、「信託の公示」にあたるかについて争いはあるかもしれないが、不動産信託の登記事項と同一であること、(閲覧可能な)公募に記載されることから、信託の公示に当たると解釈すべき(注4)。
・特許庁は信託であることを認識しているのであるから、職権で信託である旨の登記がなされればよく、しかも、信託宣言として無効とする根拠は、信託法上受託者の他人性が求められていること、財産隠匿の危険が論拠であるところ、特許を受ける権利が特許権となった場合においては、財産隠匿の危険があるとは言えず、また、他人の財産を管理していることには変わりないのであるから、信託宣言と解するべきではない(注5)。
と述べている。

■私見
上記の解釈は結論として妥当であるし、解釈論としてもほぼ無理が無い。ただし、後者については、特許庁が確実に職権で信託である旨の登記がなされることが施行規則等で明確化されておく制度設計を提言するほうか、余計な解釈論上の疑義を生じさせないように思う。

■小坂さんの見解(その他)+私見
上記に加えて、知的財産信託が活用されていない理由を信託銀行のノウハウ不足であることも指摘されている。
もっとも、著作権に関わる知的財産信託は、他の資金調達スキームで事足りていることもあるだろうし、あるいは、当事者が信託銀行という新たなアクターの参加に抵抗感があることが理由なのかもしれない。特にメリットの1つである倒産隔離機能は、実際のところ倒産による大きな弊害が無い可能性もある。
他方、特許権に関わる知的財産信託は、ライセンシー保護機能としての登録制度がいまだ有効に機能していない(注6)ことを考えると倒産隔離機能にはメリットがある。大田区の中小企業が知的財産信託を行った例はそのメリット生かした例だろう。他方、資金調達については、特許単独では足りず、結局のところビジネスモデルの評価となるのであろうから、既存の融資スキームで十分と考えられている可能性もある。

(注1)現・TIM総合法律事務所。
(注2)いずれも、財団法人知的財産研究所(編)『知的財産権の信託』(2004年、雄松堂)132頁-137頁。
(注3)小坂さんによると英米法では一般的な解釈のようだが、日本では争いがあるらしい。否定説として、新井誠『信託法 第2版』(2005年、有斐閣)122頁。
(注4)小坂・325頁。
(注5)小坂・326頁。
(注6)もちろん今後、特定通常実施権が活用される余地はあるし、制度の再設計の議論が進めば状況は変わりうる。
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2009年05月10日

[知財一般]オープンソースソフトウエアと著作権・特許権(Leveque論文読書メモ)

Francois Leveque & Yann Meniere, "Copyright versus Patents: the Open Source Software Legal Battle", 4(1) Review of Economic Research on Copyright Issues, 2007, pp. 27-46読書メモ

パリ国立高等鉱業学校のLeveque教授がオープンソースソフトウエアと著作権および特許権のかかわりを整理した論文。学術的な新しさのあるものではないが、整理としてわかりやすかった。
私のつたない英語を少しでもレベルアップするためのお勉強用に読んだものであるので、私見はそれほどない(笑)。

■論文の概要
(1)問題意識
オープンソースソフトウエアは、copyleftという言葉を使ったことや、オープンソースコミュニティーやその権威がEUのソフトウエア特許に反対したために、反知的財産制度の立場をとると思われているが誤解である。
(2)著作権との関係
オープンソースソフトウエアライセンスは著作権制度を核としており、オープンソースソフトウエアの利用者に、ライセンス条項の遵守を担保している。(なお、ライセンス条項はライセンスごとに異なる。たとえば、多くのライセンスではオープンソースソフトウエアをもとに改変したソースコードの開示は求めていない。GPLは多様なライセンスの中で、改変したソフトウエアの商業利用を厳しく制限するライセンスである一方、他のライセンスでは、改変したソフトウエアをオープンソースライセンス以外でライセンスし、投下資本を金銭的に回収する手段を担保している。)
実際に、オープンソースソフトウエアの開発状況を分析したFershtman et al[2005](注1)によると、金銭的なインセンティブを確保する道が担保されているAcademic Licenseの方がGPLよりプロジェクト当たりの開発者の参加者数が大きく、Lener et al[2005](注2)によるとプロジェクトリーダーは参加者を集めるためAcademic Licenseを好む傾向がうかがえる。(他方で、改変したコードを開示し共有する必要のないBSDライセンスの元で改変されたソフトウエアについても、ソースコードの開示を行う傾向があるなど、開発者にとっては金銭的なインセンティブ以外の利益(名誉等)を好む傾向も見られる)。このように、オープンソースソフトウエアは著作権に親和的でないとは言えない。
(3)特許権との関係
オープンソースソフトウエアでは特許権も問題となりうる。ICT分野では多数の特許を含む傾向があり、しかも、ソフトウエア特許はその進歩性が十分に明らかでなく権利が不安定(注3)なためにライセンスの要否を決めにくく、結果としてHold upを(筆者注:事実上)招きやすい。
ただし、その弊害は主に大手のファームに限られるものと思われる。Hall et al[2001]によれば、オープンソースソフトウエアに対する特許権の行使者、行使の対象とされた者双方が大手ファームであることが多い。(筆者注:古典的な)経済学に則っても、機会主義的行動をとる特許権者であっても、損害賠償を十分に回収できる大手ファームを狙うことが多く、通常のユーザーは訴訟の対象となりにくい(p40)。そのためか、大手のファームではオープンソースソフトウエアに関し多数の特許出願を行っているが、かえって特許の藪を生じさせる弊害を生じさせている(p41)。なお、小規模なファームでは特許侵害を恐れるあまりニッチな技術に走る傾向がうかがえる(p41)。
このような特許侵害の脅威には「集団的安全保障」体制が取られるべきである。
実際にいくつかの取り組みも存在する。
大手ファーム同士が特許権の包括的な利用許諾を行う例(MicrosoftとNovelの例)や、特許の開放を行う例(IBM)がある。後者のうち、Patent Commonsはオープンソースコミュニティに対する特許権行使への反撃手段としても用いられている。これに加えて、ライセンス条項に特許権に関する条項を入れる取り組みも進んでいる。また、特許侵害訴訟へのコミュニティとしてのファンド創設や、ソフトウエア分野の先行技術文献収集の取り組みなども行われている。
これらの取り組みは特許侵害訴訟の脅威を減少させている。もちろん、完全に脅威をぬぐい去るものではないが、オープンソースソフトウエアが既存のソフトウエア創作による利益を超えるものを生む余地を作り出している。

■私見
オープンソースソフトウエアが著作権制度と相いれないものではないということはおそらく共通認識となっている(注5)。
他方で特許権への備えとして十分であるかについては意見が分かれるところであると思われる。GPL v3で特許条項が含まれたが、これはインサイダーにのみ有効である。アウトサイダーへの備えとしては、ファンドが創設されていること、先行技術文献の蓄積が行われていること、に絞られれる。
もっとも、このような取り組みは他では見られず、自発的な協力が求められる仕組みであるからこそといえるかもしれない(その意味で特許権行使を試みる者には大きな脅威になっている可能性がある)。
なお、Levequeは特許権行使の脅威はもっぱら大手ファームであることを強調するが、個人の開発者であっても通常のライセンス料分の資産を保有し、そのライセンス料額が訴訟費用を上回っていれば十分な脅威となる。Discovery手続きを採る国であれば訴訟費用が高額化するために抑止力となるだろうが、たとえば日本やドイツなどでは当てはまらないのではないだろうか。

ただ、Leveque論文でもそうだが、もっぱら問題は米国内でのことに限られていることが気になる。ソフトウエア特許のこれまでの付与方法や、特許制度が大きく影響している可能性もあるのかもしれない。

(注1)C. Fershtman and N. Gandal, "Open Source Software: Motivation and Restrictive Licensing", 4(2) Journal of International Economics and Economic Policy, 2007.
(注2)J. Lerner and J. Tirole, "The Scope of Open Source Licensing", 52 Journal of Law, Economics and Organization, 2005.
(注3)D. Burk and M. Lemley, Designing Optimal Software Patents in Intellectual Property Rights in Frontier Industries: Software and Biotechnology 81 (Robert Hahn, ed., 2005)
(注4)B. Hall and R. Ziedonis, The Patent Paradox Revisited: An Empirical Study of Patenting in the U.S. Semiconductor Industry 1979-1995, 32 RAND Journal of Economics, 2001.
(注5)例えば日本では、平嶋竜太「オープンソース・モデルと知的財産法−序論」相田義明・平嶋竜太・隅蔵康一『先端科学技術と知的財産権』(発明協会、2001年)57頁、今村哲也「オープンソースと著作権」隅蔵康一『知的財産政策とマネジメント』(白桃書房、2008年)41頁。
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2009年03月10日

[知財一般]アフリカにおける産業財産権

AIPPI 国際知的財産シンポジウム「アフリカ諸国の産業財産権制度を巡る現状と今後」(2009年3月9日開催)講演メモ

アフリカの産業財産権について、本ブログをお読みいただいている方には接点があるだろうか。私も接点が乏しいのだが、一度、西アフリカの特許制度を調べる機会があったため、上記のようなシンポジウムに惹かれて行ってみた。

多くの国で法制度としては整備されており、国際的にも整合的な制度となっている。しかし、執行例が見られず、手続きがどのように進むのか不明確である、というような印象を受けた。商標制度の活用が中心である、という印象も強く受けた。

まだまだ産業が十分でなく、製品の輸入国であるためだろう。
模倣品の余りの多さに対抗するためもあるのか、南アフリカでは広告のコンセプトまでも保護する法(注1)制度も設けられている。

南アフリカ、ナイジェリアなどネクスト・イレブン諸国では執行例も多いようであるが、その分、運用に注意する必要があるようだ。たとえば、南アフリカでは、多項クレームの中に1つでも無効なクレームを含むと特許権行為は出来ないため、ジェネリック医薬メーカーがこれを活用して特許権行使を無効にする方向で制度が利用されている例が紹介されていた(Pfizer v. Cipia (Norcasac) (2005))。

また、制度自体が特殊な国も存在する。
イスラム系の国ではアルコール、豚肉等に関する商標は取得することが出来ないところもあるようだ。
リビアでは2002年以前の商標保護は全て無効とする法律が定められたりもしている。
スーダンでは商標権侵害に対しては刑事処罰がなされるが、損害の民事的回復は存在しないとの指摘もなされた。
なかなかおもしろい。

(注1)Advertising Standards Authority Code
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2009年03月02日

[知財一般]顧客参加型イノベーション

商品開発に顧客を巻き込む(Enroll)することの利点に触れる意見をちょくちょく見かける。新たなオープン・イノベーションのステップとして評価する意見もあるくらいだ(注1)(ただし、ただ顧客の意見を吸い上げるというのではチェスブローのいうオープン・イノベーションにあたらないのは明らかで、オープン・イノベーションの言う顧客参加とは、より開発の深い領域に顧客が直接関わっていく、という意味だろう)。

ただし、技術開発に関わるのはなかなかに難しい。技術開発への顧客の参加が現実に機能しているのはオープンソースソフトウエアくらいかもしれない。他方、デザイン開発への参加の余地は少なくない(注2)。LEGO社などでは実際に顧客参加型のデザイン開発が行われているようだ。

このような顧客参加を支えているのが、創作活動のインセンティブが「金銭」に限られない、というところにある。同時に、企業側には、企業戦略などが漏れてしまうリスク以上の利点があるというところにもある。なお、企業側にとっては、秘密漏洩のリスクを参加ポリシーをガチガチにして提言することも出来るが、そうすると、そもそもの顧客の参加を阻害するため、望ましい結論にならない点には留意が必要だろう。

前者の点は、著作権の世界では意識されてきている(注3)が、どうしても「権利者の権利制限」の文脈の中で捉えられがちで、否定的に見る意見も根強い。著作権以外の世界でも意義が見いだされている、というところは注目したい。

ただ、このような活動、とりわけ、デザイン開発に顧客が深く関与した場合で、その成果が意匠権として出願されることとなる場合、実務上、発明者認定がややこしくなることは注意しなくてはいけない(注4)。

(注1)Jacques R.Bughin et al, The next step in open innovation, 2008 No.4 The McKinsey Quarterly, 2008, p.113-p.122.
(注2)Rita Mcgraph, "Involve Your Customers in Design Decisions", Harvard Bussiness.org (Article published on Feb. 3 2009)
(注3)中山信弘=三山裕三「対談 デジタルネット時代における著作権のあり方(下)」NBL899号(2009年)49頁。
(注4)特許の発明者認定の話であるが参考なる研究書として、工藤敏隆『発明者の認定基準、及び発明者の認定に関する紛争手続き』(財団法人知的財産研究所、2006年)。なお、その要点は、鈴木將文「共同研究の成果の権利化及び活用を巡る法的諸問題」財団法人知的財産研究所『特許の経営・経済分析』(雄松堂、2006年)350頁。
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2009年01月04日

[知財一般]大学と知的財産:知的財産権確保とコモンズ、戦略として双方の選択をもっと明示的に許容することもいいのでは?

■大学は知的財産権取得で評価される
日本版バイドール法(注1)が1999年に施行され、さらに、国立大学法人化が2004年に行われたことで、大学での研究成果に係る知的財産権の取得は一気に促されることになった。

以後、大学のパフォーマンスの指針として特許権の取得状況が用いられることも散見されるようになり、個別のプロジェクトの評価においても知的財産権の取得状況が評価指標とされるようになったように思われる。これは、大学における技術に関する研究成果の民間事業者への移転の促進を求める国の方針(注2)に沿うものといえる。

■質で評価するときには要注意
これらの場合、主には「量」を見ることが多い。そうすると、クズ特許が多数出願されるだけに終わる可能性がある。そこで、「質」の議論を行うべきとの意見も見られる。だが、「質」をどのようにとらえるかは難しい。

「質」を計る際に、ライセンス料を評価指標にすることが考えられる。しかし、そうすると、圧倒的に強い研究資源を有する大学は、交渉上の優位さを利用して多額のライセンス料支払いを求めるようになるかもしれない。また、標準技術に含まれた特許権を行使して、多額のロイヤリティ確保を目指すこともあるかもしれない(注3)。これらは知的財産権制度の上では仕方ないことであるし、企業間では当たり前であるのだからいいではないか、という見方もあるかもしれないが、技術移転を本当に促進しているのか、という点では疑問が生じる。

■特許権取得はそもそも技術移転に適っていない可能性もある
日本版バイドールが目指すところである技術移転は、そのチャネルとして、@特許権、A論文、B学会発表(以上、形式知としての移転)、C共同研究、D交流会(以上、暗黙知としての移転)があるとされる。技術の専有可能性が高い分野(化学など)では、@も極めて有効なチャネルと考えられるが、カーネギーメロン大学が企業研究開発担当者に行ったアンケートでは、そのような産業においても会話や学会発表の方が有効と答えられていた、との結果が報告されている(注4)。

知的財産権の取得を促したために、研究成果の秘匿化が進むと、かえって技術移転を阻害するとの意見もある(注5)。

本当にそうなっているのかは十分な検証が必要であるが、一律に知的財産権の取得を大学に促している状況では確かめようがない。

■大学に研究成果のコモンズ戦略をとることを許容してはどうか?
また、大学によっては十分なマンパワーがなく、研究成果の適切な保全や、知的財産取得に結びつけていない可能性もある。

そうであるならば、大学の知的財産権の取得が技術移転に資するものか、それはどの技術分野でも当てはまるのか、大学の役割(先端的研究を行う大学と、地方大学)に応じた違いはないのか、を検証するため、一部の大学・学部に対して、研究成果の知的財産権取得を促さず、むしろコモンズとすることをそれぞれの戦略として採ることができるようにしてはどうだろうか。

その上で、数年後、それぞれの大学の技術移転について、ユーザー側の評価をレビューしてみるとよいように思う。

この主張は、「技術移転促進の目的にかなっているか実証しようよー」というトンデモ主張なのだが、面白いとおもいません?

(注1)施行当時は産業活力再生特別措置法30条をさす。現在は、産業技術力強化法19条(平成19年改正による)。
(注2)産業活力再生特別措置法55条(平成19年改正前は31条)で明示されている。
(注3)ワシントン州立大学の知的財産を管理する団体はBluetooth規格に含まれる特許権を行使し、主要な通信・電気機器メーカーを相手取り訴訟を提起した。
(注4)宮田由紀夫『プロパテント政策と大学』(世界思想社、2007年)125頁。
(注5)前掲・宮田はその立場に立つように読める。もっとも、筆者は宮田教授の主張には肯定できない面がある(これは後日)。
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2008年11月21日

[知財一般][つぶやき]汎用的な特許制度と分野別の特許制度を考える材料

米国の特許制度改革が進まないのは、改革を求めるIT産業と、現状維持を求める製薬産業の対立に要因の一つがあるという説がある。特許制度が産業分野によって最適化されてない(つまり、部分最適化されていない)ことの現れなのかもしれない。

実際、訴訟リスクを考えると、製薬業界以外は特許出願により得られる便益よりも特許制度があることによる費用が上回っているという研究もある(注1)。

じゃあ分野別の特許制度を設けたらいいじゃないか、なんて言う話もある。実際のところ、ある特許発明がどの分野に属するかの決定でもめてしまうだろうから(注2)、実現可能性は低い。だけれども、どういう「分野」分けが成立しうるかを念のため考えておくことはおもしろいし、何か役に立つかもしれない。

さらに言うと、特許制度を巡る産業間の利害対立で、どことどこがくっつく可能性があるかもね、というところを教えてくれるかもしれないのだ。政治学の観点からもおもしろいように思う。

■特許制度の利用状況から見た産業のクラスター
そうしたときに出てくるのが、どのような視点でクラスターを区切るのがよいか、という問題だ。

1製品あたりの特許出願数もその一つ。これは日本での研究成果がある。

R&D費に対する特許取得件数なんかもグループ分けの一つの基準となる。これはOECDがまとめていて参考になる(注3)。

さらに、1企業あたりの特許紛争リスクも基準になりうる。

いずれも一長一短はあると思う。たとえば、R&D費に対する特許取得件数は一般的な権利の強さも紛争リスクも考慮していない。それだけに直感的でないグルーピングが見えてくる。具体的には、私は製薬と化学は特許の使い方が近く、その対局にはエレクトロニクスがあるとの印象を持っていたが、R&D費に対する特許取得件数で観ると、エレクトロニクスと化学が近かったりする。

ただ、それが直感に反するからと言ってだめな基準と観てしまうのでなく、実は似通った点があるのではないかと思って観てみるとよいのではないかと思う。もしかしたら、何かが見えるかも…。

(注1)James Bessen=Michael Meurer, "Patent Failure: How Judges, Bureaucrats, and Lawyers Put Innovators at Risk" Princeton Univ Pr(2008)
(注2)The European Patent Office, "Scenarios for the Future"(2007)の中のTrees of Knowledgeシナリオで示唆されている。
(注3)OECD Science, Technology and Industry Scoreboard 2007中の"Patenting by industry"。
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2008年10月28日

[知財一般]産業界に無くてはならない制度は営業秘密保護>特許制度?

面白い調査結果があることを知った。米国での知的財産制度への利用者側の意識に関するものだ。
「この制度がなくなったら競争上の有意が失われてしまうか」、という問いに対して、米国の知財協(注1)の会員は次のように答えているらしい(注2)。

営業秘密の保護 約80%の会員が困ると回答
特許権 約66%の会員が困ると回答
著作権 約33%の会員が困ると回答

もちろん、調査母数の偏りは無視は出来ないが、興味深い。産業の面からは特許よりは営業秘密の方が高評価なのである(ただし、特許制度はイノベーションのためという側面もあるので、一概に「特許制度ってダメだよねー」とは言えない)。

■日本でも当てはまるか?
残念ながら管見の限り類似の調査は見られない。
しかし、統計を見れば明らかなように、日本企業は特許権を良く利用している(注3)。世界一特許制度を利用している国でもある(他国への出願を含む)。そうすると、米国とはちょっと違った結果になるかもしれない。

(注1)正確な名称はIntellectual Property Owners Association。なお、日本でも同一の名称を用いている団体があるらしくググると出てくる。が、「著作権の文化庁への登録」をうたっているアレな団体だったりする(ホームページの説明では、「著作権管理団体」が登録制から届出制になって…で、突然、文化庁に著作物を登録、なんて話に持っていっている。むちゃくちゃである)。
(注2)"Survey Results from the 2003 Intellectual Property Owners Association Survey on Strategic Management of Intellectual Property," Iain Cockburn and Rebecca Henderson
(注3)WIPOの統計がわかりやすいが、手っ取り早いのは特許庁『平成19年度特許出願動向調査―マクロ調査―』(2008年)
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2008年10月17日

[知財一般]生物多様性条約の望ましい姿についてまずは目を向けるべき

かつて生物多様性条約(CBD)の事務局職員であった香坂玲さんが先日の読売新聞に論説を寄せていらっしゃった(注1)。その趣旨は、次の3点に集約できるだろう。
○生物多様性の保全、生態系の保全は、食の安全(この場合は、供給量が必要量に足りているか、を指すのだろう)にもつながる面がある。
○途上国を中心に森林破壊が進んでいることや、気候温暖化の影響でかつての目標達成は困難になっている。改めて、持続可能な自然利用体系の構築が必要。
○2010年10月に名古屋でCOP10が開かれることとなっており、生物多様性について考える機会。わが国は里山などの考え方を積極的に打ち出していくべき。また、日本の生物多様性についても考えるべき。

■生物多様性条約は遠いところのものか?
香坂さんが指摘されるように、生物多様性条約は農業や、地球環境保全(とくに温暖化防止)では注目されていることは間違いない。しかし、条約が対象としている「遺伝資源」が利用される場面はこの2つに限られない。たとえば、病原体は創薬業や医・薬学領域に関わってくる。動・植物の遺伝資源が化学産業に関わることもある(注2)。影響は小さいわけではない。それどころか大きい。

生物多様性条約がこれらの分野で重要となる理由は、条約に遺伝資源に対する主権と利益配分が認められているところにある。おそらく当初の趣旨は、発展途上国を中心とする国で適切な利用制限システムが無いために遺伝資源が過剰に利用されてしまう(注3)、というところにあったのだろう(注4)。

もちろん、利益配分を求める途上国への経済的支援につながるのではないか、という意見もあろう。しかし、遺伝資源は必ずしも途上国に偏在していない。第一義的には国土の広さに依存するだろう。そうであれば、先進国であるロシアやカナダ、中国は有利になる。第二義的には赤道周辺の熱帯域・亜熱帯域が有利になるだろう。確かに、これらの国には貧しい国もあるものの、タイ、ベトナム、インドネシア、ナイジェリアなどの成長著しい国も見られる(いわゆるVISTAやNEXT11)。そうであるならば、主目的として生物多様性条約を南北格差解消のツールとしてみることが出来ないように思われる。

■生物多様性条約の課題
生物多様性条約が遺伝資源に対する主権と利益配分を認めたことによって、すでに各所で懸念されていることが2つある。
○知的財産権の出願書類への遺伝資源原産地および利益配分方法の明記、さらには、遺伝資源に由来する成果に係る知的財産によりもたらされる利益の分配を要請する声が上がっている。
○特に病原体を中心とする遺伝資源について、事前の利益配分に関する合意がない場合の提供拒絶を行う動きが存在する。

□遺伝資源と知的財産の関係に関する懸念
まず1点目の懸念であるが、これは「利益配分」と言ったときの「利益」に、遺伝資源に由来する研究成果も含む、との理解ができることにより生じていると考えられる。

利益配分がどのようにあるべきか十分に議論がされつくされていないことが要因だろう。

生物の多様性の保全が主たる目的であるのならば、研究成果に対して制限を課すことの合理的説明はつかないように思う。

出願書類への遺伝資源原産地(由来地)の明記を求めること(特に登録要件とすること)は、適切なアクセスを担保する手段としては考えられるが、これも営業秘密として保持する道を選ばれてしまえば、効果は薄れてしまう(もちろん、部分的には実効性は担保されている。たとえば、創薬分野に限れば、特許出願への動機付けは大きいので、遺伝資源の原産地を明記してでも出願を行いたいだろう)。

これに加えて、少し言いすぎなのかもしれないが、遺伝資源国への利益が過大になることで、一部の政治体制の公平性が担保されていない国では、かえって資源の過剰な利用が行われるのではないかとの懸念もある(注5)。

もちろん、これらの懸念はあっても、適切なアクセスと利益配分を実現する手段として知的財産制度と関係させることは理論的には考えられるので、十分に検討していきたい。

なお、条約担当者へヒアリングを行った方の話によると、条約の議論に当たって、各国の知的財産権に関する専門家が十分参加していなかったことが指摘されている(注6)。そのことを考えると、改めて条約で目指すものを議論する余地があるのかもしれない。

□遺伝資源への排他的利用権を求める動きへの懸念
過剰利用を止めるという手段としては強力なのであるが、排他権がある以上、事前の交渉で遺伝資源国は有利な立場に立つこととなる。これにより、仮に上で懸念した知的財産権に関する仕組みが制度化されなくても、契約により達成することが出来る。

これも、代替性のある遺伝資源が他国に存在すればいいが、そうでない場合もある。

■COP10に向けて考えるべきこと
現在のところ、管見の限り、問題は鳥インフルエンザウイルスが顕著な事例に留まっているように思われるが、利益配分について詰めておくことが望まれる。少なくとも、公衆衛生に関する部分は、排他的な主権は認めるべきでない(認めたとして、利益配分のみを認める)ように思う。議論の細分化が入るのではないか。
この問題も、環境保全、食の供給体制保全と並び考えられるべきことと考える。

(注1)香坂玲「生物多様性条約―保全と利用のルール議論―」読売新聞2008年10月15日(東京版)。
(注2)たとえばある種の人工着色料は、南米でのみ生息する昆虫が元となっていることが挙げられる。
(注3)いわゆる「共有地の悲劇」が懸念されたのだろう。
(注4)生物多様性条約については、いまだ勉強が十分でないので、誤りがあればお教えいただきたい。
(注5)一部の者に富が集約し、かつ、機会主義的な行動がとられても止めることが難しい状況にあるのでは、という思いである。
(注6)加藤浩「生物多様性と知的財産権」〔研究・技術計画学会2008年度研究大会報告〕。
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2008年10月11日

[知財一般]競争法を厳格に適用しないようにして消費者の利益につなげた例

競争法は厳格に適用すると望ましい結果をもたらさない、との判断のもと、(明示的にせよ黙示的にせよ)セーフハーバーを設けたことが、結果としてよい効果を生むことがあるようだ。

山田肇さんの著書(注1)によると、米国で研究フォーラムやフォーラム標準が進んでいなかったのは、米国の競争法当局が共同研究に対して厳しい姿勢であったからという。これが打ち破られる契機となったのが、1984年に制定された国家共同研究法(現在はNCRPAと略称されている。)(注2)とのことだ。

厳密には、排除された企業が不利益を受ける場合もあるだろうし、消費者にとって寄り望ましい技術がフォーラム内の妥協によって採用されないなどという場合もあろう。競争法上、そこまで詰めることは望ましくない、との政策判断が結果としては好評価できるものをもたらした事例なのだろう。

現在、標準化に関して、特許利用料に関する議論が行われると、買い手カルテルや売り手カルテルが生じるのではないか、という懸念がある。先日参加したシンポジウムでは、DOJの行政官は、IEEEなどのフォーラム型標準化団体(注3)内での特許利用料に関する共同交渉は、全体としての利用料を引き下げ、消費者の利益につながるものと考えられるから、萎縮的にならないでほしいと強調されていた(注4)。

これも場合によってはライセンサーにとって望ましくない結果をもたらしかねない。しかし、政策的な判断からそこまで踏み込まない、ということなのだろう。同シンポジウムの他の議論では累積ロイヤリティの問題が取り上げられていた。共同交渉が本当に許容されるなら解消に資するだろう。これも社会的には良い結果につながるのかもしれない。
(注1)山田肇『標準化戦争への理論武装』税務経理協会(2007年)58頁−59頁。
(注2)15 U.S.C. §§4301-06。共同研究組織の設立後90日以内にDOJ、FTCに届出を行うと、反トラスト法違反とされても懲罰的賠償責任を負わなくて良い(通常の賠償責任に留まる)というもの。なお、標準化団体に関しては、2004年にさらに改正され、Standards Development Organization Act of 2004が規律している。
(注3)ここではデジュールの標準化団体は含まない。
(注4)「シンポジウム:グローバル時代の特許活用〜パテントプールが導く成功への道〜」(2008年10月7日)〔ヒル・ウェルフォード発言〕。
posted by かんぞう at 23:55| Comment(2) | TrackBack(0) | ☆知財一般 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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