2011年05月29日

[知財ライセンス]マギル社TVガイド事件欧州司法裁判所判決の射程についての雑感

マギル社TVガイド事件(注1)は、著作権のライセンス拒絶がEC競争法に反するとされた事案であるが、知的財産権のライセンス拒絶に対する判断の先例として一般化してよいのか悩ましい。

争点となった著作物(創作物)はテレビ番組表であり、イギリスとアイルランドでは著作権法の保護を受ける(これらはいわゆる「額の汗」に該当し、保護の対象内となる)との解釈が固まっているものの、他国ではそのような保護はおおよそ受けない(日本でもまず保護されない)(注2)。表現とアイデアの二分論でいうところのアイデアに近い。

表現とアイデアの二分論は、アイデアを特定人に独占させることには弊害が大きいとの価値判断から、アイデアに対する著作権法による保護を否定する考えた方である。そしてこの考え方は広く受け入れられている。欧州司法裁判所においても、アイデアに近いテレビ番組表を独占させる弊害が大きいという価値判断が根底に当然あるはずである。

そうだとすると、形式的には著作権のライセンス拒絶であるが、我々が一般に関わる著作権とは同視しづらい。

なお、現在でもイギリスは「額の汗」(Sweat of the brow)に対して著作権による保護を与えている。2010年には、プロサッカーリーグの公式戦スケジュールの著作権を巡って、リーグの管理団体と、スケジュールを配信していたYahoo! UKが争った事案でも著作権による保護が認められている(注3)。

Yahoo! UKが競争法での争いに持ち込んだ場合、マギル社TVガイド事件のような判断になるのかは、興味深い。私は、マギル社TVガイド事件で欧州司法裁判所が採った立場である、「知的財産権権の保護を与える条件と手続を決定することは各国法に委ねられている」(注4))。

(注1)Cases C-241/91P & C-242/91P, Radio Telefis Eireann and Independent Television Publications Ltd v Commission (Magill TV Guide), 1995 E.C.R.I-743.
(注2)和久井理子『技術標準をめぐる法システム−−企業間協力と競争、独禁法と特許法の交錯』(商事法務、2010年)231頁脚注142が指摘している。
(注3)TLC 705/09 Football Data Co Ltd v Yahoo! UK Ltd. & ors.
(注4)訳は前掲注2・和久井231頁に拠った。
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2005年11月11日

[知財ライセンス][経済法]ライセンス拒絶

白石忠志『知的財産権のライセンス拒絶と独禁法―『技術と競争の法的構造』その後―』(知的財産研究所「21世紀における知的財産の展望」)読書メモ

1.本論文の意義
著者の「技術と競争の法的構造」(有斐閣、1994年)で示した理論を補強する判例が積み重なってきた旨が中心のようであり、理論的な面を知るのであれば同著に当たった方がよいようである。

2.前提
知的財産権は独占権を権利者に保証するため、独占を禁止すべきというルールとは反することになる。知的財産権の理念は一定の独占に基づくレントを権利者(すなわち創作や発明などをしたもの)に与え産業発展を促し、ひいては産業秩序を維持しようというのもであるから、その前には独占禁止法のルールも後退する、ということになる。独禁法20条はその現れである。

3.本論文要旨
(1)独禁法に反するライセンス拒絶の要件
知的財産権のライセンス拒絶が独禁法上の問題となるのは複数の権利者がそろって拒否した場合や、パテントプールをしている場合にそのプールしている者が拒絶した場合が主であった。しかしながら、諸事例から検討するに、そのような場合に限られず、
@ある知的財産権がある市場において事業活動を行うために必須
かつ
A知的創作のインセンティブ保護 < 商品役務市場で生じる競争減殺の弊害
である場合にライセンス拒絶が独占禁止法上の問題となる。
(2)根底にある考え
市場の範囲策定においては、従来の「技術」と「製品」を二分する考え方(すなわち技術の独占による製品市場独占は許される)から抜け出し、技術だけの市場がある場合を考慮すべきであると著者は言う。すなわち技術がそれだけで市場を形成できるならその製品においての独占は許されるべきではないとするのである。

4.私見
簡素に言うと、EF理論を基に、インセンティブ保護との比較衡量を付加するということになるだろう。なぜ、そうなるのか?についてはこの論文の元になった著書に迫る必要があるだろうが、知的財産権だから特別とする考え方に異を唱える点は、経済法・競争法の理論を整理するものになるのではないかと思う。
しかしながら瑣末な点ではあるが、商標においては別異の扱いをしなければならないところ、上記要件の際に「知的財産権」とひとくくりにすることで誤解されかねない点は疑問である。
posted by かんぞう at 12:47| Comment(0) | TrackBack(0) | ☆知財ライセンス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2005年11月03日

[知財ライセンス][著作権]ソフトウエア開発委託契約におけるソースコードの帰属

○宮脇正晴『ソフトウエアの開発委託契約とソースコードの取り扱い――「携快電話6」事件――』(知財管理Vol.54 No.12、2004年)の読書メモ

事案は3者出てくるので文字で言うと少々ややこしい。
被告と訴外Aの間でAを受託者とするソフトウエア(「携快電話」)開発委託契約が締結されていた。契約ではプログラム・図面・情報の著作権は委託者(被告)に帰属すると定めていたが、後の合意によってソースコードは前述のものに含まれず、ソースコードの権利は受託者に帰属する(契約書ではさらに「今後、乙はこれを自由に付加開発し、他に開示することが出来る」と記載)と約した。
そこで、Aは原告から同様のソフトウエア開発(「携帯万能」)を受託した際、「携快電話」で使用したソースコードやデータを一部用いた。
被告は「@ソースコードの使用は著作権侵害、Aデータの使用は著作権侵害」として原告に対して仮処分を求めた。これが不法行為であるとして訴えたのが本件である。

興味のポイントは@なので以下はこれにしぼる。

本件では「ソースコード」が何を指すかが問題となった。
原告は、「オブジェクトコードを含む全プログラム」と主張し、被告は「周辺機器のドライバ」だと主張した。いずれも?といえる解釈だが、まあ言うだけ言うてみようということか。
裁判所は、「携快電話」のプログラムのソースコードだと示した。これはきわめて妥当。

ところがこの点、宮脇先生は疑問を示す。
契約に基づきソースコードがA社帰属するという解釈は契約の解釈として問題ないが、オブジェクトコードの帰属はどうなってしまうのか?という点についてである。
一般的にオブジェクトコードは独立した著作物とは考えられていない。ソースコードの複製物か翻案物である。仮に、ソースコードがA社に帰属するとするなら、被告(本ソフトの販売会社)はこれを複製したものに対して著作権を行使できないことになり、そのような契約であれば被告は結ばなかっただろう、と。
すなわち、完全な著作権がA社にあるのでなく、「ソースコードを、ソースコードの形態で複製や翻案等の利用を行う権利」がA社にあるにすぎないと解釈すべきだとされる。
また、そのような解釈においてもデッドコピーは許していないと解すべきとも示されている。

見落としがちな点を指摘していてなるほどと思う。
受託側としてはソースコード利用をしたいところであろうから、この意義は大きいだろう。続きを読む
posted by かんぞう at 17:54| Comment(0) | TrackBack(0) | ☆知財ライセンス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2005年09月30日

[読書メモ]中山信弘ら『〔鼎談〕特許製品の並行輸入』(ジュリスト1064,1994年)

●まとめ・注目ポイント
これはBBS事件を受けて書かれたもの。

○属地主義はミスリーディング
まずはじめに、判決後「知的財産権と属地主義」ということをめぐって起きた議論に対して、「属地主義」の用語の混乱を指摘している。
すなわち、
国際私法…自国内で規制対象行為の一部でも行われないと、自国法による規制は行われ得ない。
知的財産…権利侵害があったとき、その侵害地で当該権利が成立しているならその地の法を適用する。
との違いがあり、知的財産の場面でいう「属地主義」はややミスリーディングだと指摘するのである。
とくに並行輸入について<中山信弘>は、外国で適法に市場に置かれたものについて日本での権利が消尽しているかという日本法の解釈問題であると述べている。

○並行輸入は悪か?
並行輸入を認めなければ権利者は国際市場を分割しそこから独占的利益を得ることができる。さらにライセンシーが価格維持を行えばさらに大きな利益が権利者・使用許諾者に流れることになる。この点について競争法からの検討が必要なのである。(つまり並行輸入を止めることが悪という可能性があるのだ。)
では並行輸入を認めたら損なのか?そもそも契約でとめておくことができるのである。しかも内外価格格差があるような場合は通常ブランドに関するものが多数で、特許では起こりにくいのではないかと指摘する。(BBS事件も第1事件は商標権侵害で訴えた。しかし商標は判例上並行輸入を認めている。)

○並行輸入が問題となる真のケース
<中山信弘>は、以上のことを述べた上で原則並行輸入は適法であると特許法上は解釈すべきであるとしているが、例外として
[1]強制許諾権設定により製造された製品
[2]医薬品のように価格設定がされている商品
は無条件に並行輸入が認められないとしている。

●かんそー並行輸入させないほうが良くない!という香りがしたのは意外。てか、いままでの偏見だったな〜。
posted by かんぞう at 12:59| Comment(0) | TrackBack(1) | ☆知財ライセンス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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