2012年05月02日

[不正競争][時事]技術流出対策のために企業がとるべき対策は自社技術分析

□技術流出を制度で止めるために、これ以上制度強化をすることは望ましくない
有名な法務・知財系ブログ『企業法務戦士の雑感』のFJneo1994さんが「[企業法務][知財][労働]「技術流出に歯止め」をかけるために必要なこと。」で、技術者の引き抜き・転職を通じた海外への技術流出について言及されている。FJneo1994さんは、営業秘密流出の立証の難しさ、立証による技術流出の懸念が要因となって、司法を通じて技術流出対策を行うことは難しいと指摘され、『「技術者が海外企業に引き抜かれないようにする」という選択肢しかない』と述べられている。

私はこの意見に賛成する。司法を通じた技術流出対策の難しさに加えて、これ以上、国として技術者を縛るような動きはしない方がよいと考えているためである。

刑事罰をさらに加重することによって、技術者に対して萎縮効果を与えることを期待する意見もあるだろうが、後述するように技術者にモヤモヤ感がある中では適切ではないように思えるし、また、主要国の制度(下記)と比較してもこれ以上の加重はやりすぎではないかと思える。

技術者への萎縮効果という点では、損害賠償請求が元社員に対してもに行われたことが報道された今回のような報道で十分ではないかと思う。
※(参考)従業員の転職に付随した営業秘密の漏洩行為に対する主要国の刑事罰[注1]
アメリカ 国外への流出の場合、15年以下の懲役または50万ドル(日本円450万円程度)以下の罰金(経済スパイ法:Economic Espionage Act:§1831, 18 U.S.C. 90.)(その他州法による規制)/国内外への営業秘密の図利加害目的の流出の場合、10年以下の懲役または25万ドル(日本円220万円程度)以下の罰金(経済スパイ法§1832)
イギリス 秘密へのアクセス権源をもつ者による不正行為の場合、かつ、大陪審の正式起訴の場合、10年以下の懲役または罰金(詐欺法:Fraud Act 1条)/即決裁判の場合、1年以下の懲役または罰金(詐欺法1条)
ドイツ 雇用関係存続中の場合の、国内外への不正競争目的、図利加害の流出のみ3年以下の懲役(不正競争防止法(UWG)17条)
フランス 国内外への意図的な流出の場合、2年以下の懲役または3万ユーロ(日本円330万円程度)以下の罰金(労働法152-7条)/製造秘密の場合、2年以下の懲役または3万ユーロ(日本円330万円程度)以下の罰金(知的財産権法L621条1)
韓国 国外への流出の場合、7年以下の懲役(不正競争防止法18条)/国内への流出の場合、5年以下の懲役(不正競争防止法18条)/国家核心技術について外国での使用目的の流出の場合7年以下の懲役または7億ウォン(日本円500万円程度)以下の罰金(産業技術の流出防止及び保護に関する法律36条)
台湾 国内外へ故なく工業上・商業上の秘密を漏洩したときは、1年以下の懲役または1,000台湾ドル(日本円3000円程度)以下の罰金(刑法317条)
日本 国内外への図利加害目的の場合、10年以下の懲役または1000万円以下の罰金

□技術者が海外企業に引き抜かれないようにするために
同志社大学の中田喜文 教授・宮崎悟 特別研究員は、大規模かつ詳細なアンケート調査を行って、技術者の現状を明らかにしている。中田教授らが行った、技術者4000名近くを対象にしたアンケート調査の結果によると、2007年での技術者の意識を1997年の意識と比較すると、技術者総体としては「組織・仕事に対する思いが減退している」一方、「転職願望」や「現実の転職に必ずしもつながっていない」ことが明らかになっている[注2]。

組織への帰属意識(企業忠誠心)や仕事のやりがい感が減っているのに、外の組織に行くことはできない、そういうモヤモヤを抱えた技術者が相対的に増えていることがうかがわれる。これまでモヤモヤしていたのに、出て行くなという脅しばかりをかけられると、技術者は研究・開発に対するモチベーションを下げかねない。そうすると、今後の日本企業の競争力を下げてしまう恐れがでてくる。

企業忠誠心を上げる取組が必要であると私は思う。

ただ、ここで悩ましい論点が一つ出てくる。リタイア済/リタイア間近の技術者と、現役の技術者とでは、企業忠誠心を上げる取組が異なってくる、という点である。とくに前者への施策が難しいと考える。

リタイア済/リタイア間近の技術者は、老舗企業ではボリュームゾーンを占める技術者であり、均一の施策をうつと、一人あたりの投資は少なくても総体としては大きな投資が求められてしまうことがネックになる。また、その投資の負担を、数が少ない中堅・若手の従業員が負担するとなると、中堅・若手の負担感やさらにはモチベーション低下も招きかねない。

そうすると、流出しては困る技術(ノウハウ)を持つ技術者を狙い撃ちすることが適当ということになる。ここにも悩ましさがある。先端技術の持ち主は特定しやすい。しかし、新興国で重宝される一時代前の技術の持ち主は現場ですら意識されていない(場合によっては本人すら意識していない)可能性がある。

結局のところ、相当詳細に自社の技術分析を行っていくことしかないように思う。そうすることで技術者は自分がおこなってきたことが「見られている」「評価されている」と感じ、技術分析自体が企業忠誠心を高めることにつながることもありうるのではないだろうか(…と甘い期待をしてみる。が、正直にいって、この問題は悩ましい)。

なお、後者の現役の技術者に対する対処としては次の研究が参考になる。

東京大学の古井仁 氏(当時。現、亜細亜大学国際関係学部准教授)が研究開発集約型の医薬品・エレクトロニクス企業の研究開発部門に属する3000名を対象に1999年に行ったアンケート調査(有効回答者数885名)[注3]によると、まず、研究技術者と開発技術者は志向が異なっていることが指摘されている。それによると、以下のとおりである。
研究技術者のモチベーター
・専門分野の業績の公正な評価(業績中心の評価)
開発技術者のモチベーター
・組織人志向が強い=昇進がモチベーター

[注1]経済産業省「平成18年度 東アジアにおける不正競争及び営業秘密に関する法制度の調査研究報告−欧米の法制度との対比において−」(2006年)、張睿暎「韓国の「産業技術の流出防止及び保護に関する法律」の紹介」『季刊 企業と法創造』13号(2008年)を参照に筆者作成。
[注2]中田喜文・宮崎悟「日本の技術者──技術者を取り巻く環境にどの様な変化が起こり,その中で彼らはどの様に変わったのか」『日本労働研究雑誌』606号(2011年)、また、よりわかりやすくまとめたものとして、中田喜文・電機総研編『高付加価値エンジニアが育つ』(日本評論社、2009年)
[注3]古井仁「研究開発技術者のモチベーションプロセスに関する一考察」『研究計画技術学会 年次学術大会講演要旨集』14号(1999年)201頁-206頁(ただし、学会発表の要旨(未査読)である。)
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2009年09月17日

[不正競争]営業秘密の刑事保護:過度の萎縮への手当はされそう

本年の不正競争防止法改正による営業秘密の保護のうち刑事罰の強化について、私はその妥当性に疑問を持っている。
とりわけ、雇用者(なかでも現場の研究者)に過度の萎縮を生じさせないかが懸念であった。

たとえば、過去の記事では以下のような事例を懸念していた(注1)。
「図利加害」目的であったかどうかは、内心の問題である。内心を構成要件とする際に、広範な要件とすることは妥当なのだろうか。
解釈次第ではあるので杞憂となるきらいはあるが、「加害」を広めに解釈すれば、何からの理由で持ち出して、結果として流出させた者も処罰されることとなる。例えば、残業が制限されている中、内規に反して自宅に持ち帰ったが、その際「何か会社に困ったことが起きるかもしれない」という程度の意図ならばどうだろうか?現場の研究者・技術者に過度の萎縮効果を与える気がしてならない。

その点について解釈上参考となるものが出ていたので取り上げる。

法改正時に、衆議院では附帯決議に以下のような文言が存在している。
「不正競争防止法の一部を改正する法律案に対する附帯決議」(第171回国会閣法第39号附帯決議)(抄)
営業秘密侵害に対する刑事罰の強化に当たっては、その趣旨に関し、事業者、労働者双方に周知徹底を図るとともに、労働者の間に疑念や過度の萎縮が生じることのないよう、労働者の正当な行為や日常業務が処罰対象とならないことを指針等により明確に示すこと。

「労働者の正当な行為や日常業務が処罰対象とならない」としており、雇用者の萎縮への対応が考慮されていると考えることができる。どこまでが「正当な行為や日常業務」を指すかは営業秘密管理指針に委ねられている構造になっている。

営業秘密管理指針は未だ改訂作業の途中であると思われるが、原課の中原室長の論稿では(注2)、以下のように述べられていた(注3)。
使用者の明示の許可を得ずに営業秘密が記載された書面等を持ち帰ったとしても、保有者の業務を遂行するために自宅等で残業をする意図にすぎないときは、同様に、図利加害目的にあたらない。

個人的な見解である可能性はあるが、営業秘密管理指針に影響を与える可能性は少なくない。
私の懸念は一つ解消しそうだ。

(注1)本ブログ「[不正競争][時事]オープンイノベーションは情報の流通を威圧的に統制する制度の上に成り立つとは思えない」(2009年2月1日)
(注2)原稿の最後に「意見にわたる部分は個人の意見」と注記してあったので、念のため経済産業省の見解と直ちに判断することはしない。
(注3)中原裕彦「「不正競争防止法の一部を改正する法律」の概要」L&T44号(2009年)46頁。
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2009年06月30日

[不正競争]不正競争防止法2条1項3項の摸倣の意味

大阪地判平成21年6月4日(判例集未搭載)平成20年(ワ)第15970号

■事案の概要
Xは2007年9月からステンレス製真空マグボトル(P)を日本で販売していた。2008年1月ころから、YがPに酷似したステンレス製真空マグボトル(Q)の販売を開始したことから、不正競争防止法2条1項3項に違反するとして、Qの販売差止と損害賠償を求めたものである。
これに対しYは、Qは2003年以前から中国で製造されていた物品を輸入したものであるとして摸倣の要件を満たさないとして反論している。この主張に対し、Xは2003年以前から中国で製造されていた物品との同一性を否定しつつも、仮に同一であったとしても、(1)不正競争防止法は我が国の主権内においてのみその効力を有するのであるから、Xは我が国に置ける市場の先行者として保護されるべきこと、(2)「摸倣」行為の定義(不正競争防止法2条5項)の解釈について、「作り出す」は市場に置くことであると解釈するべきこと、の(1)、(2)を主張し、Yの行為は不正競争防止法2条1項3項にあたると述べた。
(不正競争防止法2条5項)
「模倣する」とは、他人の商品の形態に依拠して、これと実質的に同一の形態の商品を作り出すことをいう


■判決の概要
判決は、PとQは同一と言えるとした一方、Qは2003年以前から中国で製造されていた物品を輸入したものであると認定し、QはPに依拠して作り出されたものでないと判断した。Xの「摸倣」行為の定義の解釈に対しては、以下のように述べ、否定した。
市場に置く行為を同項の「同一の形態の商品を作り出すこと」に含めることは,「作り出す」の語義から乖離する上,そもそも同条1項3号が「他人の商品の形態(中略)を模倣した商品を譲渡し,貸し渡し,譲渡若しくは貸渡しのために展示し,輸出し,又は輸入する行為」を「不正競争」と定義し,模倣行為と輸入等の行為とを分けて規定した上で,後者のみを「不正競争」として規制対象としていることに照らし,輸入等の市場に置く行為を「模倣」に含めることは,同号の規定の構造からしても採用することのできない解釈である。


■私見
不正競争防止法2条5項にいう摸倣は、法案作成行政機関(注1)も、学説も、一致して製造を前提とした理解をしている。その上、不正競争防止法2条1項3項の趣旨が裁判例、法案作成行政機関、学説が共通して、
「他人が資金・労力を投下して開発・商品化した成果に対して、その模倣が行われた場合には、模倣者が商品化のためのコストやリスクを大幅に軽減することができる一方で、先行者の市場先行のメリットは著しく減少することとなるから、模倣者と先行者との間に、競争上著しい不公正が生じるとともに、個性的な商品開発や市場開拓への意欲が阻害されることになる。そこで、不正競争防止法2条1項3号は、他人が資金・労力を投下して開発・商品化した商品の形態につき、他に選択肢があるにもかかわらずことさらにこれを模倣し、自らの商品として市場に置くことを、競争上不正な行為として位置付け、先行者の開発利益を模倣者から保護することとしたものである」(注2)

と理解しており、開発・商品化につながる資金・労力投下へのフリーライドを問題としている。これに対して、原告の主張は苦しいものがあり、判決は妥当である。判決は、不正競争防止法2条1項3号が日本国内の市場での先行利益のみを問題とするものではないことを確認した点で新しい。

それにしても、一見するとこの原告の主張は疑問符がつくが、おそらく、訴訟を遂行していたところ、予想に反して原告の物品(P)の製造以前に被告の物品が製造していたことが立証されたために、無理筋の主張をして最後の抵抗を試みたものなのだろう。
なお、本件は知的財産の大家の弁護士さん対本人訴訟の事案で、本人訴訟が勝ったというあたりが少しだけ面白い。

(注1)経済産業省知的財産政策室編『逐条解説不正競争防止法平成13年改正版』(2002年、有斐閣)38頁。
(注2)東京地判平成18年4月26日判例時報1964号134頁、〔ヌーブラ事件〕大阪地判平成18年3月30日(判例集未搭載)平成16年(ワ)第1671号など。
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2009年02月01日

[不正競争][時事]オープンイノベーションは情報の流通を威圧的に統制する制度の上に成り立つとは思えない

■営業秘密侵害罪強化の方向での見直しとその背景
産構審知財政策部会の小委員会が、営業秘密の保護のうち刑事罰規定に関する報告書(注1)をまとめている。そのポイントは以下の3つにまとめることができる。
○営業秘密侵害罪の目的要件を「不正の競争の目的」から「図利加害目的」とする方向で考える。
○不正取得または領得した営業秘密を使用または開示する行為を独立して刑事罰の対象とする方向で考える。
○秘匿決定、公開停止等、刑事訴訟手続の在り方についての見直しを行う。
この報告書の背景にある考え方を、経済産業省知的財産政策室は積極的に発信している。例えば、中原裕彦室長が書かれた論稿(注2)では、上記の提言の背景と直接明示するものでないものの、現在の営業秘密保護の課題を次のようにまとめている(なお、下記のまとめは私によるものであり、理解の誤りは私に責任がある)。
○国際的な企業連携を促進するためには国際的に見て的確な秘密情報の保護制度が必要。特にオープン・イノベーションが求められる環境化にあってその必要性は増している。
○秘密情報の保護制度である営業秘密侵害罪は同罪での起訴が1件も無いなど有効に機能していない。営業秘密侵害罪の要件が限定的であること(使用開示行為は使用者の領域内で行われるため立証が困難)、刑事訴訟手続において営業秘密が開示されてしまうこと、が要因である。

1点目は、営業秘密侵害罪の要件として、取得で足りるとする制度を米国、ドイツ、イギリス、フランス、中国、韓国で採っている(注3)ことを念頭に、日本の制度では不足だと認識されているのだろう。

また、同委員会の委員からも、刑事罰の範囲が限定的であることを指摘する声がある(注4)。

■本当にいいのか?オープンイノベーションの担い手は誰か?
この様な改正の特に1点目、2点目の方向性については、5年前の営業秘密侵害に対する刑事罰導入にあたって慎重に検討された点が軽視されていることを、『企業法務戦士の雑感』のFJneo1994さんが指摘されている(注5)。FJneo1994さんはこれまで、この改正の方向に繰り返し触れられており、違和感を述べられていた。FJneo1994さんは、営業秘密侵害罪が使われにくい理由は、単に構成要件の問題だけに帰するものではない、と分析されている。私もこの分析に賛成する。

これに加えて、オープンイノベーションの具体的な担い手である現場の研究者・技術者への悪影響も私は懸念する。

「図利加害」目的であったかどうかは、内心の問題である。内心を構成要件とする際に、広範な要件とすることは妥当なのだろうか。
解釈次第ではあるので杞憂となるきらいはあるが、「加害」を広めに解釈すれば、何からの理由で持ち出して、結果として流出させた者も処罰されることとなる。例えば、残業が制限されている中、内規に反して自宅に持ち帰ったが、その際「何か会社に困ったことが起きるかもしれない」という程度の意図ならばどうだろうか?現場の研究者・技術者に過度の萎縮効果を与える気がしてならない。

中原室長のおっしゃるように、この制度で企業はオープンイノベーションを進めやすくなるかもしれない。しかし、現場を萎縮させてイノベーションは生まれるのだろうか。あるいは、そのような環境下でもプロセスイノベーションならば起こるのかもしれないが、次世代の産業を担うような破壊的イノベーションを阻害しないのだろうか。

このような制度を採ったときに、現場の研究者・技術者は身を守るために、技術流出をしていないと言う証拠をつくることが必要になるだろう。会社側としてもそのような仕組みを用意するかもしれない。ただでさえ、わが国の生産性は各国に比べ高くない中(注6)、第一義的には生産性を阻害する要素を作ることは適切とは思えない。

そもそも、民事的な対処でなぜ足りないのだろうか?そのことも分からない。

FJneo1994さんが指摘されているように、刑事罰を課すことで事案の妥当な解決を図るために、民事も含めて営業秘密の秘密管理性要件が厳格に解釈されかねない可能性もある。そうすると、民事的な対処すら弱めてしまい本末転倒になる。

■経済産業省に望まれること
もちろん、企業のニーズを把握され、制度設計に取り組まれている経済産業省の取り組みには敬意を表する。前掲の論稿からはこの改正の背景に細やかなニーズ把握があったことが窺える。しかし、次の2点を深彫りして、情報をお教えいただけるとありがたい。

○他国において取得行為での営業秘密侵害罪立件件数は何件存在するのか?
○アンケート調査においてあらわれている、法律の改正のニーズの内容は何であるのか?

前者については、制度があっても運用されていない可能性を払拭するためである。もっとも、そもそもの話として、他国が厳格な制度を採っていようとも、オープンイノベーションや破壊的イノベーションのため、わが国が良しと考える制度を採ることも国益に叶うことはいうまでも無い。

後者については、アンケート調査で「法改正を望む」と聞かれれば、必ず「はい」と答える人もいることに留意願いたい。経済産業省のアンケート調査(注7)では技術流出に対しての再発防止策として、「法律などの規制強化」を挙げていた回答者は120数社中約20%〜25%である。これを多いと見るか、「必ずはいと答えてしまう人がいる」通常の割合と見るか、微妙な数ではないだろうか(注8)。ヒアリング調査等でその回答者の法制度の理解と、ニーズの詳細を把握して欲しい。

■自社の技術開発の萎縮を防ぎたい企業が採るべき道
もっとも、報告書の提案は、21条1項の改正を前提としているように読むことができる(注9)。そうであれば21条3項の通り親告罪であるので、技術流出の元となった営業秘密の保有者側の告訴が無い限り、刑事処罰の対象とならない。
そうすると、技術開発の萎縮効果を防ぎたい企業は、自社の知的財産戦略として、不正競争目的の営業秘密取得行為のみを刑事告訴する、ということを明示するのも手である。
しかし、そういう対策を採る企業がもし出てくるようならば、そもそもの改正自体の望ましさに疑問が付くこととなる。

■もしデュアルユース技術流出を防ぎのであれば、別の立法をするべきでは?
それにしても、このような改正を急ぐ理由は何なのであろう。
これを善意に解釈すると、問題意識の中で大きなウエイトを占めているものは、「外国政府へのデュアルユース技術(兵器転用可能技術)流出を防ぐ手段の確立」であるようにも思える。その表れが、報告書の以下の記述ではないだろうか。
○2 使用・開示等を行った者が「不正の競争の目的」を有していることが構成要件要素とされていることから、競争関係の存在を前提としない単なる加害目的や、外国政府等を利する目的で使用・開示等がなされる場合を処罰対象とすることができないという状況が生じている(報告書5頁)
<外国政府によるデュアル・ユース技術の不正取得>
元ロシア連邦在日通商代表部員が、光学系機器メーカ従業員から、軍事転用されるおそれのある光通信の機密情報・部品等を不正に入手した。元部員は警察の出頭要請に応じず帰国し、元従業員についても窃盗罪容疑で書類送検の後、起訴猶予処分となった。(報告書6頁)
もしそうであるならば、法益はわが国の安全保障にあるはずで、私益とは異なるはずだ。ならば、端的にそのような立法を行うことが適切でああろう。研究開発活動の萎縮を招きかねない改正を行うことよりもずっといい。それに、仮に上記改正が21条1項の改正にとどまるのならば、親告罪にとどまってしまうことから、国家の利益を守るには不十分とも言える。
もっとも、そのような立法が、情報のボーダレス化の現代社会でどれほどの意味があるのかについては十分な検討が必要であろう。いずれにせよ、拙速な改正は行うべきでない。

(注1)産業構造審議会知的財産政策部会 技術情報の保護等の在り方に関する小委員会「営業秘密に係る刑事的措置の見直しの方向性について(案)」(2008年) available at e-gov(以下、報告書と略称する)
(注2)中原裕彦「技術情報管理とイノベーション」日本知財学会誌5巻2号(2009年)12頁-16頁。
(注3)前掲注1・参考資料2 available at e-gov
(注4)警察庁官僚として長年勤められた後藤弁護士がご自身の事務所のサイトで述べられている。参照:後藤コンプライアンス法律事務所 > 営業秘密保護強化の必要性-不正競争防止法の改正
(注5)FJneo1994さん「[企業法務][知財]営業秘密侵害罪の対象拡大(案)に思うこと」『企業法務戦士の雑感』(2009年1月13日)
(注6)財団法人社会経済生産性本部『労働生産性の国際比較(2008年版)』(2009年)。
(注7)経済産業省(委託先:日本建設機械工業会)「我が国製造業のおける技術流出問題に関する実態調査」(2006年)
(注8)このアンケート調査では不正競争防止法の営業秘密保護の要件の理解を問う設問もあるのであるから、クロス集計をして結果を示すことが望ましい。
(注9)既存の21条1項1号の改正や位置づけ変更に言及しておらず、その限りでは、不正取得を非親告罪とし、不正取得営業秘密の開示・使用行為を親告罪とするような改正は考えにくいからである。
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2008年11月19日

[不正競争]オープンイノベーションで日本が少し楽をするための普及活動はいかが?

オープンイノベーションと知的財産の関係に関する話を聞いていて思ったこと。

オープンイノベーション戦略をとったときに特徴的なこととして、次のことが考えられる。
(1)組織内部の技術を外部に出すことが比較的積極的に行われる
(2)シーズを中心とした外部との連携が比較的多く、連携先は多様性を持つ

オープンな連携を行うことは、必ずしも技術のオープン戦略をとることとは同義ではない(ただし、技術をオープンにした方が連携は容易だと思うけど)。だから、コア技術は特許や営業秘密という形で守ることも意識されることになる。

連携先が海外の組織であると、守る手段の準拠法が重要になってくる。
このとき、自国の方を準拠法にしたいのが実務家の本音だと思う(よほど自国の制度がダメダメなら別)。そのためには、自国の法律が相手方に熟知されているとやりやすい気がする。

さて、日本の不正競争防止法は海外では知られているのだろうか。実務的には法律だけでなく、運用例も欲しい。もちろん、日本のビジネス法紹介の本は英語であるし、それ以外の言語でもあるのだろうけど、十分かどうか私にはわからない。

もし十分出ないならば、日本を利するための日本方普及活動として政府が介入しても良いのかも。
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2008年11月12日

[不正競争]店舗外観の保護

井口加奈子「店舗外観保護の戦略的法務―大阪地判平成19・7・3不正競争行為差止等請求事件を手がかりに」NBL892号7頁-10頁(2008年)読書メモ

短い論稿であるが、〔食堂店舗外観事件〕(大阪地判平成19年7月3日)のロジックから窺える点を実務的観点からまとめられている。参考になるのでまとめた。

■論文の論旨
大阪地判平成19年7月3日(およびそれを是認した同控訴審判決)は、不正競争防止法上の営業表示として店舗外観の保護の可能性を認めた点で意義がある。
判決から考えると、外観の保護を受けたいのであれば以下の3点に留意するべきである。
(1)特徴的部分を作るべき
(2)二次的意味の獲得を求めている可能性があり、使用実績を作るべき
(3)全体としての店舗外観を特定して訴訟に臨むべき。特定の方法は、米国での裁判例(注1)が参考になる。
また、本判決では役務提供の保護は否定したが、判決は原告の役務提供の方法がありふれていていると述べているにすぎない可能性があり、奇抜な役務方法でそれだけで識別力を持つ場合は店舗外観全体の印象に影響を与えうる。

■考察
□特徴的部分の必要性と特定の方法をまとめた点で有益

判決から得られる示唆をまとめた点、また、特定方法の一例を示した点で意義深い。今後、これを受けて裁判が提起されると興味深い。もちろん、大阪地裁判決の示唆にすぎないので、さらに踏み込んだ規範の検討がなされた場合、あっさり蹴られる可能性はある。だが、議論の一石には間違いなくなろう。

□二次的意味の意味の捉え方には違った見方もあり得る

井口先生は判決文から「二次的意味の獲得を求めている可能性」があると述べられており、米国のトレードドレス制度では奇抜な外観は二次的意味の獲得が必要がないことと対比されていらっしゃる。本判決が踏み込んだ解釈をしていると読まれたものと思うが、「二次的意味」の理解次第では踏み込んだ解釈ではない可能性もある。
私が「出所を表すもの」程度の意味で用いられているにすぎないとも読むことが出来るように思う。その場合、出所を表しているか否かは「商品等表示」である場合に必然的求められることになるのではないだろうか。

□役務提供の保護は興味深い論点
井口弁護士は、特殊な役務提供の方法の場合、店舗外観を通じて商品等表示として間接的に保護される余地があることを示唆されているように読める。これは極めて興味深い。
社会的な意味での表示は、固定された画像のみから生じるものでない。たとえば「歌いながらアイスを作るアイスクリーム屋」といえば「Cold Stone Creamery」を思い浮かべる人がいらっしゃると思う。この場合、「歌いながらアイスを作ること」が表示となっている。
もちろん、文言上「表示」と言うには苦しい(注2)。
しかし、井口弁護士のおっしゃるように、外観への影響と言う観点で捉えれば違和感は薄れるのかもしれない。
ただし、仮に保護する場合は、特徴的か否かの判断に加えて、当該特徴的部分を保護することである一定の市場の競争を制限する効果を生まないか検討するという新たな視点が求められる気がしないではない。

■参考
なお、食堂店舗外観事件については、『駒沢公園行政書士事務所日記』の大塚大がまとめられた「「『めしや食堂』店舗外観」事件〜不正競争防止法 不正競争行為差止等請求事件判決(知的財産裁判例集)〜」(2007年7月5日記事)が参考文献も含めて有益な情報を提供されている。また、『企業法務戦士の雑感』のFJneo1994さんは、本判決について述べた「[企業法務][知財] 「店舗の外観」は保護されるか?〜法と仁義の隘路で。」(2007年8月6日記事)の中で「その結論に至るまでの大阪地裁の思考回路を辿っていくと、もしかしたら・・・という気にもなるというものである。」と述べられていた。井口論文はそのもしかしたら…を検討したものと言えるだろう。

(注1)Two Pesos,Inc. v. Taco Cabana,Inc., 505 U.S. 763, 120 L.Ed.2d, 112 S.Ct.2753, 23 U.S.P.Q.2d 1081
(注2)田村善之『不正競争法概説』(有斐閣、2003年)64頁は、表示がどう豪に列挙されたものに限られないと説明されていらっしゃるが、想定されているものはあくまで視覚で認識しうる表示であるように読める。
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2008年07月31日

[不正競争]営業秘密の秘密性要件の大阪地裁/大阪高裁の判決傾向を否定できないものか

営業秘密の保護の要件のうち、秘密性要件の解釈が厳格になされる判決が大阪地裁、大阪高裁で続いていることが指摘されている(注1)。

このような傾向は、事業者サイドには効率の悪い情報管理を求める結果になり、ことに中小の事業者には負担となる(注2)。とくに、中小・零細の企業間で、一種のフランチャイズ契約を結んだ場合のフランチャイザーには悩みのタネとなるだろう。

なぜ厳格に解することが適切なのか、一連の判決文の一般論からは読み取ることが出来ないように思う。もっとも、そうであるならば、判決の射程を限定的に解する余地もあるのであり、その視点から裁判例分析をすれば良いのかもしれない。

だが、反対に厳格に解釈しないことを理論的に正当化しきることもなかなかに難しいのではないか。

津幡笑講師は営業秘密の保護の根拠を成果開発のインセンティブ保護に求め、そこから、秘密情報の明示化が要請されるとした上で、「情報の利用者にとって秘密であることがわかること」を求めている(注3)。

しかし、成果開発のインセンティブ保護からだけでは、そもそも秘密性要件は不要なのであり、決定的な規範を導くことは難しいのではないか。秘密性要件は成果情報に触れうる者の情報利用の自由との調整原理と捉えるべきなのではないだろうか。

もっとも、仮に調整原理と理解しても、これまた決定的な結論は出ない。行為の悪性をもって基準とするか、あるいは、立法意思を根拠にせざるを得ないのかもしれない…。

(注1)ブログ周りでは、FJneo1994さんが以前から指摘されていた。
(注2)同旨、津幡笑「営業秘密における秘密管理性要件」知的財産法政策学研究14号(2007年)212頁。
(注3)なお、田村善之『不正競争法概説 第2版』(有斐閣、2003年)329頁も同様の結論をとられるが、これは行為の悪性を根拠にされているように読める。
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2007年10月02日

[不正競争]ヌーブラ事件の評価

西井志織「不競法2条1項3号該当行為に対する損害賠償請求の主体――ヌーブラ第1事件――大阪地判平成16・9・13」ジュリスト1314号(2007年)読書メモ

東京大学Dr.コース所属の若手研究者による論稿がジュリストに掲載されていた。取り扱っている事案は著名なものであるし、ある程度議論が出ているものであるが、非常に明快に整理がなされていた。

■論文の概要
まず、不正競争防止法2条1項3号の請求主体については、資本労力を投下して商品化した者に限られるとする考え方と、他のアクターも主体になることができると言う考え方に大きく分かれる。西井さんは後者の考え方の多くの背景には公正な競争秩序の維持を目的とする「摸倣の阻止」が根拠となっていると指摘され、その上で、本判決が「公正な競争秩序」維持のためにいたずらに請求主体が増えることは望ましくないと触れていることに言及されている(181頁)。
次に、本判決が請求主体として認めた「商品形態の独占について強い利害関係を有する」者の理解として、類似する同一部の判決を手がかりに、本来的な請求者である資本労力を投下して商品化した者からの「伝来的な」者(特許権の場合における独占的通常実施権者と同じ立場)をいうのではないか、とした上で、その具体的な判断基準に2つの可能性を検討されている。
1つ目として、本判決に続く判決に言う「開発者の独占的地位に基礎を有する」地位をもつ者、という基準を検討され、その場合、なぜその者が請求主体となりうるといえるかについて積極的な理由が無いと批判される(182頁)。
2つ目として、上記のように理解せず、独立した基準として考える場合を検討され、その場合、積極的な理由付けが無いと批判される。
また、仮に「伝来的な」者であるとするならば、特許権の場合においては「伝来的な」者は差止め請求権を有しないことを指摘し、解釈論としての整合性を問題視されている。
その上で、西井さんは、平成17年改正前の3号の理解と言う限定は付した上で、3号は資本労力を投下して商品化した者の保護規定と解されることから、その趣旨にそう理解をすべきとされ(つまり、資本労力を投下して商品化した者に限られるとする考え方を支持)、そのうえで、債権者代位権の可能性を行使すべき(つまり、方向としては、井上由里子「不正競争防止法上の請求権者--成果開発と成果活用の促進の観点から」日本工業所有権法学会年報29号(2005年)141頁以下に賛同)と述べられている。

■私見
なるほど!と正直なところ感じさせられた。

請求主体の判断基準を巡っては、そもそも3号の性質論によるところが大きい。私自身は、2条1項3号の請求主体については、宮脇准教授の説明(宮脇正晴「判批」判評567号37頁以下)が説得的と考えていたが、少なくとも平成17年以前の3号解釈論として、立法者が明確に示した性質論をなぜ無視できるかが説明しにくいところではある。
ただ、17年改正で「日本で最初に販売されてから」という行が足されたことにより、「投下資本回収の危険」を保護する性質に転化したようにも思われる…と未練は示しておきたい。

ともかくも丁寧な説明と、理論的な展開に、勉強させられるところが多々有る論稿である。今後のご活躍が期待できる若手研究者のお一人であろう。
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2007年07月12日

[不正競争][著作権]高部判事が指摘した今後の課題を読む(その2)

■高部眞規子「知的財産権訴訟 今後の課題(下)」NBL860号(2007年)41頁〜50頁読書メモ

□この論文の意義
営業秘密の保護が知的財産侵害訴訟に与えた影響をまとめ、それを具現化した制度の運用状況と課題に触れている。他方、著作権については、みなし侵害を巡る裁判例にも触れ、立法的解決の必要性を説くとともに、著作権事案に携わってきた判事としての本音を垣間見せている。
(ただし、(上)に比べると、議論の力の入れ方が若干穏やかなように感じる。私としては(上)が特に興味深かった。)

□この論文の概要

(1)営業秘密にかかる証拠の提出を巡る制度の創設と運用の実態
営業秘密にかかる証拠については、特許法等において、秘密保持命令および裁判の公開停止が可能となっている。これにより、文書提出命令と組み合わせても、秘密が損なわれることが防がれることとなる。
このような制度の組み合わせは評価しつつも、裁判の公開停止については憲法上の論点がないではないとし、検討点であることを示唆している。他方、現状では秘密保持命令および裁判の公開停止がほぼ活用されていないことを指摘し、当事者の利益にかなう場合にはこれらの制度を活用していく訴訟運営が必要であると述べられている(注1)。

(2)著作権訴訟の現状、とくに、みなし侵害(間接侵害)について
伝統的な著作物についての訴訟の一部で多大な手間がかかる訴訟があることに触れ(注2)、これらは原告の訴訟戦略に問題がある、と指摘している。
著作権のみなし侵害については、間接正犯型や著作権侵害を専らの目的とする機器・サービスについては立法的解決の必要性を説き、他方で、それ以外の関与者の責任については裁判規範による柔軟な解決をすべきと説かれている。

□この論文についての私見

(1)営業秘密の証拠利用について
営業秘密保持のための裁判の公開停止と、憲法上の問題については、面白い。憲法は全く専門外であるが考えたくなる。
(以下、素人考え。まともな法学をやっている人ごめんなさい)素人が(勢いで)思うに、裁判の公開は、民事訴訟においては当事者の公正性の担保制度としての性格が主ではないだろうか。ならば、当事者の合意がある(公正性について当事者が納得している)上に、営業秘密のとの利益衡量をすれば、憲法上の問題はないように思う。もっとも裁判の公開規定の性格を松井茂記先生のように国民の権利のような性格で構成するならば、別論となる。
(素人考え終わり)

(2)著作権のみなし侵害について
利用者と権利者のバランスに言及されているあたりが、深く知財訴訟に関わってこられ、理論的にきちんと探求された判決を書いてこられてた判事の心意気が現れている。一部の批判のように高部判事は偏った方ではない。
なお、みなし侵害訴訟で、当事者が過去の裁判例をきわめて深く研究していたことが「面白い」と評価されている。裁判官にとってもわくわくするような問題なのだろう。

(注1)もっとも、秘密保持命令については人証尋問が少ないことに鑑みると使われないのはやむを得ず、裁判の公開停止が適用されるような秘密へのアクセスは停止を求める側にも不都合があることを指摘されている。
(注2)たとえば〔法律書籍事件〕〔国語教科書準拠教材事件〕を判事は挙げている。
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2007年04月01日

[不正競争][著作権]Copyrights表示は品質等誤認表示か

大阪地判平成19年1月30日(平成17(ワ)第12138号)は、著作権が切れたいわゆるパブリックドメインにつき、(C)opyrightsという表示をつけることが不正競争防止法2条1項13号にいう、品質等誤認表示にあたるのではないか、といことが争われた事案である。

この裁判例は「不正競争防止法2条1項13号にいう品質」「確認の利益」について学生の勉強に良い材料となるように思う。

裁判所は、著作権法上の保護が存在すること、は13号に言う品質ではないとして、原告の請求を退けているが、他方、著作権法に基づく差止請求の不存在確認は認め、原告の商品を卸売りが買うのを避ける、という自体を防ぐ結論を導いている。

前者の点については、被告の主張が的を射ているように思うので、判決文を参照していただきたい。

この事件の面白さは、問題となった(C)opyrightsという表示が、会社名を表したロゴであったという点にもある。(※ちなみにCopyrights社のロゴは次のURLを参照。URL:http://www.copyrights.co.jp/home.aspx

直感的には原告が訴えたくなるのもうべなるかな、といった感じである。

※なお、この事件を知るきっかけとなったのは、FJneo1994さんの『企業法務戦士の雑感』2007年2月15日付の記事であった。いつも良質の情報をまとめられているFJneo1994さんには学ぶところばかりである。そして、恐れ多いのでトラックバックはできない(笑)
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2006年11月02日

[不正競争]市場地位権説を読んでみた

●満田重昭「不正競争防止法による知的財産権諸法補完の根拠」鴻常夫先生古稀記念『現代企業立法の軌跡と展望』(商事法務研究会、1995年)822頁〜読書メモ

1.この論文の意義
不正競争防止法と知的財産法の関係について、概念的な点から検討している。顧客獲得可能性という市場地位という無体の財産が不正競争防止法の保護法益であるとし、無体の財産を保護するという点で知的財産との連続があり、これを補う関係があると述べられているらしい。らしい、というのも伝統的なドイツ流の議論の仕方で、ちょっと読みづらくて…。何が言いたいんだろ〜と思い悩んだのは、きっとオイラの勉強が足りないのだろう。

2.この論文の概要
(1)問題意識

知的財産法は、排他的支配権を設定するものであるが、それは行為規範の典型的なものとしての設定であり、その点で不正競争防止法と同質性がある(824頁)。権利付与かそうでないかという違いをいたずらに強調する意味は無い。では、更に進んでどういう点で連続性があるか(または無いのか)を、不正競争防止法の理論的根拠を見ることにより検討する。
(2)不正競争防止法の理論的根拠
不正競争防止法の元となった、1925年ヘーグ会議での経緯に基づけば、「営業体の有する顧客吸引力」がその根拠であるとされる。顧客吸引力に裏付けられた顧客獲得可能性は無体財産として捉えることができるが、これは競業関係の中でのみ削がれるものではない。市場地位という権利を考えることは、問題を単に競争者間に押し留めない点で有益である。また、権利として観念することで、政治的・経済的自由の保護も意識される。
(3)顧客獲得可能性の保護
顧客獲得可能性の侵害行為に対しては、不正競争防止法に一般条項が無い現状で、利益考量による違法性認定を経て一般不法行為の問題とするべきである。

3.私見
市場地位権の論拠は、結局のところ、不正競争防止法の規定の仕方からの解釈、および、「母法」での経緯にあるのでは無いか、と思われた。なぜ、「市場地位権」を観念しなくてはならないのかという必然性については疑問を感じる。
この点については、田村教授が不正競争防止法をわざわざ私法として意識するための「権利」概念であり、少なくとも立法論としては自由に考えられる、との批判をされている(『競争法の思考形式』(有斐閣、1999年)5頁)(また、2005年11月10日の記事参照)。
ただ、その有用性は2点あるのではないか。今後、検討する余地があるように思われる。
・行為規範を利益衡量によって決する立場からは有用である可能性がある。市場地位という権利をどのように根拠付けるかによるが、仮に営業の自由の表れとして理解するのであれば、利益衡量の中で劣後しやすい単なる財産権以上の考慮がなされることになるように思われる。
・少なくとも不法行為の問題場面では、不法行為理論との接合が容易であると考えられる。
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2006年08月02日

[不正競争]形態模倣禁止についての田村教授の考え方

デッドコピー論を唱える田村教授が、不正競争防止法2条1項3号についての考えを若干ではあるが、触れている論考があったので、メモとして残す。

・2条1項3項の原則論は、模倣はいいが、デッドコピーはだめ
・営業の模倣は、先行者としての信用が蓄積されるからデッドコピーを禁じなくてもさほど害は無い。
「不正競争防止法に関する裁判例と法改正の動向」(第二東京弁護士会知的財産法研究会編『不正競争防止法の新論点』)

後者の点はホントかー?とも思う。この枠組みを不法行為の中で使っていくことは避けたほうがいいのではないか?今後研究を進めてみることとする。
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2006年07月02日

[不正競争]2条1項3号請求主体その2

事実上、営業の主体が交代し、別法人にその営業が引き継がれたばあいの請求主体の問題は考慮すべき点がある。
具体的には、一澤帆布の問題が挙げられよう。
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2006年06月14日

[不正競争]2条1項3号の保護法益

形態模倣禁止規定の保護法益については、論者により若干ニュアンスが違う。注意が必要である。

1:商品形態開発のインセンティブ
 →異論は無いと思われるが、意匠権の保護と重複する面(意匠権は創作的な形態の開発インセンティブ保護も法益としていると考えられる)があり、単独の論拠としては弱いのではないか?

2−(1):先行者の商品開発投資に基づく利益保護
 →「投資」を保護法益とすることとなる。デッドコピー規制の説明として説得性はあるが、先行者に限られるとするのはあまりに論拠1にこだわりすぎてないかというきらいがある。蓋し、バラエティー豊かな形態を開発し、他者へライセンスすることもビジネスとして成り立つモデルだからである。
 ⇒請求主体につき、先行者限定説に結びつく

2−(2):商品形態の投下資本の回収を自由競争の中で回収する利益の保護(宮脇説?)
 →「投資」を端的に保護法益とすることとなる。デッドコピーをなぜ禁止するかという点を考慮すれば、説得的な説明ということができよう。なお、宮脇説?としたのは、同号の請求主体に関する論文(宮脇正晴『判批』判例評論567号)からそう読み取れたよ、ということを意味する。
 ⇒請求主体につき、先行者限定説に結びつく

3:競争秩序(競争成果歪曲の防止)
 →渋谷先生の教科書を読むとそのようにお考えなのでは…と若造は思うのである。
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2006年06月07日

[不正競争]2条1項1号・2号の請求主体

●中山信弘「不正競争防止法上の保護を受ける地位の譲渡可能性」小野昌延先生還暦記念論文集『判例不正競業法』41頁(発明協会、1992年)読書メモ

1.この論文の意義
バター飴缶事件(札幌高裁決定昭和56年1月31日無体集13巻1号36頁)の判例評釈を中心として、不正競争防止法2条1項1号・2号の保護法益を明らかにし、その請求主体の地位の承継は営業譲渡を伴うの場合以外には認められえないとするものである。

2.この論文の概要(2条1項1号・2号の請求主体に関するものについて)
(1)両号の保護法益
2条1項1号・2号は、商品等表示を独立した財産権のように保護するものでなく、営業と一体となったグッドウィル(顧客吸引力)するものと考えられる。それゆえ、請求主体の地位の承継が認められるか否かは、営業譲渡を伴う場合と、そうでない場合を明確に分ける必要がある。
(2)場合わけ
(i)営業譲渡を伴う場合
グッドウィルの移転があるか否かが問題となるのであり、会社法上の手続きがとられたかは問題とすべきでないとする。すなわち、営業譲渡か否かについては解釈の余地が存するのである。
その上で、営業譲渡がある場合は請求主体の承継を認めるべきであるとする。なぜならば、企業の再編によって突然保護される地位が失われるのは不当だからである。
(ii)それ以外の場合
商号や商標権については権利変動について諸々の規制をかけている。他方、商品等表示につき自由な譲渡性を認めるのであれば、バランスを欠く。また保護法益を考慮しても、請求主体の地位の譲渡性を認めるべきでない。

3.私見
説得的な見解であり、賛成する。
注意を要するのは、2条1項1号・2号の請求主体の地位の譲渡性が否定されるのは、その保護法益が営業と一体となった顧客吸引力だからであり、3号などでは同じことが言えるわけではない点である。なお、3号の請求主体については、宮脇正晴「日本国内における独占的販売権を与えられた独占的販売権者が、不競法2条1 項3号による保護の主体となるとされた事例−ヌーブラT事件」判例評論567号199頁〜が詳しい。
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2006年05月02日

[不正競争防止法]営業秘密の認定における秘密管理性基準

営業秘密性の3要件
1:有用性
2:秘密管理性
3:非公知性
のうち、通常問題となるのは2である。

裁判例を検討すると、内部者の持ち出しが問題となったケースばかりであり、外部との関係で問題となったケースは少ない。
ただし、学説においても経済産業省の営業秘密管理指針においても、内部者か外部者かで営業秘密認定の基準は異なることが示唆されている。

この考えは、裁判例にも現れている。
名古屋地裁平成11年11月17日判決は
「本件情報が、(a)秘密として管理されているといえるかであるが、本件情報に関する原告の主張は、本件情報を知ることができない外部者がそれを取得したことを理由とするものではなく、本件情報を知る者がそれを漏らしたことを理由とするものであるから、本件情報の管理状況も、単に外部の者がそれを知ることができないような措置を講じていたというのでは不十分であり、本件情報に接している者がそれを漏らしてはならない秘密であると認識できるような措置を講じていたことが必要である。」
と述べ、裏返せば、外部者がそれを取得した場合には、単に知ることができない措置を講じているだけで十分との解釈ができる。

しかし、一方、ダスキン取締役会議事録事件判決では、外部者であっても文章から秘密管理性を認識できないといけないとも取れる判決が書かれている。

この基準は、もう少し精緻にする必要があろう。
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2006年03月27日

[不正競争]賄賂は少額ならOK?

不正競争防止法18条1項はおもしろい。刑法3条の範囲内である刑罰規定だ。
いや、なにがおもしろいかというと那須野太『不正競争防止法による知財防衛戦略』(日本経済新聞社、2005年)によると、これは外国公務員贈賄防止条約に基づき少額の賄賂はオッケーなそうなのだ。いわゆる途上国でみられる公務員による賄賂の要求は条約でもとめられなかったようだ。
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2006年02月06日

[不正競争]生命倫理に関わる治験結果と機密保持契約

2005年10月にユネスコが「生命倫理に関わる世界宣言」を採択した。ここには生命科学に関わる治験結果は人類の間で共有すべきことが原則として定められている。
もちろん、これは宣言に過ぎず、国内において法的効力を持つものではないが、公序規定を通じて関わってくる可能性もある。そうすると営業秘密との関係、機密保持契約との関係はどうなるのであろうか。以下、この点にわずかであるが検討を加えたい。
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企業内での情報取り扱いを例に挙げると、大きく3分できる。1つは管理された営業秘密。2つ目は、社外秘として取り扱われている情報。3つ目は公開情報である。

1つ目の営業秘密に当てはまる場合、これを公開せよというのはTRIPsで営業秘密保護をうたった意味がなくなるし、財産権保障の点から問題がある。

しかし、2つ目の点については問題となる場面が起こりうる。機密保持契約ではこの社外秘情報を対象とすることもありうるだろうが、これが人類共通の利益という理念に勝るか否か。社会的状況や、当該情報次第では秘密保持契約を破る場面があるのではないかと思う。

一方でアメリカがFTA(貿易自由化協定)締結の際、テストデータに対し保護を与えるよう求めているとのことである。ユネスコが求める人類全体の利益との調整は課題となろう。

→今後の課題
・アメリカが求めるテストデータ保護の内容は?
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2005年12月15日

[不正競争]タイプフェイスの保護

●宮脇正晴『不法行為法によるタイプフェイスの保護―ゴナ書体事件下級審判決
の示す要件論を中心に―』L&T No.22(2004年)読書メモ

1.この論文の意義
タイプフェイスのデッドコピーは不法行為に当たるとされたゴナ書体事件1審判
決を中心に、タイプフェイスの保護について論じているものである。保護の方策
について端的に論じており、法的検討の際に参考になるものと思われる。(とく
に成果冒用類型の不正競争行為について検討するときにも参考になる。)

2.この論文の要点
ゴナ書体事件1審判決は
(a)他の書体との対比において創作性があること
(b)不正競争の意図
(c)ほぼ全体にわたってそっくり模倣して制作、販売した
という要件を挙げている。
この要件を宮脇先生を分析されており、(a)は「商品の価値を高める競争」におい
てなされた投資の保護をあらわしていると考えられているようである。(b)につい
ては実際上機能した先例はないものの、元となる書体の販売後相当期間(たとえ
ば10年以上)経てからのデッドコピーにおいては不正競争の意図なしとして処理
できるという利点を挙げている。(c)についてはデッドコピーといっても完全なも
のでなくてもよいという点を強調している。

3.私見
要件(a)についての分析について賛同するものの、最終的に市場における多様性を
重視するかのような見解には疑問である。要は顧客吸引力を生じさせる差別化の
源泉に着目すべきと考える。
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2005年12月06日

[不正競争]知的財産権の行使と営業誹謗

知的財産権の侵害だー!(あるいは不正競争だ)として警告したところ、侵害の有無を争う裁判で侵害無しと判断された場合、それが不正競争防止法2条1項14号に該当するとして争訟化することがある。
具体的には、2パターンが代表的なものである。
1.販売者への警告
侵害(と考えられる)商品を販売している者に対し警告を送った場合、侵害がなければ、当該商品製造者への営業誹謗行為となりうる。
(図)

            Z
        (当該商品製造者)=権利侵害の第一義的な主体


  X →→→→→→→ Y
(権利者)   (当該商品販売者)

2.広告
侵害品である旨を広告する行為である。この代表例としてフレッドペリー事件(東京地裁平成13年10月25日判決)。

「いつ」のタイミングで「どのように」すれば営業誹謗となるかについては争いがあるようだ。
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