2008年03月27日

[特許]アメリカの中に先願主義へ転換を嫌がる声がある理由は何か?

米国の特許法改正作業は、まだまだ議論が続いているようである。最大の争点は、損害賠償額算定規定であるとはいえ、主要な争点の一つに先発明主義への転換があることは間違いない。

では、なぜアメリカの中に先願主義へ転換を嫌がる声が少なからずあるのだろうか?少なくともグローバルな展開をしている企業にとっては、他の主要国と制度が整合している方が有利であるように思う。個人発明家や大学にせよ、世界に潜在的ライセンシーがいる。彼らにとっても、同じような制度の方が望ましいのではないだろうか。

あるいは、先願主義に比べ先発明主義には明白に合理的な利点があるのだろうか。合理的な利点の有無を少し考えてみた(注1)。(私は米国特許制度に明るくないし、しかも世にある多くの先行研究に目を通せていないので下らないことを言っているかもしれない。その場合はご教示いただければ幸いである。)

■先発明主義は個人発明家、中小企業にとって公平な制度か?
先発明主義を擁護する見解は、先願主義への批判として、次の理由を挙げる(注2)。
 ○先願主義は出願のための資本・労力の投下を、発明の完成まであるいは完成直後に求めることになり、発明完成のための資本・労力を削ぐ。
 ○出願のための資本・労力は大企業ほど割きやすく、個人発明家・中小企業にとって不公平である。

確かに前者については否定の余地はない。しかし後者は抽象的に一般化できるのだろうか。実証が必要ではないだろうか。私も実証できている訳でないので非常に不毛な話になるが、次のような批判を思いつく。
 ○大企業よりも個人発明家・中小企業の方が、出願の是非判断を迅速に行うことができ、想起の出願準備をできる場合が少なくないのではないか
 ○特許代理人が一般化したいま、大企業と個人発明家・中小企業との間で出願のために割く資本・労力の差は「不公平」と言えるほど大きくないのではないか

また、後者については、現状のアメリカの制度は次の理由から個人発明家・中小企業にとって不利であるようにも思う。
 ○グレースピリオドがあるため、最低1年間権利関係が安定しない。これにより、特定の特許に依存した事業展開を行う場合、特許権を担保ないし収益源とした資金調達を行うことが、先願主義に比べ遅れることとなる。これは資本力に劣る個人発明家・中小企業にとって不利ではないか。(なお米国の制度では、出願後、第三者が当該発明に関し、特許権取得をする可能性がある。これは、日本や欧州の制度に比べ、事業化に対する大きなリスクと考えられる。そのようなリスクを負う個人発明家・中小企業が十分な資金調達ができるのだろうか。)

■誰が喜ぶのか?
現状の制度は、近時、個人発明家にとって有利に働いていないとの指摘もある(注3)。

他方で、大学を中心とする研究機関にとっては、研究成果を発表し、事業化のパートナーや応用研究のパートナーを募った後で、権利化の有無を判断できるというメリットが想定される。
米国では、大学からの研究成果の公表が多いとの指摘もある(注4)。このような研究成果の公表は、先発明主義、あるいは、グレースピリオドがあることに起因する合理的な行動なのかもしれない。

先発明主義に喜ぶのは大学であり、その大学が世界的に見て強いから、先発明主義、少なくともグレースピリオドを維持したい、というロジックがあれば面白い。この点は、今後注視したい。

(注1)これを考える材料にと思い、Suzanne Konradさんというシカゴ・ケント大の大学院生の論文The United States First-to-invent System: Economic Justifications for Maintaining the Status Quo, 82(3) Chicago-Kent L. Rev. 1629-1654 (2007) available at http://lawreview.kentlaw.edu/articles/82-3/Konrad%20Author%20Approved%20Edits(H)(P).pdf を読んだ。学生さんの論文とはいえ、先発明主義擁護の立場から、しかも経済学的分析ということで、我々が見落としている先発明主義の利点の発見に期待したが、失礼ながら粗末な内容であった。経済学的分析とはほど遠いものであったし、立論に根拠が無かった。せめてcitationに参考となるものはないかと願ったが、それも期待できなさそうである。これを拡大解釈することは望ましくないが、アメリカの先発明主義擁護の議論はそんなものなのだろうか、と思ってしまう。
(注2)id at 1634はこれを所与のものとしている。
(注3)米国上院公聴会でのGerald J. Mossinghoff氏の発言。吉田哲「米国の特許法改正における主要な論点と産業界の反応(中)」知財Awareness 2005年9月15日記事 http://chizai.nikkeibp.co.jp/chizai/gov/nara_yoshida20050915.htmlも参照。
(注4)日経産業新聞 2008年3月25日記事「オープン化が変える知財戦略」
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2008年01月09日

[特許][時事]秘密特許制度実現への本気度

昨年12月、本ブログ「[時事][特許]秘密特許制度の導入を検討しているらしい」で取り上げた秘密特許制度であるが、特許法を所管する上級官庁である経済産業省は本腰を入れていることが、NBLに寄せられた知的財産政策室長の論稿(注1)から窺えた。

論稿によると、技術情報流出対策が2008年度の知的財産政策の中心の一つであるとし、具体的な問題事例として、安全保障技術の流出事例が取り上げられていた。ここから上記のように読み取ったのであるが、もし間違っていたら恥ずかしい。(なお、平成20年度予算では特に記述されていない。お金がかかるものではないからかもしれないが。)

なお、秘密特許制度については、簡単に調べてみたところでも各国、異なる制度のようである。主には、「制限される内容は何か(とくに実施も制限されるか)」「異議を申し立てることができるか」「補償金を請求することができるか」が違いであると考えられる。

参考までに、いいかげんな調査結果を貼付ける。これは暫定版であるし、なぜ米、英、独との比較を選んだかと問われると、単に好みで、としか言えないような、いい加減な代物である。この点はご海容いただきたい。
secretpatent.jpg(出所:筆者作成。暫定版。)
(注1)中原裕彦「これからの知的財産法制の展望」NBL872号(2008年)37頁以下。

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2007年12月31日

[特許]通常実施権等の登録制度の改正の方向性

産構審知的財産政策部会特許制度小委員会通常実施権等登録制度ワーキンググループ報告書《経済産業省へリンク。PDF》が公表されている。以前から議論のあった(注1)、通常実施権の登録制度についての見直しについて具体的な法案の方向性が示されたものと言えよう。

今後の備忘として報告書の内容をまとめた(注2)。

■報告書要旨の整理
法改正の提案項目としては、
●出願段階における登録制度の創設
・出願段階における通常実施権・専用実施権のライセンスについて登録する制度を創設。
(特許を受ける権利者が破産した場合でもライセンシーを保護する制度とする。補正・分割があった場合においても引き続き効力を有する。出願の放棄・取り下げに当たっては登録されたライセンサーの承諾を要件とする。)
・特許を受ける権利の登録制度を創設。

●通常実施権等登録制度の見直し
・通常実施権・専用実施権の登録記載事項から、対価に関する事項を除外する(任意的記載事項としても扱わない)。
・通常実施権の登録記載事項の開示に当たっては、通常実施権者の氏名および権利の範囲については一定の利害関係人にのみ開示する。
(専用実施権の登録記載事項については全て開示する現行制度を維持。特許を受ける権利の登録についても同様に、通常実施権者の氏名・権利範囲は一定の利害関係人のみ開示し、専用実施権については全部開示。)
●サブライセンスの保護
・特許権者からのサブライセンスの授権に基づき、サブライセンシー=サブライセンサー間で成立した通常実施権(サブライセンス)の登録に当たって、特許権者=サブライセンサー間の許諾契約証書の提示を不要に。
(ただし、共同申請の原則は変わらない)
●登録の効力発生時の見直し
・登録申請受理時から効力が発生(現在は登録時)。
(ただし運用上、申請受付時に申請があった旨の登記、または、受付から登録までの期間中特許原簿の閲覧を禁止する、などを求めている)


今後の検討項目として残されたものとして、
●通常実施権登録制度の見直し
・独占的通常実施権である旨を任意的記載事項とする点。
・通常実施権の登録の単独申請を許容する点。
●サブライセンスの保護
・サブライセンシーを特定しない場合の、不特定のサブライセンシーの通常実施権の登録を許容する点。
・サブライセンスのかかる授権の特約の登録を任意的記載事項として許容する点。

■改正の方向性の影響として考えられるもの
(1)特許を受ける権利の登録制度の創設について

特許を受ける権利の登録制度が創設されることにより、権利が移転された場合には、譲渡人・譲受人の共同申請が必要なこととなる。手間が増えるわけであり、利用者にとってはつらい点であろう。報告書6頁が述べているように、特許を受ける権利の移転は年間20000件程度存在し、特許権の移転の約2倍であることに鑑みると、その影響は小さくない。とくにTLOには特許を受ける権利の移転を頻繁に活用しているとも聞く。影響が大きいのではないだろうか。反発も想定される。

他方、無権限の者が虚偽の譲渡証明書を偽造することで、特許を受ける権利を移転することはかなりの程度防ぐことができるようになる。これに伴って、冒認出願に基づく特許権の移転登録請求として重要な判決である〔生ゴミ処理装置事件最高裁判決〕(注3)はその意味を大きく失うことになるだろう(真の権利者出願後の無権限者による特許を受ける権利の移転が考えにくくなるためである)。

(2)ライセンス条件の内、対価を記載事項から外す点について
報告書33頁の脚注23で述べられているように、商標権のライセンスの対価の記録に関しては、商標法に関するシンガポール条約(注4)が対価の記録を禁止しているところである。従来、ライセンス対価の登録が必要であったことが、日本の同条約の批准の障害の一つとなっていたと考えられる(注5)が、本提案に沿った改正がなされると、批准に向けて前進するものと思われる(注6)。

■検討項目のうち今後も注目すべき点
(1)通常実施権の登録の単独申請の許容について

報告書33頁が指摘するように、特許法条約批准のためには、単独申請を導入する必要性が生じる。(特許法条約に基づく規則16(1)、17(1)、17(9)が単独登録を求めているためである)。特許制度の国際的ハーモナイゼーションへのニーズが高いならば、この点は近々に議論の俎上に再度上るのであろう。


(注1)本ブログ「[つぶやき][特許]速い!」(2007年11月4日記事)、「[特許]特許権の通常実施権登録制度見直し議論が期待できそう」(2007年9月22日記事)参照。
(注2)なんら考察が加えられておらず、単なるまとめ資料的価値しかなく恐縮だが…。
(注3)最判平成13年6月12日民集55巻4号793頁。
(注4)出願手続きの共通化に資する条約である。2006年3月27日採択。なお、日本は未批准。詳細は、特許庁総務部国際課「商標法に関するシンガポール条約の採択について」《特許庁へリンク》参照。
(注5)『知的財産推進計画2007』において、同条約批准に当たっての課題の検討が要対応事項として挙げられている。
(注6)なお、上記報告書は特許権に関するものであり、直接的には特許権の通常実施権の登録制度の変更に留まる。しかしながら、特許登録令45条の改正につながることが予想され、商標登録令10条が同条を準用していることから商標の通常実施権登録制度の変更にもつながるだろう。
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2007年11月25日

[特許]独占的通常実施権者による損害賠償請求権と、権利者による損害賠償請求権の関係について示した興味深い判例

大阪地判平成19年11月19日(平成18年(ワ)第6536号、平成18年(ワ)第12229号)判例集未登載

本判決は、独占的通常実施権者による損害賠償請求権と、権利者による損害賠償請求権の関係について興味深い解釈論を示していると思われるので紹介する(注1)。

1.事案の概要
(1)事実の概要
X1は爪切りに係る考案につき実用新案権(以下、本件実用新案権という)を有する者であり、X2はX1を代表者とする有限会社であり、本件実用新案権につき独占的通常実施権を有すると主張している。X1らは、Yが輸入するイ号物件が本件実用新案権を侵害するものであるとして、技術評価書を添えて警告を行ったところ、Yはイ号物件につき本件実用新案権の侵害を避けるべく改造をし、ロ号物件を製造した。
X1らはこれら一連の行為が本件実用新案権を侵害するとしてYらを相手取り、以下の請求を行った。

(2)原告の主な請求
X1、X2はイ号物件、ロ号物件双方が本件実用新案権の技術的範囲に属すると主張し、X1は、(請求1)本件実用新案権侵害による損害賠償請求(なお、実用新案法29条3項に基づき損害額を計算している)、(請求2)本件実用新案権侵害によるイ号物件の輸入差止、および、イ号物件・ロ号物件の販売差止・廃棄請求を行い、さらに、(請求3)X1らが取得したイ号物件の廃棄請求権の侵害または債務不履行に基づく損害賠償を求めた。
X2は、(請求1’)本件実用新案権に係る独占的通常実施権侵害による損害賠償請求(なお、実用新案法29条2項に基づき損害額を計算している)、(請求2’)本件実用新案権に係る独占的通常実施権侵害によるイ号物件の輸入差止、および、イ号物件・ロ号物件の販売差止・廃棄請求を行った。
なお、イ号物件が本件実用新案権を侵害していることはYも認めている。

2.判旨
裁判所は、ロ号物件につき検討し、本件実用新案権の技術的範囲に無いと認定した上で、Yはロ号物件への改造により侵害を回避したとして、(請求2)についてはイ号物件の輸入の差止について認め、それ以外は過剰な差止であると述べた。
(請求3)および(請求1)については以下のとおり判断した。

(1)(請求3)侵害品の改造行為は侵害品の廃棄請求権の侵害にあたるか「実用新案法27条1項…(中略)…の差止請求権は,所有権に基づく物権的請求権と同様,侵害行為やそのおそれが存するに連れて不断に発生し続け,侵害行為やそのおそれが消滅した場合に発生しなくなるものにすぎない(すなわち,差止請求権をある時点で取得し,それが存続するという性質のものではない。)。
そのため,侵害行為やそのおそれの存否は,この請求権の存否を確定すべき時(事実審の口頭弁論の終結の時)を標準として定められるべきものであり,その標準時点を離れて差止請求権の「取得」や「存続」は観念できず,したがって,「取得した権利」の「消滅」や「無になること」もやはり観念し得るものではない。そして,実用新案法27条2項が規定する侵害行為を組成した物の廃棄請求は,差止請求権の行使を実効あらしめるために,差止請求権に付随して認められるものであるから,廃棄の必要性についても,差止請求権と同様に事実審の口頭弁論の終結の時を標準として定められるべきものであって,その標準時点を離れて廃棄請求権の「取得」,「存続」も,取得した権利の「消滅」,「無になること」も観念し得るものではない。」

(2)(請求1)(請求1’)損害賠償、とくに独占的通常実施権者による損害賠償請求権と、権利者による損害賠償請求権の関係について警告後に行われたイ号物品の輸入分について、X1に対しては実用新案法29条3項に基づき、X2に対しては29条2項に基づき、それぞれ損害賠償が認められた。
「独占的通常実施権が設定されている場合には,…(中略)…,独占的通常実施権が無償で設定されていても,実用新案権者がなお実用新案法29条3項に基づく損害賠償を請求し得ることはこれを認めることができる。しかし,この場合に,独占的通常実施権者に同条2項の類推適用による損害賠償請求を認め,同時に実用新案権者にも同条3項による損害賠償請求を認めて,両請求権が単純に並立するものと解するときには,前記のような専用実施権が設定された場合以上の逸失利益を権利者側に認めることになり,均衡を失するものというべきである。また,同条2項による損害額の算定は,侵害者が実施行為を全く行わなかった場合を想定するものであるのに対し,同条3項による損害額の算定は,侵害者が実施行為を行ったことを前提とするものである点で,両規定は互いに両立しない状況を想定ないし前提しているのであるから,この点からも両請求権が単純に並立すると解することはできない。これらの点を踏まえると,独占的通常実施権者が有する同条2項の類推適用に基づく損害賠償請求権と実用新案権者が有する同条3項に基づく損害賠償請求権とは,重複する限度で連帯債権の関係に立つものと解するのが相当である。」
(なお、太字は筆者)

以上のように判断し、X1らの請求の一部を認容した。

3.若干の考察
(1)廃棄請求権の侵害について
妨害排除というものであること、クレーム外であれば妨害排除の必要が無いことに鑑みれば、当然の判断である。興味深い点は、おそらくこのように正面から述べた判決は少ないであろう点である。

(2)独占的通常実施権者による損害賠償請求権と、権利者による損害賠償請求権の関係について(a)これまでの裁判例
従来のものを見ると、管見の限り、権利者と独占的通常実施権者双方からの請求の場合は、独占的通常実施権者の損害額から権利者が受けるべき利益額を控除するものばかりである(注2)。また、明確に連帯債権であることを否定した事案も存在する(注3)。
本件のように連帯債権であると判示した例は見当たらなかった。

(b)私見
理論的には、損害の性質が異なり連帯債権関係にあるとすることには疑問を覚える。しかし、本件のように実質的に同一人と考えられる場合には、X2が強制執行手続きを行えば一度に全てが満足するという事実上の利点はある。理論上の問題も含めて研究したい点である。

4.雑感
判決文をお読みいただくと感じられると思うが、原告側の主張に雑さを感じてしまう(注X)。また、実際に認定された損害賠償額は11万円わずかに留まり、訴訟経済的にもまったく見合っていないものとなっている。

(注1)なお、恥ずかしながら手元の資料が不足しており、基礎的な先例・学説の分析も粗くしか出来ていない。それゆえ「思われる」にとどめている。
(注2)大阪地判平成3年5月27日知裁集23巻2号320頁。なお、当事者の主張自体が権利者の受けるべき額を控除した額の請求を行っており、これが認められたものとして東京地判平成17年3月1日判例時報1969号108頁。
(注3)東京地決昭和63年4月22日判例時報1274号117頁(盛岡一夫「判批」発明86巻3号(1989年))。
(注4)もっとも典型的に現れているのは次の箇所である(なお判決文に書かれているだけであるので、裁判官が誤って理解したという可能性も万に一つも無いわけではあるが)。Yがイ号物件を改造した行為を、<<第三者による>>X1のYに対する廃棄請求債権の侵害であると主張している。Y側が明確に指摘しているとおり、この場合Yは第三者に当たらない。初歩的な誤りをされているのはいかがなものか。
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2007年11月11日

[特許][時事]消尽理論の到達点と課題:キヤノンインクカートリッジ事件最高裁判決

■知財高裁ロジックを覆した最高裁判決に驚いた
先日、本ブログで「[時事]キャノンインクカートリッジ事件終結へ」(2007年11月2日記事)として、キヤノンインクカートリッジ事件上告審を取り上げたが、その段階では、最高裁は知財高裁の判断基準を踏襲するものと思い込んでいた。

当該記事で述べたように、知財高裁の役割は高度な事実認定を果たすことであるのは間違いない。とはいえ、法解釈についても事実上影響力が大きいのでは、と感じていたからである。

しかし、実際に判決(最判平成19年11月8日平成18年(受)第826号)が下って驚いた。
判決は次のように締めくくっていた。
原審の判断は,結論において正当

つまり、知財高裁のロジックについては、これを覆したのである。

■知財高裁ロジックとの違い
ご存知のように、原審の知財高裁平成18年1月31日判決(平成17(ネ)10021号)では、
(ア) 当該特許製品が製品としての本来の耐用期間を経過してその効用を終えた後に再使用又は再生利用がされた場合(以下「第1類型」という),
又は,
(イ) 当該特許製品につき第三者により特許製品中の特許発明の本質的部分を構成する部材の全部又は一部につき加工又は交換がされた場合(以下「第2類型」という)
には,特許権は消尽せず,特許権者は,当該特許製品について特許権に基づく権利行使をすることが許されるものと解するのが相当である。

との2類型を提示していたが、これに対して最高裁は、
特許権者等が我が国において譲渡した特許製品につき加工や部材の交換がされ,それにより当該特許製品と同一性を欠く特許製品が新たに製造されたものと認められるときは,特許権者は,その特許製品について,特許権を行使することが許されるというべきである。
そして,上記にいう特許製品の新たな製造に当たるかどうかについては,当該特許製品の属性,特許発明の内容,加工及び部材の交換の態様のほか,取引の実情等も総合考慮して判断するのが相当であり,当該特許製品の属性としては,製品の機能,構造及び材質,用途,耐用期間,使用態様が,加工及び部材の交換の態様としては,加工等がされた際の当該特許製品の状態,加工の内容及び程度,交換された部材の耐用期間,当該部材の特許製品中における技術的機能及び経済的価値が考慮の対象となるというべきである。

と述べ、第一類型と第二類型を融合させたような、従来見られなかった判断基準を示した。

従来見られなかったとはいえ、多くの議論を巻き起こした消尽理論の理論的な到達の一つといえる判決であることは間違いない。これまでの判例の中で示されていた理論の問題点を解消する論理構成となっている。

知財高裁ロジックが、製品を判断基準としていると理解できる第一類型と、クレームを判断基準としていると理解できる第二類型を並べたことで、理論的な「なぜ」を提供していたことに比べると、理論的な整合性が保たれている。

■最高裁ロジックの課題?
しかし、結局のところ、総合考慮に持ち込まれてしまったことには、予測可能性の点で課題があるように感じる。

原審との比較で読むと、第一類型に該当しても加工の内容いかんでは特許権が及ばないこととなるように思われる。また、第二類型については本質的部材の交換があっても取引の実情いかんでは特許権が及ばないことになるように読める(注1)。
(これらは特許権者に不利なように働くので、取引の安全を害する可能性が低い点でよいのかもしれないが。)

他方、読みようによっては、本質的部材の交換でなくても、取引の実情等をふまえ権利行使が認められる可能性もある。

いずれにせよ、判決の積み重ねを待たないことには基準がわからなくなった点には、もうちょっとがんばって精緻化してくれても良かったのに…というわがままな願いを覚えなくもない。

■参照すべき記事
なお、本判決に関しては、『企業法務戦士の雑感』のFJneo1994さんが「[企業法務][知財] 決着が付いた日。」(2007年11月8日)で詳細に分析され、コメントされている。

FJneo1994さんは、理論的に整理されている点で本最高裁判決を評価なさっている。私とは評価が異なっているが、学説上の議論も盛り上がることがあれば、面白い(注2)。

また、FJneo1994さんはキヤノン特許部隊のクレーム書き能力のすばらしさも指摘されている。私はクレーム書きには全く明るくないためその評価すらできないが、丸島儀一氏が紹介されているように同社の知的財産部自体の活発さは特筆すべきものと言えよう。

(注1)知財高裁は「特許製品中の特許発明の本質的部分を構成する部材の全部又は一部につき加工又は交換がされた場合であっても,当該製品の通常の使用形態,加えられた加工の程度や取引の実情等の事情により「生産」に該当しないものとして,特許権に基づく権利行使をすることが許されないこともあり得るという趣旨であれば,判断手法として是認することはできない。」として同様に批判を述べられている。しかし、それが均衡点である、と考えることもできるので、理論上クリティカルな批判ではないのかもしれない。
(注2)私の考えのようなしょぼい見解が一蹴されて終わりという可能性が高いが…。
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2007年11月04日

[つぶやき][特許]速い!

特許法の通常実施権等登録制度の改正の議論があっと言う間に進んでいる。
既に報道発表があったように、改正の方向性は固まっており、今月中にパブリックコメントが出される予定のようである(注1)。

■スピード感への感想
昨年、特定通常実施権登録制度が導入された際の審議で、包括ライセンスを保護する方向での改正が3回の審議で勧められたことに対し、委員の中山信弘教授から「ちょっと性急すぎる」との批判があがっていた。本件は、包括ライセンスのような法体系に大きく影響を与えるものではないし、知的財産研究所や学説上の議論もそれなりに深化しているものではあるが、やはり、半年足らずの審議で改正へ向かうと言うのには違和感が無いではない。

もちろん、迅速な法改正が必要であることは理解しているので、私の持っている違和感の根には、「だったら、なぜ今まで変えなかったんだ?」という思いがあるのかもしれない。客観的に見れば、迅速な議論をおこなっている特許庁のアクティブさが賞賛されるべきであるようにも思う。

■改正の方向性
配布資料と議事録からは、おおよその方向性として、以下の方向性が窺える。
[ライセンシー保護関係]
・通常実施権、専用実施権ともに対価に関する事項を登録事項から外す。
(なお、任意的登録事項にもしない。)
・通常実施権の登録において、その内容を証明する公正証書を添付した場合には、当事者の一方からのみの登記申請を認める。
・通常実施権の登録情報は、特定通常実施権登録制度と同様の段階的開示とする。
[その他]
・出願後の特許を受ける権利の移転は登録を効力発生要件とする。


このうち、通常実施権、専用実施権ともに対価に関する事項を登録事項から外し、しかも参考情報としての記載も認めない方向性であるようだが、これは、ライセンシーが新たなライセンサーと価格についての再交渉が必要となることを意味する。
通常実施権を登録していなかった者にとってはこれでいいかもしれないが、これまで通常実施権の登録制度を活用していた者にとっては困った事態であるように思う。

(注1)第3回通常実施権等登録制度ワーキンググループ 配布資料 資料8参照。
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2007年10月17日

[特許法]インド特許法の特徴を聴いてきた

知財研主催のシンポジウム「インドの知的財産制度と企業戦略」を聴いてきた。インドの知的財産制度の情報自体が乏しいので、貴重な機会である。

シンポジウムは、インド政府の知的財産制度への取り組みの紹介が中心であった。参加者から基礎的な質問が多く出されていたことを考えると、日本においてインドの知的財産制度への理解はまだまだ低いのだろう。

かくいう私もインドについては全く知らなかったので良い勉強になった。

■インドにおける知的財産制度の特徴
・1998年のパリ条約加盟以降、国際的なハーモナイゼーションを行うべく、法改正を実施。制度上の相違点は解消しつつ有る。
・相違点は、(1)伝統的知識・遺伝的資源の取扱い、(2)特許要件の違い、(3)プログラム特許の取り扱いの違いである。
・(1)遺伝的資源に基づく発明を特許出願する場合、出所を明示する義務がある。違反すると取り消し事由となる。
・(2)組み合わせ発明を中心として、高いレベルの進歩性(明白な効果)が特許法上求められてる。それゆえ、医薬品に関しては特許付与の機会が少ないと批判されている(注1)。
・(3)プログラム特許は、特許付与の対象として認められていない。プログラムにより特定の機能を実現する装置として、特許付与の対象になるかについては、2004年段階でこれを肯定する規則が定められたものの、ソフトウエア協会などの反対を受けて2005年に同規定が削除された。
・知的財産権の侵害に対しては、裁判所が独自に排除命令を出すことが可能…らしい。(憲法226条、227条に基づくようだ)。

■インドの知財制度に触れての感想
遺伝的資源の取り扱いについては、インドネシアと並んでこれらの保護に熱心な国らしい特徴である。
中国と異なり、エンフォース面で優れている、とのことであったが、日本の特許法と類似している(というよりはかなりの程度参照されたと思うのだが)中国特許法と異なり、インド特許法はある程度の独自性を保っている(注2)ことを鑑みれば、一長一短と言えよう。
進歩性についてはユニークであり、実際、特許登録件数は産業の規模に比べて少なめである。

(注1)スイスの製薬会社novartis社が、そのような基準はTRIPs協定に反すると主張して、登録査定を拒絶した審決に対し取消訴訟を提起したが、マドラス高裁はこれを棄却したようである(シンポジウムにおける山名准教授の紹介による)。
(注2)山名准教授はこれをイギリス法の伝統を引き継いでいるためと理解されていた。
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2007年09月22日

[特許]特許権の通常実施権登録制度見直し議論が期待できそう

■特定通常実施権登録制度創設に引き続き、通常実施権登録制度も見直しへ
今年の5月に産業活力再生特別措置法改正法により、包括ライセンスのライセンサー保護につながる特殊な通常実施権登録制度が導入された。

そこでの議論は、ほとんど利用されていない通常実施権登録制度そのものについての見直しを射程とするものではなかった。
(本ブログ「[特許]特許権の新たな通常実施権登録制度」(2007年7月18日)参照)

本質的な問題を解決していない、という問題意識があるのか、この7月から通常実施権登録制度についてのワーキングループが設けられた。産業構造審議会知的財産政策部会特許制度小委員会 通常実施権等登録制度ワーキンググループである。まだ議論が始まったばかりであるが、その動きは注目に値する(注1)。

■充実した議論への期待
通常実施権等登録制度ワーキングでは、事務局が緻密に整理した論点が挙げられている。(第1回ワーキングループ配布資料4「通常実施権等登録制度の見直しに係る論点について 」《特許庁へのリンク》。本腰を入れた議論が行われるであろうことを窺わせる。特許庁やるじゃん。

主には、
・必要的登録記載事項の見直し(とくに対価額の取り扱い)
・段階的開示制度の導入の検討
・通常実施権者からのサブライセンスの保護
・出願中の権利についての通常実施権
が議論の中心となるようだ。

2つ目の論点である段階的開示制度の議論は特定通常実施権登録制度が参考になるのかもしれない。

4つ目の論点である出願中の権利についての通常実施権については、補正との関係を含めて考える必要があるとされていた。私は、価値観のレベルではあるが、補正に関与したいというニーズは小さいのではないかと考えている。
委員の一人である茶園教授は、出願中の権利についての通常実施権は「補償金請求権を行使しない旨の宣言にすぎない側面」と、「特許の通常実施権の予約的側面」があると指摘されていた。前者であれば補正に関与する必要は無い。後者であっても、出願公開前は、多くの場合ライセンシーはコアとなる技術思想のみを把握しているものと推測される。

ともかくも先に挙げた特定通常実施権登録制度の議論において、拙速であるとの批判がなされていた(注2)ことを鑑みれば、今回のワーキングループでの議論は、腰の入った良い議論となることを期待したい。
(注1)特定通常実施権登録制度は経済産業省の知的財産政策室が担当しており、他方、こちらの議論は特許庁の制度改正審議室が担当している。一見すると縄張り争いの香りも感じてしまうが、注2に挙げたように違った理由があるのではないかと思っている。
(注2)もっとも、三角合併などによる不都合の懸念に対処することが急務であったことが予想される。
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2007年09月16日

[特許]専用実施権の数量的制限が分からない

■数量的制限を認めない見解への疑問
専用実施権には制限を課すことができるものの、数量的な制限を課すべきではないという見解がある(注1)。その理由は、同一内容の専用実施権を複数設定できることになり、専用実施権の排他性と言う趣旨を没却するからであると述べている。

もちろん、「排他性」を金科玉条にするならそのような考え方もうなずけるが、そもそもの出発点に疑問を感じる。「特許権者の排除すら可能にする」という点は、専用実施権制度においてそこまで大事なのか?

設定した範囲での「排他性」を確保し、実施権者に対して損害賠償請求権と差止請求権を与える制度にすぎないと理解するならば、数量制限も許されることになると考えられないだろうか。

■数量的制限を認めた場合の不都合
もっとも、数量的制限を認めた場合の不都合は2点ある。

1点目は、当該特許権を実施したい第三者が誰に許諾を求めたらよいか分からない点である。場合によっては、専用実施権者と結んだライセンスが無意味となり、二重払いのリスクを負うかもしれない。

ただし、これに対しては、数量的制限という専用実施を結んだ段階で他の者へのライセンスを原則許容しない意思表示だと理解でき、これは問題がない、と言う立場もありうる。決定的な不都合とはいえないのではないか。

2点目は、侵害者が存在した場合の、損害賠償額の算定方法である。
特許権者と専用実施権者が併存することで、侵害者の側がそれぞれにいくら払えば良いかわからない、という不都合が出てくる。もちろん、特許権共有の場面でも生じる問題に似ているが(注2)、この場面での特徴的な不都合は、持ち分の合意があり得ないため、損害額を按分するという考えが採りにくい点にある。これはかなり悩ましい。

以上のように考えると、数量的制限を課すことができないとする理解は合理性があると言えるのかもしれない。とはいえ、否定する理由には納得しがたい点もある。誰か解きほぐしていただけないものか。

(注1)中山信弘『工業所有権法(上) 第2版増補版』(弘文堂、2000年) 436頁。本稿は中山先生の見解にケチをつけてみようという、ドンキホーテ記事である。
(注2)特許第2委員会第2小委員会「権利行使から見た共有特許権に関わる問題」知財管理50巻(2000年)11号1659頁以下参照。
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2007年08月16日

[特許]米国における進歩性判断手法をめぐる重要判決(KSR事件連邦最高裁判決)についての覚書

相田義明「発明の進歩性・非自明性について――KSR米国連邦最高裁判決に接して」ジュリスト1339号(2007年)143頁以下を読んでみたのだが、米国の進歩性判断基準について全く知識が無いため、いまいちよく分からなかった。そこで、簡単ながら判決意義について調べてみたので、覚書を残すこととする。誤りがあればご指摘いただければ幸いである。

■KSR事件連邦最高裁判決(注1)の意義

進歩性判断にあたっては当業者の技術的常識を考慮すべきである、と述べた点が最大の意義である。

争点となったのは、連邦巡回裁判所や米国特許庁が実務基準として用いてきたTSMテストの是非であった。TSMテストとは、既存の発明の組合せからなる発明(以下、組合せ発明)の進歩性判断に当たっては、当該既存発明から組合せ発明に至る「直接の示唆(teaching)が既存発明に存在」「なんらかの示唆(suggestion)が既存発明に存在」「組合せ発明完成への積極的な動機づけ(motivation)が既存発明に存在」している場合(以下、「TSMテストを満たしている場合」という)には進歩性を否定する、というもの(のよう)である。
連邦巡回裁判所はTSMテストを満たしていない場合に進歩性を肯定する実務傾向があったようである。

今回示された判決のロジックは次のように集約できる。
連邦巡回裁判所が用いるTSMテストは、法的評価を加える余地が乏しい。進歩性の判断は、法的判断であるとの前例があることから、TSMテストを進歩性充足の唯一の判断基準として用いることは、進歩性判断を法的判断から単なる事実判断に貶めるものであり、適切でない。
以上のように述べた上で、当業者の技術的常識を考慮して進歩性を判断している。
裁判所としては、TSMテストを満たす場合以外にも当業者の技術的常識を考慮して進歩性を否定される場合がある、言いたかったのだろう。

KSR事件判決の与える影響としては、前掲の相田調査官が指摘されるところであるが、日本など諸外国の実務に近づくものであり、世界特許への障害を一つ減らすものと考えられる。

■私見:KSR事件判決自体のロジックは自然

あくまで以上のような理解が正しいならば、という前提で私見を。

『TSMテストを満たすときに進歩性が否定される』、ということに対しては直感的に異論はない。だが、その逆の命題である『TSMテストを満たさないものは進歩性が肯定される』ということが正しいかは慎重に考えなければならない。本件連邦最高裁は後者の『TSMテストを満たさないものは進歩性が肯定される』という命題が正しくない、と述べたものと思われる。

ロジックとしては自然なものであるように思う。念のため弁図にまとめてみた。
KSR.PNG

逆に言えば、なぜTSMテストを厳格に適用してきたのかが不思議でもある。

■Web上のKSR事件米国連邦最高裁判決に関する情報
KSR事件についてのWeb上での情報は多い。インパクトの大きさを物語っている。優れたブログ記事などもあるのだが、ここでは次の2つを紹介するに留める。

原判決のエッセンスは、ジェトロ(知財研の客員研究員も兼任されている)の澤井さんが書かれたニュースレターが分かりやすい。
参照:澤井智毅『ニューヨーク発 知財ニュース』2007年4月30日記事
http://www.jetro.go.jp/biz/world/n_america/us/ip/news/pdf/070430.pdf

KSR事件最高裁判決の日本語訳には、神奈川大学の奥邨先生(注2)が取り組まれている。
有益な情報を公表していただいて、本当にありがたい。
参照:奥邨弘司『Digital & Law研究室資料倉庫』
http://dandlarchive.sblo.jp/

(注1)KSR International Co. v. Teleflex Inc. et al., U.S., No.04-1350 (2007)
(注2)著作権の間接侵害や検索エンジンのキャッシュ問題などを研究されている、注目すべき若手研究者のお一人である。

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2007年07月18日

[特許]特許権の新たな通常実施権登録制度

平成19年5月11日に、産業活力再生特別措置法改正法案が公布された。
特許権の通常実施権を保護する新たな登録制度を盛り込んだものであり、知的財産権制度に与える影響は小さくない。1年6ヶ月以内に施行とのことであるから(注1)、遅くとも平成20年11月11日までに施行されることになる。
制度の概要と、審議過程から伺える課題を覚え書きとしてまとめてみた。

制度の概要
●特許番号以外の何らかの特定方法(典型的には、製品)により外縁が定められた複数の特許権を対象にしている(典型的には、包括クロスライセンスの対象となる特許権)
●特許庁に登録すると、対抗力が発生する
●登録内容の開示は3段階の構造。
 ○誰でも請求できる「一般開示」はライセンサーの名称、登録対象外特許程度の情報に限られる。
 ○ライセンサーの特許権を取得した者・特許権の差し押さえ債権者・破産管財人が請求できる「登録事項概要証明書」は「一般開示」に加え、ライセンシーの名前も明らかになる。
 ○これらの者は条件付きで「登録事項証明書」を請求でき、登録された特許の範囲が明らかになる。

審議過程から伺える課題
長らく議論となっていた、知的財産権ライセンス契約の保護について一歩踏み出した法律であり、長らく何らかの制度設計を求めていた産業界のうち情報関連機器メーカーの委員は、本改正法の成立を歓迎しているようであった。

もっとも議論それ自体の拙速感は否めず、わずか3回の審議会での検討で終わってしまっている(しかも、最初の1回は、登録制度とは異なる法定実施権制度(注2)を提言しており、実質的に2回の信義であった)。知的財産法学者の委員から、拙速感へ批判と、知的財産法体系への影響への懸念が出されたことはうなずける。

審議からは、特定方法にも問題があると指摘がなされている。特許流通の阻害要素になりかねない点は存在するかもしれない。

知的財産政策室によると、これでライセンス契約の保護についての検討が終わった訳ではないと考えているようなので、運用から問題点を洗っていくことになるものと思われる。

また、原告適格については議論が深められていないようなので、運用上は問題となることが想定される。

参考となる資料
参考となるのは現在のところ次の2つである。

波多野晴朗=石川仙太郎(経済産業省知的財産政策室)「産業活力特別措置法等の一部を改正する法律における特定通常実施権の登録制度について―ライセンシーの事業活動を保護する新たな登録制度の概要」NBL860号(2007年)18頁〜29頁
経済産業省 産業構造審議会 知的財産政策部会 流通・流動化小委員会(第6回〜第8回)議事録

私見
開示の構造はうまい。制度的にはややこしくなるが、段階的開示はライセンスの秘密を守りたい側と、取引相手の安心とのバランスをとるものとして評価したい。ただ、条文上からは3段階目がいまいちわかりにくいという印象であった。

(注1)平成19年法律第36号附則。
(注2)知的財産研究所の報告書に沿った制度と考えられる。
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2007年07月10日

[特許]高部判事が指摘した今後の課題を読む

知財の世界で、時代に影響を与えてきた判事の一人、高部判事がこの春、知財部を離れた。それを機に、知財に関わった13年間を振り返って、今後の課題を指摘する論稿が発表された。知財の10年史としても面白いものであるし、また、高部判事の考え方が伝わってくるものであったので紹介する。

なお、同論稿は(上)(下)で大きく2つに分かれているため、それに沿った形でまとめることとする。

■高部眞規子「知的財産権訴訟 今後の課題(上)」NBL859号(2007年)14頁〜22頁読書メモ

□この論文の意義

特許無効の抗弁とクレーム解釈に関して、特許権に関する最高裁判決3件(キルビー特許事件判決、ボールスプライン事件判決、リパーゼ事件判決)が有する意義について触れ、前者については、無効審判とのダブルトラックの問題について課題を指摘している。高部判事が指摘する問題意識は、他の裁判官にも共有される可能性があり、注目に値する。

□この論文の概要
(1)特許法104条の3における「明らか」要件読み込みの必要性
特許無効の抗弁がキルビー特許事件判決を受けて、平成16年改正で特許法104条の3が設けられたが、そこにはキルビー特許事件判決では存在した無効事由が「明らか」に存在していること、という要件が文言上は削除された。そのことにつき、高部判事は無効審判との判断齟齬の可能性にふれ、極力齟齬をなくすためには、104条の3においても「齟齬がおこらないようにする」という意味での「明らか」な無効を求める解釈をするべきと述べている。

(2)特許無効の抗弁の課題
特許無効の抗弁が導入されたことで、2点問題が起こったと高部判事は指摘する。

1点目は、ダブルトラックで有効性の審査がなされることとなった点である。
実質的な問題として、審理にかかる時間が伸び、また、当事者の負担が増えていることを指摘されている(注1)。
そこで、少なくとも、特許消滅後の無効審判請求については、損害賠償請求のみが問題となっているためであることから、侵害訴訟ないし確認訴訟における特許無効の抗弁で十分であることを指摘され(18頁)、*無効審判制度ではなく「職権審理が可能な特許異議制度」+「侵害訴訟における特許無効の抗弁」という制度設計が望ましいのではないか*(**間はかんぞうの読み取りであり、謝っている可能性あり)という制度論を述べられている。また、ダブルトラックから生まれる課題として、無効の抗弁の立証に失敗したにもかかわらず、なんらかの無効審判で無効が確定すると、再審が可能である点を取り上げている。高部判事の私見はかかる再審請求は信義にもとるとし、民事訴訟法338条但し書きの精神に則り、信義則に反するとして排斥すべき場合があるとも述べられている(19頁)。
参照:民事訴訟法338条(再審の事由)
次に掲げる事由がある場合には、確定した終局判決に対し、再審の訴えをもって、不服を申し立てることができる。ただし、当事者が控訴若しくは上告によりその事由を主張したとき、又はこれを知りながら主張しなかったときは、この限りでない。


2点目は、特許無効の抗弁により無効とされることを恐れて権利行使が抑制されている、という点をあげてる。特に近時、特許権侵害訴訟の認容率が低いため、訴訟を回避する傾向を生んでいることを懸念されている。

(3)クレーム解釈
キルビー特許事件判決により、公地技術除外説の意義は失われたとし、クレーム解釈はもっぱらリパーゼ事件判決の基準に基づくべきと述べられている。これにより、予測可能性が担保されることを利点として挙げている。

私見

ダブルトラック解消の制度設計論については興味深い点であった。
無効の抗弁による訴訟回避の弊害については、問題かもしれないが、ではそれをどう解消するかが触れられていなかった。この点をささやかながら考えてみると、無効の抗弁において進歩性欠如を理由とすることは極力謙抑的であるような運用に尽きるように思われる。新規性については判断が相違する可能性が他の事由に比べて高いと考えられる(というより、高そうに見えて、請求権者の権利行使の負のインセンティブになると考えられる)からである。
なお、現状では新規性欠如を理由として無効の抗弁を認容したものが多いが、これは世界公知を採っている以上やむを得ないものと思う。世界公知調査にはかなりの手間とコストがかかることから、よほどのことが無い限り調査はしない。そこでバランスがとれていることとするしかない。
(注1)負担を知りながら無効審判での審理を勧めるような侵害訴訟での訴訟指揮をする一部裁判体の傾向に批判的であることが窺えた。
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2007年07月04日

[特許]ひさしぶりの「ビジネスモデル」特許訴訟?

今朝の報道に次のようなものがあった。
「賃金前払いは特許侵害」都民銀、三菱東京UFJ銀を提訴
 銀行が顧客企業の従業員向けに、賃金の一部を給料日前に前払いするサービスをめぐり、特許を持つ東京都民銀行が、よく似たサービスを提供している三菱東京UFJ銀行を相手取って、損害賠償などを求める訴訟を東京地裁に起こしたことが、2日分かった。(asahi.com)

問題となった特許は、特許第3857279号(JP3857279)と推測される。最初の出願後、国内優先、分割出願等がなされているのでややこしいが、少なくとも一番古い部分は平成14年の出願として扱われることとなる。

具体的な発明はIPDLをご覧頂きたいが、ざっと見たところ、「給料を日払い計算して、任意の日に支払いを許可し、残金は定められた給料日に振り込む銀行用システム」であるようだ。

形式的にはソフトウエア特許だが、実質的にはビジネスモデル特許と言えるものではないだろうか。当初話題になったが下火になったビジネスモデル特許を巡る訴訟が提起されたならば、なかなか興味深い。

ただ、私が発明の概要を理解した限りでは、平成14年当時に果たして進歩性があるのか疑問である。少なくとも世界で誰かがやっているのではないか、という気がする。あっさり無効原因ありとされるかもしれない。
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2007年06月28日

[特許]独占的通常実施権者から侵害者に対する損害賠償請求における損害額の算定についての覚え書き

(2007/06/29修正)
特許権の通常実施権者からの損害賠償・差止請求の議論について、この間の学会報告に受けて、ちょっと考えてみた。すると、損害額算定についてよくわからないところがあるので、覚え書き程度に整理をしてみたい。読者諸兄に私の不明な点をご指摘いただければ幸いである。

独占的通常実施権者が第三者である侵害者に対して損害賠償請求を行う場合に、考えられる法的構成は2つ。1つは独占的地位と言う債権侵害に基づく構成。もう1つは、債権者代位構成である。

さて、それぞれの場合の損害額算定について、疑問のある場合がある。
問題となるポイントは次の3点だと思われる。

損害額の計算規定が使えるかどうか、がまず問題となる(注1)。
また、計算規定の適用条文を巡っても議論があろう。
最後に、特許権者も損害賠償請求をした場合、どのように調整するかが問題となる。場合によっては、通常実施権者と特許権者双方が独自に損害賠償債権を持ち、事後的に見ると、侵害者は102条1項から3項のうち最大額となる計算結果にもとづき特許権者一人に支払う損害額よりも、より多い損害賠償額を課されることがあり得る。もちろん、102条4項が認めるように、1項ないし3項までの計算額を超えてもかまわないわけで、それが直ちに不当とはいえないが、たまたまアクターが多かったから額が増えるというのは、どこかしっくりこない(注2)。

以下、債権侵害構成と、債権者代位権構成で分けて述べる。

1.債権侵害構成

(1)特許法102条は適用可能か?
債権侵害構成の場合には、計算規定が使えるというには、理論的に障害があるように思える。条文上は「特許権」の侵害における損害の計算をしているのであり、「独占的地位」という債権の侵害について、文言上からは適用は困難であるように思う。

ここで、仮に適用が認められないとすると、損害額は原則独占的通常実施権者が立証することになるが、これはなかなか困難であろう(注3)。民事訴訟法248条の活用場面といえるかもしれない。もっとも、それは通常実施権だからだ仕方ないのだ、といわれればそれまでのことである。

他方、双方とも特許権に基づく「独占性」という利益が概されているのであるから、共通の性質を持つということで適用ないし類推を認めることもできるかもしれない。少なくとも、完全独占的通常実施権であれば特許権の同視しうる性質を持つのであり、102条の適用または類推に違和感は少ないように思う(注4)。

(2)102条1項ないし3項いずれの適用が可能か?
仮に計算規定が使えるとして、その根拠は「非侵害利益の共通の性質」に求めるのではないか、と(1)で触れた。すると、「独占性に基づく利益の侵害」と同視しうる規定しか適用できないのではないか、という疑問がわく。

すなわち、102条2項は「特許権の侵害について特別に定めた規定」と理解する立場(注5)からすると、2項の損害は「独占性の侵害」以上の損害を認めるものであるといえ、債権侵害構成において適用することはふさわしくない可能性があるのである。

もっとも、このような考え方は裁判例がとるところではないようなので、実務的な問題からは遠い。

(3)特許権者も損害賠償請求をした場合について
完全独占的通常実施権者が存在する場合には、特許権者はロイヤリティ分しか請求できない、と考えることが自然であろう。完全独占的通常実施権者からの損害賠償請求額は、専用実施権のときと同じく(注6)ロイヤリティ分を控除されるべきなので、トータルとしてバランスはとれている。

問題は完全独占的通常実施権でなく、単なる独占的通常実施権の場合で、この場合、それぞれ別個に計算を認めると額が大きくなり、不当と評価される余地もある。不当であるとして解消を目指すならば、特許権者と按分する方法もあるが、共有関係に無いので、そもそも持ち分を考慮している訳も無く、その按分方法の決定が困難である。あるいは、無理にでも1/2づつと決定するのかもしれないが、これはきわめて難しい問題である(私の力では結論を出すことができない)。

2.債権者代位構成の場合

(1)特許法102条は適用可能か?
特許権者の損害賠償請求権を代位しているので、102条を用いることは問題が無いと思われる。

(2)102条1項ないし3項いずれの適用が可能か?
問題はどの項が使えるかで、特許権者が実施していないような場合、1項、2項が使えるのかが怪しい。判例では、特許権者が実施していない場合は3項しか用いることができない、という傾向があると指摘される(注7)。

裁判例の傾向に沿う限り、特許権者が実施していない場合は、独占的通常実施権者は3項に基づく損害額、すなわち、ライセンス料相当額の賠償にしか預かることができない。やはりこれも仕方ないといわれればそうかもしれないが、特許権としては実施しているのであり、どこか釈然としない。

(3)特許権者も損害賠償請求をした場合について
悩ましいのは、特許権者からの損害賠償請求との兼ね合いである。代位行使構成では、独占的通常実施権者からの請求が先にあった場合は権利行使は不可能となる。そこで特許権者が独占性通常実施権者の訴訟に参加するとして、その利益の配分はどうするのだろうか?共有関係に無いので、そもそも持ち分を考慮している訳も無く、その按分方法の決定が困難である。先程1(3)で述べたように、無理にでも1/2づつと決定するのかもしれない。

小括

以上のところを見ると、損害賠償額算定に当たっては、債権者代位構成の方が、トラブルは少なそうである(だからといって理論的に有意ということにはつながらないと思うが)。わかったのはそれくらい。なぜかもやもやが残ってしまう。

(注1)判例では、完全独占的通常実施権に計算規定の適用を認めたものがあるようだ。大阪高判昭和61年6月20日など。
(注2)特許権の共有のときにも生じる問題である。もっとも、別個の損害が観念できるのだから、やむを得ないという開き直りもあり得る。
(注3)これは無体の財産侵害に共通することであり、それゆえ、知的財産権制度には計算規定が設けられている。
(注4)あるいは前掲(注1)の判例は、完全独占的通常実施権限りの判決と読むべきのようにも思われる。
(注5)田村善之『知的財産権と損害賠償 第2版』(弘文堂、2004年)など。
(注6)中山信弘『工業所有権法(上) 第2版増補版』(弘文堂、2000年) 346頁。
(注7)牧野利秋・飯村敏明編『新・裁判実務体系4 知的財産関係訴訟法』〔高松宏之〕(青林書院・2001年)307頁。当然批判もある。田村・前掲(注5)230頁以下参照。
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2007年06月05日

[特許][時事]特許出願制度の国際ハーモナイゼーション…に何度触れたことだろう

6月3日付け読売新聞によると、Heiligendammで開かれているG8サミットの合意文書に、
「特許の審査制度を共通化」を中心とした「各国の特許制度の統一を目指す方針が盛り込まれる」
ことになったようだ。

どの点を共通化するのがわからないのだが、拒絶理由通知や補正時期の共通かに進むのであれば画期的である。この点は、より詳細な報道を待たなくてはいけない。
(参考:G8公式サイト http://www.g-8.de/Webs/G8/EN/Homepage/home.html

G8とは別に、日米欧三極は相互承認制度の検討、出願書類様式の統一を進めているところであるようだ。出願書類の様式統一だけでも出願実務上は手間が翻訳だけになるし、特許情報を利用する側も、明細書を読むことが少し楽になる。これは、大きな前進では無いだろうか。(もっとも、特許調査しかしたことの無い筆者には、出願の苦労はわかっておらず憶測にすぎないのだが)。

もっとも、相互承認制度の難点は、言語の違いであり、日本が若干の不利を受ける可能性もある。長期的な視野に立てば、理工学学生に対する技術英語等主要な外国語の教育をさらに深めていくことも手だろう。同様にイノベーティブな発明が日本で盛んに行われるようになれば、少なからず諸外国が日本語を学ぶインセンティブになる。高等教育改革の議論では、この点の意識が欲しい(注1)。

(注1)筆者はドライな人間なので、倫理観や教養は国が力を入れるものでなく、大学が勝手にやれば良いと思っている。教養教育の大事さも直感的に感じるが、その効用がいまいち見えないので、重視するかしないかは社会に任せるべきだ、というのが浅はかながらの考えである。むしろ、外部性の存在が比較的見えやすい、技術外国語教育やイノベーション促進政策を真剣に検討して欲しい、と願っている。
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2007年05月24日

[特許]侵害組成物、侵害供用施設の引き渡し請求について考えてみた

特許法100条2項は、侵害組成物や侵害供用施設の除去/廃棄請求を認めている。

古典的、かつ、些末な論点ではあるが、除去/廃棄ではなく、引き渡しが求められるか、というのは、学説が分かれている。占有の引き渡しも認められると述べるのは、吉藤幸朔『特許法概説 第12版』(有斐閣、1997年)474頁。他方、認められないと述べるのは、中山信弘『工業所有権法 上 第2版補訂版』(弘文堂、2000年)332頁である。

ここで、「占有の引き渡し」がどこまでを意味するのかは判然としない。2通り解釈できる。
まず、単に占有だけを引き渡し、処分方針について特許権者が決定することができる、という趣旨だとする。ならば、廃棄したことにして、こそっと売却するということができる。ちょっと後ろめたい。
次に、所有権の移転までも意味するとする。すると、権利者は堂々と換価できる。

つまり、非合法にしろ合法にしろ、権利者にすれば損害賠償ではとれなかった利得を得ることができる。

立法的には懲罰的損害賠償の方法の一つとして考えられないことも無い。問題もあるだろうが、オプションとしては興味深い。

この思いつきは中山先生の教科書を読んでいてわいてきた。改めて読んでみて、中山先生の教科書はすばらしい。
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2007年05月16日

[特許]キャノン・インクカートリッジ事件伊藤評釈の批判的読書メモ

●伊藤隆史「特許権の消尽理論と競争法政策――キャノン・インクカートリッジ事件――知財高判平成18・1・31」ジュリスト1334号(2007年)頁番号確認忘れ 読書メモ

独占禁止法と知的財産法の交錯領域を研究されている伊藤講師が、あの著名な事件をあつかっていたので読んでみた。競争法に興味を持たれているだけあって、判決で傍論として触れている、インクカートリッジを比較的高く設定するビジネスモデルについて言及されていた。だが、理論的に2点疑問を感じるところがあり、既に著されている評釈に比べると見劣りする印象も抱いてしまった(注1)。

本判例評釈の概要

伊藤講師はインクカートリッジ事件の控訴審と第一審の違いは、「消尽アプローチ」をとったか、「生産アプローチ」をとったかが決定的に作用した結果だと述べている。本判決は消尽アプローチにおいて2類型があるという解釈論を示したものと評価しながらも、当てはめにおいて不適切だったと批判される。
また、その後の経緯として、ICにより非純正品を排除する同社の姿勢が公正取引委員会の調査対象になった事実を挙げ、競争法上問題のあるビジネスモデルであるとし、そのような場合に特許権行使を許容する「消尽アプローチ」は問題であると指摘されている。

私見

独占禁止法と知的財産法の交錯領域を研究されている伊藤講師が、あの著名な事件をあつかっていたので読んでみた。競争法に興味を持たれているだけあって、判決で傍論として触れている、インクカートリッジを比較的高く設定するビジネスモデルについて言及されていた。だが、理論的に2点疑問を感じるところがあり、既に著されている評釈に比べると見劣りする印象も抱いてしまった(注1)。

本件が第1審と判断が分かれた理由付けに第1の疑問がある。まず、「生産アプローチ」を採らなかったと評価することができるのだろうか?「生産」という言葉をどう定義するかにかかってきてしまうが、「効用終了後」は「生産」行為が観念される、ということを述べている判決と理解すれば、生産アプローチと言えなくもない。

そもそも、「消尽アプローチ」「生産アプローチ」の区分は、一定時期の裁判例のぶれを説明するための説明変数であり、理論的な大枠にすぎないのではなかろうか。原審と判断が分かれた決定的な理由というにははばかられるように思う。吉田先生が指摘されるように(注2)、裁判例の流れは、たとえば「生産だから」「消尽したから」というようなドグマティックな議論を展開しているのでなく、どういう場合に特許権の効力を認めるべきか慎重に衡量している。今回もその衡量の基準が示されたものと評価するべきだろう。また、主要な技術的思想について事実認定の違いが第1審と結論を違える最大の要因という感触も否めない。

第2の疑問点は、競争法との交錯点である。たしかに、直感的にはビジネスモデルとして問題は感じるし、あるいは独占禁止法上の問題となる可能性もある。しかし、そのような現象を生み出すからといって、消尽理論上の問題があるとは言えない。消尽理論は特許権の目的に立ち返って効力範囲を解釈する理論である。特許法の目的においても、深いところでは競争秩序維持の精神はあると思うが、一義的には独占禁止法秩序とは別の法秩序であろう。特許法上で独占禁止法上の考慮をするならば権利濫用として処理することになろう。伊藤評釈には論理飛躍がある。この点は改められた方がよいように思う(注3)。

伊藤講師は知的財産研究所で、技術標準化における知的財産権、とくに特許声明書の効果についての研究をされていた。このテーマを選ばれるあたりに、きわめて鋭い嗅覚を持っていることが窺われる。それだけに、この論文には物足りなく思う。もっとも、本業の競争法分野でなかったことが大きく影響したのだろう。今後、標準化におけるホールドアップ問題などで理論的貢献をなさることを願っている(注4)。
(注1)本号のジュリストには若手研究者の知財がらみの判例評釈が2つあったのだが、インクカートリッジと鉄人28号であり、いずれも評釈が出尽くした、という感じすら受ける物であった。厳しいことを言えば、すでに開拓されたフィールドなら、いっそういかに理論的貢献をするかが問われると思われる。
(注2)吉田広志「判評」判例時報1909号(2006年)188頁。
(注3)なお、独占禁止法違反行為に対する民事的アクションに対しては制約が多い(損害賠償請求権行使、差し止め請求権行使の場面での制約)に鑑みれば、軽々に権利濫用が認められるべきでなかろう。
(注4)中規模の企業のサラリーマンとなった今、ジュリストは数少ない法学論文の源泉である。ついつい期待をしてしまうので、我が身の程も思わず、酷評をしてしまった感はある。
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2007年05月06日

[特許]審決取消訴訟は固有必要的共同訴訟か、共有者の一人に原告適格を認めるか?――経済的合理性からのアプローチの練習として――

問題の所在

特許法、商標法上の著名な論点として、審決取消訴訟において共有に係る特許権の共有者の一人に原告適格を認めるか、否かというものがある。民事訴訟法理論と関わるものであり、難しく、私にはきちんと考えることもできないというのが正直なところである。
ところで、この論点については立法的解決が必要、との指摘がある。そこで、法理論的なことはさておき、立法論としての合理性を検討してみる。具体的には、共有者の一人に原告適格を認めることが合理的がどうか、というアプローチで、へたくそながら若干の分析を試みる(注1)。

分析の方法

分析の便宜上、今回のモデルの対象とするのは、無効審判を請求され、これが認められた場合とする。(表記の上で楽だ、という理由で、無効理由審判請求者をR(Requester)、特許権者のうち審決取消訴訟を提起したい=権利を維持したい者をPc(Committed Patentee)、権利維持について態度を決めかねている者をPs(Swing Patentee)とする。)。

では、その上で共有者の一人に原告適格を認める制度を採るか採らないかで分けて考える。

分析

(1)共有者の一人に原告適格を認めない場合(固有必要的共同訴訟と解する場合)
まず、審決取消訴訟への対応について事前に契約が無かったと仮定する。
その場合、Rの合理的行動としては、権利侵害となった場合に払わなくてはならない額(主にライセンス料相当額)に至らない額を用いて、Psのうち誰か1人を翻意(要は買収)させればよいこととなる。
他方、Pcにとっては、Ps全員に対して、Pcが特許権から受ける利益に至らない額を分配してでも、Psの参加を促すこととなる。
Pcが特許権から受ける利益額/Psの人数 < Rが権利侵害のなった場合に払わなくてはならない額/1人

となった場合、常に審決取消訴訟に至ることができず、Pcはその利益を失うこととなる。
例えば権利者が多い場合などが典型であろう。

そこで、Pcにとっては事前に審決取消訴訟に参加することを契約で結んでおく必要が生じる(注2)。
問題はその契約に係る取引費用である。少なくとも取り消し訴訟への参加は名を連ねるだけでよいから訴訟参加を強制されることによって負担するコストは無い。また、共有権者が不明と言うことも事前段階ではまず無い。よって、事前契約を結ぶことを誘導することは、不合理であるとはいえないように思う。

ただし、共有権者の行方が知れないなど、事前の契約が無意味に帰する場合には、Pcの利益損失は回避できない。
この場合には、(1)の考えを貫徹することは特許権を共有する負のインセンティブとなってしまう。

(2)共有者の一人に原告適格を認める場合
この場合、Psが仮に特許権を消滅させても良いと考えている場合でも、たった1人のPcの存在のために意に反して特許権を存続させざるを得ないと言う、「抽象的な」コストが発生する。また、特許登録料や審決取消訴訟定期に係る費用負担の分配(注3)の仕方次第であるが、Psは特許登録料、審決取消訴訟費用という負担を負う可能性も出てくる。これは場合によってはPsに損失が生じさせる可能性も示唆する。
現実的にはそれほど大きい額ではなく数百万程度であろうが、事前に予測不可能な額であり、特許権を共有する負のインセンティブとなろう。

結論

以上を見る限り、原則、事前契約を誘引する固有必要的共同訴訟の考え方を採りつつ、例外的に保存行為を認めることが合理性があるように思われる。
共有に係る特許権が、企業間共同研究や産学連携の場面で活用されていることにかんがみて、政策的判断として、共有にすることを極力阻害させない、という価値判断を行うのであれば、この考え方は支持されるのではないだろうか。
(注1)ただし、このアプローチはまだ勉強途中。練習としてやってみているだけなので、間違っていたら教えていただきたい…。思い切り間違っている気がしてならないが。
(注2)このような契約が公序良俗に反し無効、というならば別であるが、おそらくそのようなことはなかろう。仮に機会主義的にPsが訴訟に参加しない場合は、形成訴訟を提起することになる。(…ふと気が付いたのだが、形成訴訟を起こしている間に審決取消訴訟の出訴期間が過ぎてしまう?対応策ってないのだろうか。仮に無いならば、Pcに生じる不利益を防ぐ手がないこととなり、(2)と解する方に合理性があると言えるように思う。)
(注3)保存行為と解釈されると、審決取消訴訟の費用は持分に応じて負担することとなろう。

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2007年05月05日

[特許法]馴れ合いによる審判という再審事由がよくわからない

大学の環境から離れてしまうと、途端に当たり前の情報から遠ざかってしまう。つくづく、大学の情報(ITの意味に限らず)環境の豊富さを痛感する次第である。

さて、今回疑問に思ったのは特許法172条の規定。
第百七十二条  審判の請求人及び被請求人が共謀して第三者の権利又は利益を害する目的をもつて審決をさせたときは、その第三者は、その確定審決に対し再審を請求することができる。

同条は特許法に定める唯一の独自の再審事由である。わからないのは、この場合にいう「第三者」の具体的な例だ。

そこで審判ごとに分けて考えてみた。

(1)馴れ合いで行われたのが拒絶査定不服審判に対する審決である場合
これは審判官との馴れ合いと言うことになり、まず想像できない事態だが、仮にあったとしよう。
ここで言う第三者とは誰か?おそらく、当該技術を利用し、また、利用しようとしている者となる。無効審判請求人適格をめぐって議論される「利害を有する者」と同義になろう。かなりの程度ぼやけて実はほぼ誰でも、といえるかもしれない。

(2)馴れ合いで行われたのが特許無効審判に対する審決である場合
馴れ合い自体が想像しにくい。一事不再理効を利用して、特定の請求理由を証明する証拠での審理を塞ぐために敢えて馴合って負けた場合ぐらいだろうか?
この場合、ここで言う第三者も、(1)と同じく、当該技術を利用し、また、利用しようとしている者となろう。第三者という言葉で絞りきれていない感じを受ける。

(3)馴れ合いで行われたのが訂正審判に対する審決である場合
これは拒絶査定不服審判と同じになろう。よって割愛。

(4)馴れ合いで行われたのが延長登録無効審判に対する審決である場合
これは(2)と同じタイプとなろう。よって割愛。

(5)馴れ合いで行われたのが訂正無効審判に対する審決である場合
これも(2)と同じタイプではないかと思われる。

すると管見では第三者と敢えて書く意味が分からない。読者の方でご存知であれば教えて欲しい…。

もっとも、このようなことは逐条解説や、『詳解 特許法』を読めば載っているのかもしれない。不勉強がそもそもの要因であるし、冒頭に書いた情報の無さに転嫁するのは恥ずかしいことであるが、まあ、恥を敢えてさらして、勉強意欲につなげてみた。
posted by かんぞう at 23:49| Comment(0) | TrackBack(0) | ☆特許 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2007年02月11日

[特許]台湾特許事情その2:特許権侵害≠刑事罰

表面的な比較法を行ったとき、最も目立つのが、台湾の特許法に「刑事罰」が無い点である。
台湾特許法《Intellectual Property Office of Republic of Chinaへのリンク》を見ていただくと一目瞭然だと思うのだが、Penalty条項が無い。台湾の特許事務所TIPLOのニューズレターによると、特許権侵害については2001年に刑事罰規定が削除されたようだ。

重罰化の日本とは真逆なのである。
今回インタビューしたところによると、刑事罰を無くした理由は、
・侵害の判定が困難な場合が多く、刑事罰を与えるにはためらわれる

・従来、民事責任追及をするより刑事責任追及に丸投げする権利者が多く、行政資源の浪費に繋がっていた
ところにあるらしい。

後者は、同じ起訴便宜主義を採っているのに、日本では考えられないことである。まず特許権侵害では起訴されないし、捜査もされないからである。運用の違いとは面白い。
posted by かんぞう at 23:53| Comment(0) | TrackBack(0) | ☆特許 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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