2009年05月24日

[特許]欧州特許の国内移行にあたって移行費用は障壁となるか

Dietmar Harhoff, Karin Hoisl, Bettina Reichl and Bruno van Pottelesberghe de la Potterie, Patent Validation at the Country Level -The Role of Fees and Translation costs, Munich School of Management discussion paper, 2008 読書メモ

■概要
欧州特許庁への出願を各国で国内出願に移行するにあたって、どのような要因がどの国で国内移行を行うかを決定しているのかを計量分析した論文。
統計的な分析によると、主たる要因は、国の人口とGDP、それから欧州特許条約への加盟期間である。対象国の経済上の特徴よりは、これらのマクロ的な要因が大きく影響している。従たる要因は、移行費用であった。翻訳費用は移行費用を含むモデルの分析では要因として表れなかったものの、そもそも翻訳費用を正確に収集しきれていないため、要因でないとは言いきれない。

■私見
翻訳のコストを抑えるために2008年5月に発行されたLondon Protocolの効果を予測するための研究であったと思われるが、顕著な効果が現れることが期待されない、ということが結論なのだろう。
主たる要因として出された人口・GDP・欧州特許条約への加盟期間については、いずれも大国(ドイツ、英国、フランス、イタリア)の影響であると思われる。裏返せば、十分な市場性がある国に限定した出願がなされていることの現れであるのかもしれない。
posted by かんぞう at 22:09| Comment(0) | TrackBack(0) | ☆特許 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

[特許]RCLIP国際知財戦略セミナー「日本企業と特許訴訟:フォーラムショッピングによる攻撃的特許戦略」聴講メモ

2009年5月9日に開催された上記のセミナーは、特許訴訟の裁判所ごとの特許権者勝率を国により具体的に比較ができる、大変興味深い内容となっていた。詳細はRCLIPの機関誌に掲載されるはずなので省く。勉強となったポイントを以下に雑多に挙げる。

■勉強になった点
□国内でのフォーラムショッピングに関して

・英国、日本では侵害裁判所がほぼ限られておりフォーラムショッピングは重要でない。他方、米国、ドイツ、中国ではフォーラムショッピングの余地があり、とりわけ、米・中では重要。
・米国でフォーラムショッピングが有効となっている理由の一つが、(上記のように)陪審員の存在(たとえば、フロリダでは高齢者が多いために、製薬企業の特許権に対して否定的な意見をとりがちとのことである)。同じ法体系をとる英国では特許訴訟で陪審員制をとっていないことには留意。この他の理由として、裁判所の独自ルールの存在も挙げられる。
・米国の中で人気No.1であるテキサス東部地裁は陪審員がUSPTOの判断に親和的であることが、特許権者勝訴率の向上の一要因(注1)。
・中国での侵害訴訟は、北京、上海よりも、江蘇省で行った方が特許権者の勝訴率が高く、統計上は、中国人よりも外国人の特許権者の勝訴率が高い。
□特許侵害訴訟について
・米国、英国ともディスクロージャーの存在により、審理や訴訟費用が高額化しがち。(英国では原・被告双方の費用負担のもと、中立な専門家が裁判官の補助人として加わるため、さらに高額)
・ドイツでは和解率が低い(50%程度)。

■私見:中国でのフォーラムショッピング
このセミナーに参加して興味深かったことの1つが中国でフォーラムショッピングが有効であることが統計によって示されたことだった。
これに加えて、中国人に比べ外国人の特許権者の敗訴率が高くないことが示されたことも有益であった。中国の民事訴訟には独自の訴訟手続が存在し、外国企業にはハードルが高いことは指摘されているが、それを乗り越えさえすれば、先行きは明るいのだろう(もちろん、ハードルが高い故に、外国企業からの特許侵害訴訟では確実に勝てる案件のみが法廷に持ち込まれている可能性は捨てきれないが)(注2)。

■私見:日本のフォーラムショッピング

日本の現状を報告された村田真一弁護士は、東京(東京地裁、知財高裁)と大阪(大阪地裁、大阪高裁)の比較をし、近年、やや東京が有利になっていることを指摘されていたが、本当は裁判官ごとに見た方が良いのだろう。もちろん、村田弁護士はそのお立場上そんなことは口がさけても言えないのだろうけれど…。

なお、朝日新聞の記事では次のように指摘されている。これは日本の特許侵害訴訟での特許権勝率が低くないことを指摘するものだが、「ある一人の裁判長の場合」というくだりがついつい気になってしまう(笑)。
東京地裁に四つある知的財産権専門部のうち、ある一人の裁判長の場合、08年の統計では原告勝訴率は14%。ところが和解する場合に、「仮に判決を出すとするとどちらが勝ちか」という裁判長の胸の内を双方に示すケースも含めると、原告に有利な解決の率は46%に跳ね上がる。ある特許弁護士は「最初から当然負けを覚悟しているような訴訟を除けば実質勝訴率は7〜8割ではないか」という。この裁判長の平均審理期間は11カ月で、和解する場合は大体7〜8カ月で胸の内を示すという。結論がわかるのも早いから、米国まで行く必要もない。


(注1)このほかに、主張に時間制限が設けられていることが、朝日新聞の記事で指摘されていた(朝日新聞グローブ15号(2009年5月11日)「特許バトルロイヤル」)。
(注2)恥ずかしいことだが、最近、知的財産制度をよくご存じない方が中国・韓国たたきに知的財産関係の紛争を叩き道具として用いていることが散見される。例えば、特許侵害訴訟についても、日本企業が不当に差別されている、などといって煽っている情報があった。個別の事案ではそういうこともあるのかもしれない。しかし、それは当事者でなければわからないことだ。ここで挙げたような情報を押さえたうえで批判されているならともかく、直観的な(あるいは根拠も無く)批判をされていると、恥ずかしくて仕方ない。他国を批判するならば、国によって実体的な制度も訴訟法も違うこと、当事者の戦略が影響していることなど、十分に加味して行わうべきだ。そうでなければ、自身の無知をさらし、ひいては我が国を貶めることになる。私は日本を大切にしているが故に、そのような煽りは嫌悪している。
posted by かんぞう at 17:44| Comment(0) | TrackBack(0) | ☆特許 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年04月14日

[特許]医療行為を特許保護しない日本の制度は「遅れている」?

手術・投薬方法を特許付与対象とすることで政府で検討されていることが去る3月17日に報道された(注1)。

医療行為に関する発明について「産業上の利用可能性」がないとして特許保護を与えない現状の運用には、疑問の声もあるところであったし(注2)、また、医療関連産業振興のためには特許保護が望ましい、との意見も少なくないところである。

そのような意見には傾聴すべきところがある。

もちろん、このような問題意識は、これまで多々、議論が積み重ねられてきたところである(注3)。しかし、踏み込んだ結論は今まで出されていなかった。そのための期待感の裏返しなのか、医療行為に関する特許保護が手厚い米国との差異や、2006年、欧州では欧州特許庁審決を受けて治療方法に関する特許保護が認められるようになったこととの差を捉えて、日本の制度が「遅れている」と捉える意見が一部である。これに、私は疑問を感じる。

本当に遅れているのだろうか?

少なくとも米国との大きな差としては社会保険制度の違いが存在する。

医療行為に関する発明について特許保護を与えた場合(当然ながら、医師による医療行為は免責される制度設計となるであろうから(注4)、当該部分でのライセンス料は問題としない)、当該行為を支援する機器にライセンス料が上乗せされることとなる。そのような超過利潤の一部は、我が国では社会保険制度による診療報酬償還制度や税金によって賄われる。

欧州においても手厚い社会保険制度が存在するが、欧州連合で発言力の多いドイツ、フランスでは、公的負担の中でも保険料による部分が大きい。それ故、国の財政へ強く影響することは考えにくい(もっとも、イギリスなど国の負担が圧倒的に大きい国もあるため、欧州全体で同じことは言えない)。

我が国に目を向けると、社会保険に関する国の財政上の負担が課題となっている。医療行為に関する発明に対する特許付与に積極的になれない理由は、ここにもあるのではないか(注5)。

(注1)日本経済新聞2009年3月17日夕刊(東京版)
(注2)「外科手術の光学的表示方法事件」東京高判平成14年4月11日では、裁判所は「医療行為に係る技術についても「産業上利用することのできる発明」に該当するものとして特許性を認めるべきであり、法解釈上、これを除外すべき理由を見いだすことは出来ない、とする立場には、傾聴に値するものがある」と述べている。
(注3)霞ヶ関内部での議論としては、平成14年度の産業構造審議会知的財産政策部会特許制度小委員会医療行為WGなど。
(注4)医療行為に関する発明に対し特許保護を与える場合、医師の行為が免責される条項を付加することはほぼコンセンサスがあると考える。その一例として、上述の裁判例「外科手術の光学的表示方法事件」においても、現在の特許法上の運用を肯定する理由として、医師の行為が免責される条項が無いことを指摘していることが挙げられる。
(注5)「産業構造審議会知的財産政策部会特許制度小委員会医療行為WG第1回議事録」〔澤委員発言〕では、社会保障制度により賄われていることへの注意喚起がなされている。
posted by かんぞう at 23:26| Comment(0) | TrackBack(0) | ☆特許 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年04月09日

[特許][時事]「特許が危ない」を見て

一つ前の記事は、NHKの2009年4月8日23:30〜放送「時論公論 特許制度が危ない・知財高裁の課題」が放送される前に書き出して、途中で完成させたものなのだが、番組の最後で興味深い指摘がなされていて、しまった、さっきの記事に変な注釈なんかいれるんじゃなかったと思った。

同番組では知財高裁の目玉の一つである専門委員において産業界の人材が十分に活用されていないことを指摘していた。その理由として法務省側は「利害関係者を含んでしまうことを懸念している」ようだ。

そうだとすれば非常にもったいないし、政策目的に叶っておらず問題であると言えるかもしれない。もちろん、現実には、知的財産実務に習熟していて専門委員も務められるようなベテラン…となると、大手企業関係者に限られてしまうから仕方ないのだよ、という声もあるかもしれないが…(注1)。

(注1)ただし、そういうベテランが本当に「利害」に動かされるかは不明。私の感覚では(感覚で恐縮だが)特許屋さんの世界のベテランの方々はやたら気骨があって、技術重視で、所属した組織の利害よりは、技術分野の利害に興味をお持ちであるイメージがある(笑)。
posted by かんぞう at 00:12| Comment(0) | TrackBack(0) | ☆特許 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年04月08日

[特許]ダブルトラックの解消の方向性によっては可能なこと…かも

課題と見られていた(注1)特許侵害訴訟での無効抗弁と、無効審判のダブルトラックについて、解消の方向で検討されているようだ。

特許庁の無効審判制度の制限と、裁判所の判断への一本化
(日本経済新聞2009年4月5日朝刊)

具体的な方向性はわからないが(注2)、上記の新聞報道を見る限り、侵害訴訟が提起された場合には裁判所での判断に一本化されるのだろう。

そうすると、特許権を無効にする判断の場面においては、当事者での主張立証が尽くされることが期待できるようになる(ただし、純粋に無効審判の場面は除かれるが…)。

そうだとすると、こういう制度をとることは出来ないだろうか?

■進歩性判断に言う「公知技術」に当業者の事情を加味する方向はどうか、という提案
進歩性の判断にあたっては、新規性判断に用いた「公知技術」(先行技術文献)が元となる。つまり、公然知られたことが求められ、特定の者への開示では公知技術とされない。

しかし、技術分野が細分化するいま、当業者が限られている場合も存在する。そのような場合に、技術の安全性を確かめるためなど、技術的な情報交換を行う場面で開示された技術に基づいて特許出願が行われてしまうことはフェアとは言えないように思う。

そうすると、今までの基準では「公知」とは言えないが、当業者の中では知られていると評価しても良い技術は「公知技術」と扱うことも手ではないだろうか。

これを特許庁の審査/審判のみにゆだねることは行政のコストを増大させるが、当事者が主張を尽くす場面を経るのではあれば、考慮しうる選択肢となるように思われる。

■先行技術を当業者の事情を加味して限定する方向はどうか、という(突飛な?)提案
他方で、無効とする方向に進みすぎることは特許制度を機能させなくする可能性もある。だとすれば、以下のような「アメ」はどうだろうか?

日本においては特許権が侵害訴訟で無効と判断されやすく、使いにくいという声もある(注2)。
もしかすると、何らかの余事が考慮されたり、あるいは、当事者の主張立証の問題もあるのかもしれないが、侵害とされた者が命運をかけて世界中の先行技術文献を渉猟することは少なくとも要因の一つであろう。

情報の国際的なアーカイブ化が進んでいる現状において、先行技術文献を探すことはかつてに比べ容易になっている。新規性の判断において世界公知を、進歩性の判断において「最高の知識を有していること」を求めることは本当に妥当なのだろうか。

理念としては十分理解できるが、これまでは必ずしも世界すべての先行技術文献に触れることができていなかったために、調和があったのではないか。

そうであるならば、新規性の基準とする先行技術文献において当業者が通常接することができたか、などといった事情や、進歩性判断の先行技術について当業者の事情を加味してみてはどうだろうか。

前者については、審査の負担が増え、また、人類の知識増大に寄与している訳ではないので、制度の目的に反するかもしれないが、後者については考慮の余地があるようにも思う。

もちろん情報化が進んだのだから、やむを得ないという価値判断も十分にあり得る(注3)。

(注1)高部眞規子「知的財産権訴訟 今後の課題(上)」NBL859号(2007年)14頁〜22頁。なお、同論稿については本ブログ2007年7月10日記事「[特許]高部判事が指摘した今後の課題を読む」参照。
(注2)日本経済新聞2009年1月12日「法務インサイド」。NHK総合 2009年4月8日23:30放送「時論公論 特許が危ない 知財高裁5年目の課題」。
(注3)その点では、一概に「知的財産高等裁判所の課題だ」というのは早計ではないだろうか…とも思う。(と、NHKの上記番組を見ながら書いてみた)。
posted by かんぞう at 23:58| Comment(0) | TrackBack(0) | ☆特許 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年03月15日

[特許]欧州の特許制度改革の背景を考えてみた

国・地域により、それぞれの実情を反映して制度が検討される。裏返していうと、検討内容を見ると、その背後にある関心が透けて見えることとなる。

このような視点で、欧州の特許制度改革の議論を眺めていると面白かった。覚書としてまとめてみた。

■欧州における特許制度改革の方法性(注1)
欧州委員会から特許制度改革に関するコミュニケーションペーパーが2007年以降、主なもので2つ出されている(1つは知的財産制度全般に関するものであるが…)。
2007年4月には、「Enhancing the patent system in Europe」《EUへのリンク》(注2)が出され、以下の3点が主な論点になっている。
・共同体内での特許訴訟の裁判管轄
・特許審査の質向上
・中小企業による知的財産取得・活用支援

2008年7月には、「An Industrial Property Rights Strategy for Europe」《EUへのリンク》(注3)が出され、以下の点が論点となっている。
・特許審査の質向上
・未利用特許の活用促進
・実用新案制度の効果測定
・知的財産と標準(とくにICT分野)の相互の関係の分析
・中小企業による知的財産取得・活用支援
・共同体内での特許訴訟の裁判管轄
・模倣対策

■考えられる背景
□中小企業が注目される理由

まず、いずれも中小企業が重要なキーワードとなっていることが分かる。これは、欧州の製造業に占める中小企業の割合が少なくないこと(注4)が挙げられる。おそらく、このような問題意識が先頭に出るのは、中小企業の中で知的財産権の活用が進んでいないのだろう。

ただし、中小企業といえども自社の研究開発の成果(とりわけ中小企業であればコアとなる成果は限られているはずである)を守ることへのインセンティブは乏しくないであろうから、いったい何が知的財産活用を妨げているのかは気になる。

1つは、欧州全域で知的財産権を守る仕組み(または運用)が整合的でなくコストがかかるということにあるだろう(貿易障壁がない分、欧州全域で保護をしないと実効性が無いことがその背景にある)。
だからこそ、2007年のコミュニケーションペーパーでは裁判管轄の整合性が議論の対象になっているものと思われる。

ただ、経営規模があまりに小さく、そもそも出願のコストに耐えられないという状況でないかどうかも気になる。税制が中小企業(とりわけ零細企業)にやさしく、また、中小企業支援策が充実しすぎていると、短期的には、成果を守るという観点からは経営規模の十分でない中小企業が多数存在することになり、競争力の観点からは効率的でない結果を生んでしまう。そのような状況でないのかどうか、読み取るに当っては注意が必要だろう。

□標準が明示されている理由

欧州の中で、貿易障壁になりえてしまうものとして特に懸念されていた1つが、各国でそれぞれ標準化されていた規格(とくに情報通信分野)である。欧州規格に対して行われた特許権行使により特定の地域の利害が優先されて、規格が域内全体としては望ましくないものになることが懸念されているのかもしれない。

特にコミュニケーションペーパーが挙げる情報通信分野は特許の藪が生じやすい。規格に含まれる多数の特許権のうち、たった1つの特許権の行使が、規格全体にダメージを与えることが懸念される。議論の俎上にのぼることはうなずける。実際、情報通信分野の欧州規格を担当しているCEN、CENELEC、ETSIに注目すると、これらの団体(とくにETSI)では知的財産権ポリシーが十分に議論されているようであり(注4)、高い関心がもたれていることがうかがえる。

日本では、同じく特許の藪が生じやすい電機分野に強みがあることを考えると、標準と特許の議論を深めておくことが適切だろう。

(注1)なお、著作権については「Copyright in the Knowledge Economy」として2008年にコミュニケーションペーパーが公表されている。
(注2)日本語訳は、田上麻衣子(訳)「資料 欧州における特許制度の強化」特許研究44号(2007年)。
(注3)日本語に翻訳された概要がJETROデュッセルドルフセンターより発表されている。>こちら《JETROへのリンク》を参照。
(注4)NEDO「NEDO海外レポート 科学技術および競争力に関する主要統計報告書2008から」(2009年)
(注5)「知財と標準化国際シンポジウム」(経済産業省・総務省・社団法人経済団体連合会主催、2008年12月9日開催)〔Michael Frohlich発言〕。
posted by かんぞう at 13:56| Comment(0) | TrackBack(0) | ☆特許 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年02月24日

[特許][時事]米国連邦最高裁判所Rambus事件につきFTCの上告を却下

標準化策定にあたって必須特許に係る特許出願を行っていることを明かさず、爾後、特許権行使を行ったことが反トラスト法に抵触するとFTCが判断をしたことを巡って争われていた事案で、2009年2月23日、米国連邦最高裁判所は、FTC側の上告を却下した(コメントが出ていないだけで棄却なのかもしれないが…)。
New York Times(2009年2月24日記事)
The agency asked the Supreme Court to review a ruling by the United States Court of Appeals for the District of Columbia, which had found last April that the agency had erred in concluding Rambus had acted to gain a monopoly. The Supreme Court denied the appeal without comment.

最高裁判所がコメントを示していないため、詳細がわからないが、原審であるコロンビア特別区巡回控訴裁判所の判決(注1)では、Rambus社が不当に市場独占力を獲得した証拠が十分に示されていないとされており、その判断が維持されたと評価するべきなのだろう。

そうだとすれば、証拠が不十分である、という理由でのFTC側の敗訴であるので、標準化活動で必須特許を秘匿することが競争法に反するものではない、との判断と評価することは出来ない。ただし、どちらになるかわからない、との状況に戻ってしまった以上、標準化団体においては、知的財産ポリシーやその運用に注意する必要がある。

(注1)Rambus v. FTC,522 F.3d 456 (D.C. Cir. 2008)
posted by かんぞう at 23:00| Comment(0) | TrackBack(0) | ☆特許 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年02月22日

[特許][時事]License of Rightは中小企業にメリットのある制度か?

本ブログ記事「[時事][特許]2009年の特許法改正の方向」(2009年1月5日)で取り上げたが、本年1月に日経1面を飾った話題のうち、License of Right制度導入の方向性が固まってきているようだ。具体的には「特許料を半額」にするところがポイントなのだろう。
(NIKKEI NET 2009年2月20日記事より一部引用)
政府は、第三者への開放を条件に企業が登録した場合の特許料を従来の半額にする方向で検討する。特許の開放をあらかじめ明らかにして中小・ベンチャー企業や研究者などが使いやすい仕組みにするのが狙い。特許が未使用のまま放置される事態を改善する効果も期待できる。

■制度導入にあたっては誤ったメッセージにならないよう配慮は必要
もっとも、具体的な方向性は特許庁に設けられた特許制度研究会(注1)での審議で決まってくるはずなので、この通りになるかはわからないことに注意がいる。とくに、慎重な考慮を求めていると考えられる発言も見られている。具体的には、同研究会の議事録(特許庁の責任で作成したもの)(注2)によると、
差止めを行わないと宣言すれば特許の登録料金を安くするというものである。裏を返すと、この制度の下では登録料金をきちんと払っていれば必ず差止めができるということにならないか。

との発言がある。これは論理的には疑問がある(注3)が、そのようなメッセージを伝えかねないという懸念は(やや杞憂のきらいはあるものの)共有できる。同時に差止請求権の権利濫用となる場合や、あるいは、競争法の介入がありうる場面を検討しておくことが必要だろう。

■制度のメリットは報道の通りか?
ただし、この制度は日経新聞が言うように「中小・ベンチャー」に使いやすい仕組みなのであろうか。

研究開発に特化した企業や、開発力が優れており自己実施能力が十分でない企業は、特許を開放し、ライセンス収入で収益を得るという道があることは間違いない。しかし、開放意思を明確にし、それが法で担保されると、排他性という武器を失うことになるため、交渉力は後退するだろう。

中小・ベンチャーは一般的には交渉力が十分でないことが多い。技術の占有可能性が高い分野でない限りは、節約した特許料以上に、交渉力の後退により失うものが多いかもしれない。

メリットが生じるのは、中小・ベンチャーが技術標準に採用されうる特許を保有しており、開放意思を明確にすることで、他の標準参加者が当該企業の資金難(等による特許の移転)を気にする必要がなくなり、その結果、標準の中に採用され、薄く広くではあるがライセンス収入を得る、という場合であろう。
もっとも、第一義的な利益は、標準の参加者や、標準技術を利用する消費者に生じるように思う(それはそれで十分に望ましい制度であると私は思う)。

■検討すべき点
もちろん、これまでの議論ではライセンス交渉が妥結しなかった場合の取り扱いが明確でない(注4)。交渉が破綻した場合に差止請求が認められるようであれば、交渉力が後退することは無い。この点は今後検討されるのだろう。
ただし、そのように解すると、ライセンス料を不当とする争訟が起きるようになってしまう。どちらが良いとするかは価値判断だろう。

なお、ここでの「開放意思」が誰に対する開放かについては、論点として検討すべき余地があると考えている。このことは別の機会で述べたい。

(余談ではあるが、本制度は2003年から「導入を検討する」とされてきたテーマである。ようやく…といった印象はあるが、このような制度を導入している国でもさほど使われていない、というような話もあるので、まぁ、過剰な期待はするべきではないのだろう。)

(注1)審議記録は特許庁ウェブサイトに掲載されている。
(注2)特許庁特許制度研究会第1回議事録要旨。
(注3)「差止請求を行わない→登録料を安くする」との命題の対偶をとればそうなるのだろうか、所与の命題が「常に差止請求を行わない→登録料を安くする」と捉えればそうとは言えない。
posted by かんぞう at 01:41| Comment(0) | TrackBack(0) | ☆特許 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年10月22日

[特許]侵害に対して102条の推定規定を使うか、逸失利益でがんばるか

スザンヌ・スコッチマー(著)=青木玲子&安藤至大(訳)『知財創出 イノベーションとインセンティブ』(日本評論社、2008年)を読んでいたら、大変面白い分析があった。同分析は日本の方制度についてのものでなかったので、応用してみた。「そんなのわかりきったことじゃない」と笑われてしまうかもしれないけれど、覚え書きのためにまとめてみる。

■特許権者が特許権を実施している場合にどのように損害賠償を求めることが賠償額を最大化できるか
さて、特許権侵害があって、特許権者も実施している状況で、侵害者の販売する侵害物品が特許権者の特許実施品と市場で完全に代替する場合、損害賠償請求額(Pd)を最大にするためには、102条1項または2項を使うのが良いのだろうか?

Scotchmerに倣ってモデルを構築する。
特許権者が当該特許権を自由に使用している場合(つまり、Royalty FreeやRAND条件等でのオープンな利用を認めていない場合)、特許権者は利得を最大化する価格PMで特許製品をQM個製造・販売する。このとき、固定費用と変動費用を引いた図中オレンジの領域(緑の領域を含む)が特許権者の利益となる。

しかし、ひとたび侵害が生じ、侵害者がQS個販売すると、特許権者の製品の販売も影響を受け(図中では落ち込むことを想定している)QG個販売されることになる。ただし、全体の販売個数(=QS+QG)はQMを上回ることになる。それゆえ、価格(PO)はPMより下がることになる。このとき、特許権者は緑色の領域が利益となる。

□特許法102条1項で請求した場合
このとき、POにQGを乗じた利益ついて特許権者のコストを引いた額が損害賠償額となる。これは、特許権者がQS+QG場合の利益と一致する。PMは特許権者にとって利得を最大化する価格であったので、当然ながら、この場合の利益は非侵害時の特許権者の利益より少ない。

□特許法102条2項で請求した場合
侵害者のコスト次第となる。それゆえ、侵害者のコストが大きく差がない場合、非侵害時の特許権者の利益より少なくなりうる。

ここでいう非侵害時の特許権者の利益が、逸失利益である。そうすると、侵害者の製造コストいかんによっては、逸失利益の方が額が最大化されることがわかる。はずだ。私が間違ってなければ…。

chiteki081022.gif

■ただし…
ぢゃあ、どうやって逸失利益証明するんだヨという突っ込みには弱い(笑)。

(2008/11/3修正。alexさん、ご指摘ありがとうございます。)
posted by かんぞう at 01:44| Comment(2) | TrackBack(0) | ☆特許 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年10月08日

[特許]パテントプールを巡る世界の法的議論(備忘)

パテントプールに関するシンポジウムを聞いてきた。わからないことが多く新鮮であった。備忘のために勉強になった点を2点まとめる。

■プールへの参加にあたってFRAND条件での利用許諾を宣言していたにもかかわらず遵守しなかった場合の取り扱い
MPEGビデオパテントプール事件では、(Fair, Reasonable and Non-Discriminated)との条件でプールに参加したシーメンス社が必須特許以外の関連特許に関する実施料も含めた要求をしたことに対し、当該行為がFairであるかが争われた。デュッセルドルフ地方裁判所は、FRANDに反する行為と判断した上で、パテントプール参加者にFRAND条件に基づく抗弁を認めたとのことである。

具体的な判決文を読む必要があるが(そして私はドイツ語なんてわからない)、パテントプール参加にあたってのFRAND条件での宣言が契約として解されているならば大きな違和感は無いが、一方的な宣言であるとすれば、どのような根拠に基づくのか気になる。おそらく、契約としては解さず信義則による処理を行ったのだろうが、ライセンス交渉が決裂したからと言ってそれまでの何らかの方針の示唆に制約を受けることには何となく違和感を覚える。

■必須性の判断
いままで意識していなかったことなのだが、必須特許が否かについての判断は国ごとに行わなければならない、という指摘があった。(実務家なら当然知っている、という話であろうから書くのはかなり恥ずかしいのだが)

特許権の範囲は付与国によって事実上異なる(その主な理由は、出願過程での権利減縮、言語の違い――時には翻訳の問題――に起因するクレーム範囲の微妙な差、であろう)ために、国ごとに見ないとダメだ、ということである。

たしかイギリスで必須性を判断した事案があったが、当たり前のように裁判所が判断した理由の一つは国ごとに見ても問題ないというところに支えられていたのかもしれない。
posted by かんぞう at 01:40| Comment(2) | TrackBack(0) | ☆特許 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年09月06日

[特許]不実施補償を巡る意見の違いを制度的に解消することについての若干の検討

産学連携の成果として特許権が生み出された場合に、大学側が不実施補償を求めることがある。最近は一時期ほど問題(注1)でない感も窺えるが、今でもときどき耳にする。

この問題の根には、大学と企業が特許権を共有した場合、大学側と企業側、お互いの思惑が衝突しているところにあるように考えられる。大学側は「ライセンスしようとしてもお前らが拒否するから(注2)金あつめられへんねん、金払えやぁ」、他方、企業は「共有者は実施するの勝手やろうが!(注3)」という思いを持っている。

こんな不毛な議論、無駄だよね、と言う指摘もある(注4)。
他方で、特に国立大学を中心に、大学側は自律的な運営を求められているため(そして、産学連携部門にはライセンス収入が乏しいとのプレッシャーがかかっており)、易々と妥協できない状況である。不実施補償を求める気持ちはわからないでも無い。

そこで解決できる余地を考えてみた。もちろん、産学連携の実務の現場の方はとっくに考えられていることであろうから、先行研究があると思う。あくまで頭の体操がてら…である。より深い議論があればお教えいただければ幸いである。

■交渉により解決すると?
そもそも、共有にしないことも手である。
最初から譲渡してしまうと楽で良い。しかし、特許の内容の評価を初期の段階で行わなければならないことを考えると、ハードルが高い。
評価の不確実性を考慮すると、企業側は価格を抑えようとするだろう(しかも、交渉が決裂しても共有になり自己実施は補償されるため、妥協する必要性に乏しい)。

そうしたときに、職務発明の承継対価を巡る問題が起こるとややこしい。特許権が譲渡された場合、譲渡価格に基づき相当対価が求められることとなっている規程がおそらく多いと思う(注5)が、その価格の適正さについて発明者が不満を持つかもしれない。

■制度的に解消すると?
そうすると、制度的解決が望ましい可能性がある。

大学側の不満は、特許法73条3項を廃止することによって解消できる(注6)。実務上は、変なライセンスをされないように、大学ー企業間でお互いの合意なしにライセンスしない同意を結ぶことになるだろう。その場合、「ライセンスしない」という意味の「不実施補償」を求めることは、契約上行いやすくなるように考えられる。

ただし、そのような介入を行う必要があるのか、と言う点は議論の余地がある。個人的には、現状のままでも良いのでは、と思うのだが…。

(注1)山口大学知的財産本部「産学官連携推進のために知的財産を運用する上で生じる特許法等の問題点と課題に関する調査報告書」(2006年)
(注2)特許法73条3項により、共有者の一人にすぎない大学は独自にライセンスできない。
(注3)特許法73条2項。
(注4)Web上で探した限りでは、三浦義弘「大学知財と産学連携。今、本当に競争すべき相手は誰なのか?」MRI TODAY(2008年5月記事)など。
(注5)なお、規程が無い場合に、譲渡価格に基づくと考えるものとして、中村彰吾「企業再編と職務発明の実績補償金請求権の債務者の変動」パテントVol.56 No.10(2005年)6頁。鈴木將文「共同研究の成果の権利化及び活用を巡る法的諸問題」(財)知的財産研究所編『特許の経営・経済分析』(雄松堂、2007年)は、特許流通の阻害の観点から同様の観点に立っている。
(注6)鈴木・前掲(注5)によれば、中山一郎「共有に係る特許権の実施許諾に対する他の共有者の同意について」AIPPI Vol.47 No.2(2002年)82頁が役立つようだ。見ておこう…。
posted by かんぞう at 23:50| Comment(0) | TrackBack(0) | ☆特許 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年08月28日

[特許]利用発明であることを理由としても強制許諾の対象に出来ない

いわゆるパテントトロール対策の一環として、権利濫用法理が適用される場面について、特許庁で検討が進められていることが報道された。

しかし、権利濫用法理を持ち出さなくて済むなら、そのように済ませたいものである。(権利濫用法理では、被侵害とされた者は侵害しているか否か裁判結果が出るまでわからない点が難点となってしまう。)

典型的には、強制実施許諾制度が考えられるが、許諾を認める条件としては、さまざまな段階があろう。

その中で、利用発明の関係にある場合のボトルネックとなる特許権の行使が産業に影響を与える場合は、強制許諾が認められやすいと直観的には思えたのだが、見落としがちな制約条件があるので、覚え書きとして残しておく。(私は、見落としていた…)

■日米合意に基づく、利用発明を理由とする強制実施許諾の制限

1994年になされた日米合意では、日米両国政府は利用発明を理由とする強制実施許諾を禁じている(注1)。
1995年7月1日以降日本国特許庁は、競争阻害行為に対する司法・行政的決定としての救済策、または、非商業的な使用に対する許諾付与である場合を除き、利用関係にある発明に対して、補償請求権付き実施権を付与しない。(筆者仮訳)
(Other than to remedy a practice determined after judicial or administrative process to be anti-competitive or to permit public non-commercial use, after July 1, 1995, the JPO is not to render an arbitration decision ordering a dependent patent compulsory license to be granted.)


■日米合意の妥当性
大きな制約要素となるものであるが、パテントとロールという問題が意識された時代においてm妥当させるべきであろうか(注2)。しかも、日米合意の他の合意事項が守られていない今、日本側がこれを遵守することは国益に叶うのか、産業発展に資するのか、あるいは、技術の豊富化に資するのか、見直した方が良いように思う。

■参考
日米合意(日米包括経済協議における知的所有権に関する合意事項)〔外務省Website〕

(注1)利用発明であることを強制実施許諾の前提とするのは特許庁の説明であるが、原文を読む限り、「利用発明」が対象であれば、強制実施許諾の理由を問わないようにも読める。精査したい。
(注2)竹中俊子「パイオニア発明に係る特許の保護範囲―パイオニア発明と商業化のための改良発明インセンティブをめぐる経済理論」(財)知的財産研究所『特許の経営・経済分析』(雄松堂、2007年)参照。
posted by かんぞう at 01:10| Comment(2) | TrackBack(0) | ☆特許 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年08月25日

[特許法]ジェネリック医薬品はダメだから使いたくないという意見に思うこと

友達のお医者さんが、ジェネリック医薬品を使ったら思ったように効かなかった!だからジェネリックなんて使わないと怒っていた。
ある新聞の投書欄を見たら、製薬会社の営業担当さんが、ジェネリックは供給体制に問題があるから、ジェネリックを国として推すのはやめてくれ、ジェネリックを推すと医薬の研究開発意欲を削ぐとの趣旨を書いていらっしゃった。

単に表現の問題ではあるけれど、これだけを理由に「ジェネリックだからダメ」というのは論理的におかしい。(おそらく、そういう趣旨じゃないのだとは思いたいけど)

これはジェネリック(後発医薬品。特許切れのみならず、特許が取得できなかったものも含む)の欠陥ではなく、単に当該ジェネリック医薬品の品質や、当該ジェネリック医薬品メーカーの問題である。信頼できるメーカーの医薬品であればジェネリックであっても使えるのではないだろうか。
(もともと、そういう意見がサンプリングとしての適切さを有しているか、という問題もあるが、それはおいておく。)

■ジェネリックを推すことは研究開発の意欲を削ぐか?
興味深かったのは、ジェネリックを推奨すると、先行企業は十分な研究開発費が回収できないから、開発のインセンティブを削ぐ、との主張も見られたことであった。

この主張が仮に特許切れの場合における後発医薬品の登場を念頭に置いているとすると、特許権の保護が不十分だ、との意見と考えることも出来る。

しかし、医薬品業界では特許制度は他の業種に比べて、唯一といっていいほどうまくいっているとする研究結果が多い(注1)。これ以上の保護をすることで、本当に公益につながるのだろうか。私は疑問である。

他方、特許権が取得できなかった場合を念頭に置いているとすると、製薬業界の中で思い至ることが困難でないものに対して一定の権益が認められ、製薬業界内部で不利益が生じることが容易に想像できる。

以上から、私はジェネリックを推すことは研究開発の意欲を削ぐとの意見に賛成できない。

そもそも、問題の本質を特許的なところから眺めていることが結論として疑問点をもつ意見となっているように思う。

■一部のジェネリック医薬品の質が仮に悪いとして、特許制度にも原因は考えられるか?
もっとも、現在流通しているジェネリック医薬品の品質が、もしかすると医師が望むレベルに達していない場合があるのかもしれない(これはあくまで可能性の問題である)。

そうであるとして、原因の一つと考えられることが、特許明細書での開示不足である。
特許明細書でクレーム技術について十分な説明が尽くされていないために、適切な品質の後発医薬品が生まれないことがある、との仮説である。

これは、平成15年まで特許庁審査実務がサポート要件(注2)を厳格に運用していなかったことが要因の一つとなって起こりうることである。(ただし、理論的には苦しい)
これが一因と仮定すると、この点が解消されるのは平成15年以降出願された特許が問題となる平成35年以降(いまから15年後!)になってしまうだろう。

もちろん、製薬には、品質を一定させる製法や、効かせたい部位へ誘導するための処方など、中心となる特許技術に含まれない背景技術も重要であると推測できる。これらが品質に第一義的に影響を与えていると思うが、特許制度が原因となることはあるのか、との視点で考えてみた。

(注1)James Bessen=Michael Meurer, "Patent Failure: How Judges, Bureaucrats, and Lawyers Put Innovators at Risk" Princeton Univ Pr(2008)
(注2)サポート要件を巡る日本での運用の経緯は、森岡誠「サポート要件をめぐる近時の裁判例」パテントVol.60 No.7(2007年)72頁以下が参考になる。とくに、化学・バイオ系ではサポート要件が重視される。細田芳徳『化学・バイオ特許の出願戦略 改訂第2版』(経済産業調査会、2006年)なども参照。

(追記)なお、米国では政策的に後発医薬品の使用が促されており、数量ベースで5割に上るとの指摘が見られた(「インタビュー ヨーロッパを中心として知財の世界事情の現在と今後」パテント Vol.61 No.2(2008年)13頁〔小野新次郎発言〕。)
posted by かんぞう at 01:03| Comment(2) | TrackBack(0) | ☆特許 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年06月30日

[特許]特許の法的安定性から見た特許の質

「特許の質」の評価方法がいくつも試みられている。

おそらく日本で有名な評価手法の一つは、株式会社パテントスコアがサービスして提供してうr出願経過情報をもとに評価を行う方法だろう。明細書の記載の傾向と、「良い特許には出願人、競合他社とも時間をかけるはずである」との前提に基づいたスコアリングは、なかなかうまい(注1)。

日本知財学会で、永田健太郎さん(東京大学)が報告されていた「日本特許の質に関する実証分析」はなかなか面白かった。

■報告概要
東京高裁(知財高裁)が拒絶審決取り消し訴訟、無効審決取り消し訴訟の結果下した、特許特許の有効性を特許の質の評価指標と、特許の質を高める要因をモデル分析を行ったものであった。

報告によると、
○外国特許先行技術文献を特許庁が参照すれば特許の法的安定性が38%向上
○国内優先権主張を用いると特許の法的安定性が37%向上
○審査機関は特許の質に影響を与えない
とのことがわかったようだ。

■考察
正確には「特許の質」の一側面であり、知財高裁判事がどういうところを見ているか、というところをあらわしているように思うが、そうはいっても面白い。
とくに後者、国内優先権主張を用いる=出願まで時間をかけていると、法的安定性が向上するとの点は、直感的には当たり前に思うが、それを実感させる点が興味深い。
仮にこれを拡張すると、12ヶ月のグレースピリオドの導入は特許の安定性向上に資するのかもしれない。(ただし、権利の利用者、市場側の悪影響はあるだろう。)

(注1)株式会社IPB Webサイト参照。

posted by かんぞう at 01:05| Comment(0) | TrackBack(0) | ☆特許 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年06月29日

[特許]なんで米国の代理人は何も仕事をしないんだよ!という日本のクライアントの不満の要因

吉田哲「米国における保守的代理人の存在理由、知識共有分化の相違点」(日本知財学会第6回年次学術研究発表会2008年6月28日発表)受講メモ

■報告概要
米国の特許代理人が日本の出願人のニーズに応えず、言われたことのみしかしないと批判されている。吉田弁理士によるとその要因は2点あると指摘されていた。
1つは日本からの依頼が理解されないところにある。たとえば、「指示に従ってくれ(According to)、でも、必要があれば(if necesarry)修正してくれ」との指示を送ると、According toの言葉が強すぎて、「じゃあやめとく」という風になるらしい。
また、もう1つは保守的対応が合理的な選択であることである。具体的には、顧客側が米国代理人に積極的な対応を取ってほしいとき、代理人が積極的に補正をすることはリスクになる。他方、言われたままの対応であればリスクは少なくなる。他方、顧客が余計な補正をしてほしくないときには、積極的な補正はトラブルとなることが多い。
この問題は、国内代理人との関係は以心伝心であることによる日本側顧客の認識、米国代理人が積極的な補正をした際にフィードバックが無いことによる米国側代理人のモチベーションの低下、タイムチャージ制ゆえに顧客側に質問しにくい文化が代理人側にあると指摘されていた。
これらのことを可決するには、詳細な指示を行うこと、可能ならば会って酒を飲むことが重要であると提言されていた。海外との折衝に馴れていない場合は、いい国内代理人を選定することを併せて提言されていた。

■考察
実務感覚に基づくもので参考になった。もちろん、他の米国で仕事をされている方には異論があるかも知れない。それも併せて知ることが出来れば、日本において米国の特許代理人を選定する上で重要なポイントを学ぶことが出来るように思う。
海外とのビジネスでは文化の違いが思わぬトラブルになることがあるが、特許エージェントにおいてもあてはまるのだろう。私の乏しい知見ではあるが、特に中規模の日本企業を中心として、米国を初めとする海外の特許代理人への不満が存在する。
その背景には、吉田准教授が指摘されるように、日本の代理人との違いがあるのだろう。私は、これは、日本の弁理士がクライアントのために単なる特許出願のエージェントに留まらない付加価値を提供してきた、すなわち、すばらしすぎた故、と思うのだが(注1)、それが国際的な出願にあたって、文化的な障壁になっているとすればなんとも残念である。
文化の違いを認識する機会が増えることが望まれる。

(注1)たとえば、特許庁『知財で元気な企業2007』を読むと、弁理士との息がぴったり合っている企業が、知的財産の活用に成功しているような印象を受ける。
posted by かんぞう at 02:42| Comment(2) | TrackBack(0) | ☆特許 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

[特許]進歩性についての日本弁理士会の研究成果

日本知財学界第6回年次学術研究発表会 日本弁理士会協賛セッション「進歩性の判断は如何にあるべきか」(2008年6月28日発表)は、米国の進歩性判断を巡る議論・運用を手がかりに、日本の判例を丁寧に分析し、望ましい進歩性判断のあり方を提言するものであった。(ただし、弁理士として望ましい、という側面もあるような…。いずれにせよ期著な研究である。)
以下、その概要を備忘のために整理する。なお、恥ずかしながら、理解の誤りがありうることをあらかじめ明示しておく。

■日米の判断基準の相違と、日本における実務感覚を手がかりにした、日本の進歩性判断の課題
報告によると、判例の分析結果として、日米の判断基準は大きく相違するものでない。ただ、実務上の感覚として、進歩性の判断が厳しいと感じていらっしゃるようだ。課題は運用上の3点に集約されているようである。

○1.進歩性の判断主体において想定される知識水準
日本においては、当業者の技術分野の平均的技術水準の全ての知識を有していることを仮定したものとなっている。しかも、関連する技術分野の発明もある程度知りうると判断されている。
しかし、弁理士の実務感覚からするとこれは「スーパー当業者」であって、発明者に酷であると捉えているようだ。たとえば、技術分野の成熟性が高ければそのような全ての知識、関連する知識を有していることはありうるが、成熟過程であればそうではない。
報告では、発明の技術分野の実情の考慮を提言すると共に、少なくとも審査等において当業者のレベルの明示を行うことを求めていた。

○2.技術分野の相違への考慮が不足
日本においては、技術分野の相違がそれほど考慮されない傾向がある。他方、米国では、強く意識されるところであるようだ。
これに関しては、弁理士サイドも技術の相違を丁寧に主張し、技術分野の相違を印象付けることが重要であると提言されるとともに、特許・裁判実務に対しては、技術分野が類似していることをきちんと説示することを求めていた。

○3.後知恵(Hindsight)も考慮?
日本の特許・裁判実務において後知恵の考慮を避けることが明示されている例も無いわけではないが、感覚として、後知恵の考慮が行われているように感じられているようだ。
これを防ぐために、米国のような二次的考慮事項を含めるべきと提言されていた。もっとも、これについては難しいかもしれないとのニュアンスであった。

そのうえで、「進歩性」との用語法が、判断基準のハードルを高めているのではないかと指摘していた。報告は、「想到非容易性」とすべきと結んでいた。

■考察
同報告は、米国実務をあくまで手がかりにしたものとと思われる。決して、安易に米国実務に倣うことを述べたものではないと私は理解している(注1)。
二次的考慮事項については、なぜそれが考慮事項として適切化、合理性を有しているかの説明がつきにくいように感じていたが、たしかに後知恵考慮を排除するため工夫としては、経験則上有効なのかもしれない。
なお、「進歩性」の用語を改める点は、非常にシンボリックな意味しか持ち得ないとは思うが、それはそれで重要なのかもしれない。ただし、実用新案法との切り分けはどのようにするか、気になるところである(注2)。

(注1)ゆえに、一部で聞かれるような、「ハーモナイゼーション」には米国制度・実務へのすりよりが適切と捉える意見に組するものではないと考える。
(注2)参考としている米国では実用新案制度が無いから問題は無いわけで。
posted by かんぞう at 02:37| Comment(0) | TrackBack(0) | ☆特許 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年06月16日

[特許法]米国連邦最高裁の最近の判決への評価

米国連邦最高裁については、e-Bay判決やKSR判決など、プロパテントの見直しを発想の基礎とすると読める判決を出していると受け止める意見が多い(注1)。

私もそのように理解していたが、批判的な意見を聞く機会があり面白かった。

批判的な意見は、
○最高裁判決は特許法を正確に理解していないと思われる記述がある。その要因は、知的財産に詳しい調査官がいないからである(制度的に担保していない)。
と、指摘している(注2)。

あるいはそうなのかもしれないが、少なくとも一部の業種ではプロパテントの変化を歓迎する声があり、それが最高裁判決の結論を歓迎しているのだろう。
歓迎の声が大きくなれば、早晩、CAFCとて無視は出来なくなるだろうし、あらたな立法論議が湧くかもしれない。

(注1)典型的には、特許庁 イノベーションと知財政策に関する研究会「イノベーション促進に向けた新知財政策(案)」
(注2)竹中俊子〔知財研セミナー2008年6月9日における発言〕
posted by かんぞう at 00:02| Comment(2) | TrackBack(0) | ☆特許 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年06月05日

[特許]特許に対する研究者の意識―グレースピリオドは望ましいか?―

山形敏男*「知的財産権と研究の自由にかかわる問題―研究者の意識調査より―」技術と経済496号(2008年)42頁〜45頁は、研究者へのアンケート調査を行い、リサーチツール特許が研究の阻害になった例は極めて少ない、特許出願にあたって公表が制限されることが学問的自由を制約すると考える大学・公的機関の研究者は過半数を超えていることを示している。研究者の認識を示す資料として有益である。

■論文の概要
日本の大学・公的機関・企業に所属する研究者(それぞれサンプル数は585、467、23)に対しアンケート調査を実施し(なお、分野別には生命科学が653、化学/物理/天文が147、工学/数学/計算が275)、研究者の意識を調査した。
第三者の特許権のライセンスを受けた研究者は約12%であり、そのうち80%以上がリサーチツールである。ただし、ライセンス拒絶を受けたとの回答は0.2%にとどまった。
次に、特許出願のために研究成果の公表が妨げられることが学問的自由を阻害すると答えた研究者は、大学で50%強(なお、阻害しないとの意見は10%程度)、公的機関では50%弱(阻害しないとの意見は10%程度)、企業では30%程度であった。

■考察
リサーチツール特許の問題については、それほど大きな問題となっていないのかも知れない。その理由は詳しく検証する必要があるだろうが、研究社会のアウトサイダーからの特許権行使がそれほど多くないからなのかもしれない。(一時問題となっていたが、これは、短期的な視点で特許権行使をする者がいた、あるいは、単に適切な知的財産権行使ポリシーを持っていなかったことに起因するのかもしれない。そうであるならば、レピュテーション効果により抑制されたのであろう。)
特許出願のために公表が阻害されることが研究の阻害と考える研究者が少なくないことは面白い。しかも、企業内研究者との意識の差が注目される(ただし、企業内研究者は統計上有意なサンプル数でない)。山形さんが指摘するように、研究者評価指標として論文が用いられていることとの兼ね合いなのだろう。
このような意識の下では、グレースピリオドの導入に対して、研究者は前向きになるものと考えられる。

*(財)未来工学研究所 主任研究員
posted by かんぞう at 01:00| Comment(0) | TrackBack(0) | ☆特許 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年05月21日

[特許]職務発明対価算定における包括クロスライセンスの考慮

大塚理彦=福田あやこ=島並良「判評(東京地判平成19年1月30日判時1971号3頁)」NBL881号(2008年)13頁以下 読書メモ

■論文の概要
〔キヤノン職務発明事件〕(東京地判平成19年1月30日判時1971号3頁)の、職務発明対価算定の方法について肯定的立場から整理・分析を行っている。
同判決は、自己実施とライセンス供与が同時に行われている場合について、自己実施による部分の超過利益を否定しなかった。これは一部の判決(大阪地判平成17年9月26日判タ1205号232頁、東京地判平成18年6月8日判時1966号102頁)とは異なる判断であるが、権利者がライセンス供与相手を限っている場合などには超過利益があると考えられることから、妥当な考え方と論者は評価している。
さらに進んで、本判決がライセンスバック契約について実質的に判断し包括ライセンス契約として算定の基礎としたことについては、契約の形式にとらわれない点について賛成しつつも、本件の特殊事情である、使用者が圧倒的な市場シェアを有することに鑑みて、相手方の特許の価値は当事者間でほぼ考慮されていないと考えられることを考慮するべきと指摘している。

■私見
原判決は非常に長く、やもすると分析をしたくなくなるものであるが、その意義を整理した点できわめて参考になる。
posted by かんぞう at 01:20| Comment(0) | TrackBack(0) | ☆特許 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年05月07日

[特許]地方は特許流通を生かしているのか?(基礎的な観察)

地域の再生のためには中小企業の振興が重要だ、という意見がある。その具体策は人によりまちまちではあるが、単に一時的な資金を提供するだけでは、かえって産業構造の転換ができず、将来の解決にならないように思う。しかし、中小企業では、研究開発に割くことができる資源が十分でなく、新たな事業展開が難しいという現状もある。

そのような研究開発の課題を少しでも解決する方法の一つが、技術移転や特許流通であろう。適切なマッチングができれば、研究開発が十分できな企業であっても新事業への展開が可能になる。

では、その中の特許流通は現実に地方再生に役立っているのだろうか?地域は適切に特許流通を生かしているのだろうか?この問いを考える基礎的な情報を集めてみた。



■地域間の特許流通の現状―特許流通アドバイザーによる特許流通を参考に―

どのような特許流通が行われているか、通常は公表されていないが、国が整備した特許流通アドバイザーを介した取引については、おおよそのデータが公表されている。これを参考とする。

特許流通アドバイザーによる特許流通のライセンサー(特許提供者)の多くは、TLOである(注1)。これは大学、公的研究機関からの特許の移転が盛んに行われていることを意味する。他方、ライセンシーは大半が中小企業である(注2)。

ライセンシーとライセンサーの所在地をもとに、地域間の主要な取引の様子を図に示した。矢印の先がライセンス先を表し、矢印の太さは取引件数を表している(注3)(具体的には平成9年から平成19年11月までの成約件数が累積100件以上のもののみ記した)。詳細は下表の通りである。
chiteki080507001.jpg

chiteki080507002.jpg

関東、近畿に対しては周辺地域から多数の特許が移転されていることがわかる。とくに近畿は積極的に特許の移転を受けている様子がうかがえる。

■考察
大学、公的研究機関からのライセンス=アウトの場合、地域への貢献という観点から拠点を置く地域への移転が多少優先されるかもしれないが、基本的にライセンス先に地域的な偏りが生じるとは考えにくい。そうであるならば、地方であっても多数の特許の移転を受ける可能性はある。

しかしながら、現実は大都市を抱える地域に特許が移転する形となっている。これはなぜであろうか。2つの可能性がある(この可能性は併存しうる)。

1つは、地方に研究開発型企業が多く、これらが全国規模で特許流通を行っている可能性、2つめは、地方の企業が全国的な特許流通を生かしきれていない可能性である。

上記のデータだけでは即断はできないが、興味深い点ではある。

後者の場合、都市部、特に近畿での特許流通の効果を参考にして(要は効果が乏しいのであれば奨励の必要はない)、地域として流通促進の要否を検討する必要があるように思われる。


(注1)独立行政法人工業所有権情報・研修館ウェブサイト「特許流通促進事業の成果について」
http://www.ryutu.inpit.go.jp/about/seika_top_b.html
(注2)この点で、特許流通アドバイザーの取り組みは地域の再生に積極的に関与していると言えよう。
(注3)前掲注1サイト http://www.ryutu.inpit.go.jp/about/10000seika_cc.html
posted by かんぞう at 00:01| Comment(0) | TrackBack(0) | ☆特許 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
×

この広告は1年以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。