2008年06月30日

[特許]特許の法的安定性から見た特許の質

特許の質」の評価方法がいくつも試みられている。

おそらく日本で有名な評価手法の一つは、株式会社パテントスコアがサービスして提供してうr出願経過情報をもとに評価を行う方法だろう。明細書の記載の傾向と、「良い特許には出願人、競合他社とも時間をかけるはずである」との前提に基づいたスコアリングは、なかなかうまい(注1)。

日本知財学会で、永田健太郎さん(東京大学)が報告されていた「日本特許の質に関する実証分析」はなかなか面白かった。

■報告概要
東京高裁(知財高裁)が拒絶審決取り消し訴訟、無効審決取り消し訴訟の結果下した、特許特許の有効性を特許の質の評価指標と、特許の質を高める要因をモデル分析を行ったものであった。

報告によると、
○外国特許先行技術文献を特許庁が参照すれば特許の法的安定性が38%向上
○国内優先権主張を用いると特許の法的安定性が37%向上
○審査機関は特許の質に影響を与えない
とのことがわかったようだ。

■考察
正確には「特許の質」の一側面であり、知財高裁判事がどういうところを見ているか、というところをあらわしているように思うが、そうはいっても面白い。
とくに後者、国内優先権主張を用いる=出願まで時間をかけていると、法的安定性が向上するとの点は、直感的には当たり前に思うが、それを実感させる点が興味深い。
仮にこれを拡張すると、12ヶ月のグレースピリオドの導入は特許の安定性向上に資するのかもしれない。(ただし、権利の利用者、市場側の悪影響はあるだろう。)

(注1)株式会社IPB Webサイト参照。
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2008年06月29日

[特許]なんで米国の代理人は何も仕事をしないんだよ!という日本のクライアントの不満の要因

吉田哲「米国における保守的代理人の存在理由、知識共有分化の相違点」(日本知財学会第6回年次学術研究発表会2008年6月28日発表)受講メモ

■報告概要
米国の特許代理人が日本の出願人のニーズに応えず、言われたことのみしかしないと批判されている。吉田弁理士によるとその要因は2点あると指摘されていた。
1つは日本からの依頼が理解されないところにある。たとえば、「指示に従ってくれ(According to)、でも、必要があれば(if necesarry)修正してくれ」との指示を送ると、According toの言葉が強すぎて、「じゃあやめとく」という風になるらしい。
また、もう1つは保守的対応が合理的な選択であることである。具体的には、顧客側が米国代理人に積極的な対応を取ってほしいとき、代理人が積極的に補正をすることはリスクになる。他方、言われたままの対応であればリスクは少なくなる。他方、顧客が余計な補正をしてほしくないときには、積極的な補正はトラブルとなることが多い。
この問題は、国内代理人との関係は以心伝心であることによる日本側顧客の認識、米国代理人が積極的な補正をした際にフィードバックが無いことによる米国側代理人のモチベーションの低下、タイムチャージ制ゆえに顧客側に質問しにくい文化が代理人側にあると指摘されていた。
これらのことを可決するには、詳細な指示を行うこと、可能ならば会って酒を飲むことが重要であると提言されていた。海外との折衝に馴れていない場合は、いい国内代理人を選定することを併せて提言されていた。

■考察
実務感覚に基づくもので参考になった。もちろん、他の米国で仕事をされている方には異論があるかも知れない。それも併せて知ることが出来れば、日本において米国の特許代理人を選定する上で重要なポイントを学ぶことが出来るように思う。
海外とのビジネスでは文化の違いが思わぬトラブルになることがあるが、特許エージェントにおいてもあてはまるのだろう。私の乏しい知見ではあるが、特に中規模の日本企業を中心として、米国を初めとする海外の特許代理人への不満が存在する。
その背景には、吉田准教授が指摘されるように、日本の代理人との違いがあるのだろう。私は、これは、日本の弁理士がクライアントのために単なる特許出願のエージェントに留まらない付加価値を提供してきた、すなわち、すばらしすぎた故、と思うのだが(注1)、それが国際的な出願にあたって、文化的な障壁になっているとすればなんとも残念である。
文化の違いを認識する機会が増えることが望まれる。

(注1)たとえば、特許庁『知財で元気な企業2007』を読むと、弁理士との息がぴったり合っている企業が、知的財産の活用に成功しているような印象を受ける。
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[特許]進歩性についての日本弁理士会の研究成果

日本知財学界第6回年次学術研究発表会 日本弁理士会協賛セッション「進歩性の判断は如何にあるべきか」(2008年6月28日発表)は、米国の進歩性判断を巡る議論・運用を手がかりに、日本の判例を丁寧に分析し、望ましい進歩性判断のあり方を提言するものであった。(ただし、弁理士として望ましい、という側面もあるような…。いずれにせよ期著な研究である。)
以下、その概要を備忘のために整理する。なお、恥ずかしながら、理解の誤りがありうることをあらかじめ明示しておく。

■日米の判断基準の相違と、日本における実務感覚を手がかりにした、日本の進歩性判断の課題
報告によると、判例の分析結果として、日米の判断基準は大きく相違するものでない。ただ、実務上の感覚として、進歩性の判断が厳しいと感じていらっしゃるようだ。課題は運用上の3点に集約されているようである。

○1.進歩性の判断主体において想定される知識水準
日本においては、当業者の技術分野の平均的技術水準の全ての知識を有していることを仮定したものとなっている。しかも、関連する技術分野の発明もある程度知りうると判断されている。
しかし、弁理士の実務感覚からするとこれは「スーパー当業者」であって、発明者に酷であると捉えているようだ。たとえば、技術分野の成熟性が高ければそのような全ての知識、関連する知識を有していることはありうるが、成熟過程であればそうではない。
報告では、発明の技術分野の実情の考慮を提言すると共に、少なくとも審査等において当業者のレベルの明示を行うことを求めていた。

○2.技術分野の相違への考慮が不足
日本においては、技術分野の相違がそれほど考慮されない傾向がある。他方、米国では、強く意識されるところであるようだ。
これに関しては、弁理士サイドも技術の相違を丁寧に主張し、技術分野の相違を印象付けることが重要であると提言されるとともに、特許・裁判実務に対しては、技術分野が類似していることをきちんと説示することを求めていた。

○3.後知恵(Hindsight)も考慮?
日本の特許・裁判実務において後知恵の考慮を避けることが明示されている例も無いわけではないが、感覚として、後知恵の考慮が行われているように感じられているようだ。
これを防ぐために、米国のような二次的考慮事項を含めるべきと提言されていた。もっとも、これについては難しいかもしれないとのニュアンスであった。

そのうえで、「進歩性」との用語法が、判断基準のハードルを高めているのではないかと指摘していた。報告は、「想到非容易性」とすべきと結んでいた。

■考察
同報告は、米国実務をあくまで手がかりにしたものとと思われる。決して、安易に米国実務に倣うことを述べたものではないと私は理解している(注1)。
二次的考慮事項については、なぜそれが考慮事項として適切化、合理性を有しているかの説明がつきにくいように感じていたが、たしかに後知恵考慮を排除するため工夫としては、経験則上有効なのかもしれない。
なお、「進歩性」の用語を改める点は、非常にシンボリックな意味しか持ち得ないとは思うが、それはそれで重要なのかもしれない。ただし、実用新案法との切り分けはどのようにするか、気になるところである(注2)。

(注1)ゆえに、一部で聞かれるような、「ハーモナイゼーション」には米国制度・実務へのすりよりが適切と捉える意見に組するものではないと考える。
(注2)参考としている米国では実用新案制度が無いから問題は無いわけで。
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2008年06月16日

[特許法]米国連邦最高裁の最近の判決への評価

米国連邦最高裁については、e-Bay判決やKSR判決など、プロパテントの見直しを発想の基礎とすると読める判決を出していると受け止める意見が多い(注1)。

私もそのように理解していたが、批判的な意見を聞く機会があり面白かった。

批判的な意見は、
○最高裁判決は特許法を正確に理解していないと思われる記述がある。その要因は、知的財産に詳しい調査官がいないからである(制度的に担保していない)。
と、指摘している(注2)。

あるいはそうなのかもしれないが、少なくとも一部の業種ではプロパテントの変化を歓迎する声があり、それが最高裁判決の結論を歓迎しているのだろう。
歓迎の声が大きくなれば、早晩、CAFCとて無視は出来なくなるだろうし、あらたな立法論議が湧くかもしれない。

(注1)典型的には、特許庁 イノベーションと知財政策に関する研究会「イノベーション促進に向けた新知財政策(案)」
(注2)竹中俊子〔知財研セミナー2008年6月9日における発言〕
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2008年06月05日

[特許]特許に対する研究者の意識―グレースピリオドは望ましいか?―

山形敏男*「知的財産権と研究の自由にかかわる問題―研究者の意識調査より―」技術と経済496号(2008年)42頁〜45頁は、研究者へのアンケート調査を行い、リサーチツール特許が研究の阻害になった例は極めて少ない、特許出願にあたって公表が制限されることが学問的自由を制約すると考える大学・公的機関の研究者は過半数を超えていることを示している。研究者の認識を示す資料として有益である。

■論文の概要
日本の大学・公的機関・企業に所属する研究者(それぞれサンプル数は585、467、23)に対しアンケート調査を実施し(なお、分野別には生命科学が653、化学/物理/天文が147、工学/数学/計算が275)、研究者の意識を調査した。
第三者の特許権のライセンスを受けた研究者は約12%であり、そのうち80%以上がリサーチツールである。ただし、ライセンス拒絶を受けたとの回答は0.2%にとどまった。
次に、特許出願のために研究成果の公表が妨げられることが学問的自由を阻害すると答えた研究者は、大学で50%強(なお、阻害しないとの意見は10%程度)、公的機関では50%弱(阻害しないとの意見は10%程度)、企業では30%程度であった。

■考察
リサーチツール特許の問題については、それほど大きな問題となっていないのかも知れない。その理由は詳しく検証する必要があるだろうが、研究社会のアウトサイダーからの特許権行使がそれほど多くないからなのかもしれない。(一時問題となっていたが、これは、短期的な視点で特許権行使をする者がいた、あるいは、単に適切な知的財産権行使ポリシーを持っていなかったことに起因するのかもしれない。そうであるならば、レピュテーション効果により抑制されたのであろう。)
特許出願のために公表が阻害されることが研究の阻害と考える研究者が少なくないことは面白い。しかも、企業内研究者との意識の差が注目される(ただし、企業内研究者は統計上有意なサンプル数でない)。山形さんが指摘するように、研究者評価指標として論文が用いられていることとの兼ね合いなのだろう。
このような意識の下では、グレースピリオドの導入に対して、研究者は前向きになるものと考えられる。

*(財)未来工学研究所 主任研究員
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2008年05月21日

[特許]職務発明対価算定における包括クロスライセンスの考慮

大塚理彦=福田あやこ=島並良「判評(東京地判平成19年1月30日判時1971号3頁)」NBL881号(2008年)13頁以下 読書メモ

■論文の概要
キヤノン職務発明事件〕(東京地判平成19年1月30日判時1971号3頁)の、職務発明対価算定の方法について肯定的立場から整理・分析を行っている。
同判決は、自己実施とライセンス供与が同時に行われている場合について、自己実施による部分の超過利益を否定しなかった。これは一部の判決(大阪地判平成17年9月26日判タ1205号232頁、東京地判平成18年6月8日判時1966号102頁)とは異なる判断であるが、権利者がライセンス供与相手を限っている場合などには超過利益があると考えられることから、妥当な考え方と論者は評価している。
さらに進んで、本判決がライセンスバック契約について実質的に判断し包括ライセンス契約として算定の基礎としたことについては、契約の形式にとらわれない点について賛成しつつも、本件の特殊事情である、使用者が圧倒的な市場シェアを有することに鑑みて、相手方の特許の価値は当事者間でほぼ考慮されていないと考えられることを考慮するべきと指摘している。

■私見
原判決は非常に長く、やもすると分析をしたくなくなるものであるが、その意義を整理した点できわめて参考になる。
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2008年05月07日

[特許]地方は特許流通を生かしているのか?(基礎的な観察)

地域の再生のためには中小企業の振興が重要だ、という意見がある。その具体策は人によりまちまちではあるが、単に一時的な資金を提供するだけでは、かえって産業構造の転換ができず、将来の解決にならないように思う。しかし、中小企業では、研究開発に割くことができる資源が十分でなく、新たな事業展開が難しいという現状もある。

そのような研究開発の課題を少しでも解決する方法の一つが、技術移転や特許流通であろう。適切なマッチングができれば、研究開発が十分できな企業であっても新事業への展開が可能になる。

では、その中の特許流通は現実に地方再生に役立っているのだろうか?地域は適切に特許流通を生かしているのだろうか?この問いを考える基礎的な情報を集めてみた。



■地域間の特許流通の現状―特許流通アドバイザーによる特許流通を参考に―

どのような特許流通が行われているか、通常は公表されていないが、国が整備した特許流通アドバイザーを介した取引については、おおよそのデータが公表されている。これを参考とする。

特許流通アドバイザーによる特許流通のライセンサー(特許提供者)の多くは、TLOである(注1)。これは大学、公的研究機関からの特許の移転が盛んに行われていることを意味する。他方、ライセンシーは大半が中小企業である(注2)。

ライセンシーとライセンサーの所在地をもとに、地域間の主要な取引の様子を図に示した。矢印の先がライセンス先を表し、矢印の太さは取引件数を表している(注3)(具体的には平成9年から平成19年11月までの成約件数が累積100件以上のもののみ記した)。詳細は下表の通りである。
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関東、近畿に対しては周辺地域から多数の特許が移転されていることがわかる。とくに近畿は積極的に特許の移転を受けている様子がうかがえる。

■考察
大学、公的研究機関からのライセンス=アウトの場合、地域への貢献という観点から拠点を置く地域への移転が多少優先されるかもしれないが、基本的にライセンス先に地域的な偏りが生じるとは考えにくい。そうであるならば、地方であっても多数の特許の移転を受ける可能性はある。

しかしながら、現実は大都市を抱える地域に特許が移転する形となっている。これはなぜであろうか。2つの可能性がある(この可能性は併存しうる)。

1つは、地方に研究開発型企業が多く、これらが全国規模で特許流通を行っている可能性、2つめは、地方の企業が全国的な特許流通を生かしきれていない可能性である。

上記のデータだけでは即断はできないが、興味深い点ではある。

後者の場合、都市部、特に近畿での特許流通の効果を参考にして(要は効果が乏しいのであれば奨励の必要はない)、地域として流通促進の要否を検討する必要があるように思われる。


(注1)独立行政法人工業所有権情報・研修館ウェブサイト「特許流通促進事業の成果について」
http://www.ryutu.inpit.go.jp/about/seika_top_b.html
(注2)この点で、特許流通アドバイザーの取り組みは地域の再生に積極的に関与していると言えよう。
(注3)前掲注1サイト http://www.ryutu.inpit.go.jp/about/10000seika_cc.html
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2008年03月27日

[特許]アメリカの中に先願主義へ転換を嫌がる声がある理由は何か?

米国の特許法改正作業は、まだまだ議論が続いているようである。最大の争点は、損害賠償額算定規定であるとはいえ、主要な争点の一つに先発明主義への転換があることは間違いない。

では、なぜアメリカの中に先願主義へ転換を嫌がる声が少なからずあるのだろうか?少なくともグローバルな展開をしている企業にとっては、他の主要国と制度が整合している方が有利であるように思う。個人発明家や大学にせよ、世界に潜在的ライセンシーがいる。彼らにとっても、同じような制度の方が望ましいのではないだろうか。

あるいは、先願主義に比べ先発明主義には明白に合理的な利点があるのだろうか。合理的な利点の有無を少し考えてみた(注1)。(私は米国特許制度に明るくないし、しかも世にある多くの先行研究に目を通せていないので下らないことを言っているかもしれない。その場合はご教示いただければ幸いである。)

■先発明主義は個人発明家、中小企業にとって公平な制度か?
先発明主義を擁護する見解は、先願主義への批判として、次の理由を挙げる(注2)。
 ○先願主義は出願のための資本・労力の投下を、発明の完成まであるいは完成直後に求めることになり、発明完成のための資本・労力を削ぐ。
 ○出願のための資本・労力は大企業ほど割きやすく、個人発明家・中小企業にとって不公平である。

確かに前者については否定の余地はない。しかし後者は抽象的に一般化できるのだろうか。実証が必要ではないだろうか。私も実証できている訳でないので非常に不毛な話になるが、次のような批判を思いつく。
 ○大企業よりも個人発明家・中小企業の方が、出願の是非判断を迅速に行うことができ、想起の出願準備をできる場合が少なくないのではないか
 ○特許代理人が一般化したいま、大企業と個人発明家・中小企業との間で出願のために割く資本・労力の差は「不公平」と言えるほど大きくないのではないか

また、後者については、現状のアメリカの制度は次の理由から個人発明家・中小企業にとって不利であるようにも思う。
 ○グレースピリオドがあるため、最低1年間権利関係が安定しない。これにより、特定の特許に依存した事業展開を行う場合、特許権を担保ないし収益源とした資金調達を行うことが、先願主義に比べ遅れることとなる。これは資本力に劣る個人発明家・中小企業にとって不利ではないか。(なお米国の制度では、出願後、第三者が当該発明に関し、特許権取得をする可能性がある。これは、日本や欧州の制度に比べ、事業化に対する大きなリスクと考えられる。そのようなリスクを負う個人発明家・中小企業が十分な資金調達ができるのだろうか。)

■誰が喜ぶのか?
現状の制度は、近時、個人発明家にとって有利に働いていないとの指摘もある(注3)。

他方で、大学を中心とする研究機関にとっては、研究成果を発表し、事業化のパートナーや応用研究のパートナーを募った後で、権利化の有無を判断できるというメリットが想定される。
米国では、大学からの研究成果の公表が多いとの指摘もある(注4)。このような研究成果の公表は、先発明主義、あるいは、グレースピリオドがあることに起因する合理的な行動なのかもしれない。

先発明主義に喜ぶのは大学であり、その大学が世界的に見て強いから、先発明主義、少なくともグレースピリオドを維持したい、というロジックがあれば面白い。この点は、今後注視したい。

(注1)これを考える材料にと思い、Suzanne Konradさんというシカゴ・ケント大の大学院生の論文The United States First-to-invent System: Economic Justifications for Maintaining the Status Quo, 82(3) Chicago-Kent L. Rev. 1629-1654 (2007) available at pdf" target="_blank">http://lawreview.kentlaw.edu/articles/82-3/Konrad%20Author%20Approved%20Edits(H)(P).pdf を読んだ。学生さんの論文とはいえ、先発明主義擁護の立場から、しかも経済学的分析ということで、我々が見落としている先発明主義の利点の発見に期待したが、失礼ながら粗末な内容であった。経済学的分析とはほど遠いものであったし、立論に根拠が無かった。せめてcitationに参考となるものはないかと願ったが、それも期待できなさそうである。これを拡大解釈することは望ましくないが、アメリカの先発明主義擁護の議論はそんなものなのだろうか、と思ってしまう。
(注2)id at 1634はこれを所与のものとしている。
(注3)米国上院公聴会でのGerald J. Mossinghoff氏の発言。吉田哲「米国の特許法改正における主要な論点と産業界の反応(中)」知財Awareness 2005年9月15日記事 http://chizai.nikkeibp.co.jp/chizai/gov/nara_yoshida20050915.htmlも参照。
(注4)日経産業新聞 2008年3月25日記事「オープン化が変える知財戦略」
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2008年01月09日

[特許][時事]秘密特許制度実現への本気度

昨年12月、本ブログ「[時事][特許]秘密特許制度の導入を検討しているらしい」で取り上げた秘密特許制度であるが、特許法を所管する上級官庁である経済産業省は本腰を入れていることが、NBLに寄せられた知的財産政策室長の論稿(注1)から窺えた。

論稿によると、技術情報流出対策が2008年度の知的財産政策の中心の一つであるとし、具体的な問題事例として、安全保障技術の流出事例が取り上げられていた。ここから上記のように読み取ったのであるが、もし間違っていたら恥ずかしい。(なお、平成20年度予算では特に記述されていない。お金がかかるものではないからかもしれないが。)

なお、秘密特許制度については、簡単に調べてみたところでも各国、異なる制度のようである。主には、「制限される内容は何か(とくに実施も制限されるか)」「異議を申し立てることができるか」「補償金を請求することができるか」が違いであると考えられる。

参考までに、いいかげんな調査結果を貼付ける。これは暫定版であるし、なぜ米、英、独との比較を選んだかと問われると、単に好みで、としか言えないような、いい加減な代物である。この点はご海容いただきたい。
secretpatent.jpg(出所:筆者作成。暫定版。)
(注1)中原裕彦「これからの知的財産法制の展望」NBL872号(2008年)37頁以下。

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2007年12月31日

[特許]通常実施権等の登録制度の改正の方向性

産構審知的財産政策部会特許制度小委員会通常実施権等登録制度ワーキンググループ報告書《経済産業省へリンク。PDF》が公表されている。以前から議論のあった(注1)、通常実施権の登録制度についての見直しについて具体的な法案の方向性が示されたものと言えよう。

今後の備忘として報告書の内容をまとめた(注2)。

■報告書要旨の整理
法改正の提案項目としては、
●出願段階における登録制度の創設
・出願段階における通常実施権・専用実施権のライセンスについて登録する制度を創設。
特許を受ける権利者が破産した場合でもライセンシーを保護する制度とする。補正・分割があった場合においても引き続き効力を有する。出願の放棄・取り下げに当たっては登録されたライセンサーの承諾を要件とする。)
・特許を受ける権利の登録制度を創設。

●通常実施権等登録制度の見直し
・通常実施権・専用実施権の登録記載事項から、対価に関する事項を除外する(任意的記載事項としても扱わない)。
・通常実施権の登録記載事項の開示に当たっては、通常実施権者の氏名および権利の範囲については一定の利害関係人にのみ開示する。
(専用実施権の登録記載事項については全て開示する現行制度を維持。特許を受ける権利の登録についても同様に、通常実施権者の氏名・権利範囲は一定の利害関係人のみ開示し、専用実施権については全部開示。)
●サブライセンスの保護
・特許権者からのサブライセンスの授権に基づき、サブライセンシー=サブライセンサー間で成立した通常実施権(サブライセンス)の登録に当たって、特許権者=サブライセンサー間の許諾契約証書の提示を不要に。
(ただし、共同申請の原則は変わらない)
●登録の効力発生時の見直し
・登録申請受理時から効力が発生(現在は登録時)。
(ただし運用上、申請受付時に申請があった旨の登記、または、受付から登録までの期間中特許原簿の閲覧を禁止する、などを求めている)


今後の検討項目として残されたものとして、
●通常実施権登録制度の見直し
・独占的通常実施権である旨を任意的記載事項とする点。
・通常実施権の登録の単独申請を許容する点。
●サブライセンスの保護
・サブライセンシーを特定しない場合の、不特定のサブライセンシーの通常実施権の登録を許容する点。
・サブライセンスのかかる授権の特約の登録を任意的記載事項として許容する点。

■改正の方向性の影響として考えられるもの
(1)特許を受ける権利の登録制度の創設について

特許を受ける権利の登録制度が創設されることにより、権利が移転された場合には、譲渡人・譲受人の共同申請が必要なこととなる。手間が増えるわけであり、利用者にとってはつらい点であろう。報告書6頁が述べているように、特許を受ける権利の移転は年間20000件程度存在し、特許権の移転の約2倍であることに鑑みると、その影響は小さくない。とくにTLOには特許を受ける権利の移転を頻繁に活用しているとも聞く。影響が大きいのではないだろうか。反発も想定される。

他方、無権限の者が虚偽の譲渡証明書を偽造することで、特許を受ける権利を移転することはかなりの程度防ぐことができるようになる。これに伴って、冒認出願に基づく特許権の移転登録請求として重要な判決である〔生ゴミ処理装置事件最高裁判決〕(注3)はその意味を大きく失うことになるだろう(真の権利者出願後の無権限者による特許を受ける権利の移転が考えにくくなるためである)。

(2)ライセンス条件の内、対価を記載事項から外す点について
報告書33頁の脚注23で述べられているように、商標権のライセンスの対価の記録に関しては、商標法に関するシンガポール条約(注4)が対価の記録を禁止しているところである。従来、ライセンス対価の登録が必要であったことが、日本の同条約の批准の障害の一つとなっていたと考えられる(注5)が、本提案に沿った改正がなされると、批准に向けて前進するものと思われる(注6)。

■検討項目のうち今後も注目すべき点
(1)通常実施権の登録の単独申請の許容について

報告書33頁が指摘するように、特許法条約批准のためには、単独申請を導入する必要性が生じる。(特許法条約に基づく規則16(1)、17(1)、17(9)が単独登録を求めているためである)。特許制度の国際的ハーモナイゼーションへのニーズが高いならば、この点は近々に議論の俎上に再度上るのであろう。


(注1)本ブログ「[つぶやき][特許]速い!」(2007年11月4日記事)、「[特許]特許権の通常実施権登録制度見直し議論が期待できそう」(2007年9月22日記事)参照。
(注2)なんら考察が加えられておらず、単なるまとめ資料的価値しかなく恐縮だが…。
(注3)最判平成13年6月12日民集55巻4号793頁。
(注4)出願手続きの共通化に資する条約である。2006年3月27日採択。なお、日本は未批准。詳細は、特許庁総務部国際課「商標法に関するシンガポール条約の採択について」《特許庁へリンク》参照。
(注5)『知的財産推進計画2007』において、同条約批准に当たっての課題の検討が要対応事項として挙げられている。
(注6)なお、上記報告書は特許権に関するものであり、直接的には特許権の通常実施権の登録制度の変更に留まる。しかしながら、特許登録令45条の改正につながることが予想され、商標登録令10条が同条を準用していることから商標の通常実施権登録制度の変更にもつながるだろう。
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2007年11月25日

[特許]独占的通常実施権者による損害賠償請求権と、権利者による損害賠償請求権の関係について示した興味深い判例

大阪地判平成19年11月19日(平成18年(ワ)第6536号、平成18年(ワ)第12229号)判例集未登載

本判決は、独占的通常実施権者による損害賠償請求権と、権利者による損害賠償請求権の関係について興味深い解釈論を示していると思われるので紹介する(注1)。

1.事案の概要
(1)事実の概要
X1は爪切りに係る考案につき実用新案権(以下、本件実用新案権という)を有する者であり、X2はX1を代表者とする有限会社であり、本件実用新案権につき独占的通常実施権を有すると主張している。X1らは、Yが輸入するイ号物件が本件実用新案権を侵害するものであるとして、技術評価書を添えて警告を行ったところ、Yはイ号物件につき本件実用新案権の侵害を避けるべく改造をし、ロ号物件を製造した。
X1らはこれら一連の行為が本件実用新案権を侵害するとしてYらを相手取り、以下の請求を行った。

(2)原告の主な請求
X1、X2はイ号物件、ロ号物件双方が本件実用新案権の技術的範囲に属すると主張し、X1は、(請求1)本件実用新案権侵害による損害賠償請求(なお、実用新案法29条3項に基づき損害額を計算している)、(請求2)本件実用新案権侵害によるイ号物件の輸入差止、および、イ号物件・ロ号物件の販売差止・廃棄請求を行い、さらに、(請求3)X1らが取得したイ号物件の廃棄請求権の侵害または債務不履行に基づく損害賠償を求めた。
X2は、(請求1’)本件実用新案権に係る独占的通常実施権侵害による損害賠償請求(なお、実用新案法29条2項に基づき損害額を計算している)、(請求2’)本件実用新案権に係る独占的通常実施権侵害によるイ号物件の輸入差止、および、イ号物件・ロ号物件の販売差止・廃棄請求を行った。
なお、イ号物件が本件実用新案権を侵害していることはYも認めている。

2.判旨
裁判所は、ロ号物件につき検討し、本件実用新案権の技術的範囲に無いと認定した上で、Yはロ号物件への改造により侵害を回避したとして、(請求2)についてはイ号物件の輸入の差止について認め、それ以外は過剰な差止であると述べた。
(請求3)および(請求1)については以下のとおり判断した。

(1)(請求3)侵害品の改造行為は侵害品の廃棄請求権の侵害にあたるか「実用新案法27条1項…(中略)…の差止請求権は,所有権に基づく物権的請求権と同様,侵害行為やそのおそれが存するに連れて不断に発生し続け,侵害行為やそのおそれが消滅した場合に発生しなくなるものにすぎない(すなわち,差止請求権をある時点で取得し,それが存続するという性質のものではない。)。
そのため,侵害行為やそのおそれの存否は,この請求権の存否を確定すべき時(事実審の口頭弁論の終結の時)を標準として定められるべきものであり,その標準時点を離れて差止請求権の「取得」や「存続」は観念できず,したがって,「取得した権利」の「消滅」や「無になること」もやはり観念し得るものではない。そして,実用新案法27条2項が規定する侵害行為を組成した物の廃棄請求は,差止請求権の行使を実効あらしめるために,差止請求権に付随して認められるものであるから,廃棄の必要性についても,差止請求権と同様に事実審の口頭弁論の終結の時を標準として定められるべきものであって,その標準時点を離れて廃棄請求権の「取得」,「存続」も,取得した権利の「消滅」,「無になること」も観念し得るものではない。」

(2)(請求1)(請求1’)損害賠償、とくに独占的通常実施権者による損害賠償請求権と、権利者による損害賠償請求権の関係について警告後に行われたイ号物品の輸入分について、X1に対しては実用新案法29条3項に基づき、X2に対しては29条2項に基づき、それぞれ損害賠償が認められた。
「独占的通常実施権が設定されている場合には,…(中略)…,独占的通常実施権が無償で設定されていても,実用新案権者がなお実用新案法29条3項に基づく損害賠償を請求し得ることはこれを認めることができる。しかし,この場合に,独占的通常実施権者に同条2項の類推適用による損害賠償請求を認め,同時に実用新案権者にも同条3項による損害賠償請求を認めて,両請求権が単純に並立するものと解するときには,前記のような専用実施権が設定された場合以上の逸失利益を権利者側に認めることになり,均衡を失するものというべきである。また,同条2項による損害額の算定は,侵害者が実施行為を全く行わなかった場合を想定するものであるのに対し,同条3項による損害額の算定は,侵害者が実施行為を行ったことを前提とするものである点で,両規定は互いに両立しない状況を想定ないし前提しているのであるから,この点からも両請求権が単純に並立すると解することはできない。これらの点を踏まえると,独占的通常実施権者が有する同条2項の類推適用に基づく損害賠償請求権と実用新案権者が有する同条3項に基づく損害賠償請求権とは,重複する限度で連帯債権の関係に立つものと解するのが相当である。」
(なお、太字は筆者)

以上のように判断し、X1らの請求の一部を認容した。

3.若干の考察
(1)廃棄請求権の侵害について
妨害排除というものであること、クレーム外であれば妨害排除の必要が無いことに鑑みれば、当然の判断である。興味深い点は、おそらくこのように正面から述べた判決は少ないであろう点である。

(2)独占的通常実施権者による損害賠償請求権と、権利者による損害賠償請求権の関係について(a)これまでの裁判例
従来のものを見ると、管見の限り、権利者と独占的通常実施権者双方からの請求の場合は、独占的通常実施権者の損害額から権利者が受けるべき利益額を控除するものばかりである(注2)。また、明確に連帯債権であることを否定した事案も存在する(注3)。
本件のように連帯債権であると判示した例は見当たらなかった。

(b)私見
理論的には、損害の性質が異なり連帯債権関係にあるとすることには疑問を覚える。しかし、本件のように実質的に同一人と考えられる場合には、X2が強制執行手続きを行えば一度に全てが満足するという事実上の利点はある。理論上の問題も含めて研究したい点である。

4.雑感
判決文をお読みいただくと感じられると思うが、原告側の主張に雑さを感じてしまう(注X)。また、実際に認定された損害賠償額は11万円わずかに留まり、訴訟経済的にもまったく見合っていないものとなっている。

(注1)なお、恥ずかしながら手元の資料が不足しており、基礎的な先例・学説の分析も粗くしか出来ていない。それゆえ「思われる」にとどめている。
(注2)大阪地判平成3年5月27日知裁集23巻2号320頁。なお、当事者の主張自体が権利者の受けるべき額を控除した額の請求を行っており、これが認められたものとして東京地判平成17年3月1日判例時報1969号108頁。
(注3)東京地決昭和63年4月22日判例時報1274号117頁(盛岡一夫「判批」発明86巻3号(1989年))。
(注4)もっとも典型的に現れているのは次の箇所である(なお判決文に書かれているだけであるので、裁判官が誤って理解したという可能性も万に一つも無いわけではあるが)。Yがイ号物件を改造した行為を、<<第三者による>>X1のYに対する廃棄請求債権の侵害であると主張している。Y側が明確に指摘しているとおり、この場合Yは第三者に当たらない。初歩的な誤りをされているのはいかがなものか。
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2007年11月11日

[特許][時事]消尽理論の到達点と課題:キヤノンインクカートリッジ事件最高裁判決

■知財高裁ロジックを覆した最高裁判決に驚いた
先日、本ブログで「[時事]キャノンインクカートリッジ事件終結へ」(2007年11月2日記事)として、キヤノンインクカートリッジ事件上告審を取り上げたが、その段階では、最高裁は知財高裁の判断基準を踏襲するものと思い込んでいた。

当該記事で述べたように、知財高裁の役割は高度な事実認定を果たすことであるのは間違いない。とはいえ、法解釈についても事実上影響力が大きいのでは、と感じていたからである。

しかし、実際に判決(最判平成19年11月8日平成18年(受)第826号)が下って驚いた。
判決は次のように締めくくっていた。
原審の判断は,結論において正当

つまり、知財高裁のロジックについては、これを覆したのである。

■知財高裁ロジックとの違い
ご存知のように、原審の知財高裁平成18年1月31日判決(平成17(ネ)10021号)では、
(ア) 当該特許製品が製品としての本来の耐用期間を経過してその効用を終えた後に再使用又は再生利用がされた場合(以下「第1類型」という),
又は,
(イ) 当該特許製品につき第三者により特許製品中の特許発明の本質的部分を構成する部材の全部又は一部につき加工又は交換がされた場合(以下「第2類型」という)
には,特許権は消尽せず,特許権者は,当該特許製品について特許権に基づく権利行使をすることが許されるものと解するのが相当である。

との2類型を提示していたが、これに対して最高裁は、
特許権者等が我が国において譲渡した特許製品につき加工や部材の交換がされ,それにより当該特許製品と同一性を欠く特許製品が新たに製造されたものと認められるときは,特許権者は,その特許製品について,特許権を行使することが許されるというべきである。
そして,上記にいう特許製品の新たな製造に当たるかどうかについては,当該特許製品の属性,特許発明の内容,加工及び部材の交換の態様のほか,取引の実情等も総合考慮して判断するのが相当であり,当該特許製品の属性としては,製品の機能,構造及び材質,用途,耐用期間,使用態様が,加工及び部材の交換の態様としては,加工等がされた際の当該特許製品の状態,加工の内容及び程度,交換された部材の耐用期間,当該部材の特許製品中における技術的機能及び経済的価値が考慮の対象となるというべきである。

と述べ、第一類型と第二類型を融合させたような、従来見られなかった判断基準を示した。

従来見られなかったとはいえ、多くの議論を巻き起こした消尽理論の理論的な到達の一つといえる判決であることは間違いない。これまでの判例の中で示されていた理論の問題点を解消する論理構成となっている。

知財高裁ロジックが、製品を判断基準としていると理解できる第一類型と、クレームを判断基準としていると理解できる第二類型を並べたことで、理論的な「なぜ」を提供していたことに比べると、理論的な整合性が保たれている。

■最高裁ロジックの課題?
しかし、結局のところ、総合考慮に持ち込まれてしまったことには、予測可能性の点で課題があるように感じる。

原審との比較で読むと、第一類型に該当しても加工の内容いかんでは特許権が及ばないこととなるように思われる。また、第二類型については本質的部材の交換があっても取引の実情いかんでは特許権が及ばないことになるように読める(注1)。
(これらは特許権者に不利なように働くので、取引の安全を害する可能性が低い点でよいのかもしれないが。)

他方、読みようによっては、本質的部材の交換でなくても、取引の実情等をふまえ権利行使が認められる可能性もある。

いずれにせよ、判決の積み重ねを待たないことには基準がわからなくなった点には、もうちょっとがんばって精緻化してくれても良かったのに…というわがままな願いを覚えなくもない。

■参照すべき記事
なお、本判決に関しては、『企業法務戦士の雑感』のFJneo1994さんが「[企業法務][知財] 決着が付いた日。」(2007年11月8日)で詳細に分析され、コメントされている。

FJneo1994さんは、理論的に整理されている点で本最高裁判決を評価なさっている。私とは評価が異なっているが、学説上の議論も盛り上がることがあれば、面白い(注2)。

また、FJneo1994さんはキヤノン特許部隊のクレーム書き能力のすばらしさも指摘されている。私はクレーム書きには全く明るくないためその評価すらできないが、丸島儀一氏が紹介されているように同社の知的財産部自体の活発さは特筆すべきものと言えよう。

(注1)知財高裁は「特許製品中の特許発明の本質的部分を構成する部材の全部又は一部につき加工又は交換がされた場合であっても,当該製品の通常の使用形態,加えられた加工の程度や取引の実情等の事情により「生産」に該当しないものとして,特許権に基づく権利行使をすることが許されないこともあり得るという趣旨であれば,判断手法として是認することはできない。」として同様に批判を述べられている。しかし、それが均衡点である、と考えることもできるので、理論上クリティカルな批判ではないのかもしれない。
(注2)私の考えのようなしょぼい見解が一蹴されて終わりという可能性が高いが…。
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2007年11月04日

[つぶやき][特許]速い!

特許法の通常実施権等登録制度の改正の議論があっと言う間に進んでいる。
既に報道発表があったように、改正の方向性は固まっており、今月中にパブリックコメントが出される予定のようである(注1)。

■スピード感への感想
昨年、特定通常実施権登録制度が導入された際の審議で、包括ライセンスを保護する方向での改正が3回の審議で勧められたことに対し、委員の中山信弘教授から「ちょっと性急すぎる」との批判があがっていた。本件は、包括ライセンスのような法体系に大きく影響を与えるものではないし、知的財産研究所や学説上の議論もそれなりに深化しているものではあるが、やはり、半年足らずの審議で改正へ向かうと言うのには違和感が無いではない。

もちろん、迅速な法改正が必要であることは理解しているので、私の持っている違和感の根には、「だったら、なぜ今まで変えなかったんだ?」という思いがあるのかもしれない。客観的に見れば、迅速な議論をおこなっている特許庁のアクティブさが賞賛されるべきであるようにも思う。

■改正の方向性
配布資料と議事録からは、おおよその方向性として、以下の方向性が窺える。
[ライセンシー保護関係]
・通常実施権、専用実施権ともに対価に関する事項を登録事項から外す。
(なお、任意的登録事項にもしない。)
・通常実施権の登録において、その内容を証明する公正証書を添付した場合には、当事者の一方からのみの登記申請を認める。
・通常実施権の登録情報は、特定通常実施権登録制度と同様の段階的開示とする。
その他
・出願後の特許を受ける権利の移転は登録を効力発生要件とする。


このうち、通常実施権、専用実施権ともに対価に関する事項を登録事項から外し、しかも参考情報としての記載も認めない方向性であるようだが、これは、ライセンシーが新たなライセンサーと価格についての再交渉が必要となることを意味する。
通常実施権を登録していなかった者にとってはこれでいいかもしれないが、これまで通常実施権の登録制度を活用していた者にとっては困った事態であるように思う。

(注1)第3回通常実施権等登録制度ワーキンググループ 配布資料 資料8参照。
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2007年10月17日

[特許法]インド特許法の特徴を聴いてきた

知財研主催のシンポジウム「インドの知的財産制度と企業戦略」を聴いてきた。インドの知的財産制度の情報自体が乏しいので、貴重な機会である。

シンポジウムは、インド政府の知的財産制度への取り組みの紹介が中心であった。参加者から基礎的な質問が多く出されていたことを考えると、日本においてインドの知的財産制度への理解はまだまだ低いのだろう。

かくいう私もインドについては全く知らなかったので良い勉強になった。

■インドにおける知的財産制度の特徴
・1998年のパリ条約加盟以降、国際的なハーモナイゼーションを行うべく、法改正を実施。制度上の相違点は解消しつつ有る。
・相違点は、(1)伝統的知識・遺伝的資源の取扱い、(2)特許要件の違い、(3)プログラム特許の取り扱いの違いである。
・(1)遺伝的資源に基づく発明を特許出願する場合、出所を明示する義務がある。違反すると取り消し事由となる。
・(2)組み合わせ発明を中心として、高いレベルの進歩性(明白な効果)が特許法上求められてる。それゆえ、医薬品に関しては特許付与の機会が少ないと批判されている(注1)。
・(3)プログラム特許は、特許付与の対象として認められていない。プログラムにより特定の機能を実現する装置として、特許付与の対象になるかについては、2004年段階でこれを肯定する規則が定められたものの、ソフトウエア協会などの反対を受けて2005年に同規定が削除された。
・知的財産権の侵害に対しては、裁判所が独自に排除命令を出すことが可能…らしい。(憲法226条、227条に基づくようだ)。

■インドの知財制度に触れての感想
遺伝的資源の取り扱いについては、インドネシアと並んでこれらの保護に熱心な国らしい特徴である。
中国と異なり、エンフォース面で優れている、とのことであったが、日本の特許法と類似している(というよりはかなりの程度参照されたと思うのだが)中国特許法と異なり、インド特許法はある程度の独自性を保っている(注2)ことを鑑みれば、一長一短と言えよう。
進歩性についてはユニークであり、実際、特許登録件数は産業の規模に比べて少なめである。

(注1)スイスの製薬会社novartis社が、そのような基準はTRIPs協定に反すると主張して、登録査定を拒絶した審決に対し取消訴訟を提起したが、マドラス高裁はこれを棄却したようである(シンポジウムにおける山名准教授の紹介による)。
(注2)山名准教授はこれをイギリス法の伝統を引き継いでいるためと理解されていた。
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2007年09月22日

[特許]特許権の通常実施権登録制度見直し議論が期待できそう

■特定通常実施権登録制度創設に引き続き、通常実施権登録制度も見直しへ
今年の5月に産業活力再生特別措置法改正法により、包括ライセンスのライセンサー保護につながる特殊な通常実施権登録制度が導入された。

そこでの議論は、ほとんど利用されていない通常実施権登録制度そのものについての見直しを射程とするものではなかった。
(本ブログ「[特許]特許権の新たな通常実施権登録制度」(2007年7月18日)参照)

本質的な問題を解決していない、という問題意識があるのか、この7月から通常実施権登録制度についてのワーキングループが設けられた。産業構造審議会知的財産政策部会特許制度小委員会 通常実施権等登録制度ワーキンググループである。まだ議論が始まったばかりであるが、その動きは注目に値する(注1)。

■充実した議論への期待
通常実施権等登録制度ワーキングでは、事務局が緻密に整理した論点が挙げられている。(第1回ワーキングループ配布資料4「通常実施権等登録制度の見直しに係る論点について 」《特許庁へのリンク》。本腰を入れた議論が行われるであろうことを窺わせる。特許庁やるじゃん。

主には、
・必要的登録記載事項の見直し(とくに対価額の取り扱い)
・段階的開示制度の導入の検討
・通常実施権者からのサブライセンスの保護
・出願中の権利についての通常実施権
が議論の中心となるようだ。

2つ目の論点である段階的開示制度の議論は特定通常実施権登録制度が参考になるのかもしれない。

4つ目の論点である出願中の権利についての通常実施権については、補正との関係を含めて考える必要があるとされていた。私は、価値観のレベルではあるが、補正に関与したいというニーズは小さいのではないかと考えている。
委員の一人である茶園教授は、出願中の権利についての通常実施権は「補償金請求権を行使しない旨の宣言にすぎない側面」と、「特許の通常実施権の予約的側面」があると指摘されていた。前者であれば補正に関与する必要は無い。後者であっても、出願公開前は、多くの場合ライセンシーはコアとなる技術思想のみを把握しているものと推測される。

ともかくも先に挙げた特定通常実施権登録制度の議論において、拙速であるとの批判がなされていた(注2)ことを鑑みれば、今回のワーキングループでの議論は、腰の入った良い議論となることを期待したい。
(注1)特定通常実施権登録制度は経済産業省の知的財産政策室が担当しており、他方、こちらの議論は特許庁の制度改正審議室が担当している。一見すると縄張り争いの香りも感じてしまうが、注2に挙げたように違った理由があるのではないかと思っている。
(注2)もっとも、三角合併などによる不都合の懸念に対処することが急務であったことが予想される。
posted by かんぞう at 22:41| Comment(0) | TrackBack(0) | ☆特許 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2007年09月16日

[特許]専用実施権の数量的制限が分からない

■数量的制限を認めない見解への疑問
専用実施権には制限を課すことができるものの、数量的な制限を課すべきではないという見解がある(注1)。その理由は、同一内容の専用実施権を複数設定できることになり、専用実施権の排他性と言う趣旨を没却するからであると述べている。

もちろん、「排他性」を金科玉条にするならそのような考え方もうなずけるが、そもそもの出発点に疑問を感じる。「特許権者の排除すら可能にする」という点は、専用実施権制度においてそこまで大事なのか?

設定した範囲での「排他性」を確保し、実施権者に対して損害賠償請求権と差止請求権を与える制度にすぎないと理解するならば、数量制限も許されることになると考えられないだろうか。

■数量的制限を認めた場合の不都合
もっとも、数量的制限を認めた場合の不都合は2点ある。

1点目は、当該特許権を実施したい第三者が誰に許諾を求めたらよいか分からない点である。場合によっては、専用実施権者と結んだライセンスが無意味となり、二重払いのリスクを負うかもしれない。

ただし、これに対しては、数量的制限という専用実施を結んだ段階で他の者へのライセンスを原則許容しない意思表示だと理解でき、これは問題がない、と言う立場もありうる。決定的な不都合とはいえないのではないか。

2点目は、侵害者が存在した場合の、損害賠償額の算定方法である。
特許権者と専用実施権者が併存することで、侵害者の側がそれぞれにいくら払えば良いかわからない、という不都合が出てくる。もちろん、特許権共有の場面でも生じる問題に似ているが(注2)、この場面での特徴的な不都合は、持ち分の合意があり得ないため、損害額を按分するという考えが採りにくい点にある。これはかなり悩ましい。

以上のように考えると、数量的制限を課すことができないとする理解は合理性があると言えるのかもしれない。とはいえ、否定する理由には納得しがたい点もある。誰か解きほぐしていただけないものか。

(注1)中山信弘『工業所有権法(上) 第2版増補版』(弘文堂、2000年) 436頁。本稿は中山先生の見解にケチをつけてみようという、ドンキホーテ記事である。
(注2)特許第2委員会第2小委員会「権利行使から見た共有特許権に関わる問題」知財管理50巻(2000年)11号1659頁以下参照。
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2007年08月16日

[特許]米国における進歩性判断手法をめぐる重要判決(KSR事件連邦最高裁判決)についての覚書

相田義明「発明の進歩性・非自明性について――KSR米国連邦最高裁判決に接して」ジュリスト1339号(2007年)143頁以下を読んでみたのだが、米国の進歩性判断基準について全く知識が無いため、いまいちよく分からなかった。そこで、簡単ながら判決意義について調べてみたので、覚書を残すこととする。誤りがあればご指摘いただければ幸いである。

■KSR事件連邦最高裁判決(注1)の意義

進歩性判断にあたっては当業者の技術的常識を考慮すべきである、と述べた点が最大の意義である。

争点となったのは、連邦巡回裁判所や米国特許庁が実務基準として用いてきたTSMテストの是非であった。TSMテストとは、既存の発明の組合せからなる発明(以下、組合せ発明)の進歩性判断に当たっては、当該既存発明から組合せ発明に至る「直接の示唆(teaching)が既存発明に存在」「なんらかの示唆(suggestion)が既存発明に存在」「組合せ発明完成への積極的な動機づけ(motivation)が既存発明に存在」している場合(以下、「TSMテストを満たしている場合」という)には進歩性を否定する、というもの(のよう)である。
連邦巡回裁判所はTSMテストを満たしていない場合に進歩性を肯定する実務傾向があったようである。

今回示された判決のロジックは次のように集約できる。
連邦巡回裁判所が用いるTSMテストは、法的評価を加える余地が乏しい。進歩性の判断は、法的判断であるとの前例があることから、TSMテストを進歩性充足の唯一の判断基準として用いることは、進歩性判断を法的判断から単なる事実判断に貶めるものであり、適切でない。
以上のように述べた上で、当業者の技術的常識を考慮して進歩性を判断している。
裁判所としては、TSMテストを満たす場合以外にも当業者の技術的常識を考慮して進歩性を否定される場合がある、言いたかったのだろう。

KSR事件判決の与える影響としては、前掲の相田調査官が指摘されるところであるが、日本など諸外国の実務に近づくものであり、世界特許への障害を一つ減らすものと考えられる。

■私見:KSR事件判決自体のロジックは自然

あくまで以上のような理解が正しいならば、という前提で私見を。

『TSMテストを満たすときに進歩性が否定される』、ということに対しては直感的に異論はない。だが、その逆の命題である『TSMテストを満たさないものは進歩性が肯定される』ということが正しいかは慎重に考えなければならない。本件連邦最高裁は後者の『TSMテストを満たさないものは進歩性が肯定される』という命題が正しくない、と述べたものと思われる。

ロジックとしては自然なものであるように思う。念のため弁図にまとめてみた。
KSR.PNG

逆に言えば、なぜTSMテストを厳格に適用してきたのかが不思議でもある。

■Web上のKSR事件米国連邦最高裁判決に関する情報
KSR事件についてのWeb上での情報は多い。インパクトの大きさを物語っている。優れたブログ記事などもあるのだが、ここでは次の2つを紹介するに留める。

原判決のエッセンスは、ジェトロ(知財研の客員研究員も兼任されている)の澤井さんが書かれたニュースレターが分かりやすい。
参照:澤井智毅『ニューヨーク発 知財ニュース』2007年4月30日記事
http://www.jetro.go.jp/biz/world/n_america/us/ip/news/pdf/070430.pdf

KSR事件最高裁判決の日本語訳には、神奈川大学の奥邨先生(注2)が取り組まれている。
有益な情報を公表していただいて、本当にありがたい。
参照:奥邨弘司『Digital & Law研究室資料倉庫』
http://dandlarchive.sblo.jp/

(注1)KSR International Co. v. Teleflex Inc. et al., U.S., No.04-1350 (2007)
(注2)著作権の間接侵害や検索エンジンキャッシュ問題などを研究されている、注目すべき若手研究者のお一人である。
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2007年07月18日

[特許]特許権の新たな通常実施権登録制度

平成19年5月11日に、産業活力再生特別措置法改正法案が公布された。
特許権の通常実施権を保護する新たな登録制度を盛り込んだものであり、知的財産権制度に与える影響は小さくない。1年6ヶ月以内に施行とのことであるから(注1)、遅くとも平成20年11月11日までに施行されることになる。
制度の概要と、審議過程から伺える課題を覚え書きとしてまとめてみた。

制度の概要
特許番号以外の何らかの特定方法(典型的には、製品)により外縁が定められた複数の特許権を対象にしている(典型的には、包括クロスライセンスの対象となる特許権)
●特許庁に登録すると、対抗力が発生する
●登録内容の開示は3段階の構造。
 ○誰でも請求できる「一般開示」はライセンサーの名称、登録対象外特許程度の情報に限られる。
 ○ライセンサーの特許権を取得した者・特許権の差し押さえ債権者・破産管財人が請求できる「登録事項概要証明書」は「一般開示」に加え、ライセンシーの名前も明らかになる。
 ○これらの者は条件付きで「登録事項証明書」を請求でき、登録された特許の範囲が明らかになる。

審議過程から伺える課題
長らく議論となっていた、知的財産権ライセンス契約の保護について一歩踏み出した法律であり、長らく何らかの制度設計を求めていた産業界のうち情報関連機器メーカーの委員は、本改正法の成立を歓迎しているようであった。

もっとも議論それ自体の拙速感は否めず、わずか3回の審議会での検討で終わってしまっている(しかも、最初の1回は、登録制度とは異なる法定実施権制度(注2)を提言しており、実質的に2回の信義であった)。知的財産法学者の委員から、拙速感へ批判と、知的財産法体系への影響への懸念が出されたことはうなずける。

審議からは、特定方法にも問題があると指摘がなされている。特許流通の阻害要素になりかねない点は存在するかもしれない。

知的財産政策室によると、これでライセンス契約の保護についての検討が終わった訳ではないと考えているようなので、運用から問題点を洗っていくことになるものと思われる。

また、原告適格については議論が深められていないようなので、運用上は問題となることが想定される。

参考となる資料
参考となるのは現在のところ次の2つである。

波多野晴朗=石川仙太郎(経済産業省知的財産政策室)「産業活力特別措置法等の一部を改正する法律における特定通常実施権の登録制度について―ライセンシーの事業活動を保護する新たな登録制度の概要」NBL860号(2007年)18頁〜29頁
経済産業省 産業構造審議会 知的財産政策部会 流通・流動化小委員会(第6回〜第8回)議事録

私見
開示の構造はうまい。制度的にはややこしくなるが、段階的開示はライセンスの秘密を守りたい側と、取引相手の安心とのバランスをとるものとして評価したい。ただ、条文上からは3段階目がいまいちわかりにくいという印象であった。

(注1)平成19年法律第36号附則。
(注2)知的財産研究所の報告書に沿った制度と考えられる。
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2007年07月10日

[特許]高部判事が指摘した今後の課題を読む

知財の世界で、時代に影響を与えてきた判事の一人、高部判事がこの春、知財部を離れた。それを機に、知財に関わった13年間を振り返って、今後の課題を指摘する論稿が発表された。知財の10年史としても面白いものであるし、また、高部判事の考え方が伝わってくるものであったので紹介する。

なお、同論稿は(上)(下)で大きく2つに分かれているため、それに沿った形でまとめることとする。

■高部眞規子「知的財産訴訟 今後の課題(上)」NBL859号(2007年)14頁〜22頁読書メモ

□この論文の意義

特許無効の抗弁とクレーム解釈に関して、特許権に関する最高裁判決3件(キルビー特許事件判決、ボールスプライン事件判決、リパーゼ事件判決)が有する意義について触れ、前者については、無効審判とのダブルトラックの問題について課題を指摘している。高部判事が指摘する問題意識は、他の裁判官にも共有される可能性があり、注目に値する。

□この論文の概要
(1)特許法104条の3における「明らか」要件読み込みの必要性
特許無効の抗弁がキルビー特許事件判決を受けて、平成16年改正で特許法104条の3が設けられたが、そこにはキルビー特許事件判決では存在した無効事由が「明らか」に存在していること、という要件が文言上は削除された。そのことにつき、高部判事は無効審判との判断齟齬の可能性にふれ、極力齟齬をなくすためには、104条の3においても「齟齬がおこらないようにする」という意味での「明らか」な無効を求める解釈をするべきと述べている。

(2)特許無効の抗弁の課題
特許無効の抗弁が導入されたことで、2点問題が起こったと高部判事は指摘する。

1点目は、ダブルトラックで有効性の審査がなされることとなった点である。
実質的な問題として、審理にかかる時間が伸び、また、当事者の負担が増えていることを指摘されている(注1)。
そこで、少なくとも、特許消滅後の無効審判請求については、損害賠償請求のみが問題となっているためであることから、侵害訴訟ないし確認訴訟における特許無効の抗弁で十分であることを指摘され(18頁)、*無効審判制度ではなく「職権審理が可能な特許異議制度」+「侵害訴訟における特許無効の抗弁」という制度設計が望ましいのではないか*(**間はかんぞうの読み取りであり、謝っている可能性あり)という制度論を述べられている。また、ダブルトラックから生まれる課題として、無効の抗弁の立証に失敗したにもかかわらず、なんらかの無効審判で無効が確定すると、再審が可能である点を取り上げている。高部判事の私見はかかる再審請求は信義にもとるとし、民事訴訟法338条但し書きの精神に則り、信義則に反するとして排斥すべき場合があるとも述べられている(19頁)。
参照:民事訴訟法338条(再審の事由)
次に掲げる事由がある場合には、確定した終局判決に対し、再審の訴えをもって、不服を申し立てることができる。ただし、当事者が控訴若しくは上告によりその事由を主張したとき、又はこれを知りながら主張しなかったときは、この限りでない。


2点目は、特許無効の抗弁により無効とされることを恐れて権利行使が抑制されている、という点をあげてる。特に近時、特許権侵害訴訟の認容率が低いため、訴訟を回避する傾向を生んでいることを懸念されている。

(3)クレーム解釈
キルビー特許事件判決により、公地技術除外説の意義は失われたとし、クレーム解釈はもっぱらリパーゼ事件判決の基準に基づくべきと述べられている。これにより、予測可能性が担保されることを利点として挙げている。

私見

ダブルトラック解消の制度設計論については興味深い点であった。
無効の抗弁による訴訟回避の弊害については、問題かもしれないが、ではそれをどう解消するかが触れられていなかった。この点をささやかながら考えてみると、無効の抗弁において進歩性欠如を理由とすることは極力謙抑的であるような運用に尽きるように思われる。新規性については判断が相違する可能性が他の事由に比べて高いと考えられる(というより、高そうに見えて、請求権者の権利行使の負のインセンティブになると考えられる)からである。
なお、現状では新規性欠如を理由として無効の抗弁を認容したものが多いが、これは世界公知を採っている以上やむを得ないものと思う。世界公知調査にはかなりの手間とコストがかかることから、よほどのことが無い限り調査はしない。そこでバランスがとれていることとするしかない。
(注1)負担を知りながら無効審判での審理を勧めるような侵害訴訟での訴訟指揮をする一部裁判体の傾向に批判的であることが窺えた。
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2007年07月04日

[特許]ひさしぶりの「ビジネスモデル」特許訴訟?

今朝の報道に次のようなものがあった。
賃金前払いは特許侵害」都民銀、三菱東京UFJ銀を提訴
 銀行が顧客企業の従業員向けに、賃金の一部を給料日前に前払いするサービスをめぐり、特許を持つ東京都民銀行が、よく似たサービスを提供している三菱東京UFJ銀行を相手取って、損害賠償などを求める訴訟東京地裁に起こしたことが、2日分かった。(asahi.com)

問題となった特許は、特許第3857279号(JP3857279)と推測される。最初の出願後、国内優先、分割出願等がなされているのでややこしいが、少なくとも一番古い部分は平成14年の出願として扱われることとなる。

具体的な発明はIPDLをご覧頂きたいが、ざっと見たところ、「給料を日払い計算して、任意の日に支払いを許可し、残金は定められた給料日に振り込む銀行用システム」であるようだ。

形式的にはソフトウエア特許だが、実質的にはビジネスモデル特許と言えるものではないだろうか。当初話題になったが下火になったビジネスモデル特許を巡る訴訟が提起されたならば、なかなか興味深い。

ただ、私が発明の概要を理解した限りでは、平成14年当時に果たして進歩性があるのか疑問である。少なくとも世界で誰かがやっているのではないか、という気がする。あっさり無効原因ありとされるかもしれない。
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