2011年01月15日

[時事]同じ不正アクセスでも大きな違い

平成21年に改正された不正競争防止法(平成22年7月1日施行)で営業秘密の不正領得行為が刑事罰の対象となってから、初めて同罪の嫌疑で逮捕された事例が登場した。

以下の時事通信の記事は大変良くまとまっている。加害目的の存在、管理侵害行為の存在、営業秘密としての価値および物理的管理の示唆など、不正競争防止法21条1項1号に当てはまっていることが短い中で記されている。警察側が積極的に流したい情報であったのか、時事通信に詳しい記者がいたのか気になるところである。
「サーバー侵入、営業秘密取得=不正競争防止法改正で初適用−会社社長逮捕・警視庁

中古パチンコ台販売会社などが加盟する〔組合の〕(中略)サーバーに侵入し、理事長が経営する会社の内部情報を取得したとして、警視庁ハイテク犯罪対策総合センターと上野署は…(中略)…不正競争防止法違反(営業秘密取得)容疑などで…(中略)…逮捕した。
…(中略)…「組合の顧問を首になり、理事長に恨みがあった」と供述。取得した情報を印字し、数回にわたり、複数の組合員に郵送したとみられる。
…(中略)…不正に手に入れたID、パスワードで組合のサーバーに侵入。理事長が経営する中古パチンコ台販売会社に損害を与える目的で、販売先や数量などの流通情報をダウンロードした疑い。」
(時事通信 1月14日(金)10時25分配信)

さて、報道を見る限り、今回嫌疑となった行為は不正アクセス行為を伴っているため、不正アクセス防止法(不正アクセス行為の禁止等に関する法律)でも刑事罰を受けうるものであるが、その罰則の上限の違いが極端に大きい。実際の運用がどのようになるかもまた、気になるところである。

 不正アクセス防止法 1年以下の懲役または50万円以下の罰金
 不正競争防止法   10年以下の懲役または1000万円以下の罰金(併科あり)
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2011年01月01日

[時事][特許]プレゼントを好きな物に換えることが出来るビジネスモデル特許についての雑感

欲しくないプレゼントを自分の好みの商品に交換してもらうビジネスモデルに関する米国の特許権(US7831439)をAmazon.comが2010年11月9日に取得したと、朝日新聞(注1)で報じられている。

米国でのビジネスモデル特許については、2010年6月に示されたBilski事件連邦最高裁判決(注2)で裁判官の意見がまっぷたつに分かれた中でかろうじて特許対象として適格であると示されたものの、今後の判断基準は厳しくなるとの予想も示されている(注3)中、米国特許商標庁が下した一つの審査結果として興味深い。

主なクレーム(請求項1)は以下の通りである。素人目には単なる抽象的なアイデア…と思えないこともあるが、おそらく、クレームの書き方に優れた点があったのだろう。しかし、筆者にはその分析力が無いため、ここでは言及できない。
A computer-implemented data processing system comprising: a memory that stores gift conversion rules; and a processor in communication with the memory that: generates auser interface configured to permit a gift sender to order a product as a gift for a gift recipient via a network service; and executes gift conversion logic that permits the gift recipient to specify the gift conversion rules, wherein the giftconversion rules specified by the gift recipient define a manner in which gifts purchased for the gift recipient may be automatically converted, wherein at least one gift conversion rule identifies the gift sender who has ordered a product as a gift forthe gift recipient, such that whether the gift is converted is determined based at least in part on the identity of the gift sender specified in the at least one gift conversion rule.


さて、今回はこの特許が実現するであろうビジネスモデルについて、社会的な価値観に与える影響について触れたい。

先述の朝日新聞や元ネタであるWashington Post紙から以下のように引用している。
ただ、異論も出ている。読者の声を紹介した28日付同紙には「すばらしい。がらくたになってしまうものを消費者がコントロールできるようになるから」という賛成意見とともに、「もともと贈り物はサプライズであるはず。とんでもない」「相手が欲しいものがわからないなら、(そもそも贈り物などをせず)チャリティーに寄付をすべきだ」「できることと、すべきことは違う」といった反対意見が掲載されている。


これだけだと、「何が悪いのか?」という疑問がわく。簡単にいえばこうだ。
・相手が欲しいものだけを贈り物として受け取れるようにすることに反対との考えを持つ人が贈り主になる場合→合理的にはそのようなサービスを使わないから問題ない
・相手が欲しくないものは交換されてもかまわないとの考えを持つ人が贈り主になる場合→そのようなサービスを使うことになっても問題ない
・相手が欲しいものだけを贈り物として受け取れるようにすることに反対との考えを持つ人が贈り物を受け取る側になる場合→相手の品物を拒否しないので問題ない
・相手が欲しくないものは交換されてもかまわないとの考えを持つ人が贈り物を受け取る側になる場合→すごくハッピー
…というわけで、個人に着目すると誰も困らない。

元となったWashington Post紙のWeb記事を見ると、「消費者の行動を変えてしまうことに反発が生じるのではないか」との消費評論家の意見や、「相手があなたにその物を贈りたいと時間を使ったことを尊重すべき」とのエチケット評論家の意見が、主な反対意見として掲載されていた。

贈り物を単なる物に化体した価値の贈与と見れば、反対意見は全く的外れに見えるだろう。他方、贈り物はその物を通した人間間の紐帯の構築・維持・強化だと見れば反対意見にはうなずけるかもしれない。しかし、反対意見の考え方を貫徹すれば贈り物は捨てがたい物になってしまうように思われる。贈り物の負のインセンティブになるのであらば、人間間の関係強化を図る機能が損なわれてくるだろう。だから私は反対意見には納得できない。

Amazon.comのこの特許は「単なる抽象的なアイデア」に留まらない「何か深遠なところに触れる抽象的なアイデア」であるように思われる。法律的な面から離れても面白い特許だった。
(注1)朝日新聞(2010年12月29日朝刊)「気に入らぬ贈り物、受け取らず別の物に 米アマゾン特許」、asahi.comで閲覧可能。
(注2)Bilski et al. v. Kappos, No. 08-964, 561 U.S. ___ (2010).
(注3)吉田哲「米国Bilski判決が示す米国司法界の選択(上)(中)(下)」『日経BP知財Awareness』(2010年9月10日〜16日連載記事)、日経BP知財Awarenessで閲覧可能。
(注3)The Washington Post (Dec. 27, 2010), "Amazon patents procedure to let recipients avoid undesirable gifts", available at here, (accessed on Jan. 1, 2011).
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2010年01月24日

[時事]日本新聞協会の著作権の包括的フェアユース規定への反対意見に思う

■文芸協、日本新聞協会のフェアユース規定への反対声明の読み方
(社)日本新聞協会を含む6団体から権利制限の一般規定に反対する声明「「権利制限の一般規定」導入に関する意見書」が出されたことは、報道や知財系ブログで多々触れられているところである。
これを読むと、この声明は大きく2つで構成されていることを読み取ることができる。(一連の流れのようにも読めるが、論理的に考えると2部構成とみた方がよいように思う。)

前段は、包括的なフェアユース規定への反対の意思表明である。

後段は、具体的な「フェア」の基準について議論が尽くされていないことの例として、知的財産戦略本部デジタル・ネット時代における知財制度専門調査会『デジタル・ネット時代における知財制度の在り方について』に
形式的に違法となる例として「ネット上の写真への写り込みやウェブページ印刷などの行為」
と記載されていることへの反論の提起である。

後段については、知的財産戦略本部での議論であるから、文化審議会 著作権分科会 法制問題小委員に文句を言っているのであれば筋違いである。ここは前向きに解釈し、「ウェブページ印刷などの行為について議論してほしい」との著作権分科会 法制問題小委員への要望とみるべきだろう。

■新聞業界のビジネスモデルの試練を著作権問題にすり替えていないことを願う
この声明には、小倉弁護士からは「これからは新聞記者は資料としてウェブをプリントアウトしたりなどしない」(注1)という厳しい皮肉が寄せられていたり、『企業法務戦士の雑感』のFJneo1994さんからは新聞記事見出しの著作権による保護を否定した事例を持ち出して補強に用いようとしてしまったことのお茶目さ(笑)(注2)の指摘が寄せられている。

私はこのほかに、この声明の着眼点が、新聞というビジネスモデルがいま世界的に直面している状況から目をそらすものになってはならないことを注意喚起したい。

すでに言い尽くされている感はあるが、米国を中心に新聞業界は試練の場面にある(注3)。インターネットの登場により、新聞は購読数を減らしている(このほかに、高齢化(複数誌を購読しない)、グローバルな価格競争のなかでのコストカット(企業は無駄な新聞を買わない)、専門情報事業者からのメール配信へのシフトなども要因だろう)。

その中で、Webのプリントアウトはビジネスモデル全体に与える影響は微小ではないだろうか。
声明で指摘しているように、
日本複写権センター、 学術著作権協会、出版者著作権管理機構という主要3団体だけでも、「企業内での著作物の 複製利用」の年間使用料収入は10億円
という。そうならば各新聞社・出版社が受けている分配金は1社あたりよくて年間1億円ほどだろう。地方支局1つないし2つ賄えるか否か…という額である。

そうならば、Webを媒体を買ってもらう呼び水と位置づけ、積極的に利用してもらった方が、新聞社には利益につながるのではないか。新聞のWeb版を印刷して誰かに資料として見せることは、前向きに解釈すれば、Webページの閲覧者が新聞社の営業マンとして働いてくれている、ということを意味する。

広告モデルに固執するのではなく、他の戦略を検討することも重要である(無料を戦略的に活用するビジネスを整理した注3記載の書籍は大いに参考になるだろう)。おそらく新聞業界の方はすでにいろいろと検討されているのであろうが、上記の声明ではそのような将来の新聞業のあり方の検討に目をつぶるような後ろ向きな視点が感じられなくもない。その点が残念であった。

(注1)小倉秀夫『benli』(2010年1月22日記事)「これからは新聞記者は資料としてウェブをプリントアウトしたりなどしない」。
(注2)FJneo1994『企業法務戦士の雑感』(2010年1月21日記事)「[企業法務][知財]「日本版フェアユース」の叩き台公開。
(注3)クリス・アンダーソン (著)・小林弘人 (監修)・高橋則明(訳)『フリー~〈無料〉からお金を生みだす新戦略』(日本放送出版協会、2009年)
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2010年01月20日

[時事][著作権]権利制限を幅広く認める包括的フェアユース規定導入を諦めた(であろう)ことの意味

(2010年1月21日一部修正)


■日本版フェアユースの行方を報道から探る
非公開であった文化審議会著作権分科会法制問題小委員会 権利制限の一般規定ワーキングチームの報告内容が報道された。詳細は末廣さんのブログ『Copy & Copyright Diary』に詳しい(注1)が、報道を見る限り、かなり個々の行為の価値判断について言及されているようである。
「ITベンチャー企業によるテレビ番組の転送サービスなどは適用対象から外れる見通し」(NIKKEI NET 2010年1月19日記事「著作権侵害、対象外に 写真の端に写った絵画など、文化庁方針」)
「テレビ番組のロケで偶然に他人の絵画を撮ってしまう「写り込み」など、付随的な著作物の利用行為は認めるべきだとする意見が大勢だった。」
(朝日新聞2010年1月19日朝刊「「公正」なら許可は不要 著作物利用の緩和、範囲は限定的に」)
この報道の限りでは、包括的フェアユース規定にしたとしても、かなり要件を絞った上で詳細なガイドラインを提示する予定であるように思われる。あるいは、包括的フェアユース規定でなく、個々の権利制限規定の追加で対処するのかも…とも思えてしまう。いずれにせよ、具体的な報告書の公表を待ちたい。

■権利制限を幅広く認める包括的フェアユース規定導入を諦めた(であろう)ことの意味
さて、もし、要件を絞った規定であるとするならば、その意味はどのように考えられるだろうか。

私は、ワーキングチームの提言は、著作権の権利範囲の調整について、著作権法の所管官庁(現状では文部科学省文化庁)が相当程度のウエイトを担うことを提言していると読み取ることが出来るのではないかと考えている。

「1億総クリエーター」の中で利害関係者が極めて多数になっている問題の利益調整を、文化庁が引き続き担うことは、その担当の方たちにとっては必ずしも容易な仕事ではないものと推察する。とくに、著作権に関して文化庁の当事者であった方から、
社会全体に「権利者寄り」の意見を言いにくい雰囲気がある。
自由闊達、建設的な議論が出来ない。
との印象も指摘されている中である(注2)。利益調整の大きな負担を、文化庁が引き続き負い続けることをになる。見方を変えると、ワーキングチームの有識者は文化庁に厳しい提言を行った、と評価することも出来るのではないだろうか(注3)(注4)。そのような文化庁に厳しい提案を、文化庁側が受け入れるのか、気になるところである(もちろん、最終的な立法の権限は国会にあるのであり、ワーキングチームの結論を基に議員立法の形をとってもよいのだが)。

もっとも、「要件を絞った規定」となるのでなく、要件は限定的にせず、たとえば、ガイドラインに行政としての価値判断を記すやり方を選ぶのであれば、上記の私の見方は当てはまらない。というのも、訴訟においてガイドラインの内容が覆されることは十分にあり、利害調整の場は裁判所にシフトする余地が大きいからである。

■余談:期待したい個別の権利制限
ここは話が逸れるが、日本経済新聞の記事によると、
「本来の利用でない複製(言語分析のために小説を複写するなど)」
(日本経済新聞2010年1月19日朝刊)
も権利制限の対象としてワーキングチームでは評価されているようである。

膨大な量の著作物に基づき分析を行うことに意義がある情報学分野では長年念願としてきたことであり、そのような権利制限が確立すれば、言語分析学を中心とした学術的発展が期待される。また、さまざまな展開も想像できる。歓迎したい権利制限である。

(注1)『Copy & Copyright Diary』2010年1月19日記事「日本版フェアユースの範囲」。
(注2)甲野正道「デジタルコンテンツの流動化と知的財産権制度の課題」日本知財学会誌5巻3号(2009年)12頁。
(注3)伝統的には官公庁の審議会(およびその下部のワーキンググループ等)の提言は、そのメンバー選定や進行を通じて相当程度、当該所管官庁の意向を反映していると指摘されており(森田朗『会議の政治学』(慈学社出版、2006年))、今回のワーキングチームの提言も文化庁自身が著作権に関する利害調整から逃げないことの決意を表明したものである可能性がある。
(注4)最近、私は、包括的フェアユース規定は、著作権の権利範囲の利害調整の役割のウエイトを官庁(文化庁)から裁判所にややシフトさせるものと捉えている。包括的フェアユース規定により、官庁が些末な利害調整に追われず、政策的課題に人的資源を割くことが出来る点が、利点であると考えている。

※注:ここでは単に「フェアユース規定」と呼ばず「包括的フェアユース規定」と表現した。
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2009年08月15日

[時事][特許]XML標準へのアウトサイダーからの特許権行使事例?

2009年8月12日、米国テキサス州東部地区連邦地方裁判所は、Microsoft社のMicrosoft Wordがi4i社(カナダ)のXML関連特許を侵害するとして、約2億9000万ドルの損害賠償、および、カスタムXMLを含む「.XML」「.DOCX」「.DOCM」などのXMLファイルを開くことができるMicrosoft Word関連製品の販売等の差し止めを命じた(注1)。

Microsoft社の製品の販売差し止めが命じられた、ということに特に注目が集まっているようだが、W3Cの標準規格であるXML規格に関連した特許権行使であることも気になる。

侵害が問題となった特許は、米国特許登録第5,787,449号(注2)である。素人目ながらクレームをざっと見ると、XML規格自体に関わるような広い特許であるように読める(注3)。

なお、XML規格の特許声明書の提出状況をみると、i4i社からの提出は見られない。

仮にそうであるとすると、XML標準規格へのアウトサイダーからの特許権行使事例として位置づけられるのではないか。標準規格に対する特許権の行使はこれまでも問題となってきたが、新たな事例がつけ加わることになる(注4)。

他方で、XML規格自体には関係ない可能性もうかがえる。

CNETニュースによると
「わたしたちは、Microsoftの事業を停止させることを求めているわけではないし、世界中のすべてのWordユーザーに干渉することも求めてはいない」とOwen氏は米国時間8月12日、電話インタビューの中で述べた。今週の判決は、i4iのカスタムXML技術を使用する形態でWordを出荷することのみを禁じる差し止め命令である、とOwen氏は付け加えた。
(出典:CNET Japan「「Word」を市場からなくすことが目標ではない--i4i会長、電話取材に応じる」(2009年8月14日翻訳記事)

とある。

そうであるならば、Microsoft Wordが独自に採用したCustom XMLのみが問題となったのかもしれない(しかし、XMLファイルを開くことができるMicrosoft Wordを差し止め対象としていることとは整合性がない)。私は関連の技術が全く分かっていないために判断できない。今後の詳細な解説を待ちたい。

余談ながら、注にも記したように、本件の特許権はそもそも有効なのか?というところの疑問は少なくない。しかし、原告(特許権者)勝訴の判決が下されたのは、陪審が既に特許権侵害を認定していたからであろう。

(注1)概略はITmedia News「Microsoft、米地裁から「Microsoft Word」販売差し止め命令」(2009年08月13日08時56分記事)に詳しい。
(注2)明細書はこちら
(注3)もっとも、そうであるがために、新規性を欠いているのではないか、との指摘がWeb上には存在する。
(注4)ただし、今回の当事者であるi4i社はいわゆるパテントトロールとはほど遠く、これまでもXMLに関連した製品開発を行っている。そのような背景がある中で、おそらく、無茶な特許権はしないであろうことが推測できる。
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2009年05月30日

[時事][著作権]駒込大観音仏頭改変事件(その1)

著作者の死後の人格権侵害にあたる行為についてのそうめったにない判決が下された。
まだ判決文を入手できていないが報道発表の限りで論点となりうるところを抽出したい。

■事実関係
毎日新聞2009年5月29日の記事は次のように報道している。
東京都文京区の光源寺にある仏像「駒込大観音」の頭部を無断で取り換えたのは、制作した仏師の著作権侵害として、遺族が寺を相手取り、頭部を元に戻すよう求めた訴訟で、東京地裁は28日、訴えを認める判決を言い渡した。大鷹一郎裁判長は「頭部は仏像の重要部分。改変は制作者の意図に反している」と指摘した。

 判決によると、駒込大観音は江戸時代の1697年につくられたが、1945年の東京大空襲で焼失。寺は87年、仏師に新たな仏像の制作を依頼し、93年に完成した。99年に仏師が死亡した後、寺は別の仏師に新しい頭部の制作を依頼して取り換えた。原告側は「遺族への報告もなく、制作者の創作意図を無視した形で改造され、一般の目に触れている」と主張した。


読売新聞2009年5月29日の記事は、
現住職は訴訟で「元の像はにらみつけるような表情で評判が悪く、すげ替えはやむを得なかった」と主張したが、判決は「信者がすげ替えを望んでいたとまでは認められない」と指摘。

としている。

このほか、知財情報局では
東京都文京区の光源寺にある仏像「駒込大観音」の頭部が無断で取り換えられ、制作した仏師の著作権が侵害されたとして、亡くなった仏師の弟の男性が寺などに対して、頭部の復元などを求めた訴訟で、東京地裁は5月28日、訴えを認め、寺側に頭部を制作当時の状態に戻すことを命じる判決を下した。
(中略)
なお、仏師の弟の男性は、仏像の共同制作者であり著作権者であると主張していたが、これについては、裁判長は「仏像の制作に関する作業内容や経緯の具体的な供述がなく、共同制作者とまではいえない」として否定。しかし、遺族として復元を求めることは可能として、その請求の一部を認めた。
URL:http://news.braina.com/2009/0529/judge_20090529_001____.html

とある。これらを総合すると、
1993年 著作物が完成
1999年 著作者死亡
200?年 著作物改変
200?年 著作者の弟が、主位的請求として共同著作者の同一性保持権侵害に基づく復元請求、予備的請求として遺族の立場として著作者死亡後の著作者人格権に相当する行為の救済を求めた
という事実関係があることが推測される。

■考えられる論点
報道を見る限り次のような疑問がわく。報道は必ずしも法的な論点を把握して記述しているわけでないので、判決文を読まない限りわからないが…。

□本当に主位的請求と予備的請求があったのか?訴訟指揮なのか?
知財情報局の報道によると、原告は著作者の地位に立って訴訟を起こしている。周到な弁護士でない限り、遺族固有の立場での請求は起こさないようにも思う。あるいは、裁判所が訴訟指揮を行ったのかもしれないが、もしそうだとすると民事訴訟法上の問題はないのだろうか?

□事実認定に関する論点:著作者が信者の合理的な意思を尊重する旨を宣言していた?
興味深い点として、読売新聞報道は「信者がすげ替えを望んでいたとまでは認められない」ことに判決が言及していたことに触れている。これは「信者がすげ替えを望んでいた」のであれば著作者の意を害しないとの判断があったことを示唆する。
著作者がそのような意思を明示していた可能性もあるし、「その意」を傍論ながら合理的に解釈したのかもしれない。仮に後者であるのならば、遺族の言ったもの勝ちになるのではないか、とすら認識されることもある著作権60条但し書きに言う「著作者の意」に踏み込んだ判決として、おもしろい先例となる。

■余談:有名な仏像であるため、私的領域の改変ではなかったことは明白
著作権法60条(著作者の死後の人格権侵害にあたる行為)の規定は、私的領域で行われた改変等には適用されない。
しかし、ウェブで調べる限り駒込大観音は著名な仏像のようで、これを見るために参拝する人も少なくないようである。そうすると、私的領域で行われた改変と評価することは出来ず、被告とされた寺院が著作権法60条にいう「著作物を公衆に(中略)提示する者」にあたることした認定は適切である。
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2009年05月25日

[時事]変な特許は権利化するな、から、活用も支援します、へ

昨日朝の朝日新聞で特許庁の施策検討の方向性が紹介されていた。
朝日新聞「「休眠特許」発掘に本腰 特許庁、特典も検討」2009年5月24日記事
(略)埋もれている特許の活用が課題になっている。07年には約39万件の特許申請があった。特許は20年で切れる。埋もれた特許をどう利用していくかを含め、特許庁は、11年の通常国会で50年ぶりとなる特許法の抜本的な改正案を提出する考えだ。
 大学や企業の発明と違い、個人が出願した特許はなかなか人目に触れにくい。
(中略)
 特許庁は、特許の利用を促す仕組みとして、特許を新商品や新サービスに積極的に活用してほしい発明者らに、権利の維持に必要な費用を減額する特典を与えられないかなどを検討している。

第3期知的財産戦略の基本方針を見る限り、利用を促す方策は中小企業・個人に限っていないので、本記事が個人の出願した特許を問題としているのはあくまで一例なのだろう。
審査の滞貨が問題となり、活用をしない特許出願の審査請求の抑制をはかることを狙いの一つとして、2004年に特許審査料が値上げされたが、それから比べると隔世の感がある(なお、中小企業・個人に対しては審査料減免を設けており、審査請求抑制は行われていない)。

ただ、技術移転という意味での特許権の利用を促すのであれば、「使いやすい明細書の記載」「検索されやすい明細書の記載」を検討し、発明家や弁理士に周知することも有効であるように思う。例えば、記事の示す通りなかなか人目に触れにくいとされる個人発明の技術移転例を調べて、そのきっかけや、明細書記載上のポイントを検討してみても良いのではないだろうか。
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[時事]日本工業所有権法学会学会総会・研究会延期

島並先生のブログを経由して以下の情報を知った。
6月6日(土)に開催を予定されていた本年度学会総会・研究会は
神戸での新型インフルエンザ流行拡大に伴い、延期となりました。
(日本工業所有権法学会Website)
http://wwwsoc.nii.ac.jp/jaipl/

えええええええ。
残念であるが、仕方ない。
(が、間の悪い筆者は昨日飛行機を予約してしまった…痛恨である。情勢を読めなかったことが恥ずかしい。)
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2009年05月15日

[時事]櫻井よしこさんの特許制度についての誤解

このブログでは優れた研究や、優れた意見を整理して、それに対して思ったことを残しておくことが主な目的になっている。
人の間違いを公に指摘することは、余り意味のあることではないことだと思っている(ご本人に直接言えばよい話だからだ)。間違いを批判することは、良いものを理解しそれに基づいて考えることに比べると、格段に容易なことなので、好みではない。
だけれども、影響力のある方が行った知的財産政策に関する情報発信に誤りがあった場合については、拙いなりにも知的財産政策を見続けている人間として、その情報を目にされた方が万が一同じような誤解をされないようにして頂きたいという思いから、誤りを指摘することとしたい。

■櫻井さん、誤解です
櫻井よしこさんのブログ記事の中に、米中経済安保調査委員会の報告書の中の中国の知的財産政策に関する記述について取り上げたものがある。その中に以下の記述があった。この記述は誤解に基づくものだと思う。
「中国は2008年8月、特許法改正の検討を開始した。重要点は『絶対的新規性』基準の採用である。これによって、すでに公知の知的財産は、中国では特許の対象として認められなくなる」

中国がまだ所有していない技術や仕組みであっても、日米欧などで商品化され公知となっていれば、絶対的新規性はないとされ、中国では特許として認められないという意味だ。他国の技術を、特許料を払わずタダで使える国内法を作ったともいえる。報告書はさらに記述する。

「もうひとつの変化は、中国企業及び個人は、中国国内で達成した発明に関して、(他国の企業や個人に先駆けて)最初に出願する法的義務を免れるという点である」

この点について報告書は、さらなる情報収集が必要としているが、想像されるのは以下の悪夢のような事柄だ。中国以外の企業や個人が新技術や新案を発明したと仮定する。中国人がそうした知的財産を“不法”に入手して、中国に持ち帰ったとしよう。当然、そのような新技術や新案は中国の特許事務所には出願も登録もされていないはずだ。それでも、中国側は、それは、出願・登録されていないだけで、中国の企業、もしくは個人として、すでに中国にもあるのだと主張する。そのような主張の余地を作ったのが、昨年の特許法改正だと思われるのだ。
(出所:櫻井よしこ「中国の知的財産丸ごと乗っとり策」『櫻井よしこブログ』(2009年5月14日記事))
URL: http://yoshiko-sakurai.jp/index.php/2009/05/14/

知的財産制度を知っている方ならば、すぐにお気づきになることと思われるが、「他国の技術を、特許料を払わずタダで使える国内法を作ったともいえる」との受け取り方は大きな誤解だ。文脈を見る限り2つ誤解がある。

□絶対的新規性は世界的には趨勢
まず、絶対的新規性について大きな誤解をされている。
絶対的新規性は中国が独自にとっているものではない。我が国も下記に示すとおり同じ制度(絶対的新規性)であるし、G8諸国においても米国を除く全ての国が絶対的新規性を取っている(注1)。

第二十九条  産業上利用することができる発明をした者は、次に掲げる発明を除き、その発明について特許を受けることができる。
一  特許出願前に日本国内又は外国において公然知られた発明
二  特許出願前に日本国内又は外国において公然実施をされた発明
三  特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となつた発明
(日本国特許法)

このような制度が不公平であるとの批判は我が国においても聞いたことが無い。それどころか、特許制度の中で世界公知性導入を推し進めている立場に日本は立っている。

米国では、他の主要国と異なり、以下のような限定的な世界公知性(絶対的新規性)を取っているため、報告書で取り上げたのであろうことが推測できる。しかし米国でもその採用(若干の留保はあるが)を求める声も少なくない(注2)。
米国内のみが評価対象:発明前に他人が知っていたor使用していた、
世界が評価対象:発明前に特許査定or刊行物記載、特許出願日前1年より前に特許査定or刊行物記載
(米国特許法102条(a),(b))
(出所:米国特許法をもとに筆者作成)


□第1国出願制度は自国民にとって望ましいとは言えない制度だが…
記事では「中国企業及び個人は、中国国内で達成した発明に関して、(他国の企業や個人に先駆けて)最初に出願する法的義務を免れるという点である」という点も取り上げていらっしゃるが、このような自国を最初の出願先としなくてはいけない制度は、その国の国民や、その国で共同研究開発を行う者には制約になりはしても、それ以外の者(他国民の多く)には影響を与えない。

我が国ではそのような制度を採っていないが、これは国際的な日本の研究者や企業に不利益を与えないためであろう。もちろん、日本では軍事特許制度(または秘密特許制度)を採っていないので、そのような制度を採る意味が無い、ということも理由に挙げられる(注3)。

いずれにせよ、上記の文脈で取り上げることは、意味が無い。制度をよく理解されなかったのかもしれない。

□報告書でも両制度については批判的な立場ではない
櫻井さんは経済制度のジャーナリストではないので、特許制度を正しくご存じないことはやむを得ないと思う。しかし、元となる報告書を読むと、ご自身の思いをやや写し込みすぎて読んでしまわれているきらいがある点は指摘しておきたい。
実際に、当該箇所を見てみると報告書では懸念材料であるとの文脈で示してはいない(単に改正事実を述べただけである)。その周辺にも懸念として取り上げている文は見当たらない。
U.S.-CHINA ECONOMIC AND SECURITY REVIEW COMMISSION, 2008 REPORT TO CONGRESS, pp.34-35
Intellectual Property Rights and Patents
China has a history of flagrant violations of intellectual property rights (IPR). It now appears poised to revamp its IPR laws and regulations,which could either strengthen the protections or place another tool in Beijing's arsenal for promoting domestic industry by constraining the rights of foreign companies. In August 2008, the National People's Congress Standing Committee, China's top legislative body, began consideration of the Third Amendment to China's Patent Law. An important new proposal involves the adoption of an "absolute novelty" standard that will make it hard to obtain a Chinese patent for inventions that are already in use overseas (amended article 23 of China's Patent Law).65 Another proposed revision (amended article 21 of China's Patent Law) would removethe statutory requirement for any Chinese entity or individual first to file applications in China for inventions made in China. The new patent law is of considerable interest to U.S. companies, and its implementation and effects on trade and investment bear further scrutiny.


■注記
このように書くと、「親中派」による中国擁護意見とレッテルを貼ってしまう方もいらっしゃるかもしれない。誤解しないで頂きたいのは、私が行っていることは、櫻井さんの当該記事の中のロジックのうち1箇所が間違っていること(そして我が国の立場に沿っていないこと)を指摘していることだ、という点である。当該記事を全て批判しているわけではないし、櫻井さんを個人攻撃しているつもりもない。

前者(記事に対する賛否)について言えば、私は下記のようにやや異論はある。批判するべきは貿易障壁となる点であると考えている。だが、中国の強制認証制度は不適切な制度だと思っている点で、記事で伝えたいことに共感する点がある。私は政府調達に限るとしても貿易障壁であるとしてWTOを通じて強くメッセージを訴えていく必要があると考えている。

■注記2
ソースコード開示により「知的財産が流出する」という意見には私は懐疑的である。本当にそうだろうか?少なくとも日本の企業は、本当に重要な情報をみすみす流すようなバカではない(注4)。おそらく、強制認証によって、諸外国の企業は最新製品を中国に輸出しなくなり、型落ちのものばかりを輸出するだけになることは想像に難くない。(もちろん、その影響で中国の情報通信機器メーカーは優位に立つことは出来る(これは貿易障壁によるものと言えるだろう)。だが、世界の最新技術を積んでいるとは限らない。)
型落ち品が入ってくるだけになることは、決して中国の国民・企業にとって利益になるとは思えない。国家としては、安心・安全のためには構わないという立場をとり続けられるのだろうか。

もちろん、中国は、民間に市場を任せると失敗をするという立場を採っているだろうから、国家が安心・安全の確保を行わなきゃならんのだ、という考えが根幹あることは理解できる(が、共感はしない)。

だが、この制度が貿易障壁になりうるものである以上、自由貿易を旨とするWTOに加盟したたのだから、そのような立場を対外的に取ることは許容されない。中国はこのことに向き合わなければならない。

(注1)特許庁「各国産業財産権法概要一覧表」『特許行政年次報告書2008年版〈統計・資料編〉』掲載の7列目に各国の新規性の判断基準が整理されている。
(注2)例えば、米国の知的財産関連団体であるIPOやAIPLAはそのような立場を示している。
JETRO「特許制度調和に対する産業界・法曹界のスタンス」『ニューヨーク発 知財ニュース』(2007年7月4日記事)
(注3)我が国でも秘密特許制度導入の動きがあるが、そうすると第一国出願制度の導入も検討されるかもしれない。しかし、まずは米国で出願をする企業が少なくない中、反対の声は必ず上がるだろう。
(注4)「知的財産が流出する」との言葉は事情を十分に踏まえていないメディアのどなたかが作った可能性もあるが、貿易障壁となる点を問題視させるために、メーカー側もそのようなキャッチコピーをつかった可能性もある。だが、この言葉だけが一人歩きされると、メーカーを馬鹿にしていることになってしまっているように思う。
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2009年05月06日

[時事]特許制度研究会レビュー:特許権のライセンス契約保護

特許庁が設けた、特許制度の根本を検討する研究会の第3回では、特許の活用促進について議論が行われたようだ(注1)。主には、ライセンシー保護が議論の対象であり、
・通常実施権の当然保護(または登録によらない保護)
・独占的通常実施権に関する制度の創設
が主な議題となっていることがうかがわれる。

この議題のうち前者に関しては、産業構造審議会知的財産政策部会特許制度小委員会で議論され、『特許権等の活用を促進するための通常実施権等の登録制度の見直しについて』という報告書(注2)が出されている。その内容のレビューといったところなのだろうか。

このように議論がなかなか結論を見ないのは、知的財産権の譲受人が譲渡人の契約関係を承継することとなる…という今までの民法原則が破られるように思われること、それと、実施権設定権者(特許権)の破産時の未履行双務契約の処理の原則が破られるように思われること、の2点にある可能性もある。

もしそうであるならば、民法学や民事執行法学の議論の進展に期待したい(注3)。私自身は、情報という価値の利用の排他性が無い財について、民法や破産法体系が予定していたのか知りたい。

議論の中でおそらく公示性の要請を交代させる方向で議論が進むと思われるが、特許権を担保とした融資側や、特許権の譲り受けを活用したビジネスを展開している者からは懸念も示されるだろう。とくに知的財産担保融資は同報告書でも推進されるべきものとして位置づけられている。

そのためには、ライセンス契約の当然保護をとったとしても保護が否定される事例(権利濫用構成になるだろうか)の研究も望まれる。(私自身もその点は深めたい)

後者については長く議論になってきたところであるが、専用実施権の使い勝手を改めることで対処できる範囲もあるように思われる。たとえば、特定通常実施権(や通常実施権について議論されていること同様)登録事項の開示範囲の制限や、登録手数料の値下げなどが挙げられる。

(注1)特許庁「特許の活用促進について(基本的考え方)」特許庁 第3回特許制度研究会 配布資料(2009年4月)
(注2)産業構造審議会知的財産政策部会特許制度小委員会「特許権等の活用を促進するための通常実施権等の登録制度の見直しについて」経済産業省 産業構造審議会 第12回知的財産政策部会 配布資料(2009年1月)
(注3)情報発信にしめる鎌田薫教授の割合がやや高い印象を私は受けている。
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2009年02月25日

[時事]歴史上の著名人の氏名の顧客吸引力の独占の可否(その3)

本ブログ2008年2月18日記事「[時事]歴史上の著名人の氏名の顧客吸引力の独占の可否」で「吉田松陰」の名が商標登録されたことに触れたが、新たに「大隈重信」に商標登録出願された例が登場した(ただし、本件は出願に留まっている)。
毎日新聞2009年2月24日記事より一部引用
早大創設者で元首相の大隈重信(1838〜1922)の名前を、福島県須賀川市の食品卸小売会社が特許庁に商標登録申請していることが24日分かった。早大は「看過できない」として、特許庁に登録を認めないよう要請する。
特許庁によると、申請は昨年7月1日付で、商品の種類は日本酒、洋酒、果実酒など。


現在、経済産業省産業構造審議会知的財産政策部会商標制度小委員会で審議されている審査基準の骨子案(注1)によると、
著名な歴史上の人物名等の商標について、例えば、当該人物の著名性・評価を自己の事業のために利用する意図又はその名声を僭用して利益を得る意図があること、地域の産業に悪影響を与え公正な取引秩序を乱すおそれがあること、また、名声や名誉を害するおそれがあり遺族の心情を害するおそれがあることが認められる場合には、商標法第4条第1項第7号(公序良俗違反)に該当することとする。
とのことである。

本件は、地域の産業に悪影響を与えるものでない可能性が高いと思われるが、他方、名声や名誉を害するおそれがあり遺族の心情を害するおそれがあるか否かについては死後80年ということがきわめて微妙である限界事例と思わる(注2)。大変興味深い。

議事録を読むと、本審査基準骨子案が正式にリリースされるのは平成24年頃というようなことも窺えるが、今回の審査において特許庁が積極的に判断する可能性が無いわけでない。注目したい。

…という記事を書こうとしていたら、
(asahi.com 2009年2月25日記事)
福島県須賀川市の食料品卸会社ダイトウ・ライフは、元首相で早稲田大学の創設者・大隈重信(1838〜1922)の名前を特許庁に商標登録出願したが、同大や大隈重信の出身地・佐賀市などが反発していることなどから、25日に出願を取り下げた。
という発表がなされた。故人の名称での商標登録はIPDLを叩いてみると少なからずあるのだが、近年の出願例が乏しい。見直しの方向性を受けて判断がどうなるか興味があっただけに残念。

(注1)産業構造審議会知的財産政策部会第19回商標制度小委員会配付資料6-1「歴史上の人物名等の商標審査の方向性(案)」(2008年)3頁。
(注2)名誉毀損事案、(生存中であれば)著作者人格権侵害事案を簡単に見てみると、死後20年で争われた事件が散見されるのみである。(なお、これらの事案では、敬愛追慕の情の保護は肯定されていた)
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2009年02月23日

[時事]Google Book Searchを巡る争訟が残したもの

書籍の一部を閲覧(かつ検索)可能な形にしてインターネット上で公開するGoogleに対して、米作家協会(Authors Guild)と米国出版社協会(Association of American Publishers)が当該行為は著作権侵害にあたるとして訴訟を提起していたが、2008年10月28日、Google側が著作者と出版社に使用料を支払うことで和解がなされた。

この使用料支払いの対象には絶版になったものも含んでいる(むしろ、ほとんどが絶版という話をきく)であるため、絶版書籍のオープンアクセスを願う考え方の人たちにとっては、望ましくない先例であると言うことが出来る。これまで、絶版した書籍は著作者が当該著作から利益を得ることを放棄している(注1)と捉えられてきた。そこに経済的活用の芽を見いだしたことは望ましいことだと私は思うのだが、これまで絶版書籍へのアクセスを保障してきた図書館の側から見ると、自身の役割が損なわれるだけでなく、事実上、情報へのアクセスを阻害してしまう可能性があるのかもしれない。

事実上、情報へのアクセスを阻害してしまう可能性とは、こういうロジックで考えられる。
著作者等が、今、公衆に伝えたい情報は、仮に著作者へ完全な利益配分が行われなくても、図書館等で閲覧可能になることは、ある種の宣伝(これは著作物の販売につながる、というだけでなく、著作の内容を広く知らしめるという意味でも用いている)となり、著作者にはそれなりにメリットがある。
他方、絶版となったようなものは、目立った利益は著作者には生じない。ニーズもニッチなものになりがちである(例えば、歴史研究など)。そうすると、著作者が当該著作から他に経済的利益を得る道があると、図書館でアクセスされることを拒むようになる(公共図書館の役割に対して否定的なロビイングを行うようになる)、というものだ(注2)。

そもそもこういう恐れは杞憂かもしれないし、日本であれば国立国会図書館を通じて依然としてアクセスの道は保たれているのでたいした弊害はないとは思う。だが、念のため気にはしておきたい、と感じる。

(注1)実際には出版社が決定しているのかもしれないが…。
(注2)このような可能性は、Jeff Erwin, Copyright and the Digital Library, available at hereにヒントを得た。なお、この論文は、申し訳ないのだが、たいした考察を含んでいないのではないだろうか。『情報管理』で取り上げられていたので読んでみたのだが、エッセイ程度のもので、論文と言えるようなきちんとした検討があるものではなかった。
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2009年01月12日

[時事]国有特許のライセンス料率

本日付の日経新聞に以下の記事が掲載されていた。(新聞より部分を引用)
政府は国が保有する特許について民間企業の活用を促すため、特許を利用して実用化する際の実施権料(ロイヤルティー)を大幅に値下げする。これまで実用化した製品の売上高に応じて決まっていた実施権料を、特許の内容などによっては1円でも利用できるよう認めるなど安い価格にする。国が保有する環境分野などの特許活用を促し、民間の競争力強化につなげる狙い。
 通常国会に提出する産業技術力強化法の改正案に実施権料の見直しを盛り込む。


細かい話であるが、産業技術力強化法の改正の意図は財政法9条に反しないようにするためだろう。

これまで同法や関連の政令にロイヤルティーの目安についての記載はないし、ガイドラインが示されているとも聞かない(注1)。部外者の私には法改正まで行わなくても(会計検査院に説明さえつけば)運用上の改善でどうにかなったのでは、という気がしないでもない。

もちろん、ライセンスのロイヤルティが「適正な対価」であるか検証することはなかなか難しいものだと思うし、その結果、前例の踏襲をした方が国(所管官庁)にも実施者にもハッピーだったと言うことなのだろうか。

ともかくも、今回の法改正はおもしろい。せっかくなら実施許諾者間の公平さを簡単に担保するために国有特許についてRF宣言や、ロイヤルティ上限を事前開示したRAND宣言を制度化してみたらーなどと思う。

(注1)おそらく唯一のガイドラインであろう特許庁総務課監修(委託先:財団法人テクノマート)『国有特許活用マニュアル』(財団法人通商産業調査会、1999年)にもロイヤルティーの目安についての記載はない。
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2009年01月08日

[時事]中国の専利法改正案可決

昨年12月27日、中国で長く審議されていた専利法(特許・意匠法)改正がようやく可決された(注1)。

さまざまなところで報道されているので、屋上屋を架すつもりはないが、整理がてら要点をまとめると以下のとおりである(注2)。

□特許制度改正部分
・遺伝資源を利用した発明につき、そのアクセスが違法でないことが求められる(5条2項)
・共有特許権の単独の実施、実施許諾を許容(ただし、実施許諾による利益は共有者に配分する必要)(注3)(15条)
・外国人による特許出願の際の代理人の要件から「国務院が指定」が削除、「法律によって設立された」に変更。緩和か?(20条)
・中国人による外国出願の際、国務院の指定する組織の手続きにゆだねることから、機密審査に変更。緩和か?(21条)
・世界公知に移行(23条)
・3年間不実施の場合、強制許諾が可能(49条)
・医薬品、半導体の強制許諾条件の明文化(51条、53条)
・権利侵害の刑事罰強化

□意匠制度改正部分
・世界公知に移行(24条)
・意匠出願に係る意匠と抵触する権利がないことを要求(24条)
・権利侵害の刑事罰強化

解釈論として気になるのは、「意匠出願に係る意匠と抵触する権利がないことを要求(24条)」である。これは意匠の実施を行おうとすると特許権侵害が生じる場合も含むのであろうか。

医薬品の強制許諾については、途上国への輸出目的が明示された点が目を引く。ODAとして活用するのであろうか。

いずれにしても興味深い改正と考える。

(注1)http://www.npc.gov.cn/huiyi/lfzt/zlfxzaca/node_6866.htm
(注2)原文のほかに、日本貿易振興機構北京知的財産権センターウェブサイト、IPNEWS「中国の全人代、改正特許法を可決」、IPNEXT「中国、国内出願に先立つ国際出願を許可―特許法改正」等を参照した。
(注3)我が国の特許法73条とは逆。ただし、中国でも出願や拒絶査定対応等は共同で行われなければならない。
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2009年01月05日

[時事][特許]2009年の特許法改正の方向

(2009年2月22日修正)

本日付の日経新聞は興味深い。年明けの日、知的財産制度の話が1面を飾った。
同紙によると、特許庁は以下の点を検討するようだ。
・無形資産を特許保護の対象とする
・License of Rightを導入する
・職務発明の規定を見直す

1点目については、詳細がわからないのだが、電子計算処理上の技術的プロセス(アルゴリズム)を保護するようにする、ということだろうか。米国特許法の解釈としての判断にすぎないものではあるが、Bilski事件連邦巡回控訴裁判所判決(注1)が、プロセスの特許保護に当たっては、装置との関係または発明の対象の変換を求めたところであるので、ちょっとタイミングが悪い気もするが…。

2点目については、導入自体には賛成できる。中小企業・ベンチャーが保有する特許権で、広く利用を許し、ロイヤリティ回収を行っているものについては、License of Rightを活用すると、パテントトロールによってこれらの特許権が買収され、ライセンシーが不安定な立場に陥る不利益(ただし、実施権が登録されていない場合に限られるが…)を避けることができる。

3点目については、ノーコメントだが、国策として技術者に一攫千金の道を「民間の負担で」開いておくこともあり得ない選択肢ではないと思うので、じっくり議論していただきたい(注2)。

(注1)In re Bilski, (Fed. Cir. 2008)
(注2)国策としての技術振興のためには、国が褒賞すればいいじゃないか、というのはまっとうな意見だと思うのだけど、そのために有識者委員会を作って、事務局を担う独法を作って…とやっていくと、コストもかかってしまうのでは…。
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2008年11月04日

[時事]音楽プロデューサ著作権詐欺事件は欺罔行為ありとされるのだろうか

刑法の素人が領空侵犯をすることは適切なことではないし、間違いを公にして恥ずかしいことになるかもしれないのだけれど、面白い案件だったので書くことにした。

小室哲哉さんの逮捕報道は、どういう事実関係なのかいまいちわからないところがある。

報道を総合すると、前提となるお話として、
○小室さんの音楽著作物の著作権は音楽出版社に譲渡されていた(が、対抗要件は具備されていなかった)(以下、第一譲渡とする)
○音楽出版社への譲渡後、小室さんの関係者の会社に譲渡し、対抗要件を具備していた(以下、第二譲渡とする)
ということがあったものと推測される。

そして、今回の逮捕の原因となる行為として、
○音楽出版社への譲渡後、投資家への譲渡契約を結び(以下、第三譲渡とする)、一時金として5億円を得た
ことがあったと推測される。

仮にこの推測が正しい場合、詐欺罪が成立しない余地があるように思われる。
刑法はさっぱりわかっていないので、素人考えで恐縮だが、欺罔行為と評価できない可能性はないだろうか。

欺罔というためには被害者の判断能力、専門性も加味される(はず)。

今回、投資家が被害者であるために、被害者に一定の高度な専門性、判断能力が認められる可能性がある。そうすると、小室さんが投資家の方に対して「第二譲渡は形式的なものにすぎない」などとの欺罔を積極的に行っていない限り、文化庁の登録原簿を見ればわかることや、音楽業界では音楽出版社へ著作権譲渡がなされる慣行があることを鑑みて、欺罔行為なしとされるかもしれない。

もっとも、共犯とされる人も逮捕されているので、積極的な欺罔行為があったと検察は考えているのだろう。この事実関係に関しては今後知りたいところだ。

なお、小倉秀夫さんの『benli』(2008年11月4日記事)「小室哲哉さん逮捕との報道にあたって」は「著作権それ自体ではなく,「音楽出版社から著作物使用料の支払いを受ける権利」ではなかったか」と指摘されている。音楽業界の実情を考えればその可能性も高い。でないと、この投資家は詰めの甘い投資を行ったことになってしまう。おそらく、法律家に相談はされていると思うが、相談した法律家の方が著作権に詳しくなかった可能性もある(もしくはコンサルティングに過誤があった?)。

こちらであれば、投資家の方は確かめようが無いので、欺罔されたと認めやすいかもしれない。

なお、一部の報道では「登録制度の悪用だ」という記述もあった。これも事実関係がわかっていないので何とも言えないが、事実関係に関する私の推測が正しいならば、登録制度の悪用では無い。
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2008年09月07日

[時事]医療バッシングがリスクの高い診療科からの退出を招いたとは言えないのでは?

知的財産と関わらない話題であるが、最近気になっているトピックであるので取り上げる。

週刊東洋経済2008年9月6日号に「医師不足はなぜ起きたか」という問題を不確実性の経済学から説明した記事が掲載されていた(注1)。

それによると、「医療には不確実性がある」にも関わらず、医療事故などに対する医療バッシングを医師に押し付けた結果、楽で収入の多い
○開業医への移転
○別の診療科への移転
が起こったというのである(注2)。

その証拠として、新聞記事で「医療事故」「医師不足」が取り上げられた数が示されていた。それによれば、
○医療事故は1998年から多数取り上げられるようになった
○医師不足は2002年から多数取り上げられるようになった
という。

■疑問の所在
これによれば、社会的に医療事故が注目されるようになって、4年で医師不足が生じたというように解釈することが自然である。

しかし、開業は容易なのだろうか?多額の設備投資が必要であるため、本当に4年で社会問題を引き起こすほどの移転が実現できるのだろうか?
また、本当に別の診療科へ移転したのだろうか?専門性を変えることは難しくないのだろうか?(もちろん、新人医師が当該診療科を選ばなくなるという可能性はある)

以下、統計資料に基づいて簡単ながら検証する。

■検証
□開業医への移転は医療バッシングにより起こったのか?

管見の限り開業医とそうでない医師の数を区別する統計が無かったため、勤務先の病床数に基づいた統計を用いる。厳密性は欠くが、推測は出来るものと考える。(なお、診療所とは病床数14以下のものをいう)

まず、医師全体の数を確認する。以下に示す通り、全体としては増えている。
080906chart01.png
(出所:厚生労働省「医師・歯科医師・薬剤師調査」より筆者作成)

次に、勤務先別に割合を見ている。
080906chart02.png
(出所:厚生労働省「医師・歯科医師・薬剤師調査」より筆者作成)

これによれば、1998年以降に診療所勤務の医師が全体の割合から見ると1%増加したことがわかる。
どうやら、記事の一つ目の仮説はある程度説得性があるようである。
もっとも、診療報酬の額という外部コントロール要因があることには留意が必要であろう(注3)。

□別の診療科への移転は医療バッシングにより起こったのか?
次に、診療科別に観察する。記事や他の論説によると、「小児科」「産婦人科」「麻酔科」で医師不足が顕著なようであるのでこれを取り上げる。

以下に示すように、小児科、産婦人科では1994年以降、医師全体に占める割合が低下している。麻酔科医は増加傾向にあり、2004年以降になって減少が起こっている。
080906chart03.png
(出所:厚生労働省「医師・歯科医師・薬剤師調査」より筆者作成)
*小児科は小児外科を含む
**産婦人科は産科、婦人科のみも含む

これによれば、医療バッシングが小児科医、産婦人科医の減少を招いたということは乱暴な解釈であると考えられる。バッシング以前から減少は起こっていたのではないか。

他方、麻酔科医は遅れてではあるが、減少につながっており医療バッシングの影響も考えられるが、しかし、医師不足が問題となった時期とのギャップは十分に説明できない。

■まとめ

以上によれば、「医療には不確実性がある」にも関わらず、医療事故などに対する医療バッシングを医師に押し付けた結果、楽で収入の多い開業医への移転が起こった可能性はあるが(※追記参照※)、別の診療科への移転が起こったとは言えないことがわかった(注4)。

ではなぜ「医師不足」を感じるのだろうか?患者の急増、地域の格差、あるいは、医師の勤務環境(背景には医院の経営の問題があるのではないか)などが考えられるが、その検証を行うことは私には素人ゆえ難しい。どなたかにお譲りしたい。

追記:(2008/9/10)
MMさんより、診療所が増えたのは個人病院が減った影響であり、しかも、個人病院の減少は96-99にピークを迎えており、これを訴訟リスクを理由として説明することは難しい、とのご指摘をいただきました。ありがとうございます。とすると、
楽で収入の多い開業医への移転が起こった可能性はあるが
との記述は棄却されると思います。

(注1)週刊東洋経済2008年9月6日号「特集:不確実性の経済学 医師不足はなぜ起きたか」68頁。
(注2)ささいな点であるが、経済学でいう「不確実性」とここでいう不確実性は異なった用語であると思う。
(注3)これは大病院への患者集中を避けるために行った施策の影響もあるのではないだろうか。この点は、どのような政策が採られたか、慎重な検証が必要である。
(注4)もっとも、本特集記事を監修された権丈教授の著書では詳細な説明をなさっているのかもしれない。恥ずかしながら筆者はまだ拝読していないので、上記の結論はあくまで東洋経済の記事への議論であることにご留意いただきたい。権丈善一『医療政策は選挙で変える』を参照されたい。
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2008年09月05日

[時事]日本での国際裁判管轄ルールを整備へ

法務大臣から法制審議会へ、国際裁判管轄に関する日本国内でのルール整備に関する諮問《法務省へのリンク》がなされた。

このことを報じる産經新聞の記事(2008年9月4日東京版)によると、一例として日本の特許権を巡る外国企業間の訴訟の管轄が挙げられていた。

国際裁判管轄は、長らくの問題であり、いよいよ前進が見られることには期待したい。

もっとも、知的財産法の世界では大きな影響があるとは、管見の限りは思いつかない。

たとえば、一例に挙げられていた、外国企業間の特許訴訟の管轄はどのようなメリットをもたらすのだろうか?

主要な国では、当該企業(特に被告企業)の営業地で裁判管轄が認められることが多いようである。侵害訴訟の場合、被告企業が日本で製造、譲渡行為を行っており、その利益が他の国より多いのであれば、日本で積極的に訴訟をする利益は生じるのかもしれない。そのときポイントとなるのは、他の裁判管轄国と比べ、無効抗弁がどこまで認められやすい(と考えられている)かだろう。

一部では、日本の裁判所は特許を無効にする方向の判決を下しやすいと評価されていると効く。これが一般的に捉えられると、日本での外国企業間での訴訟が増えるかもしれない。その場合、日本の訴訟代理人には新たなビジネスチャンスになるように思える。

他方、裁判官の増員がなされていない現状では、司法のマンパワーが相対的に足りなくなる。

社会的な厚生の評価は難しいが、弁護士さん以外は喜ばない、なんてことは望ましくないように直観的に感じる。
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2008年07月12日

[時事]G8サミットと知的財産

洞爺湖サミットの中で知的財産に関する議論も行われたようだ。

7月8日に外務省で行われたG8知的財産専門家会合報告書〔
本文
〕〔概要〕によると、次の3点が柱である。

○模倣品・海賊版対策
○効率的な知的財産制度
○開発手段としての知的財産制度等

この中で注目すべきことは、
特許制度の国際的な調和の重要性が指摘され、実体特許法条約の議論の加速化の推進が明示的に確認された

ことであろう。専門家会合の参加者が米国の政権関係者であれば非常にインパクトのある確認と言えよう。そうでなく米国特許商標庁関係者であれば、インパクトは半減かもしれない。実体特許法条約に米国特許庁は前向きではあると思われるのだが、いかんせん、政策権限がないのでどうしようもないところはある。

もう一つ注目すべき点は、日本の提案が通った点である。

3)中小企業による知財利用の成功事例の情報共有
かかる成功事例の情報共有は我が国がかねてより国内で積極的に行ってきた分野であり、途上国への技術協力にも有効と考えられることから、今回我が国より新たに提案を行い、WIPO等と協力しつつ、ネットワークの構築を検討していくことが確認された。


事例の背景を丁寧に整理しておけば、制度/経済状況が異なる途上国においても何らかの参考になるかもしれない。
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2008年07月09日

[時事]環境技術と知的財産政策

洞爺湖サミットが開かれているので、たまには環境の話題を(注1)。

二酸化炭素排出権の枠組み次第では、産業界は環境対応技術の開発がより積極的に求められることになり得る。そうすると環境関連の特許の流通もより求められてくるだろう。

そんな中、IPNEXTのニュース(2008年7月8日付)で、
ニューヨークを本拠とするLynxstreet.comが地球に優しい環境関連の知的財産を対象とする新しいオークションサイトを立ち上げた。
http://www.ipnext.jp/news/index.php?id=3904
との報道があった。

知的財産のオークションサイトはOceanTomo(http://www.oceantomo.com/)が有名であるし、うまくいっていると聞く。
同様のサービスの算入で、どれほど成長するかは未知数であるが、分野を絞ることで関係者の興味を引きやすい、ということはあるのかもしれない。

他方、環境関連の知的財産に関してはCSRの観点から流通を促進する取り組みも見られる。IBMが中心となったEco-Patent Commons(http://www.wbcsd.org/web/epc/)が代表的な例である。

さて、これらの取組はいずれも「望ましい」で片付けられるのだろうか。環境技術に対しては3つの立場があり得るように思う。それぞれの立場からみたとき、

一つ目は、環境ビジネスを促進し、環境関連技術開発のもっとも古典的なインセンティブを増大させるという立場である。この立場からは、私的な流通環境が整うことは望ましい。なお、この立場を貫くとEco-Patent Commonsのような取り組みは、市場を損ねる行為として望ましくないと評価されるように思う。

二つ目は、国として環境関連技術開発を促し、国の中で利用を促すことで、自国の競争力を削がないことを目指す立場である。これは排出権取引枠が国ごとに設定されたときには、起こりうるものであると思う。この立場に拠ると、国として環境技術へ投資することが望ましく、場合によっては環境技術に対する強制許諾制度を定めるかもしれない。この立場(および三つ目の立場)からは、一つ目の立場で望ましかった私的な流通環境が整ったとしても、各特許の保有者がその利用の範囲を決めることができるため、特許の保護期間内は技術の利用の裾野が拡大しない可能性があることが望ましくないと評価されよう。

三つ目に、地球環境を全体のことを考えた技術開発・利用を促す、という立場もあり得る。これに適合する取り組みはEco-Patent Commonsであろう。これは地球環境維持という観点からは望ましいが、技術開発のインセンティブはなかなか確保されないところは難しいかもしれない(だからEco-Patent CommonsではCSRが主な動機になっているのだろう)。この立場からは二つ目の考え方は、国の中に閉じてしまうことは望ましくないと評価されよう。

環境保護をうたうときに、知的財産分野においてどのような政策をとっていくのか興味深い。「知的財産推進計画2008」では、環境技術に関してはコモンズの推進を図っていくことが窺える。三つめの立場なのだろうか。

(注1)そもそも温暖化が進行しているのか、その要因は本当にCO2なのか(温暖化した結果ではないのか)、等の疑問も呈されているところであるが、私にはその知見が無いので、ここではその点には踏み込まない。
posted by かんぞう at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | ★時事 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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