■事案の概要
被告(国)の設置した社会保険庁内のLAN(利用者:社会保険庁全職員約17000人)に、原告が著作権を有する雑誌記事(社会保険庁に対する苦情に関するものであった)を掲載したことが、原告の当該著作物にかかる複製権または公衆送信権を侵害するものとして争われた事案。
被告は、複製権侵害の主張に対しては著作権法42条1項(行政目的の複製に対する複製権の制限)に該当するとし、公衆送信権侵害の主張に対しては、文言上著作権法42条には公衆送信権は含まれないが、その趣旨を没却しないためにも、公衆送信権が同条の対象に含まれると解釈するべきと述べていた。
他方原告は、複製権侵害の主張に対する抗弁への反論として、「国家意思等を決定するに必要であり、その著作物を複製しなければ行政の目的を十全に達成できないような場合でなくてはならない」と述べていた。
■判旨(42条1項の該当性について)
「42条1項は,…(中略)…特定の場合に,著作物の複製行為が複製権侵害とならないことを認めた規定であり,この規定が公衆送信(自動公衆送信の場合の送信可能化を含む。)を行う権利の侵害行為について適用されないことは明らかである。」
「また,42条1項は,行政目的の内部資料として必要な限度において,複製行為を制限的に許容したのであるから,本件LANシステムに本件著作物を記録し,社会保険庁…(中略)…及び社会保険事務所内の多数の者の求めに応じ自動的に公衆送信を行うことを可能にした本件記録行為については,実質的にみても,42条1項を拡張的に適用する余地がないことは明らかである」
■考察
本事案は42条1項にいう「行政目的」の該当性について判断する機会であったが、判決はその判断を避けている。42条の文言上公衆送信権が含まれていないことから、公衆送信権は同条の対象外と述べた上で、公衆送信権の侵害を認定して原告の請求に応えている。
しかし、これには疑問がある。
42条1項の文言上公衆送信権が含まれていないことは間違いないが、複製と公衆送信の違いを区分する必要性があるのだろうか。仮に行政内部において公衆送信可能化することにより当該情報を受領する者の数が増えることを問題にしているのであれば、同条但し書きに言う、
「当該著作物の種類及び用途並びにその複製の部数及び態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない」
に該当するとして同条の適用を否定すればいいのではないか。
このような判断の背景には、あるいは30条以下は限定列挙であるから限定的に解釈しなければならないという考えがあるのかもしれない。しかし、そのような一般的な命題には異論のあるところである(注1)。
もっとも、判決が本件行為について「実質的に見ても,42条1項を拡張的に適用する余地がない」と述べていることに鑑みれば、行為態様によっては同条が公衆送信に拡張して適用される可能性もある。
しかし、仮にそのような意図であるとすれば、42条1項但し書きに照らし、本件行為が不当な利益を害するものか否か、判決は丁寧に述べているはずである。おそらくそのような読み方は出来ないのであろう。
■余談
余談になるが、執務の参考情報として行政が著作物を共有する場合、著作権者への許諾が必要…となると、そのライセンス料契約は『随意契約』となる。これって大変な手間では…などと余計な心配もしてしまう。
(注1)総論的にそのように触れるものとして中山信弘『著作権法』(有斐閣、2007年)241頁。なお、42条1項にいう行政目的を限定的に解するべきと述べるもの(本件原告の主張である)として、加戸守行『著作権法逐条講義 四訂新版』(著作権情報センター、2003年)283頁。

