2008年01月06日

[意匠]意匠の類否判断主体を巡る見解の整理(暫定版)

意匠の登録要件としての、公知意匠との類否の判断主体については、いまだ勉強途上であるが、興味深い論稿に触れ、おおまかな整理を試みたのでここに紹介する。

本整理において大いに参考となったのは、牛木理一「最高裁判決は絶対なのか−意匠法3条1項・2項の解釈と適用−」知財ぷりずむ2007年11月号《牛木内外特許事務所へのリンク。入手しにくい(注1)論稿をウェブで公開してくださる点、牛木先生に厚く感謝申し上げます。》、および、土肥一史「同一・類似の物品の意匠と意匠法3条2項の適用」別冊ジュリスト188号『商標・意匠・不正競争判例百選』(2007年)100頁−101頁である。
前者の論稿は、昨年施行された改正24項2項への強い反発の思いが表れていらっしゃるのか、全体としては若干読みづらくも感じられたが、重要判例として取り扱われる〔可撓伸縮ホース事件最高裁判決〕(最判昭和49年3月19日民集28巻2号308頁)当時の制度背景と、それに沿った解釈論の適否を述べるものとしてはわかりやすかった。

■〔可撓伸縮ホース事件最高裁判決〕の背景を鑑みた類否判断主体に関する解釈論の適否ご存知のように、〔可撓伸縮ホース事件最高裁判決〕は、3条1項3号は同一物品の公知意匠との類否は一般需要者を判断主体とする、と示した判決である。
佐藤繁調査官により、「物品混同説と結び付けて理解する向きがあるとすれば、おそらく判決の真意ではない」(注2)との指摘が当時からなされているが、少なくともいわゆる創作説(判断主体を当業者とするもの)を否定したものとして同判決は理解されているように思われる。
しかし、牛木弁理士は以下の難点を指摘する。
・3条1項1号〜3号に対応すると読める、無効審判の除斥期間に関する規定(旧49条)のうち、3条1項3号に対応すると考えられる旧49条3号は、当業者を基準として創作性を欠く意匠と明示していることと整合性を欠く
・仮に一般需要者における「混同」を問題にしているならば、物品に関わらず他人の業務にかかる物品との混同を生ずる恐れがある意匠の登録を禁止する5条2号があることの説明がつかない
・仮に一般需要者における「混同」を問題にしているならば、それまでの意匠法の制定、改正の沿革上、商標法や不正競争防止法との保護領域の観点からの検討が加えられたことがなく、異質の考慮である(意匠法は特許法や実用新案法と同じく創作保護法であり、特許法や実用新案法と同じく当業者間における登録の適否を判断するべきである)
特に、第1の指摘は説得的である。少なくとも、上記最高裁判決が出された当時においては、3条1項3号の判断主体を当業者とする理解(いわゆる創作説)の方が文理解釈上優れていたと私は考える(注3)。

■現在の法における各理解の優れている点、難点の整理
しかし、現在、旧49条3号規定は削除されている。また、その後の研究では、単に創作説と混同説という対立ではなく、いわゆる需要説という考え方も現れている(注4)。
また、24条2項が設けられたことも当時と異なっている。

そこで、それぞれの理解の優れている点、難点を考察し、おおまかであるが整理を試みた。非常に乱暴な整理であるが、私のような初学者が議論を考えるとっかかりとなるのではないかと考えている。詳細な点を省いている点はなにとぞご海容いただきたい。理解の誤りについては、ご指摘いただければ幸いである。

【混同説】
□概要
・意匠を見る者の注意を引きやすい部分について、一般の需要者が誤認・混同をするかにより判断する。(それゆえ、公知意匠であることを参酌しない=公知意匠も要部として認定されうる)
□根拠
・取引者・需要者による混同を排除しないと意匠権を保護する実質的意義を喪失するため。
□優れている点
・平成19年に改正された24条2項と整合する(なお、同項は権利行使の場面における類否判断主体について規定したものであるが、本理解によると登録要件と権利行使の場面における類否判断基準が一致することになる)。
・意匠登録されているものであれば(理論上は)出所混同が生じないことが保障される。
□難点
・5条3号(他人の物品と誤認混同する意匠の登録の禁止)の存在意義が説明しにくい。
・法制定・改正の沿革に沿わないとの指摘がある(注5)。
・部分意匠制度の導入により物品の混同を防ぐことが意匠法の目的との説明が困難になった(注6)。
・権利行使の場面での類否判断では、公知意匠を参酌する必要があり、理論的には美しくない(注7)。
※なお、一般需要者=常にエンドユーザーと理解するのであれば、部品として用いられる意匠について説明がつかない(注8)。

【需要説】
□概要
・新しい需要を起こすことが期待される構成を背景とする美観の異同により判断する。(それゆえ、公知意匠を参酌する=公知意匠は要部として認定しない)
□根拠
・意匠法の目的は、取引者・需要者にとっての意匠の機能の保護にあるとの理解。
□優れている点
・平成19年に改正された24条2項と整合する(なお、同項は権利行使の場面における類否判断主体について規定したものであるが、本理解によると登録要件と権利行使の場面における類否判断基準が一致することになる)。
・公知意匠を参酌する現状の運用と整合する。
・立証においては需要者へのアンケートを行うことにより統計的な立証が可能。
□難点
・法制定・改正の沿革に沿わないとの指摘がある(前掲注5参照)。
・意匠法の目的の理解としては一般的でない(?)。

【創作説】
□概要
・当業者にとって創作容易か否かをもって類否を判断する。(それゆえ公知意匠を参酌する)
□根拠
・意匠法の目的は、特許法・実用新案法と同じく当業者間における創作の保護であるとの理解。
□優れている点
・公知意匠を参酌する現状の運用と整合する。
・当業者にとっては(理論上は)類否判断が容易。
・5条3号との関係が説明しやすい。
□難点
・平成10年改正により3条1項3号、3条2項ともに「公然知られた」意匠との関係が問題となることとなったため(注9)、なぜ両条文に規定を分けたか説明が難しい。
・平成19年改正の24条2項との関係では整合性の面で美しくない。
・創作保護法との理解に基づく説明は、特許・実用新案がアイディアを保護しているのに対し、意匠が「表現」も関わる点を保護していることの差異を考慮すれば、決定的な理由とならない可能性がある。(言い換えると、表現である以上、需要者もそれをもって識別することになりうる。創作する意義が、外観によるの差別化にあるとするならば、意匠の意義として識別性を考慮することが適切と考えられる余地があると考えられる。)また、不正競争防止法的な観点を欠くという説明は5条3号の存在を説明できないのではないか。

(注1)経済産業調査会編『知財ぷりずむ』は入手が難しい。
(注2)佐藤繁「同一又は類似の物品の意匠と意匠法3条2項の適用」最高裁民事判例解説昭和49年(1974年)318頁。
(注3)積極的な賛否を述べるものではないが、土肥一史「同一・類似の物品の意匠と意匠法3条2項の適用〔可撓伸縮ホース事件〕」別冊ジュリスト188号『商標・意匠・不正競争判例百選』(2007年)101頁は上記点を重視し、創作説を「当然にありえた」と評価されている。
(注4)鈴木將文「意匠の類否判断基準〔衣装ケース事件〕」別冊ジュリスト188号『商標・意匠・不正競争判例百選』(2007年)102頁の整理に従った。なお、需要説は意匠が需要喚起につながっていることを鑑みて、需要者の観点からの類否を考えるべきとする理解である(その意味で、出発点は混同説に近い)。需要説について牛木弁護士の整理の中では触れられていない。混同説の1つとして整理されている可能性があるが、判断主体が混同説と同じとはいえ、アプローチが異なっており、後述するように難点についても差異が顕著であるように思われる。
(注5)牛木弁理士の指摘されるところであるが、疑問もある。意匠法の理解が広義の競争秩序維持法としての理解に変容していった、といえるのであれば、これまでの沿革は決定的な理由ではないように思われる。なお、知的財産法を広義の競争秩序維持法として理解する方向性を示唆するものとして、白石忠志『独占禁止法』(有斐閣、2006年)334頁。
(注6)鈴木・前掲注4 103頁。
(注7)私には「美しさ」の問題であるように思うが、この点は異論があるかもしれない。今後検討したい。
(注8)牛木理一・前掲「最高裁判決は絶対なのか−意匠法3条1項・2項の解釈と適用−」知財ぷりずむ2007年11月号、論稿冒頭より24頁目の批判は、需要者の理解をエンドユーザーとのみする説明を批判されており、混同説に対する批判としてはミスリードではないかと思われる。
(注9)それまでは、3条1項3号が「公然知られた」、3条2項が「広く知られた」と書き分けていた(牛木・前掲注8の論稿の指摘である)。
posted by かんぞう at 23:43| Comment(4) | TrackBack(0) | ☆意匠 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
RCLIP第22回研究会
【日時】2008年1月28日 18:30〜20:30
以下の報告があるようです。

【場所】早稲田大学総合学術情報センター内 国際会議場3階 第2会議室
【報告者】
五味飛鳥(早稲田大学大学院法学研究科博士課程後期/弁理士)

【テーマ】
「意匠の類否判断に係る人的基準について」

【対象】お申込みはこちら>>>
https://www.21coe-win-cls.org/info/reservation.php?sid=10487
Posted by サイバー at 2008年01月09日 17:36
見落としていました!さっそく申し込みました。教えていただきありがとうございます!!
Posted by かんぞう at 2008年01月12日 02:47
レポートを期待しております。私は、多忙で参加できません。
比較法でしょうか。
Posted by サイバー at 2008年01月14日 22:42
承知しました。ご期待ください。(といっても良質のまとめは出来る能力がなく恐縮ですが)
概要を見る限り比較法の可能性もありますね。ただ、どうなのでしょうね?比較法の場合、実際の運用とのニュアンスの違いがあるでよすから、単純に比べたら危ないような気もします。
Posted by かんぞう at 2008年01月15日 00:14
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