2007年11月25日

[特許]独占的通常実施権者による損害賠償請求権と、権利者による損害賠償請求権の関係について示した興味深い判例

大阪地判平成19年11月19日(平成18年(ワ)第6536号、平成18年(ワ)第12229号)判例集未登載

本判決は、独占的通常実施権者による損害賠償請求権と、権利者による損害賠償請求権の関係について興味深い解釈論を示していると思われるので紹介する(注1)。

1.事案の概要
(1)事実の概要
X1は爪切りに係る考案につき実用新案権(以下、本件実用新案権という)を有する者であり、X2はX1を代表者とする有限会社であり、本件実用新案権につき独占的通常実施権を有すると主張している。X1らは、Yが輸入するイ号物件が本件実用新案権を侵害するものであるとして、技術評価書を添えて警告を行ったところ、Yはイ号物件につき本件実用新案権の侵害を避けるべく改造をし、ロ号物件を製造した。
X1らはこれら一連の行為が本件実用新案権を侵害するとしてYらを相手取り、以下の請求を行った。

(2)原告の主な請求
X1、X2はイ号物件、ロ号物件双方が本件実用新案権の技術的範囲に属すると主張し、X1は、(請求1)本件実用新案権侵害による損害賠償請求(なお、実用新案法29条3項に基づき損害額を計算している)、(請求2)本件実用新案権侵害によるイ号物件の輸入差止、および、イ号物件・ロ号物件の販売差止・廃棄請求を行い、さらに、(請求3)X1らが取得したイ号物件の廃棄請求権の侵害または債務不履行に基づく損害賠償を求めた。
X2は、(請求1’)本件実用新案権に係る独占的通常実施権侵害による損害賠償請求(なお、実用新案法29条2項に基づき損害額を計算している)、(請求2’)本件実用新案権に係る独占的通常実施権侵害によるイ号物件の輸入差止、および、イ号物件・ロ号物件の販売差止・廃棄請求を行った。
なお、イ号物件が本件実用新案権を侵害していることはYも認めている。

2.判旨
裁判所は、ロ号物件につき検討し、本件実用新案権の技術的範囲に無いと認定した上で、Yはロ号物件への改造により侵害を回避したとして、(請求2)についてはイ号物件の輸入の差止について認め、それ以外は過剰な差止であると述べた。
(請求3)および(請求1)については以下のとおり判断した。

(1)(請求3)侵害品の改造行為は侵害品の廃棄請求権の侵害にあたるか「実用新案法27条1項…(中略)…の差止請求権は,所有権に基づく物権的請求権と同様,侵害行為やそのおそれが存するに連れて不断に発生し続け,侵害行為やそのおそれが消滅した場合に発生しなくなるものにすぎない(すなわち,差止請求権をある時点で取得し,それが存続するという性質のものではない。)。
そのため,侵害行為やそのおそれの存否は,この請求権の存否を確定すべき時(事実審の口頭弁論の終結の時)を標準として定められるべきものであり,その標準時点を離れて差止請求権の「取得」や「存続」は観念できず,したがって,「取得した権利」の「消滅」や「無になること」もやはり観念し得るものではない。そして,実用新案法27条2項が規定する侵害行為を組成した物の廃棄請求は,差止請求権の行使を実効あらしめるために,差止請求権に付随して認められるものであるから,廃棄の必要性についても,差止請求権と同様に事実審の口頭弁論の終結の時を標準として定められるべきものであって,その標準時点を離れて廃棄請求権の「取得」,「存続」も,取得した権利の「消滅」,「無になること」も観念し得るものではない。」

(2)(請求1)(請求1’)損害賠償、とくに独占的通常実施権者による損害賠償請求権と、権利者による損害賠償請求権の関係について警告後に行われたイ号物品の輸入分について、X1に対しては実用新案法29条3項に基づき、X2に対しては29条2項に基づき、それぞれ損害賠償が認められた。
「独占的通常実施権が設定されている場合には,…(中略)…,独占的通常実施権が無償で設定されていても,実用新案権者がなお実用新案法29条3項に基づく損害賠償を請求し得ることはこれを認めることができる。しかし,この場合に,独占的通常実施権者に同条2項の類推適用による損害賠償請求を認め,同時に実用新案権者にも同条3項による損害賠償請求を認めて,両請求権が単純に並立するものと解するときには,前記のような専用実施権が設定された場合以上の逸失利益を権利者側に認めることになり,均衡を失するものというべきである。また,同条2項による損害額の算定は,侵害者が実施行為を全く行わなかった場合を想定するものであるのに対し,同条3項による損害額の算定は,侵害者が実施行為を行ったことを前提とするものである点で,両規定は互いに両立しない状況を想定ないし前提しているのであるから,この点からも両請求権が単純に並立すると解することはできない。これらの点を踏まえると,独占的通常実施権者が有する同条2項の類推適用に基づく損害賠償請求権と実用新案権者が有する同条3項に基づく損害賠償請求権とは,重複する限度で連帯債権の関係に立つものと解するのが相当である。」
(なお、太字は筆者)

以上のように判断し、X1らの請求の一部を認容した。

3.若干の考察
(1)廃棄請求権の侵害について
妨害排除というものであること、クレーム外であれば妨害排除の必要が無いことに鑑みれば、当然の判断である。興味深い点は、おそらくこのように正面から述べた判決は少ないであろう点である。

(2)独占的通常実施権者による損害賠償請求権と、権利者による損害賠償請求権の関係について(a)これまでの裁判例
従来のものを見ると、管見の限り、権利者と独占的通常実施権者双方からの請求の場合は、独占的通常実施権者の損害額から権利者が受けるべき利益額を控除するものばかりである(注2)。また、明確に連帯債権であることを否定した事案も存在する(注3)。
本件のように連帯債権であると判示した例は見当たらなかった。

(b)私見
理論的には、損害の性質が異なり連帯債権関係にあるとすることには疑問を覚える。しかし、本件のように実質的に同一人と考えられる場合には、X2が強制執行手続きを行えば一度に全てが満足するという事実上の利点はある。理論上の問題も含めて研究したい点である。

4.雑感
判決文をお読みいただくと感じられると思うが、原告側の主張に雑さを感じてしまう(注X)。また、実際に認定された損害賠償額は11万円わずかに留まり、訴訟経済的にもまったく見合っていないものとなっている。

(注1)なお、恥ずかしながら手元の資料が不足しており、基礎的な先例・学説の分析も粗くしか出来ていない。それゆえ「思われる」にとどめている。
(注2)大阪地判平成3年5月27日知裁集23巻2号320頁。なお、当事者の主張自体が権利者の受けるべき額を控除した額の請求を行っており、これが認められたものとして東京地判平成17年3月1日判例時報1969号108頁。
(注3)東京地決昭和63年4月22日判例時報1274号117頁(盛岡一夫「判批」発明86巻3号(1989年))。
(注4)もっとも典型的に現れているのは次の箇所である(なお判決文に書かれているだけであるので、裁判官が誤って理解したという可能性も万に一つも無いわけではあるが)。Yがイ号物件を改造した行為を、<<第三者による>>X1のYに対する廃棄請求債権の侵害であると主張している。Y側が明確に指摘しているとおり、この場合Yは第三者に当たらない。初歩的な誤りをされているのはいかがなものか。
posted by かんぞう at 23:49| Comment(0) | TrackBack(0) | ☆特許 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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