2007年11月18日

[意匠]部分意匠の類否判断基準―青木弁理士の整理に学ぶ―

1998年意匠法改正で導入された部分意匠制度は、世界的に共通の制度ではなく(注1)、制度としての使い勝手については必ずしもコンセンサスがある状況ではなさそうだ。特に登録の場面、侵害の場面それぞれでの類否判断については理論上も捉え方が分かれているようだ。
この点について、青木博通『知的財産権としてのブランドとデザイン』(有斐閣、2007年)283頁以下(初出「タイプ別部分意匠類否論―部分意匠の類否判断」DESIGN PROTECT 50号(2001年))が理論的な整理を加えており、参考となったので備忘のため要点をまとめた。

■部分意匠における類否判断:配設関係の創作性の考慮をするかが分かれ目
青木弁理士の整理を元に考えると、最大の分岐点は、「部分意匠の登録において、配設関係の創作性を考慮するか」が、分かれ目になるようだ。

特許庁の運用(注2)では、3条1項3号の類否判断において配設関係も含めた総合的判断を行う、としている。これに基づけば、(1)部分自体に創作的寄与がある場合、(2)配設関係に創作的寄与がある場合、それぞれ類否判断が分かれ(注3)、(1)では単純に部分のみを比較し類否を判断し(注4)、(2)では登録された部分意匠の位置態様に類似した態様で、同一または類似の意匠が引用意匠またはイ号物件に用いられているかにより類否を判断することになろう。

しかし、このような理解には異論もありうる。明細書図面で破線部で囲んだ範囲だけが権利範囲といいながら、結局配設関係を考慮していることはおかしいのではないか、というものである(注5)。これに基づけば、上記の(1)の判断基準のみということになる。

■どちらを採るべきか?
物品の需要喚起機能を果たす形態を保護することが、部分意匠の目的と考えられるが、これに基づけば、位置が需要喚起機能を持つ場合は、これを保護することが望ましいものと考えられる。

また、仮に配設関係を考慮しないとなると、部品意匠との差異がなくなってしまい、制度的意義も欠くように思われる。

以上の点を考慮すれば、配設関係を判断基準に含めることが適切と考える。

■懸念事項:利用者にとっては権利範囲が不明確になる可能性
ただし、理論的に上記のように考えても、現実の利用者には権利範囲が判りにくい可能性がある。

まず、部分自体に創作的寄与がある場合では、通常の意匠権と同様、類否判断が分かりにくく、事実上同一の範囲のみにおいて権利行使することとなる可能性がある。あるいは、逆に類似の範囲を超えた権利行使が濫発する可能性もある(注6)。(もっとも、これは意匠制度の活用がより進み、多くの実務家の間に、ある種の共通の「勘」が形成され、多少なりとも解消されることになろう)。

次に、配設関係に創作的寄与がある場合は、公知意匠との関係で配設関係がポイントであることを利用者が把握できない場合、(すなわち、部分自体に創作的寄与があるかのように映ってしまう場合)、部分自体の模倣が事実上制約される懸念がある。

前者の点については、意匠制度一般に起こっている問題であるが、後者は部分意匠独特のものである。後者についての声は私はまだ聞いたことがないが、部分意匠の行使が増えた場合に、上記の懸念が生じないか、注視したい。


■このほかの関連文献
今後の参考としたい文献は以下のとおり(注7)。

佐藤恵太「部分意匠の権利範囲に関する覚書」牧野利秋退官記念『知的財産と現代社会』(信山社、1999年)
吉原省三「部分意匠の問題点」牧野利秋退官記念『知的財産と現代社会』(信山社、1999年)
板倉集一「侵害訴訟における部分意匠の類否判断」知財管理Vol.57 No.6(2007年)941頁以下

(注1)米国、OHIM(欧州共同体意匠規則)、韓国などでは部分意匠制度を導入しているが、現在のところ、中国では導入されておらず、カナダにおいても類似の制度が無いことが推測される。なお、中国は日本側からの働きかけ(中国専利法改正調査団の訪日に伴う意見交換会・シンポジウムの結果概要《特許庁へのリンク》)を受け、2008年専利法改正案に折込み、現在審議を重ねているようだ。
(注2)特許庁「意匠審査の運用基準」。
(注3)この点が、青木弁理士の理論的貢献のポイントと言えよう。なお、同旨の見解として、松尾和子「意匠制度110周年と改正意匠法の意義」特許研究28巻(1999年)7頁。
(注4)特許庁や裁判例の傾向に従えば、公知意匠を参酌して要部を取り出し、需要者に与える美感を比較することになろう。
(注5)吉原省三「部分意匠の問題点」牧野利秋退官記念『知的財産と現代社会』(信山社、1999年)はこの趣旨をいうものと思われる。
(注6)判定制度の活用が進むとこの点は解決できるのかもしれない。
(注7)なお、私はまだ確認できていない…。
posted by かんぞう at 23:58| Comment(4) | TrackBack(0) | ☆意匠 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
今回の整理、位置商標(Position Mark)を入れた場合の権利侵害の判断基準の参考にもなりそうです。

オーストラリア・アデレード大学の向かいのホテルより。Peter Drahos教授の出身校のようです。
Posted by サイバー at 2007年11月19日 19:16
はるばるオーストラリアからの書き込み、ありがとうございます。調査で赴かれているのでしょうか?

なるほど、たしかにPosition Markの判断には参考になりますね。興味深いご指摘です。

ただ、青木弁理士のように2類型にすることは実質的に意味が無いかもしれませんね…。商標は元々、「部分」でもOKですから、標章自体で自他識別できるのであれば、わざわざPosition Markにしない方が、権利範囲が広いのでは、と感じます。もっとも素人考えですが…。
Posted by かんぞう at 2007年11月22日 08:09
標章自体で自他識別できなが、その位置にあることによって識別できるものがあります。その場合には、意味がでてくるかと思います。

今朝帰国しました。アデレード大学の生協には、Peter Drahos教授の本はありませんでした。アジア弁理士協会の年次大会がアデレードであり、アジアの中心となる弁理士1000名ほどがあつまりました。
Posted by サイバー at 2007年11月22日 14:59
お疲れさまです。すばらしい機会ですね。各国の弁理士さんの活動状況はどうでしょう?日本では身近な技術経営コンサルタントとしての側面もより強く求められだしているのかな…と最近感じています。

上の書き込みで、すいません、私のことばが足りていませんでした。
「2類型」にすることは意味が無いけれど、位置に意味があるという類型ではご指摘通り役立つと思います、という趣旨でした…。
Posted by かんぞう at 2007年11月23日 23:11
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