2007年11月17日

[つぶやき]司法試験合格者年3000人は第2のポスドク問題か

一部の弁護士さんの中には、司法試験合格者を増やしすぎたことを問題視する声があるようだ。

報道を並べてみる限りでは、
(1)就職難の合格者が発生している
(2)近年の合格者の質が低下している
(3)過当競争が生じ、サービスの質が低下する
(4)収入を得るために公的な活動(刑事弁護等)を避ける
ことが問題点として挙げられている。

私はこれらの指摘には疑問を覚えるところがある。

(2)は、現在の合格者に関しては旧司法試験との過渡期に過ぎないことを考慮するべきであると思う。(建前としては)旧試験はあまりいい制度ではなかった(注1)のだから、そこの合格者の質が(仮に一部の弁護士が言うように)低くても、「新司法試験に変えてよかったね」というだけである。もし新司法試験合格者の質が低ければ「法科大学院のカリキュラムを変えなきゃね」というだけであろう。

そもそも、このような「質の低下」の話が、ベテラン弁護士からの指摘と報じられている点が気になる。「最近の若者は…」という程度のものであるとすればがっかりである。

(3)は、確かにそういう弁護士が登場してしまうかもしれないし、収入を得るために過剰なまでに働き、クオリティの低い弁護があるかもしれない。しかし、そういう状況が生じるのは弁護士から他の仕事への転身が難しい場合である。知識社会において十分な知識、能力を身につけているのであれば、法律というツールを日常的な武器としない仕事は十分あるように思うのだが…。

この点について、朝日新聞2007年11月17日に掲載された佐藤幸治名誉教授のコメントが的を射ていた。佐藤先生は「現状の弁護士像にこだわるならば苦しい状況だが、他の領域でも活躍の余地がある」旨、指摘されていた。どのビジネスモデルもそうだが、通常何十年も持たない。弁護士業とて同じことではないだろうか。

なお、現在の弁護士さんの状態こそむしろよくないと思うこともある。私の同年代の弁護士さんは高給を得ながらも馬車馬のように働いている。弁護士が足りないのではないか、と感じさせる。これでは多くの若手の医師の現状と同じく、過労による弁護過誤が起きかねない。

(4)は、いままで通常業務でお金が稼げたから公的奉仕ができた、ということを前提にしているのだろうか。仮にそうだとすると、これはおかしい。法的サービスを利用する者に過剰に高い費用負担をさせ、公的奉仕にあてていたことになる。

望ましい社会にしたいのであれば、それなりのインセンティブ設定をすることで対処するべきではないか。

最後に、(1)の点については、現在の受験生・合格者には同情したい点もある。しかし、多くの受験生・合格者はきわめて理知的な方であろうから、合格者3000人と報じられた2002年段階で、市場としては厳しくなることは理解していたはずである(注2)。それくらいの覚悟は決めていたはずであるし、これを「かわいそう」などということは受験生・合格者をバカにしているのではないかとすら思えてしまう。

もちろん、「政府が積極的なPRをするあまり、就職難が生じるとは思えなかった」「裁判官・検察官の道の拡大が期待されたが、公務員削減のあおりで達成されなかった」という事情もあろう。このような状況のもと、司法試験という道を選んだ方が路頭に迷っているのであれば、それは第2のポスドク問題ともいえる。

懸念するのは法科大学院の予備校化の現状である。
カリキュラム以上に学生さんたちが試験ばかりを意識しすぎているきらいもある(注3)。そうなることで、「社会人基礎力がない」などとレッテルを貼られ、「法曹界以外では使えない」などといわれては、ポスドク問題と同じく、つぶしがきかない、ということにもなりかねない。
就職難であるからこそ、「受かる」よりも「使える」ものを身に着けて欲しい、と思う次第である。

(注1)だから新司法試験制度を導入した…はずである。ただ、私は旧試験が悪かったとは必ずしも思わない。多数の合格者がいる中であれば、整ったトレーニングを受けていない野武士のようなやつがいていいのではないか、と思っている。
(注2)ただ、私が知己の同輩・後輩たちには、ごく少数ではあるが、現状の弁護士の収入水準と、格段に楽になる合格率を夢見ている者がいた。これでは…と嘆きたくもなったが、合格者が増え競争が導入されれば、原理的には淘汰されるのだろうな、と感じたことがある。
(注3)一大学院生として、法科大学院の院生さんと触れ合っての個人的な感想である。
posted by かんぞう at 23:57| Comment(0) | TrackBack(1) | ●つぶやき | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]

認証コード: [必須入力]


※画像の中の文字を半角で入力してください。
この記事へのトラックバックURL
http://blog.seesaa.jp/tb/67188100
※言及リンクのないトラックバックは受信されません。

この記事へのトラックバック

民法IV 補訂版 親族・相続
Excerpt: ・家族法・相続法が一冊というのはウリ。2冊買わんでいい。・事例が好きな人はオッケイ。理論が欲しい人はイマイチ。・判例数が多い。・大村教科書(家族法)との差は、基本民法シリーズよりは少ない。大村先生の教..
Weblog: 法律をあげる
Tracked: 2008-02-01 22:37
×

この広告は1年以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。