2007年11月11日

[特許][時事]消尽理論の到達点と課題:キヤノンインクカートリッジ事件最高裁判決

■知財高裁ロジックを覆した最高裁判決に驚いた
先日、本ブログで「[時事]キャノンインクカートリッジ事件終結へ」(2007年11月2日記事)として、キヤノンインクカートリッジ事件上告審を取り上げたが、その段階では、最高裁は知財高裁の判断基準を踏襲するものと思い込んでいた。

当該記事で述べたように、知財高裁の役割は高度な事実認定を果たすことであるのは間違いない。とはいえ、法解釈についても事実上影響力が大きいのでは、と感じていたからである。

しかし、実際に判決(最判平成19年11月8日平成18年(受)第826号)が下って驚いた。
判決は次のように締めくくっていた。
原審の判断は,結論において正当

つまり、知財高裁のロジックについては、これを覆したのである。

■知財高裁ロジックとの違い
ご存知のように、原審の知財高裁平成18年1月31日判決(平成17(ネ)10021号)では、
(ア) 当該特許製品が製品としての本来の耐用期間を経過してその効用を終えた後に再使用又は再生利用がされた場合(以下「第1類型」という),
又は,
(イ) 当該特許製品につき第三者により特許製品中の特許発明の本質的部分を構成する部材の全部又は一部につき加工又は交換がされた場合(以下「第2類型」という)
には,特許権は消尽せず,特許権者は,当該特許製品について特許権に基づく権利行使をすることが許されるものと解するのが相当である。

との2類型を提示していたが、これに対して最高裁は、
特許権者等が我が国において譲渡した特許製品につき加工や部材の交換がされ,それにより当該特許製品と同一性を欠く特許製品が新たに製造されたものと認められるときは,特許権者は,その特許製品について,特許権を行使することが許されるというべきである。
そして,上記にいう特許製品の新たな製造に当たるかどうかについては,当該特許製品の属性,特許発明の内容,加工及び部材の交換の態様のほか,取引の実情等も総合考慮して判断するのが相当であり,当該特許製品の属性としては,製品の機能,構造及び材質,用途,耐用期間,使用態様が,加工及び部材の交換の態様としては,加工等がされた際の当該特許製品の状態,加工の内容及び程度,交換された部材の耐用期間,当該部材の特許製品中における技術的機能及び経済的価値が考慮の対象となるというべきである。

と述べ、第一類型と第二類型を融合させたような、従来見られなかった判断基準を示した。

従来見られなかったとはいえ、多くの議論を巻き起こした消尽理論の理論的な到達の一つといえる判決であることは間違いない。これまでの判例の中で示されていた理論の問題点を解消する論理構成となっている。

知財高裁ロジックが、製品を判断基準としていると理解できる第一類型と、クレームを判断基準としていると理解できる第二類型を並べたことで、理論的な「なぜ」を提供していたことに比べると、理論的な整合性が保たれている。

■最高裁ロジックの課題?
しかし、結局のところ、総合考慮に持ち込まれてしまったことには、予測可能性の点で課題があるように感じる。

原審との比較で読むと、第一類型に該当しても加工の内容いかんでは特許権が及ばないこととなるように思われる。また、第二類型については本質的部材の交換があっても取引の実情いかんでは特許権が及ばないことになるように読める(注1)。
(これらは特許権者に不利なように働くので、取引の安全を害する可能性が低い点でよいのかもしれないが。)

他方、読みようによっては、本質的部材の交換でなくても、取引の実情等をふまえ権利行使が認められる可能性もある。

いずれにせよ、判決の積み重ねを待たないことには基準がわからなくなった点には、もうちょっとがんばって精緻化してくれても良かったのに…というわがままな願いを覚えなくもない。

■参照すべき記事
なお、本判決に関しては、『企業法務戦士の雑感』のFJneo1994さんが「[企業法務][知財] 決着が付いた日。」(2007年11月8日)で詳細に分析され、コメントされている。

FJneo1994さんは、理論的に整理されている点で本最高裁判決を評価なさっている。私とは評価が異なっているが、学説上の議論も盛り上がることがあれば、面白い(注2)。

また、FJneo1994さんはキヤノン特許部隊のクレーム書き能力のすばらしさも指摘されている。私はクレーム書きには全く明るくないためその評価すらできないが、丸島儀一氏が紹介されているように同社の知的財産部自体の活発さは特筆すべきものと言えよう。

(注1)知財高裁は「特許製品中の特許発明の本質的部分を構成する部材の全部又は一部につき加工又は交換がされた場合であっても,当該製品の通常の使用形態,加えられた加工の程度や取引の実情等の事情により「生産」に該当しないものとして,特許権に基づく権利行使をすることが許されないこともあり得るという趣旨であれば,判断手法として是認することはできない。」として同様に批判を述べられている。しかし、それが均衡点である、と考えることもできるので、理論上クリティカルな批判ではないのかもしれない。
(注2)私の考えのようなしょぼい見解が一蹴されて終わりという可能性が高いが…。
posted by かんぞう at 19:29| Comment(2) | TrackBack(1) | ☆特許 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
AIPPIの判例研究会(12月)で、さっそく、東京地裁の部総括判事さんが評釈されるようです。
Posted by サイバー at 2007年11月12日 12:56
ほんとうにさっそくですね。聞きたいですね…。
私や私の勤め先はAIPPIと関わりがないため聞けないのが残念です。
Posted by かんぞう at 2007年11月14日 00:16
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