2007年10月19日

[商標]商標の普通名称化の防止

青木博通『知的財産権としてのブランドとデザイン』(有斐閣、2007年)の第1章第1節「商標の普通名称化」を読んでいて、なかなか勉強になった。備忘録として刺激を受けたポイントを。

■欧州における普通名称化防止に関する制度
標章であっても、普通名称として使われるようになると、その時点で商標出願をしても登録を受けられなくなり、同一または類似の標章に対して、侵害の主張が認められなくなる。

それを防ぐため、欧州では登録を受けた商標に関して次のような制度設計がなされている。
・商標権者の側から「辞書、百科事典、その他の同様な書籍」(注1)において商標を一般名称としての印象を与える形で用いている場合、その書籍発行者は次版において登録商標であることを明示する義務を負う(欧州共同体商標理事会規則10条(EC40/94))。
・他方、商標が普通名称化した場合登録が取り消されうる(同50条(b))。

これを受けて、青木弁理士は現行商標法に普通名称化を防ぐ手だてが無いことを問題視し、立法論として、日本においても欧州共同体商標理事会規則10条同様の規定を設けるべきと述べられている(注2)。

■欧州の制度への疑問
確かに、直感的には欧州共同体商標理事会規則10条は正当性がありそうな規定にはなっている。しかし、決定的な疑問が有る。普通名称化に貢献するのは、(少なくとも現在においては)辞書/百科事典などの「書籍」が主なのであろうか。

ガチガチの文言解釈をすれば、ここには「新聞」や「ウェブサイト」、また、「データベース」は含まれないと思われるが、反復継続的に公衆に語のイメージを与えると言う点ではこれらの媒体と、辞書/百科事典などの書籍では差がないのではないだろうか。

私はそのように思うのだが、そうすると欧州共同体商標理事会規則10条の合理的な説明がつかない。むしろ一方的に辞書/百科事典の出版社のみを制約する規定ともとられなくもない。

■妥当な解決策は?
ただ、裁判の運用上、辞書の記載が重視されてきたということである(注3)。このことに鑑みれば、上記の点が直感的な同制度の合理性を支えてきたのだろう。

しかし、運用が問題であるなら、それを改めればよい。

法的な問題はさておき、たとえば普通名称化の認定にあたっては辞書の記載を参酌するが、普通名称化の防止に尽力していれば、それをもって普通名称化に否定的な認定をする、という運用もあり得る(注4)。
(注1)訳は、特許庁のWebサイトによる。http://www.jpo.go.jp/shiryou/s_sonota/fips/ec/crct/chap3.htm#law10
(注2)青木博道『知的財産権としてのブランドとデザイン』(有斐閣、2007年)34頁。
(注3)日本においても同様に辞書の記載が斟酌された例として〔巨峰事件〕が有る。
(注4)法的に問題が有りそうだが、これの検討は後日…。(と言うときはたいてい忘れる)
posted by かんぞう at 00:32| Comment(6) | TrackBack(0) | ☆商標 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
新聞、広告会社、コピーライターは、辞書で確認して文書を作成するようです。

欧州共同体商標規則は、商標権者もさることながら、出版会社の救済の視点もみのがせません。商標権者は、自分の商標が辞書に記載されると、怒るは、あばれるは。欧州共同体商標規則があれば、次の版から変えればいいのですから。
Posted by サイバー弁理士 at 2007年10月19日 01:59
なるほど!貴重な示唆をありがとうございます。

辞書は、公衆へのインパクトが有る媒体の大本という現実の慣行が有る訳ですね。実効性と言う点で見逃しがたいですね。

また、実は出版社にもありがたい、という視点、これは新鮮な驚きでした。勉強になります。
Posted by かんぞう at 2007年10月21日 22:04
ニュースソースは、こちらの論文です。駒沢の先生も読まれているようです。

http://www.jpaa.or.jp/publication/patent/patent-lib/200705/jpaapatent200705_013-023.pdf
Posted by サイバー at 2007年10月22日 12:21
サイバー弁理士さん、ソースまで示していただいてありがとうございます。
このように教えていただけると、ブログで情報発信(私の恥の発信かもしれませんが…)していてよかったと、つくづく思います。

それにしても最近、紙媒体のパテントに触れられる環境に無かったので、パテントの良記事を見落としていました。デジタルでの記事配信がますます進んでいるのがありがたいですね。
Posted by かんぞう at 2007年10月23日 00:08
「サイバー弁理士」から「サイバー」に名称変更いたしました。
日本弁理士会当局からクレームがついてもこまるので。
正真正銘の弁理士+侵害訴訟代理付記登録ですが。
Posted by サイバー at 2007年10月23日 12:16
サイバーさん、先の私からの書き込みがお名前の変更に対応しておらずすいませんでした。
付記登録を受けてらっしゃるんですね。まさか、青木先生ご本人という展開かも!?、とひそかにドキドキしておりますが、付記登録を受けてらっしゃる方の数を調べますと1700名を超えているのですね。
Posted by かんぞう at 2007年10月23日 21:47
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]

認証コード: [必須入力]


※画像の中の文字を半角で入力してください。

この記事へのトラックバック
×

この広告は1年以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。