2007年10月10日

[その他]パブリシティ権を巡る、新たな興味深い事案

■振り付けにもパブリシティ権?〔ピンクレディー振り付けパブリシティ権事件〕の概要
MSN産経ニュース(2007年10月8日記事)によると、
 元ピンク・レディーの未唯(みい)さんと増田恵子さんが、女性週刊誌に掲載された過去のステージ写真をめぐり、「振りつけにもパブリシティー権がある」として、出版元の光文社に計312万円の損害賠償を求める訴訟を東京地裁に起こしていることがわかった。
とのことである。

事実関係の概要は次のようである。
(同記事より引用)
 訴えによると、週刊誌「女性自身」は今年2月27日号で、「ピンク・レディーの激しいダンスでダイエットする」との趣旨の企画記事を掲載。記事とともに、大ヒット曲「ウォンテッド」「渚のシンドバッド」などを歌い踊る2人の過去のステージ写真など、計14枚の写真を無断掲載した。
 2人は訴えの中で、「ピンク・レディーとして5曲連続ミリオンセラーを記録するなど人気を集め、その知名度はいまだ衰えていない」として、まずは肖像のパブリシティー権を主張。
 その上で、振りつけ自体にもパブリシティー権があると主張している。

これから判断するに、主たる主張は、
・雑誌の一記事の中で無断で写真を使用したことがパブリシティ権の侵害である。
というものであり、予備的に、
・振り付け自体にもパブリシティ権があり、その振り付けを撮影した写真の無断使用もパブリシティ権の侵害である。
と主張していることが窺える(注1)。

■筋の悪い主張か?
これを見て、「なんて無茶な」という感想もあると思われる(注2)。

だが、予備的主張の構成はともかく、主としてオーソドックスな意味でのパブリシティ権を主張しているのであるし、(後述するが)それが100%認められるか難しい局面であるため、なんとかして予備的な主張をひねり出す代理人の姿勢には、私は筋の悪さは感じない。

まず主たる主張について検討する。
パブリシティ権侵害との明示がないものもふくめて、これまで芸能人の肖像写真の無断利用が不法行為であるとされてきた事案は多い(注3)。それゆえ、主たる主張としては真っ当なものである。

ではこの主張が受け入れられる可能性はどうか。
本件のような雑誌の一記事での利用の場合について、利用の態様からの総合判断によって不法行為該当性が否定された事案(注4)があることから、何らかの予備的主張をしておくことが望ましい。その意味で、代理人の方針は真っ当である。

■予備的主張の「振りつけにもパブリシティー権がある」はどう評価できるか?
こちらの主張は、直観的に苦しい。
少なくとも先例は無い。

では、この主張を根拠づけることはできないだろうか。
現在、パブリシティ権は複数の法的性質からなるものとの理解がある(本ブログ「[知財一般][やるべきこと]パブリシティ権を整理する枠組みについてのおもいつき」(2007年5月4日記事)参照)。

それに基づいて考えると、次のようになるだろう。

□人格権
振り付け自体の人格権と言うものは認められないだろうし、仮に、振り付けに化体した人格、と説明してしまうと、著作物の通説的な理解と重複し、「著作権の主張ぢゃん、あんたは著作権もって無いヨ」と言われてしまうので、この性質に基づく構成と理解するのは苦しいものと考えられる。

□不正競争型の競争秩序違反(標識の冒用)
まず、振り付けが、それが利用されたサービス/商品の出所がピンクレディーであることを表すものだ、と言う必要があろう。これは難しいのではないか。たしかに振り付けは「ピンクレディー」を想起させることに疑いは無いだろう。しかし、ピンクレディーの振り付けを見て、商品等出所の混同が起こるか、と言われれば、私は疑問を感じる。
ただ、この性質に基づく構成が本件では一番無難かもしれない。

□当該行為のインセンティブを著しく削ぐと言う意味での競争秩序違反
こんな利用のされ方をするのでは、もう振りをつけて踊れない!…というにも難しいように思う。よって、これは苦しいのではないか。

若干無茶な主張であるように素人目には感じるが、そういう無茶な主張をすると原告のパブリシティを傷つけかねないことは原告代理人も承知されているところであると思う。ならば、よほどの理論的正当化ができており勝算があるのか、あるいは、よほど光文社に恨みが有るのか…。
(注1)あくまで産経新聞の報道による限りであるので、「窺える」とした。残念ながら他の新聞から報道はなされていない。
(注2)私は最初そう思っていた…。
(注3)詳細は内藤篤=田代貞之『パブリシティ権概説 第二版』(木鐸社、2005年)を参照。
(注4)たとえば〔ブブカ2002事件高裁判決〕(東京高判平成18年4月26日判タ1214号91頁)。
posted by かんぞう at 01:24| Comment(0) | TrackBack(0) | ☆その他 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]

認証コード: [必須入力]


※画像の中の文字を半角で入力してください。
この記事へのトラックバックURL
http://blog.seesaa.jp/tb/59883342
※言及リンクのないトラックバックは受信されません。

この記事へのトラックバック
×

この広告は1年以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。