2007年09月10日

[時事][特許]出願中のビジネスモデル特許を担保とする融資??――「ビジネスモデル特許」の時代??――

大坪和久さんの「ビジネスモデル特許権(?)を担保に融資(?)」『パテログ』(2007/9/9記事)で、ある種、純粋な「ビジネスモデル」の、それも「出願中の特許(特許を受ける権利)」を担保に融資が行われた例が紹介されていた。

■事案の概要
大坪さんの記事で紹介されている日経の記事が、事案をわかりやすくまとめているので一部を引用する(なお、後述することになるが、今回は「批評」目的の引用だったりする)。
NIKKEI NET(2007/9/8)
商工組合中央金庫は花・植木卸売業のジャパンプランツ(岐阜市)に対し、出願中のビジネスモデル特許を担保に、1000万円の運転資金を融資した。ジャパンプランツは切り花や観葉植物の独自商品から売れ筋を選び、小売店向けに容器や給水装置、陳列棚と一緒に配送する仕組みを構築している。今回はこの仕組みがビジネスモデル特許を取得できると判断し、融資を実行した。

特許を受ける権利(出願中の特許)のみを担保に融資する例は珍しいな…と思いきや、

商工組合中央金庫からのプレスリリース《商工中金へのリンク》では、
商工中金(岐阜支店)は、8月31日、株式会社ジャパンプランツ(本社:岐阜市、代表取締役:熊崎 重司氏)に対し、知的財産権(ビジネスモデル特許権(出願中)、商標権)を担保として運転資金を1,000万円融資しました。
とあった。

なんだ、商標権とセットかよ。日経さん、はしょっちゃダメぢゃん。

とはいえ、特許を受ける権利を担保に含む融資は珍しい。

■意外なオチ?
一体どんな特許か気になるところである。大坪さんが紹介されているように、会社のwebサイトに何故か自ら出願公開をされている。果たしてそれが今回の担保の対象となったものかは判然としないが、商工中金のプレスリリース記載の発明名称に似ている発明をピックアップしてみた。

特願2006-326761
【請求項1】鉢内に保水部を設け、この保水部に植物を指した状態で、鉢を通い箱に収容して、荷主がスーパーマーケット等の小売店に出荷して配送し、小売店側では前期鉢のまま陳列することを特徴とするシステム。
http://www.japanplants.co.jp/tokyyo_t_TOP.htmより)

…あれ?
自然法則の利用は?

私は特許実務の専門家でないので素人判断にすぎないので恐縮だが、これって「単なる取り決め」ではないのだろうか。

そもそも、日本において「ビジネスモデル特許」とはソフトウエア(情報システム)という形でしか権利取得できない(注1)。しかし本件の明細書を見る限り、請求項にはもちろん、発明の詳細な説明にも情報システムの香りはしない。

であるならば、ここに公開されている出願は拒絶されるのではないだろうか。

もちろん、webに公開していない出願に係る特許を受ける権利が担保となっている可能性はある。
(ただ、なぜ上のような特許を出願してしまったのかは合理的な説明ができないが)。

あるいは、特許を受ける権利はともかく、ビジネスモデル自身+商標権に対して融資をしたのだろうか。
それならば、商工中金のプレスリリースはミスリードであるし、それに乗せられた日経さんはかわいそうだ。

いろいろつっこみたいところはあるが、下手をすると自分が素人であることを棚に上げてぼろくそに言いそうなので、これくらいにとどめておく。

(注1)基本的な入門書にも書いてある。たとえば、角田政芳=辰巳直彦『知的財産法 第3版』(有斐閣、2006年)403頁。
posted by かんぞう at 21:00| Comment(8) | TrackBack(0) | ★時事 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
はじめまして。
日頃から拝読しています。

もしも、上記出願が本当に担保であるなら、1000万円の融資の担保としては、ちょっとお粗末な感じがありますね。

現行のビジネス関連発明の扱いで駄目なだけでなく、特許審査の一般的基準に照らしてもアウトじゃないかと思います。

出願人HPも見ましたけれど、明細書内にも情報システムは影も形も無く、単なる商取引の形態しか開示されていません。

そもそも、「システム」とは、特許法的には物の発明ですので、荷主や小売店という人の行為を構成要件とする商行為をクレームにしている時点で、かなりナンセンスです。仮に、本件発明を本当にシステムに関する発明と解釈すると、人を構成要件にしていることになってしまい、その点でもアウトです。

この分野では例外的に、昔からこういうクレームを許容しているというような特殊な事情がないのなら、普通に考えるとちょっとおかしい気がします。この分野を良く知らないので断言することは出来ませんが。


でも、これ、弁理士ついてるんですよね・・・。

鉢植えの部分とか棚とかラッピングの態様が記載されているので、そこに進歩性のある技術があれば、クレームを大幅変更して権利化する気なのかも・・・。

でも、それは担保にしようとした発明とは内容が違うので、担保の価値が著しく減少しているように思われます。

権利取得前の出願の価値は、評価が極めて困難なので担保には向かないと思います。審査請求しても権利取得できるのは半分くらいですし、権利取得前のクレームとは権利範囲が大幅に異なるのが常ですから。金融屋さんが本業の片手間で、適切な権利範囲等を的確に評価できるのなら、弁理士も審査官も苦労しません(笑)。

担保の価値が減少した場合に、担保を追加する契約も有り得るとは思いますが、クレームの内容の変更でどの程度の金銭的価値の変動が生じたかを定量的に算出することも極めて困難ですから、どっちにしても冒険だと思います。

そうじゃなければ、記事が大袈裟に書いているだけだと思います。個人的にはこれが一番有り得ると思います。
Posted by とおる at 2007年09月11日 07:31
とおるさん、コメントありがとうございます。

おっしゃる通りだと思います。私も、「1000万円の融資の担保としては、ちょっとお粗末」と感じました。

特許明細書を見れば見るほど「?」ばかりが出てくる事案です。それなりに出願経験のある弁理士事務所が代理人になってますので、ますます「?」です。

おっしゃるように商工中金のプレスリリースも含め「大袈裟に書いている」のがもっとも合理的な説明かもしれませんね。実際、日経までが取り上げたのですから、出願料と弁理士のコストだけでニュースになるとすれば安い広報投資です。


>権利取得前の出願の価値は、評価が極めて困難なので担保には向かないと思います。

この指摘以下は大変興味深く拝読しました。なるほどご指摘の通りだなあと感じます。

ご指摘を読んで興味がわいたので、ざっと権利取得前の出願を担保にした事案を調べてみましたら、
・日本政策投資銀行
http://www.shikoku-np.co.jp/kagawa_news/economy/article.aspx?id=20050330000064
・みなと銀行
http://www.minatobk.co.jp/houjin/venture/chizai.html
などがヒットしただけで、極めて少数派なようでした。
Posted by かんぞう at 2007年09月11日 22:39
レスポンスありがとうございます。

個人的な興味としては、債務不履行の際に、現実にどうやって債権を回収するのかが興味があります。

権利取得前の状態なら、金融機関が権利化をしないといけませんが、その費用はどうするのでしょう?審査請求していなければ、20〜30万円の審査請求料が必要となり、弁理士費用も数十万円単位で追加発生します。この費用を金融機関が負担するのでしょうか?

しかも、費用を出したからと言って、権利化が必ずできるとはいえませんし、権利化できても権利内容によっては無価値になる恐れもあります。業界の専門家では無い金融機関が権利行使を見据えた権利化ができるのか疑問です。さらに、現状権利化までに相当の期間を要するのも回収効率を悪化させることになります。

何よりも最大の問題は、出願や特許権のマーケットというものが存在しないことです。現実に権利をキャッシュに変えようとするなら、個別交渉で売り込むしかありません。この成功率も高くない上に、そのための人件費や調査費を考えると・・・。

一時期、ベンチャー育成との絡みで知財を担保化する手法が話題になっていましたが、正直な所、この手の話は無理が有り過ぎではないかと思います。

どこかの事例で、実際に債務不履行が発生した時の対応を見てみたいものだ・・・という少し意地の悪い期待を抱いていたりします。
Posted by とおる at 2007年09月12日 06:10
とおるさん、興味深い問題提起だと思います。
おっしゃるとおりですね。債務不履行の際に担保が有効に機能しない可能性を感じます。そんな事例がないものですかね。
私も調べてみることにします。

最初に頂いた「大げさに書いている」という指摘をうけてふと感じたのですが、出願前の権利を担保に取っている場合とは、多くの場合が結局はビジネスモデル自体(事業の見込み)に投資しているだけなのかもしれません。

もしそうだとすると、債務不履行のときの違和感は少し減るかもしれません。というのも、そこでコケてしまったときに、事業の見込みへの融資ならば、とれるものは0ですが、出願前の権利ならば、もろもろのコストはかかるけれど回収は0でないかもしれない、そんな思惑があるのかもしれません。
もっとも、コストを書ける価値があるかというところを、「金融屋さんが片手間」にできるのか、という問題点は依然残ることとなりますが…。
Posted by かんぞう at 2007年09月13日 01:40
>そこでコケてしまったときに、事業の見込みへの融資ならば、とれるものは0ですが、出願前の権利ならば、
>もろもろのコストはかかるけれど回収は0でないかもしれない、そんな思惑があるのかもしれません。

仰られるとおりの感じですね。担保については、何もないよりはマシで、金融機関での内部説明もし易くなるという程度の話なのかもしれません。

元記事からして、「新モデルの5カ月間の業績が順調に推移していることから、将来性があるとみて運転資金1000万円を融資したとしている。」 と書いていますから、有望な事業への投資という扱いですね。

そう考えると、担保をどう扱うかについて、金融機関側は詳しく検討はしてないかもしれません。担保価値も精査していないかも・・・。
Posted by とおる at 2007年09月13日 05:50
>内部説明もし易くなる

この視点は重要なご指摘だと思います。実は内部的な論理が主なのかも…。

>担保価値も精査していないかも・・・

この点、気になります。私もそう思えてなりません。誰か金融屋さんがブログとかでぽろっと書いていませんかね??
Posted by かんぞう at 2007年09月14日 00:59
>この点、気になります。私もそう思えてなりません。
>誰か金融屋さんがブログとかでぽろっと書いていませんかね??

金融屋さんではなく、知財関連ブロクで既に幾つも指摘が出ているようですが、商工中金のプレスリリース自体がぽろっと白状しているような雰囲気が・・・。

>(※1)ビジネスモデル特許
>ビジネスの仕組みを特許化したもの。事業として何を行い、どこで収益を上げるのかという
>「儲けを生み出す具体的な仕組み」自体を内容とする特許を指す。

これを見る限り、担当者はビジネス関連発明の扱いについて明らかに誤解をしていますよね。少し調べれば、『「儲けを生み出す具体的な仕組み」自体を内容とする特許』という酷い誤解は生じ得ませんから、担当者は、担保価値を評価するのに必要な情報をろくに調べていないような気がします。

そうなると、当然、担保価値は精査できていませんよね・・・。

融資の相談の時に、弁理士は同席していなかったんでしょうか。同席して説明等をしていたのなら、そちらの問題も気になります。

しかし、注目の集まるであろう融資案件でこういう間違いを堂々と発表する商工中金もあれですが、こういう発表を間違いも指摘せずに喜々として報道する日経にも問題があるような気がしてきました。
Posted by とおる at 2007年09月14日 05:54
ご指摘の通りだと思います。商工中金のプレスリリースは、担保価値精査ができていないことを白状しているも等しいですよね。

>注目の集まるであろう融資案件でこういう間違いを堂々と発表する商工中金も
>あれですが、こういう発表を間違いも指摘せずに喜々として報道する日経にも
>問題があるような気がしてきました。

確かに!と思わず笑ってしまいましたが、前者は「政府系金融機関」なので実際のところ笑えないところです。ひいては、ずさんな融資が行われているのでは、と疑ってしまいます。
日経についても、私は「乗せられちゃって」と書きましたが、記事のスクリーニング機能に問題あり、と見られてもおかしくないですね。
Posted by かんぞう at 2007年09月16日 00:10
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