2007年09月10日

[意匠]意匠類比判断基準へのニーズを探ってみた

9月6日の記事に引き続いて法施行の話題をもうひとつ。
この4月から、改正意匠法が施行され、侵害の場面における意匠の類比判断は需要者の視点を基準に行うこととなった。

意匠の類比判断基準については、いわゆる創作説と混同説に分かれているところであったので、そこに一定の決着を付ける決定は当然のことながら批判もでてくる。とくに判断基準を「需要者」と定めたことで、混同説に立つかのようにも読めることから、創作説に立つ論者からの批判は強い(注1)。

もっとも、直ちに混同説をとったと見るのは早計であると言う指摘が的確であると私は考えている(注2)。

これに対しては、審議会でも同様の認識が一部の委員から示されているが、いずれ市場での混同を問題とする運用に転化するのではないか、との懸念がなされている(注3)。

この懸念はある種もっともなところである。「需要者」というのはどういう者をさすのか必ずしも判然とせず、不正競争防止法に言う「需要者」概念に引きずられる運用がなされる可能性も否定できない(注4)。

■改正過程を法解釈学とは違った視点で眺めてみて浮かぶ興味深い点
創作説の批判の根底の一つには、意匠法は創作保護法だという認識が創作説の論者にあるようにも思われる。

このような考え方は審議会においても一部の委員から示されている(注5)。

これに対して審議室長は、新しいデザイン観に基づいて意匠法の性格付けがなされることに違和感は無い旨の発言をなさっている。

さて、私自身は創作説と混同説のいずれかを支持するか、不勉強ゆえ態度を決められない。そのためか、法解釈と異なる点が気になっていまった。それは、なぜここまで特許庁が強気なのだろうか、という点である(注6)。

法改正にはきちんと調査をするのが日本の中央官庁であるように思う。何らかのニーズ側の裏付けがあるのかもしれない。気になるのでちょっと調べてみた。

■意匠の類比判断基準に対するニーズ
残念ながら管見の限り直接に意匠の類比判断基準に関するニーズ調査を行った研究が見当たらなかった。そこで、意匠の出願目的から類比判断基準のニーズを推測することにする。

ところが、意匠の出願目的についての調査も詳細なものが見当たらない。やむを得ず、主として意匠の出願目的を問う調査でないもの(注7)の結果から推測することにした。

それによると、
摸倣品・類似品対策 約90%
他社の権利侵害不存在の確認・証明 約65%
自社のブランド力強化 約60%
特許権の補完 約45%
ライセンス収入 約5%
ということである。

主たる目的と思われる上位3つから、意匠の類比判断についてのニーズを解釈をしてみた。(正直言って乱暴な解釈である以上、異論もあるはず。もし抜け落ちている視点があれば指摘していただければありがたい。たぶんたくさんあると思われるが…。)

産業財産権である以上当たり前ではあるが、摸倣品・類似品対策が出願の主目的となっている。

デザインの場合、需要者が摸倣品を見て外形上似ているからと混同をし、結果として粗悪品をつかまされた!と勘違いされることがある。意匠権者がこれを嫌がっているのだとすれば、「勘違い」を問題にしてほしい、つまり、「需要者」の「混同」を問題にしてほしい、という方向につながるかもしれない。

あるいは、市場の代替を問題にしているのかもしれない。つまり、デザインが差別化の大きなポイントである場合は、需要者にとって「似ている」ものであれば市場で代替されてしまう。これを意匠権者がいやがっているのだとすれば、やはり同様に需要者を判断基準にしてほしいと言うことにつながる(ただし、「混同」までは問題にならないだろう)。

他方、マネされてオリジナリティーが損なわれて腹が立つ、というところを問題にしているのであれば、当業者からの創作性についての視点にしてほしいと言うことにつながるように思われある。

次に、他社の権利侵害不存在の確認・証明について解釈してみる。ここで問題となるのは、市場で流通する際に当該物品が侵害品である懸念を払拭するところにあろう(注8)。

そうであるならば、極力流通事業者にとってわかりやすい基準が求められよう。すると、創作的な観点と言うデザイナーサイドの視点より、「需要者」に依る基準が好まれるのではないだろうか。

最後に、自社のブランド力強化であるが、これが意味するところが、自社のオリジナリティーの確立と言うのであれば、創作上の視点へと結びつくように思われる。

他方、先に指摘したような「粗悪品をつかまされた!という勘違いが嫌」という意味の、比較的消極的な意味でのブランドの確立なら、「需要者」の「混同」が問題となろう。

本来、出願目的を精緻に問う調査ではないので正確でない可能性はあるが、これを見る限り、「需要者」サイドの視点へのニーズが強いのではないか、という推測が可能であるのではないだろうか。

(注1)創作説を提唱されている牛木理一弁理士は強い口調で批判をされている。(かなりの怒りがこもっているように読める)論稿として牛木理一「改正意匠法24条2項への疑問――DVD著作権裁判の教訓――」パテント59巻10号(2006年)35頁以下。なお、創作説からの批判で主要な点は、登録時には当業者を判断基準とする創作性の概念により、既存の登録意匠との距離が問題とされるのに対し、侵害の場面では「混同」という概念で問題となる意匠との距離が問題とされることは、スマートではないのではないか、というところにあろう。
(注2)牧野利秋「意匠法の諸問題」ジュリスト1326号(2007年)84頁以下。本ブログ「[意匠]意匠の類似についての創作説と平成18年改正」(2007/2/20記事)参照。
(注3)「産業構造審議会 知的財産政策部会 第10回意匠制度小委員会 議事録」《経済産業省へのリンク》峯唯夫委員発言。なお、(注2)に挙げた牧野先生も参加されている。
(注4)なお、審議会で田川審議室長が、需要者の意味について「ある物品にとって最も経済的な価値を評価し得る需要者というところが実際には判断の基準になってくるのではないか」という解釈を示している点は注目に値する(前掲注3参照)。
(注5)前掲注3峯委員発言参照。
(注6)なお、ある程度センシティブな問題には、審議会の委員の人選を通じ江、省庁側の意向を通すと言う手法があるらしい(著作権の法改正にまつわる話であるが、京俊介「著作権政策形成過程の分析(一) ―利益団体,審議会,官庁の行動による法改正メカニズムの説明―」阪大法学57巻2号(2007年))。今回の場合、異論を唱える委員が多い点がなお注目される。それほど特許庁はニーズを把握していると言う自信があったのかもしれない。
(注7)特許庁「デザインの開発・管理・保護・出願戦略に関する調査」『平成18年度特許出願技術動向調査・意匠・商標出願動向調査 CD‐ROM』(発明協会、2007年)。非常に目立たない調査報告書である。筆者は偶然見つけた…。
(注8)権利侵害の有無が気になる!ということで、売り上げに影響した事案として、〔ピーターラビット事件〕大阪地判平成19年1月30日平成17(ワ)12138。なお、判決のまとめは、大塚法務行政書士事務所「「ピーターラビット」マルシーマーク事件〜著作権に基づく差止請求権不存在確認請求事件判決(知的財産裁判例集)〜」《外部リンク》『駒沢公園行政書士事務所日記』(2007/2/5記事)が非常に参考になる。個人的なことだが、大塚行政書士のまとめにはいつも勉強をさせていただいている。恥ずかしいので表では言えないがこっそり感謝の意をお伝えする。

posted by かんぞう at 00:24| Comment(2) | TrackBack(0) | ☆意匠 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
いつも拝見してまして、わたしにとっては「企業法務戦士の雑感」さんブログとともに「知」的ユウレイ屋敷さんは外せない存在でございます。

今後ともご教示のほどよろしくお願いいたします。
Posted by おおつか at 2007年09月10日 08:28
大塚先生、はじめまして。
わざわざコメントくださりありがとうございます。そのようにおっしゃっていただけろと光栄な反面、恐縮次第です。
今後ともよろしくお願い申し上げます。
Posted by かんぞう at 2007年09月10日 23:39
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]

認証コード: [必須入力]


※画像の中の文字を半角で入力してください。
この記事へのトラックバックURL
http://blog.seesaa.jp/tb/54656507
※言及リンクのないトラックバックは受信されません。

この記事へのトラックバック
×

この広告は1年以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。