2007年08月24日

[著作権][競争法]頒布権の消尽は知的財産法が競争秩序の中に位置づけられることを表しているか

若手の競争法学者で、著作物再販制度について業績を挙げられている石岡先生の論文、「消尽原則と競争秩序―頒布権の行使と取引の制限」日本経済法学会年報27号(2006)年117頁以下に触れた。

■石岡論文の要旨
その要旨は、おおよそ次のようである。
「知的財産権であっても競争秩序との関係で権利内容が考慮されるようになってきた。その表れが、権利の消尽原則である。特に著作物の頒布権の消尽を認めた〔中古ゲームソフト事件(大阪)〕(注1)は、権利保護の前提として「市場における商品の自由かつ円滑な流通」という
社会公共の利益が考慮されなければならないことを示している。」

■知的財産権の保護においても市場における商品の自由かつ円滑な流通の保護という競争秩序が前提とされているのか
知的財産法秩序と競争秩序の関係については、近時議論のあるところとなっている。石岡論文が主眼としている、知的財産法秩序が競争秩序の中に位置づけられる、という理解は、田村善之教授や白石忠志教授によっても示されている(注2)。
石岡論文は、ここでいう競争秩序を独占禁止法が規律する競争秩序と理解されているようにも読める(注3)が、ここでいう競争秩序は、独占禁止法が規律する秩序と同義と考えることができるかについては、異論が存在する。たとえば、稗貫俊文教授は、独占禁止法が規律する競争秩序と知的財産法が規律する競争秩序は性質が違うと理解されている(注4)。ここでいう競争秩序は私法一般の秩序と理解することもできよう(注5)。
この点については、なお検討の精緻化の余地があるところと思われる(注6)。

■頒布権の消尽は知的財産法が競争秩序の中に位置づけられることを表しているか
石岡論文は最高裁判例等を分析することにより、知的財産法の権利内容確定にあたって市場における商品の自由かつ円滑な流通と言う視点が考慮されるようになってきたと観察されている。しかし、私はなお、慎重に検討すべき点があると考える。
最高裁が著作権との関係で明示的に流通の自由を保障しようとしたのかについて、判然としないように思われるのである。
著作権法学においては頒布権が特殊な存在として位置づけられてきた(注7)。著作権は伝統的に流通をコントロールするものでないと(半ばドグマティックに)理解されてきたようにも思われる(注8)。その理由には、著作権が保護するものが表現物であるが故に、表現の自由との関係が生じうる点もあるのかもしれない。もしそのようなドグマからの帰結にすぎないのであれば、積極的に石岡論文のような主張をすることは、なおためらわれるように思う。

■石岡論文に学ぶ点
以上のような議論点を示している点、また、裁判例の観察として流通の自由保障と言う競争秩序の観点が知的財産法の権利範囲の考慮に含まれてきつつあることを指摘している点は、この論文によって大いに学ばされたところであった。

■補遺
なお、石岡論文の中で挙げられている興味深い論点として、『頒布権の内容には「価格制限をおこなうこと」も含まれているか』という点もあるが、これは別の記事で検討したい。

(注1)最判平成14年4月25日民集56巻4号808頁。
(注2)たとえば、白石忠志『独占禁止法』(有斐閣、2006年)334頁。
(注3)石岡論文126頁の記述から読める、というだけであるので、正確なところは不明である。
(注4)金井貴嗣ほか編著『独占禁止法 第2版』(弘文堂、2006年)〔稗貫俊文執筆部分〕337頁注3。
(注5)精読をしていないので挙げるのは恐縮なのだが、田村善之「競争政策と民法」NBL863号(2007年)はそのような理解をされているように思われる。
(注6)もっとも抽象的な「秩序」を議論することが、知的財産法の権利範囲内用の確定にあたって決定的なものとなるようには思われない。むしろ、事後観察の際に、概括的な評価としてどのような秩序に位置づけられるかの議論になるのに留まるのではないだろうか。
(注7)未だ議論のあるところである。世界的な議論の俯瞰は、斉藤博『著作権法 第2版』(有斐閣、2004年)172頁〜178頁参照。
(注8)この点については別途検討したい。
posted by かんぞう at 02:34| Comment(0) | TrackBack(0) | ☆著作権 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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