2007年07月10日

[特許]高部判事が指摘した今後の課題を読む

知財の世界で、時代に影響を与えてきた判事の一人、高部判事がこの春、知財部を離れた。それを機に、知財に関わった13年間を振り返って、今後の課題を指摘する論稿が発表された。知財の10年史としても面白いものであるし、また、高部判事の考え方が伝わってくるものであったので紹介する。

なお、同論稿は(上)(下)で大きく2つに分かれているため、それに沿った形でまとめることとする。

■高部眞規子「知的財産権訴訟 今後の課題(上)」NBL859号(2007年)14頁〜22頁読書メモ

□この論文の意義

特許無効の抗弁とクレーム解釈に関して、特許権に関する最高裁判決3件(キルビー特許事件判決、ボールスプライン事件判決、リパーゼ事件判決)が有する意義について触れ、前者については、無効審判とのダブルトラックの問題について課題を指摘している。高部判事が指摘する問題意識は、他の裁判官にも共有される可能性があり、注目に値する。

□この論文の概要
(1)特許法104条の3における「明らか」要件読み込みの必要性
特許無効の抗弁がキルビー特許事件判決を受けて、平成16年改正で特許法104条の3が設けられたが、そこにはキルビー特許事件判決では存在した無効事由が「明らか」に存在していること、という要件が文言上は削除された。そのことにつき、高部判事は無効審判との判断齟齬の可能性にふれ、極力齟齬をなくすためには、104条の3においても「齟齬がおこらないようにする」という意味での「明らか」な無効を求める解釈をするべきと述べている。

(2)特許無効の抗弁の課題
特許無効の抗弁が導入されたことで、2点問題が起こったと高部判事は指摘する。

1点目は、ダブルトラックで有効性の審査がなされることとなった点である。
実質的な問題として、審理にかかる時間が伸び、また、当事者の負担が増えていることを指摘されている(注1)。
そこで、少なくとも、特許消滅後の無効審判請求については、損害賠償請求のみが問題となっているためであることから、侵害訴訟ないし確認訴訟における特許無効の抗弁で十分であることを指摘され(18頁)、*無効審判制度ではなく「職権審理が可能な特許異議制度」+「侵害訴訟における特許無効の抗弁」という制度設計が望ましいのではないか*(**間はかんぞうの読み取りであり、謝っている可能性あり)という制度論を述べられている。また、ダブルトラックから生まれる課題として、無効の抗弁の立証に失敗したにもかかわらず、なんらかの無効審判で無効が確定すると、再審が可能である点を取り上げている。高部判事の私見はかかる再審請求は信義にもとるとし、民事訴訟法338条但し書きの精神に則り、信義則に反するとして排斥すべき場合があるとも述べられている(19頁)。
参照:民事訴訟法338条(再審の事由)
次に掲げる事由がある場合には、確定した終局判決に対し、再審の訴えをもって、不服を申し立てることができる。ただし、当事者が控訴若しくは上告によりその事由を主張したとき、又はこれを知りながら主張しなかったときは、この限りでない。


2点目は、特許無効の抗弁により無効とされることを恐れて権利行使が抑制されている、という点をあげてる。特に近時、特許権侵害訴訟の認容率が低いため、訴訟を回避する傾向を生んでいることを懸念されている。

(3)クレーム解釈
キルビー特許事件判決により、公地技術除外説の意義は失われたとし、クレーム解釈はもっぱらリパーゼ事件判決の基準に基づくべきと述べられている。これにより、予測可能性が担保されることを利点として挙げている。

私見

ダブルトラック解消の制度設計論については興味深い点であった。
無効の抗弁による訴訟回避の弊害については、問題かもしれないが、ではそれをどう解消するかが触れられていなかった。この点をささやかながら考えてみると、無効の抗弁において進歩性欠如を理由とすることは極力謙抑的であるような運用に尽きるように思われる。新規性については判断が相違する可能性が他の事由に比べて高いと考えられる(というより、高そうに見えて、請求権者の権利行使の負のインセンティブになると考えられる)からである。
なお、現状では新規性欠如を理由として無効の抗弁を認容したものが多いが、これは世界公知を採っている以上やむを得ないものと思う。世界公知調査にはかなりの手間とコストがかかることから、よほどのことが無い限り調査はしない。そこでバランスがとれていることとするしかない。
(注1)負担を知りながら無効審判での審理を勧めるような侵害訴訟での訴訟指揮をする一部裁判体の傾向に批判的であることが窺えた。
posted by かんぞう at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | ☆特許 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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