2007年06月28日

[特許]独占的通常実施権者から侵害者に対する損害賠償請求における損害額の算定についての覚え書き

(2007/06/29修正)
特許権の通常実施権者からの損害賠償・差止請求の議論について、この間の学会報告に受けて、ちょっと考えてみた。すると、損害額算定についてよくわからないところがあるので、覚え書き程度に整理をしてみたい。読者諸兄に私の不明な点をご指摘いただければ幸いである。

独占的通常実施権者が第三者である侵害者に対して損害賠償請求を行う場合に、考えられる法的構成は2つ。1つは独占的地位と言う債権侵害に基づく構成。もう1つは、債権者代位構成である。

さて、それぞれの場合の損害額算定について、疑問のある場合がある。
問題となるポイントは次の3点だと思われる。

損害額の計算規定が使えるかどうか、がまず問題となる(注1)。
また、計算規定の適用条文を巡っても議論があろう。
最後に、特許権者も損害賠償請求をした場合、どのように調整するかが問題となる。場合によっては、通常実施権者と特許権者双方が独自に損害賠償債権を持ち、事後的に見ると、侵害者は102条1項から3項のうち最大額となる計算結果にもとづき特許権者一人に支払う損害額よりも、より多い損害賠償額を課されることがあり得る。もちろん、102条4項が認めるように、1項ないし3項までの計算額を超えてもかまわないわけで、それが直ちに不当とはいえないが、たまたまアクターが多かったから額が増えるというのは、どこかしっくりこない(注2)。

以下、債権侵害構成と、債権者代位権構成で分けて述べる。

1.債権侵害構成

(1)特許法102条は適用可能か?
債権侵害構成の場合には、計算規定が使えるというには、理論的に障害があるように思える。条文上は「特許権」の侵害における損害の計算をしているのであり、「独占的地位」という債権の侵害について、文言上からは適用は困難であるように思う。

ここで、仮に適用が認められないとすると、損害額は原則独占的通常実施権者が立証することになるが、これはなかなか困難であろう(注3)。民事訴訟法248条の活用場面といえるかもしれない。もっとも、それは通常実施権だからだ仕方ないのだ、といわれればそれまでのことである。

他方、双方とも特許権に基づく「独占性」という利益が概されているのであるから、共通の性質を持つということで適用ないし類推を認めることもできるかもしれない。少なくとも、完全独占的通常実施権であれば特許権の同視しうる性質を持つのであり、102条の適用または類推に違和感は少ないように思う(注4)。

(2)102条1項ないし3項いずれの適用が可能か?
仮に計算規定が使えるとして、その根拠は「非侵害利益の共通の性質」に求めるのではないか、と(1)で触れた。すると、「独占性に基づく利益の侵害」と同視しうる規定しか適用できないのではないか、という疑問がわく。

すなわち、102条2項は「特許権の侵害について特別に定めた規定」と理解する立場(注5)からすると、2項の損害は「独占性の侵害」以上の損害を認めるものであるといえ、債権侵害構成において適用することはふさわしくない可能性があるのである。

もっとも、このような考え方は裁判例がとるところではないようなので、実務的な問題からは遠い。

(3)特許権者も損害賠償請求をした場合について
完全独占的通常実施権者が存在する場合には、特許権者はロイヤリティ分しか請求できない、と考えることが自然であろう。完全独占的通常実施権者からの損害賠償請求額は、専用実施権のときと同じく(注6)ロイヤリティ分を控除されるべきなので、トータルとしてバランスはとれている。

問題は完全独占的通常実施権でなく、単なる独占的通常実施権の場合で、この場合、それぞれ別個に計算を認めると額が大きくなり、不当と評価される余地もある。不当であるとして解消を目指すならば、特許権者と按分する方法もあるが、共有関係に無いので、そもそも持ち分を考慮している訳も無く、その按分方法の決定が困難である。あるいは、無理にでも1/2づつと決定するのかもしれないが、これはきわめて難しい問題である(私の力では結論を出すことができない)。

2.債権者代位構成の場合

(1)特許法102条は適用可能か?
特許権者の損害賠償請求権を代位しているので、102条を用いることは問題が無いと思われる。

(2)102条1項ないし3項いずれの適用が可能か?
問題はどの項が使えるかで、特許権者が実施していないような場合、1項、2項が使えるのかが怪しい。判例では、特許権者が実施していない場合は3項しか用いることができない、という傾向があると指摘される(注7)。

裁判例の傾向に沿う限り、特許権者が実施していない場合は、独占的通常実施権者は3項に基づく損害額、すなわち、ライセンス料相当額の賠償にしか預かることができない。やはりこれも仕方ないといわれればそうかもしれないが、特許権としては実施しているのであり、どこか釈然としない。

(3)特許権者も損害賠償請求をした場合について
悩ましいのは、特許権者からの損害賠償請求との兼ね合いである。代位行使構成では、独占的通常実施権者からの請求が先にあった場合は権利行使は不可能となる。そこで特許権者が独占性通常実施権者の訴訟に参加するとして、その利益の配分はどうするのだろうか?共有関係に無いので、そもそも持ち分を考慮している訳も無く、その按分方法の決定が困難である。先程1(3)で述べたように、無理にでも1/2づつと決定するのかもしれない。

小括

以上のところを見ると、損害賠償額算定に当たっては、債権者代位構成の方が、トラブルは少なそうである(だからといって理論的に有意ということにはつながらないと思うが)。わかったのはそれくらい。なぜかもやもやが残ってしまう。

(注1)判例では、完全独占的通常実施権に計算規定の適用を認めたものがあるようだ。大阪高判昭和61年6月20日など。
(注2)特許権の共有のときにも生じる問題である。もっとも、別個の損害が観念できるのだから、やむを得ないという開き直りもあり得る。
(注3)これは無体の財産侵害に共通することであり、それゆえ、知的財産権制度には計算規定が設けられている。
(注4)あるいは前掲(注1)の判例は、完全独占的通常実施権限りの判決と読むべきのようにも思われる。
(注5)田村善之『知的財産権と損害賠償 第2版』(弘文堂、2004年)など。
(注6)中山信弘『工業所有権法(上) 第2版増補版』(弘文堂、2000年) 346頁。
(注7)牧野利秋・飯村敏明編『新・裁判実務体系4 知的財産関係訴訟法』〔高松宏之〕(青林書院・2001年)307頁。当然批判もある。田村・前掲(注5)230頁以下参照。
posted by かんぞう at 01:06| Comment(0) | TrackBack(0) | ☆特許 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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