2007年06月26日

[著作権]著作権延長の効果の実証的研究

Paul J. Heald, Property Rights and the Efficient Exploitation of Copyrighted Works: An Empirical Analysis of Public Domain (1906-1922) and Proprietary (1923-32) Fiction Best Sellers, UGA Legal Studies Research Paper No. 07-003(2007) 読書メモ

著作権延長の効果として、著作者によって「著作物の改良」と「効率的な利用」が促進されることを挙げる見解がある(注1)。この論文は、これを実証的に分析したもの。なかなか面白いものであるので読んでみた。

論文の概要

著作権延長の効果として、著作者によって「著作物の改良」と「効率的な利用」が促進される
という見解が真か否かを検証するため、出版後75年を経過し著作権が切れた1906年〜1922年までの著作物と、少なくとも85年は保護される1923年から1932年までのベストセラーにつき、著作物の利用の程度等を調査し、分析している。

分析の結果、少なくとも近年においてはパブリックドメインとなった物の方が利用が盛んがであり、しかも値段も安いことがわかった。それまでの傾向は、著作権の保護があろうが、なかろうが、利用の程度はあまり差がなかった。つまり、著作権での長期の保護により「効率的な利用」が促進されるという仮説は証明されなかったといえる。

Healdは、利用の促進という観点から見た場合、再出版・頒布コストが高い場合には、長期的な投下資金回収の期間が無いと供給が過小になるため、著作権による保護の長期化は支持できるとしているが、他方、現代のように再出版・頒布コストが低い場合には、長期の著作権による保護には懐疑的な態度をとっている。

また、著作物の改良についても、「版数」について見る限りパブリックドメインとなった物の方が、改良されていることが窺えていた。これは、パブリックドメインでは著作物の改変を行うと、その部分が著作権で保護され、また、その部分が競争力の源泉となることから、頒布者には改良のインセンティブがあることを考えれば妥当な結果であると述べている。これらを考えると、著作権延長の効果としての「著作物の改良」促進という仮説は誤りである可能性がある。

しかし、著作権の保護がないと、「コモンズの悲劇」が生じ、過剰な利用によりイメージの低下がおこるのではないかという懸念もある。Healdはこのような考えは、利用が頻繁になることによる広告効果を見落としていると指摘し、さらに、少なくとも書物については、複数の同一書籍が書店に一気に並ぶことが無いことを考えると、イメージの稀釈化もおこらないのではないかと述べている。

以上のところから、適切さを欠く著作権保護の長期化は問題である、との結論を導いている。

私見

保護期間が長過ぎるために困難な著作権の効果の実証研究であり、大変興味深い。著作権延長の効果としての「著作物の改良」と「効率的な利用」促進効果については有力な否定の根拠となるのではないかと思う。

他方、米国で出てきたこれらの延長根拠は「Copyright」としての理解によるものであり、日本では「人格的な利益の保護」としての側面もある、というのが伝統的なタテマエであるから、直ちに日本での議論の決定打になるものではない。

例えば、著作者の人格の発露としての著作物であるから人格同様、長期に保護されるべきであり、3代を目安に保護が続くべきである(そして、現代は寿命が延びたから70年が適当である)、という理由が日本など「Authors Right」では挙げられ得る(注2)。

「人格の発露」に関わるから、「コモンズの悲劇」によるのイメージ稀釈化の恐れも長期の著作権による保護により「防がねばならない」という主張もあり得る。

しかし、そもそも論として人格の発露として著作物の保護というスタイルは、人格権議論の側から疑問が呈されているところであるし、著作権法の歴史的発展経緯から人格的な要素は後漬けであることの指摘もある(注3)。

また、人格的なものを理由にできない法人著作についてはどうしようもない。さらに、実際上の起こりうる問題として、長期の著作権保護をしても結局多数の相続人が存在し、結局権利行使が困難になることが予想される(注4)。

あるいは、長期の保護でも権利が活用され得たのは、制度として分割相続が採られていた大陸法諸国でも、実際は長子相続が一般的であったから、上記のような問題が起こらなかったのかもしれない(注5)。

いずれにせよ、著作権延長の正当化理由にはもっと深堀りが必要なように思う。「コンテンツ大国化」を錦に御旗した論調が進められないことを願う。

(注1)William M. Landes & Richard A. Posner, Indefinitely Renewable Copyright, 70 U.Chi.L.Rev.(2003)、この見解は米国議会でも採られた。
(注2)斉藤博「著作物の保護期間に関する考察」L&T35号(2007年)4頁〜10頁はこのような見解を示唆しているかもしれない。
(注3)白田秀彰『コピーライトの史的展開』(信山社、1998年)。
(注4)もっとも現在の少子化を前提にすればそのような懸念は乏しくなるが。
(注5)誰か調べた人いませんかね?


追記(2007/06/28)
早稲田大学のRCLIPがHeald教授を9月に呼ぶようだ。
http://www.21coe-win-cls.org/project/activity.php?gid=10052
posted by かんぞう at 23:00| Comment(0) | TrackBack(0) | ☆著作権 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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