2007年05月20日

[商標]極真空手商標事件大阪地裁判決から窺える裁判所における権利濫用の捉え方

団体・組織内部での争いが生じたときに、著名な団体・組織であれば知的財産権侵害という形で積年の恨み?を果たすことがある。最近は実務的にあるいは学問的にインパクトのあるものが多く出ているように思う。天理教(不正競争防止法違反が争点)、華道専正池坊(不正競争防止法違反が争点)などは記憶に新しい。

事案としては4年前のものになるが、商標権を巡る争いに判決が下ったものがあり、分裂により分かれた団体内での商標権の行使が権利濫用とされていた。結論としては自然に思える。理論的には目新しいように感じたので、簡単に判決をまとめ、検討してみた。


極真空手商標事件大阪地裁判決(大阪地判平成15年9月30日判時1860号127頁)(注1)評釈

事実の概要

Xらは故人のAが創設した空手の流派「極真会館」(以下、B)に所属する者であり、現在はそれぞれがBの名を用いて道場を開いている。YもBに所属する者であるが、Aの死去に当たり、Aから後継者に指名する旨の遺言を受けたとし(なお、後、裁判で当該遺言書の有効性は否定された)、Bの館長となった。このとき、Bの幹部的な地位にいたXをはじめとする会員の同意を得ず、Bの名称につき商標登録出願をおこない、商標登録を受けた(Bは法人格なき社団であるため、B名義で商標登録を受けている)。その後、B内部での対立が激化し、YがXらに対しB名称の使用をやめるよう求め、タウンページへの電話番号掲載を阻止した。本件は、XがYに対しB商標使用差し止め請求権を行使することは権利濫用であるとして、B商標使用差し止め請求権不存在確認と、電話番号掲載阻止行為により門下生が減ったことにつき不法行為に基づく損害賠償請求を行った事案である。


判旨の要約

前提として、YのB館長としての地位は無効となった遺言によるものであるとし、これが無効となった状況下では、YはBの承継人であるとはいえず、Bは分裂したものと評価できると判断した。そして、商標は自他識別機能を発揮するためのものであることを理由に、(a)「表示の周知性・著名性の獲得がほとんど特定のものに集中して帰属していること」、かつ、(b)「グループ内の他の者は、そのものからの使用許諾を得て初めて当該表示を使用できるという関係にあること」を満たす場合以外は、グループ内の他の者に対して商標権を行使することができない、とした。
結論として、B商標使用差し止め請求権が存在しないことを認めた。ただし、損害賠償については、損害との因果関係が証明されていないとして、弁護士費用のみの賠償を認容している。


私見

YによるB団体の承継の有効性が一義的には判断に大きく影響を与えたものと思われるが、この点については割愛し、商標権行使が権利濫用とされた点について考察を行った。

(1)商標権行使の場面における権利濫用法理のこれまでの展開

商標権行使の場面における権利濫用の適用をまとめた論考によると(注2)、無効理由の存在を理由に権利濫用とされたもの(注3)の他、他人の著名な著作物を濫用した事案(〔ポパイ事件〕最判平成2年7月20日判時1356号132頁※公的判例集未調査)、傍論ではあるが企画立案事業者がクライアントの事業名称を無断で商標登録出願し行使した事案(〔PAPiA事件〕東京地裁判決※判例集未調査)、著名標章を冒用した事案(注4)(〔ぼくは航空管制官事件〕東京地判平成14年5月31日判決)において権利濫用が認められている。〔PAPiA事件〕を除いて、無効事由を有する商標をめぐる事案と評価できるように思われる(注5)。
なお、本件のように団体内部での紛争により団体の分裂が起こった場合での事案は管見の限り発見できなかった。

(2)本事案の位置づけ

本事案について考えれば、出所がYのみではないB商標の登録が問題となった事案であり、商標法3条1項6号、あるいは、4条1項7号に該当する要素があるものと思われる。ただし、当事者からその旨の主張が無かったため、単に権利濫用と述べたようにも読める。事実、知財高判平成18年12月26日平成17(行ケ)10028〜10033では本件Yの登録は「公正な取引秩序を害し、公序良俗に反するものとして、商標法4条1項7号に違反」する、として登録無効とした審決を維持、本件で問題となった商標の登録が取り消されている(注6)。
「権利濫用」という一般法理で理由付けがされているものの、無効事由存在を理由とするものの一部として整理することが、議論を混乱させずに済むようにも思われる。

(注1)本事件に関する評釈は管見の限り見当たらない。
(注2)日本知的財産協会商標委員会「商標権における権利濫用に関する判例研究」知財管理55巻13号(2005年)1993頁以下。
(注3)平成16年改正で商標法13条の2第5項が改正され、特許法104条の3同様の規定が設けられたため、現在では当然のことである。
(注4)異議申し立てが成されているが、異議申し立てを行った者は、当該標章を用いた商品の直接の販売者でなかったためか、登録が維持されている(この点は要調査)。
(注5)ただし、明示しているわけではない。当事者からその旨の主張が無かったため、無効事由に触れず権利濫用とただ述べたのではなかろうか。
(注6)その理由は、本件Bのような規模・内部組織の団体においては、Y名義で商標登録出願をするにあたっては、組織としての合意形成につとめ、直ちに報告する等の義務があり、これに違反した出願は商標法の予定する秩序に反する、と述べている。
posted by かんぞう at 20:17| Comment(2) | TrackBack(0) | ☆商標 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
こないだゼミでやったやつだ!
Posted by マルティー at 2007年05月21日 02:34
マジで!?
どういう議論になった?
もしかして、商標機能に関わる判決として扱った?
Posted by かんぞう at 2007年05月21日 23:19
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