2013年03月13日

[その他]「斜め上」の宣伝に「斜め横」からツッコミを入れてみる:『アラサーエアコン』に見る宣伝・マーケティング、おまけで商標

#知財とは関係のない話題ではあるが、面白かったので…。

テレビコマーシャルや通勤電車内のデジタルサイネージで流される、パナソニックのエアコンの宣伝に対して、「斜め上」だ(どこかおかしい、現実にあっていない)という批判が出ているのを見かけた。

批判や違和感の要点としては、
・絵の中に比較的大きい子供がいる(6歳〜10歳程度に見える)が、現在のアラサー(27歳〜33歳)の家庭では考えにくい。
・そもそもアラサー世代で核家族に子供というのが標準的な世帯像ではない。
・前提としている世帯像が「昭和」の常識を引きずっている。
というところだろう(注1)。

これについてはアラサー世代の筆者も、この批判・違和感に共感できるところである。ただ、一歩立ち止まって定量的に違和感を確認してみたい。実際に数字で見るとこの違和感はどのように説明できるのだろうか。

■宣伝に出てくる、子供ありのアラサー世帯ってどれくらいあるのか?
家庭用エアコンの購買の主導的意思決定を担うのはおそらく女性だ、ということにして(注2)、この宣伝でのアラサーは女性(お母さん)を指している、ということとしたい。
また、絵面では6歳〜10歳程度に見えるが、現代の状況に合わせて、6歳未満の子供がいる世帯のみを前提とすることとしたい。

ここで、国勢調査、人口統計(いずれも平成22年(2010年)の値)を用いて、アラサー世代の女性の数、うち配偶者を有する女性の数、さらにそのうち6歳未満の子供を有する女性の数を計算してみた。

その結果、6歳未満の子供を有する女性の数は169万人(世帯)、アラサー世代女性の31.2%に留まることがわかった(図1参照)。
「アラサー」の残り68.8%は対象外(注3)というのであれば、反発を覚えられても仕方ない。

→結論1:宣伝の手法として「アラサー全体を対象としている」かのような印象を一部(又は大部分)の受取手に与えてしまったのは失敗。

図1.『アラサー子供あり世帯』はどのくらいあるのか?
around30aircon_02.png

■アラサーエアコンは市場を見ていない製品なのか?
宣伝の手法の課題はともかく、ニッチ市場向けの製品として当初から想定されていた可能性は少なくない。仮にニッチ市場向けであれば、宣伝から昭和の香りがしようと、当該需要層に届けば良いのであるから問題は無い。

まず、この製品はニッチ市場向けなのだろうか?

前述の推計をそのまま用いて、エアコンの耐用年数(買い替えの平均年数)が7年と仮定して、アラサー子供あり世帯でのエアコンの買い替え需要をラフに推計すると、24万台程度であることがわかった(図1参照)。(もちろん、実際の宣伝文句は「アラサー」であっても「アラフォー」だって買うかもしれない。ただ、「アラサー」とつけてしまった以上、「アラフォー」は手を出しにくくなるだろう。)

ルームエアコンの2010年〜2012年の平均出荷台数は836万台(注4)であるので、24万台の需要は全体の2.8%である。これくらいの推計はマーケティング部門は行っていると想定できる(注5)。そうだとすると、どちらかといえばニッチ市場向けの製品であったと見た方が良さそうである。

ニッチ市場向け製品は、製品あたりの付加価値額が高いことが多い。そこで、この「アラサーエアコン」(パナソニックエアコン Tシリーズ)について見てみると、価格は15万円〜20万円である(定価はオープン価格であるが、40万円程度と表示している小売があった)。『小売物価統計調査』によると2011年の平均小売価格は17〜18万円前後であるため、「アラサーエアコン」が特別に高い製品とはいえない。特別に安くできる製品とも思えないため、付加価値額は特別に高くないと推測せざるをえない(注6)。

そうすると、せっかくニッチ市場を狙ったのに付加価値を効果的に挙げられていない(マイケル・ポーターの競争戦略のフレームワークに載せれば、差別化戦略を採ったのに、付加価値面で十分なうまみを得られていない)ということになるだろう。

→結論2:ニッチ市場向け製品と考えられるが、やや高めの製品として発売できていないようである点はもったいない。

■違和感の本質
上記をあわせると、「アラサーエアコン」の宣伝から感じる違和感は以下の2点に集約できる。
・宣伝とマーケティングの不整合
・競争戦略としての不整合(こちらはそれほどでもないが)

いずれも違和感の発端は「アラサー」を宣伝につけてしまったことにある。この「アラサー」の宣伝文句の本気度の一端を知るために、商標登録されているかを確認してみた。そうすると、
アラサーエアコン」での登録例は2013年3月13日段階ではない。いわゆるWeak Markであるので拒絶されている可能性も少なくはないが、パナソニックとしては、とりあえずのところ「アラサー」を本気でマーケットとしようとしているわけではなさそうだ、と推測できる。

(注1)諌山裕「パナソニックが妄想する顧客像「アラサーエアコン」」BLOGOS2013年03月05日記事。
(注2)これはF1層(20歳〜34歳の女性)がどのような消費材に対しても積極的に購買を行う傾向があるので、エアコンに対しても購買の中心となるだろうという推測が根拠である。決して、アラサー世代で専業主婦が一般的で、家の中のことは全て女性が担っているという「昭和」のイメージを前提にしていない(筆者個人の周りでは既婚の同世代で専業主婦は少数派である。また、専業主婦/主夫で暮らしていけるような所得を片方が稼いでいるという例は極めて少ない)。
(注3)この中には、6歳以上の子供が居る女性も含まれているので、もう少し低く見た方が良いとは思うが…。
(注4)一般社団法人日本冷凍空調工業会の統計に基づく。
(注5)筆者がここで行ったチャチな推計よりずっとマシな推計を行っているだろう。(…チャチな推計を基に議論してすいません…。)
(注6)大手家電量販店で見る限りではやや高めであるし、また、メーカーからの卸売価格では十分に高い可能性もある。
posted by かんぞう at 17:39| Comment(0) | TrackBack(0) | ☆その他 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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