2007年01月23日

[商標][時事]登録拒絶理由としての公序良俗違反と政治問題

※お断り
政治問題も絡む事案です。政治的な立場からのご意見もあるでしょうが、私はあくまで法律の解釈論のお話を政治的な立場を交えずに進めています。おかしい!とお思いになるのであれば、それは法律がおかしいのかもしれません。法律がおかしい場合には、国会議員に陳情し、世論を喚起することをなさるべきであるとお断りします。


新聞報道(産経新聞2007年1月19日)によると、隠岐島での土産品として「竹島」の名称を含む饅頭菓子を販売している東京の土産菓子屋が、商品名につき商標登録出願したところ、4条1項7号違反(公序良俗違反)を理由に拒絶されたようである。その理由の詳細は、「大韓民国と我が国との間で領土問題化している島根県の『竹島』の文字を含ん」でおり、「商標として採択・使用することは、両国の関係に無用の混乱を招くおそれがあり、社会通念上穏当では」ない、という点にあるようだ。

同号は国家の一般的利益擁護を含む趣旨であると理解されており(平尾正樹『商標法』(学陽書房、2002年)142頁)、外交上の弊害を懸念して拒絶すること自体(今回の判断という意味でなく、判断の前提という意味である)は、同号の解釈としては問題の無いものと考えられる。同様の事案としては、「征露丸」(正露丸ではない)が拒絶された例(大判大正15年6月28日)があり、これは、ロシアとの外交関係上の弊害を懸念している。ここから今回の判断は、前例に無い判断ではないとわかる。若干、考慮材料は異なるものの、外交上の弊害を懸念したという意味では、〔『Anne of Green Gables』商標事件〕知財高判平成18年9月20日平成17年(行ケ)第10349号の判断とも共通性があるように思われる(もっとも、同判決は正面からは国際商道徳という観点からの拒絶を正当化している。しかし、それだけでは説明できない面もある)。

ただ、問題は何をもって「外交上の懸念」とするかの基準である。今回の判断に対する批判があるように、多分に恣意的な要素は免れ得ない。極力謙抑的であるべきである。では、どのような場合に「外交上の懸念」を理由とした登録拒絶が許されると解するべきか。

そもそも外交上の懸念が生じる理由は、商標登録を許すということは国家が権力によりその標章(名称など)の利用において排他性を肯定するということである。ある種のお墨付きを与えることであり、他国を刺激することは十分に想定される。つまり、政府当局が進めている外交に、特許庁が横槍を入れる事態を起こしかねないのである。また、そのような名称の独占使用を許可することで、第三国からその「品格」を疑われることも懸念される(「品格」を疑われるか否かの判断基準は、その当時の国際的な社会通念や国際外交儀礼に求められよう)。端的に言えば、第三国の関係においても自国の国益を損ない得るのである。

もちろん、そのようなことは懸念に過ぎない。どう捉えるかは、態度決定の問題である。

この態度決定に関して、「特許庁が外交に横槍を入れる」という点を問題視すべきという立場ならば――すなわち、主権者たる国民が正当に選挙により選出した国会議員による主権行使の過程を、選挙による審査を受けていない一行政庁が妨害しうるという点を考慮するならば――、「外交上の懸念」が生じるものは極力登録すべきでないと言えるのではないだろうか。そうすると、恣意性という弊害との調整が必要となる。これを考察すると、政府が外交問題として検討しているか否かが一つの基準となろう。

第三国との関係、つまり国際外交儀礼を重視するのであれば、これに加えて当該行為が国際外交儀礼上、許容されているかが判断基準となろう。今回の場合で言えば、領土問題となっている地名にちなんだ商標登録がどれほど他国で許容されているか、である。今回、そこまでのリサーチはしていないが、そのような国際儀礼があるかは注目したい。

この問題は、結局のところ、公共の利益――つまり国益――をどこまで考慮するかに最終的には帰着するように思われる。商標登録を許すことで守られるのは私益である。国益と私益、どちらにより重点を置くかの立場は分かれるところであろうが、国益を守るという立場からすれば、この判断はあながちおかしなものでないように感じられるのである。

なお、このような理由で商標登録を許さなかった標章が周知となった時、不正競争防止法上の保護を受けられるかについては、検討の余地があろう。仮に受けられるとすれば、商標登録を受けられない不都合は軽減されることとなる。

※先輩とこの話題をしていたら、「竹島」が挑発的でダメなら、じゃぁ「独島」だったら登録が許されたのか、というウィットのきいたチャチャを入れていた。実はまじめに考えると面白い点かもしれない。どうなんだろう…。

※※産経新聞は、『竹島問題に詳しい拓殖大学の下條正男教授(56)は「竹島が韓国領なら分かるが、どうしてだめなのか。問題が起こらなければ、よしとする役人的な発想だ」と話している。』と記事に書いてあったが、歴史の専門家に聞いても…と思う。問題はあくまで「商標法」なのだから、知財法の専門家に聞いてほしかった。法律家からすれば、政治的責任をとらない役人が問題を起こしてはまずいのである。たとえば、日本と友好的な国であるアメリカとの外交問題を揶揄するような商標をあっさり登録されることの弊害を考えてほしい。それを考慮すれば、現状の法律からは、今回の恣意性はやむを得ないのではないか。今後、基準について立法論として政治家が議論を進めるべきであるように思う。
posted by かんぞう at 01:29| Comment(5) | TrackBack(0) | ☆商標 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
ちゃちゃを入れて楽しむ形式上の「先輩」でございます。今回の場合は、結局、実質的にみてこの名称の顧客誘引力を保護するかはあまり問題ではなく、「商標」という手段を使って一定の政治的な主張を行うことを国が認めるか(認めさせるか)とみることもできそうです。

そうだとすれば、ある種の「濫用」的なものともいえるので結果としてはこれでいいのかなとも思います。

特定の政治的立場を有している専門家が、自らの専門の範疇を超えて発言しているのは、まあ、法の問題ではよくありますね・・・
Posted by mm at 2007年01月23日 02:15
蛇足ですが、付言しますと、

>友好国であるアメリカとの外交問題を揶揄するような商標

については、件のS経新聞がいんたびゅーするような相手は、「ケシカラン」というでしょうね。A日なら逆で。

要はまあ政治的主張をそのまま法の問題に接続するという専門家としてどうなのかという態度だなぁと思うわけです。
Posted by mm at 2007年01月23日 02:17
早速コメントありがとうございます。軽くビビってたので、「炎上か!?」と焦りました。

>「商標」という手段を使って一定の政治的な主張を行うことを国が認めるか(認めさせるか)

このご指摘、うなずけます。
外見上、当該主張を認めたことに見える、というのが問題の核なのじゃないかと思います。

蛇足にも触れて頂きましたが、この産経の記事について書いた根っこは、産経のスタンスなら、本当は文句つけちゃいけないんじゃ…ってところにありました。
Posted by かんぞう at 2007年01月23日 02:55
H大のlxngdh(@『日々の雑感』)でございます。興味深く拝読致しました。手元に資料(=当該新聞記事、商標法の教科書…等)がありませんので、「行き当たりばったりな思いつきの感想」という程度で2点、コメント致します。場違いでしたら削除して戴いて構いません (^^)
 
@:個人的な意見ですが、特許庁の審査官としては「迷ったら拒絶する」というスタンスでいいのではないかと思います。「文句があるなら審判でも審決取消訴訟でもやって下さい。その方が資料も揃うのでこっちとしてもやり易いですねぇ」という態度で、あとは出願人にボールを投げてしまうというのでいいのではないか?と楽観的に考えてしまいます。本件は結局のところ、「国際礼譲に反するか否かが不明である」という場合に「さて、どうするか?」という問題ですが、私自身は特許庁(審査官)が本気で国際礼譲についてウンウン考えて基準を模索するのは、荷が勝ちすぎる(=審査官のやるような「お仕事」ではない)と思いますので好みません。いささかプラクティカルに過ぎる考えかもしれませんが、「出願人が『国際礼譲に反しない』という証拠を出せないなら負けても仕方ない」というのでいいのではないかと思います。
 
A:逆に「迷ったら登録する」という態度だと、どうなるんでしょうね。登録がされた後、韓国政府が7号を理由に無効審判を提起する可能性があります。この場合、韓国政府が遺憾の意を「無効審判の提起」という形で表していると言えますので、そのこと自体が、取りも直さず「外交問題」たりえるかもしれません。しかし、「一国の政府が7号で乗り込んできたら、商標は必ず無効になります」というのもまたオカシな話でして、韓国政府の方こそ恣意的に7号を持ち出す場合がありえるでしょう(例:「『日本海』という単語が含まれる商標はダメだ!『東海』にしろ!」とか)。結局、審査の現場としては「迷ったら蹴る」という態度の方が無難と言えば無難に思えますし、登録商標が欲しいなら出願人が自分の責任で頑張って下さい、という印象です。特許庁が懸念を払拭できないままに、ためらいながら登録を認めるくらいなら、(恣意的な判断と言われようとも)、いったんは拒絶を打ってみて、出願人の出方を探る、というくらいでいいように思えます。
 
かんぞう様は「…多分に恣意的な要素は免れ得ない。極力謙抑的であるべきである」「…恣意性という弊害との調整が必要となる」と「恣意性」を懸念されているようですが、私は審査官の恣意性は審判(さらには取消訴訟)でのチェックを経ればよく、審判・訴訟では証拠を基に丁々発止やればいいじゃない(=出願人は「竹島は外交上も問題が無い商標なので、どうか登録してください!」と「お役所」を説得すればよい)と思います。極論すれば「審査では戦略的に恣意性を発揮して戴いて構いません」という意見です。誤解を恐れずに言えば、拒絶査定は挙証責任の転換を図る手続であって、何らかの「正義(?)」を全うするような場面ではないという考えです。
 
余談ですが、「隠岐」で売ってるお菓子に「竹島」という別の島の名前を付すのはどうなんでしょうねぇ?産地等誤認…?? (笑)。
Posted by lxngdh at 2007年01月23日 06:46
商標法上の公序良俗に詳しいlxngdhさんから丁寧なコメントを頂けて幸いです。場違いなんてこと全くありません!!あくまで法律論が狙いでしたので(政治的理由から結果を否定的に捉える意見への、私からの疑問提起も含んではいますが)。

ご指摘頂いたこともっともです。この事案自体は審査官レベルの拒絶なのですから、手続きの上では「迷ったら拒絶」が許されて良い問題ですね。(私もそのスタンスで良いと納得しました。)
法律論の観点からは、私の展開したお話(たわごと?笑)は、不服審判や審決取消訴訟における出願人の挙証事由に関わる「公序良俗」の中身についての(拙い)検討として位置づけられるでしょうか。
そうなると、この記事は事実への評釈ではなく、巨大な傍論と言えますね。最近の知財高裁のスタンスに引っ張られちゃったと言い訳しておきます(笑)

念のためニュースソースを示しておきます<http://www.sankei.co.jp/shakai/wadai/070119/wdi070119007.htm>。こんな書き方をされたら審査官もやりきれないよなー、というのが私の感想です(直裁に言うと、煽情的な記事で好ましくないと感じました。)。

>余談ですが、「隠岐」で売ってるお菓子に「竹島」という別の島の名前を付すのはどうなんでしょうねぇ?産地等誤認…?? (笑)

その視点もありましたか(笑)うん、誤認です!登録しちゃダメです!
もっとも、日本中どこでもまんじゅうは売られているし、みんな産地なんて信用してないよって言う反論もあるかもしれませんね。
なんてことを考えていたら、デイリーポータルに掲載されていたネタ<http://portal.nifty.com/2007/01/20/b/>を思い浮かべてしまいました。おみやげなんて、産地よりも雰囲気が大事??
Posted by かんぞう at 2007年01月23日 10:05
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]

認証コード: [必須入力]


※画像の中の文字を半角で入力してください。
この記事へのトラックバックURL
http://blog.seesaa.jp/tb/31930258
※言及リンクのないトラックバックは受信されません。

この記事へのトラックバック
×

この広告は1年以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。