2007年01月17日

[商標]ひよこ立体商標事件知財高裁判決の意義を探ってみた

〔ひよこ立体商標事件控訴審〕(知財高判平成18年11月29日(判例集未登載)平成17年(行ケ)第10673号)の意義とは何かを整理する。

1. 基本構造
「立体商標」について〔特殊事情〕、「普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる」商標(商標法3条1項3号)ではあるが〔論点1〕、「使用をされた結果需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができるもの」(商標法3条2項)に当たるか〔論点2〕が争われた事案である。
事案においては〔論点1〕については争っていないが、「立体商標」との関連で議論があるところであるので、理論面の理解を深めるための参考として触れる。

2. 商標法3条1項3項〔論点1〕と立体商標〔特殊事情〕
(1)学説
「普通に用いられる方法で表示する標章」が、立体商標の場合にどのように解釈されるかには、議論があり、次の2説がある。
(i)意匠法との調整必要説
立体商標が、もっぱら標章として用いられる物に限らず、商品についても対象となるため、意匠法を中心とする知的財産法の意義を没却しかねない(注1)。であるならば、機能的な点あるいは意匠的な点から「普通である」ものを除外すべき、と考えることが出来る。具体的に、「用途、機能から予想し難いような特異な形態や特別な印象を与える装飾的形状等を備えている」(〔筆記具立体商標事件〕東京高裁平成12年12月21日判例時報1746号129頁)もののみを対象とすべき、と述べるものもある(注2)。
(ii)意匠法との調整不要説
しかし、3号の列挙事由に鑑みれば、機能的な形態のみを対象としていると読めること、意匠的な観点からの「普通」が観念できないこと(注3)を理由に、同号を(1)のように読む必要が無いとする見解もある(注4)。この見解からは、機能的な観点から「普通である」ものが除外されることとなる。

(2)理論面の検討
制度間調整の必要性については意匠が関係する局面では、しばしば問われるものであり、実際著作権との間では調整が図られている(注5)。意匠法の趣旨を没却しかねないことは見逃しがたく、(i)意匠法との調整必要説に立つ見解に妥当性があろう。
理論的な面から、「普通」であることを分析すれば、「他にもある」という意味の「普通」と、「競争上不都合を生じさせる」という意味の「普通」があると考えられる。後者の意味がある以上、(ii)意匠法との調整不要説が言う点は当たらないのではなかろうか。

(3)本事案の検討
本事案は「他にもある」表示であることを理由に3条1項3号の認定において出所識別性が無い、とされている。指定商品が「まんじゅう」であるため、機能的な形状というのはおそらく「まるい」という点くらいに限られよう。そうであるなら、本事案は意匠的な観点から「普通である」と判断されたものと考えられ、(i)意匠法との調整必要説に立つ事案であると考えられる。
この点については、従来の裁判例と変わるところは無い。また、理論的にも適切であると考えられる。

(注1)厳密にはどういう点が、を明らかにしなくてはならない。今後の課題とする。
(注2)この考えを支持するものとして、三山峻司「〔筆記具立体商標事件〕判批」判評514号(2001年)38頁。特異な形態とまでは述べていないが、審査基準は立体商標につき登録の対象となるものを限定的に捉えているようである。
(注3)後掲の渋谷教授の指摘する点を誤解している可能性があるので、少なくとも管見として、という留保を付す。今後精査する。
(注4)渋谷達紀「商品形態の商標登録」紋谷暢男教授還暦記念(発明協会、1998年)321頁。
(注5)応用美術の問題として取り扱われている。

3. 商標法3条2項〔論点2〕と立体商標〔特殊事情〕
(1)論点の整理
3条2項を巡っては、更に細かく論点がある。「使用された結果…」の解釈〔論点2−1〕と、立体商標と文字標章との関係を巡る点〔論点2−2〕である。

(2)「使用された結果」の解釈〔論点2−1〕
(i)周知性要求説
出所識別性を欠く標章を例外的に保護する制度であることに鑑みれば、自他識別機能が十分に発揮されていることが必要であるという立場に立ち、全国的な周知性を求める(注6)。
(ii)周知性不要説
他方、文理上周知性が読み取れないことから、「現実的な」識別力のみを問題にする見解も存在する(注7)。この立場からは、標章が本来的にもつ識別力によって分けており、識別力が極めて乏しいものならば全国的な周知性を求めるものの、多少識別力があるものならば、使用による現実的な識別力獲得を問題にすれば良いとしている。

(3)立体商標と文字標章との関係を巡る点〔論点2−2〕
立体商標は言語性を欠くため、言語つまり文字標章と組み合わされたときの識別力認定には見解が分かれ得るところである。
この点については、立体商標としての独立の自他識別性を求めることで一致しているものと窺える(注8)。

(4)理論面の検討
識別力の余地があるとはいえ、3条1項3号の解釈について、(i)意匠法との調整必要説を採ったがために否定されたような場合であれば、識別力を相当高度に求める、もしくは、3条2項の適用を限定的に解するのが整合的であると考えられる(注9)。

(5)本事案の検討
〔論点2−2〕については、本件では文字標章を含まないことから、自明の点であるが、周知性の認定において大きく影響している。審決では文字標章による出所識別力の高さも含めた周知性認定が行われていたようなのである。
話が前後するが、〔論点2−1〕については「周知性」を問題にしていることから、(i)周知性要求説に立っている。これは過去の裁判例も採るところであり、目新しいものではない。
唯一独自性がある箇所かもしれないと思われるところは(注10)、大量の広告を行っていても「他にもある」「普通な」ものであるが故に、周知性を否定している点である。商品形態に関わる立体商標ゆえの判断基準なのであろう。

(注6)田村善之『商標法概説 第2版』ほか。
(注7)平尾正樹『商標法』(学陽書房、2002年)130頁−131頁。
(注8)東京高判平成13年7月17日判例時報1769号(2001年)98頁。
(注9)本当か?という突っ込みが入りそうなので、とりあえずの考え(下手の考え)として…。
(注10)要は、本当に独自か検討できてないのである…。反省。

4. 結論
理論的には従来の裁判例や有力な学説に沿ったもので目新しさは無い(FJneo1994さん《企業法務戦士の雑感》「[企業法務][知財] 立体商標の行く末」が指摘している。)
以前、感想として触れたように判決文が目新しいもの…と今のところは結論付けておく。
posted by かんぞう at 01:18| Comment(0) | TrackBack(0) | ☆その他 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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