2012年06月28日

[著作権]Winny事件における控訴審・最高裁決定と、著作権侵害罪の構成要件・法定刑の妥当性

Winnyの開発者が著作権侵害の幇助に問われ、最高裁まで争った結果、無罪となったことは記憶に新しい。第一審、控訴審、最高裁決定(注1)とその判断・立論が異なった。これについて整理・分析をされた、佐久間修教授による刑法上の観点からの論稿(注2)に触れ、著作権に関する刑事政策の観点から考えるところがあった。

■Winny事件における共犯論と著作権侵害(佐久間(2012)の概要)
佐久間教授はまず3つの裁判所の判断について以下のように整理されている(なお、整理は筆者(=私)の言葉に拠る)。
・第一審、控訴審、最高裁決定とも、ウィニーだけが違法な著作権侵害に利用されるものでないことをふまえ、幇助犯としての法益侵害の現実的危険性を認めるだけの行為状況を重視した。
・第一審は現実の利用状況や主観的意図に着目して幇助犯の成立を肯定した。
・控訴審は「特に違法な用途に使用することを勧めていること」を幇助犯成立の要件とし、幇助犯の成立を否定した。
・最高裁決定は、控訴審の考え方は幇助犯と教唆犯を混同するものと批判したうえで、現実の利用状況や主観的意図に着目したうえで、幇助の故意が欠けると認定した。

佐久間教授が、判例や判例に対する批評について批判されるポイントは次のとおりである。
・価値中立的、かつ、汎用性の高い重要な技術であることを理由に、刑事規制の対象外とする批評(注3)が一部にみられるが、理論的な根拠がない。
・控訴審判決が採る、積極的に違法行為を勧めた場合に限定することは理由がない。
・最高裁の故意の認定(とくに違法利用を禁止する発言をしていたことを加味して幇助の故意を否定した点)は、形式的な違法利用禁止の宣言により、刑事的責任を逃れられることにつながってしまう

そのうえで佐久間教授は、刑法の通説的な立場から、
「ウィニーの提供が客観的にも価値中立的行為でないとすれば、第一審判決や最高裁決定のように、被告人の主観的態度に着目して幇助犯の成否を決定することになる。その際、一般的可能性を超える具体的な著作権侵害を認識を必要とする最高裁決定にあっても、例外的でない頻度で正犯の実行に利用される状況下〔引用者注:著作権侵害に利用する者が40%超の状況であることが立証されている。また、Winnyが匿名性をうたった情報ツールであることも重視されている。〕では、その事実を知りつつ提供を継続したのであれば、被告人に幇助を認めるべきであった。」(佐久間(2012)37頁)

と述べられている。

■著作権侵害罪の構成要件・法定刑の妥当性に対する疑問
筆者は刑法理論に明るくないことは留保するが、刑法の視点から見たときに佐久間教授の論理は説得的あるように思える。しかし、刑法の理論をあてはめた結果については違和感が残る。

同じような違和感を控訴審および最高裁の裁判官は強く感じたために、控訴審では「結論の先取りに等しい」幇助犯の成立要件について厳格な規範を定立し、最高裁決定では主観的態度のうち確定的認識を否定する事実認定を行ったのではないか。

そのような背景には、『著作権侵害の構成要件か量刑のいずれかが社会通念上妥当でない』という漠然とした認識(または直観)がある可能性はないだろうか。

他の犯罪行為とそれを幇助する機器との対照が必ずしも妥当ではないと思うが、下表のように比べると、幇助犯まで想定したときに著作権侵害罪の構成要件または法定刑は妥当なのだろうか。
表 犯罪行為とそれを幇助する機器およびその法定刑

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著作権侵害行為は多くの場合、情報の流通行為である。著作権侵害の幇助行為は多くの場合、情報の流通機会の提供である。情報の流通機会を削ぐことは著作権法の目的に合致するのだろうか。また、そのような社会は望ましい社会なのだろうか。

ここで注意しなければならないのは、著作権侵害で民事的責任を問われる場面と、刑事的責任までも問われるべき場面は峻別しなければならないことである(たとえ話にすると、約束を破った場合に損害賠償責任は負わされるべきであるが、直ちに刑事的責任の可能性も生じる、というのはおかしい、ということである)。

仮に望ましくないのであれば、幇助犯を想定したうえで著作権侵害罪の構成要件または法定刑を見直すか、さもなければ、幇助犯をそもそも限定的な場合にのみ認めるとする立法をするべきなのではないだろうか。

なお、諸外国の例を考えると、日本の著作権侵害は厳しい部類にあるように思われる。このことは近いうちにまとめたい。
(注1)京都地方裁判所判決平成16年11月30日判例時報1879号153頁、大阪高等裁判所判決平成21年10月8日刑事弁護61号182頁、最高裁第三小法廷決定平成23年12月19日裁判時報1546号9頁。
(注2)佐久間修「Winny事件における共犯論と著作権侵害―最三決平成23・12・19裁時1546号9頁」『NBL』979号(2012年)30頁-39頁。
(注3)園田寿「Winnyの開発・提供に関する刑法的考察」『刑事法ジャーナル』22号(2010年)を佐久間(2012)は例示している。
posted by かんぞう at 22:00| Comment(0) | TrackBack(0) | ☆著作権 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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