EUはデータベースをsui generis(独自)権で保護している。しかし、不都合も生じているのではないだろうか。それに対応したと思われる、近時のECJ(欧州裁判所)の決定を紹介する論文に触れたので、ここに覚書として残してみた。
1.論文の概要
(1)EUにおけるデータベース保護(おさらい)
EU Directive 96/9/EC《EUへのリンク、doc形式》は、(i)コンテンツの収集・検証・提示に際して実質的な投資(substantial investment)が行われたデータベースの、(ii)コンテンツの全部または実質的部分を、(iii)許諾無く抽出または再利用した場合、独自のデータベース権侵害とする。
(2)近時の動向
British Horseracing Board v William Hill(ECJ Case refference C-203/02)において、見解を求められたECJは、(i)〜(iii)について解釈を示した。
まず、(i)については、データ収集への投資が保護されるのであり、「データ生成のための投資」――その副次的効果としてのデータ収集――は保護されないとした。たとえば、新聞社が新聞発行のために生成する見出しを新聞社がデータベース化しても、それ自身は副次的なものであるから保護されない、ということになる。これは各国での裁判例に沿ったものと評価できる。
次に、(ii)については、本質性はデータの中身の問題でなく、投資が保護されるべきものか否かの視点であることを明らかにした。ただし、非実質的部分の抽出であっても、反復継続的な抽出の後の再利用によって、データベースの実質的部分が復元された場合、データベース権の侵害にあたるとした。
(iii)については、データが元のデータベースから抽出されたかを問わない(データベースから抽出したデータを含むコンテンツからの抽出でよい)、また、営利性は問わないとした。
(3)Jeremy Morton(イギリスの弁護士)の見解
EUでのデータベース保護を包括的なものから後退させる結論をECJは示したものと評価できる。
2.私見
データベースを作ることを主目的にした投資を保護しているという趣旨と解した点がユニークであり、疑問も覚える。副次的であれ、提示に際して何らかの投資はあったのであり、総体としては本質的投資があったと評価もできよう。推測に過ぎないが、データ抽出に関して広く保護するため、場合により「生のデータ」保護につながることの弊害を抑えるため、このような解釈をとったのであろうか。
しかし、(i)をこのように解すると、データベースとしての保護をのデッドコピーに対してもなんら主張ができない(著作権法上の保護があれば別論)こととなり、保護の後退としては程度が著しくないだろうか。「本質的部分の抽出」とは相応の投資がなされた部分であることを要し、副次的なものの場合は、投資が少ないため、本質的部分がほぼデータベースそのものとなる、という理解のほうがよいのではないか。
なお、EUでのデータベース権に対する第1回目の公的評価は2005年12月5日のワーキングペーパー《EUへのリンク、PDF形式》で示されている。