2012年05月02日

[不正競争][時事]技術流出対策のために企業がとるべき対策は自社技術分析

□技術流出を制度で止めるために、これ以上制度強化をすることは望ましくない
有名な法務・知財系ブログ『企業法務戦士の雑感』のFJneo1994さんが「[企業法務][知財][労働]「技術流出に歯止め」をかけるために必要なこと。」で、技術者の引き抜き・転職を通じた海外への技術流出について言及されている。FJneo1994さんは、営業秘密流出の立証の難しさ、立証による技術流出の懸念が要因となって、司法を通じて技術流出対策を行うことは難しいと指摘され、『「技術者が海外企業に引き抜かれないようにする」という選択肢しかない』と述べられている。

私はこの意見に賛成する。司法を通じた技術流出対策の難しさに加えて、これ以上、国として技術者を縛るような動きはしない方がよいと考えているためである。

刑事罰をさらに加重することによって、技術者に対して萎縮効果を与えることを期待する意見もあるだろうが、後述するように技術者にモヤモヤ感がある中では適切ではないように思えるし、また、主要国の制度(下記)と比較してもこれ以上の加重はやりすぎではないかと思える。

技術者への萎縮効果という点では、損害賠償請求が元社員に対してもに行われたことが報道された今回のような報道で十分ではないかと思う。
※(参考)従業員の転職に付随した営業秘密の漏洩行為に対する主要国の刑事罰[注1]
アメリカ 国外への流出の場合、15年以下の懲役または50万ドル(日本円450万円程度)以下の罰金(経済スパイ法:Economic Espionage Act:§1831, 18 U.S.C. 90.)(その他州法による規制)/国内外への営業秘密の図利加害目的の流出の場合、10年以下の懲役または25万ドル(日本円220万円程度)以下の罰金(経済スパイ法§1832)
イギリス 秘密へのアクセス権源をもつ者による不正行為の場合、かつ、大陪審の正式起訴の場合、10年以下の懲役または罰金(詐欺法:Fraud Act 1条)/即決裁判の場合、1年以下の懲役または罰金(詐欺法1条)
ドイツ 雇用関係存続中の場合の、国内外への不正競争目的、図利加害の流出のみ3年以下の懲役(不正競争防止法(UWG)17条)
フランス 国内外への意図的な流出の場合、2年以下の懲役または3万ユーロ(日本円330万円程度)以下の罰金(労働法152-7条)/製造秘密の場合、2年以下の懲役または3万ユーロ(日本円330万円程度)以下の罰金(知的財産権法L621条1)
韓国 国外への流出の場合、7年以下の懲役(不正競争防止法18条)/国内への流出の場合、5年以下の懲役(不正競争防止法18条)/国家核心技術について外国での使用目的の流出の場合7年以下の懲役または7億ウォン(日本円500万円程度)以下の罰金(産業技術の流出防止及び保護に関する法律36条)
台湾 国内外へ故なく工業上・商業上の秘密を漏洩したときは、1年以下の懲役または1,000台湾ドル(日本円3000円程度)以下の罰金(刑法317条)
日本 国内外への図利加害目的の場合、10年以下の懲役または1000万円以下の罰金

□技術者が海外企業に引き抜かれないようにするために
同志社大学の中田喜文 教授・宮崎悟 特別研究員は、大規模かつ詳細なアンケート調査を行って、技術者の現状を明らかにしている。中田教授らが行った、技術者4000名近くを対象にしたアンケート調査の結果によると、2007年での技術者の意識を1997年の意識と比較すると、技術者総体としては「組織・仕事に対する思いが減退している」一方、「転職願望」や「現実の転職に必ずしもつながっていない」ことが明らかになっている[注2]。

組織への帰属意識(企業忠誠心)や仕事のやりがい感が減っているのに、外の組織に行くことはできない、そういうモヤモヤを抱えた技術者が相対的に増えていることがうかがわれる。これまでモヤモヤしていたのに、出て行くなという脅しばかりをかけられると、技術者は研究・開発に対するモチベーションを下げかねない。そうすると、今後の日本企業の競争力を下げてしまう恐れがでてくる。

企業忠誠心を上げる取組が必要であると私は思う。

ただ、ここで悩ましい論点が一つ出てくる。リタイア済/リタイア間近の技術者と、現役の技術者とでは、企業忠誠心を上げる取組が異なってくる、という点である。とくに前者への施策が難しいと考える。

リタイア済/リタイア間近の技術者は、老舗企業ではボリュームゾーンを占める技術者であり、均一の施策をうつと、一人あたりの投資は少なくても総体としては大きな投資が求められてしまうことがネックになる。また、その投資の負担を、数が少ない中堅・若手の従業員が負担するとなると、中堅・若手の負担感やさらにはモチベーション低下も招きかねない。

そうすると、流出しては困る技術(ノウハウ)を持つ技術者を狙い撃ちすることが適当ということになる。ここにも悩ましさがある。先端技術の持ち主は特定しやすい。しかし、新興国で重宝される一時代前の技術の持ち主は現場ですら意識されていない(場合によっては本人すら意識していない)可能性がある。

結局のところ、相当詳細に自社の技術分析を行っていくことしかないように思う。そうすることで技術者は自分がおこなってきたことが「見られている」「評価されている」と感じ、技術分析自体が企業忠誠心を高めることにつながることもありうるのではないだろうか(…と甘い期待をしてみる。が、正直にいって、この問題は悩ましい)。

なお、後者の現役の技術者に対する対処としては次の研究が参考になる。

東京大学の古井仁 氏(当時。現、亜細亜大学国際関係学部准教授)が研究開発集約型の医薬品・エレクトロニクス企業の研究開発部門に属する3000名を対象に1999年に行ったアンケート調査(有効回答者数885名)[注3]によると、まず、研究技術者と開発技術者は志向が異なっていることが指摘されている。それによると、以下のとおりである。
研究技術者のモチベーター
・専門分野の業績の公正な評価(業績中心の評価)
開発技術者のモチベーター
・組織人志向が強い=昇進がモチベーター

[注1]経済産業省「平成18年度 東アジアにおける不正競争及び営業秘密に関する法制度の調査研究報告−欧米の法制度との対比において−」(2006年)、張睿暎「韓国の「産業技術の流出防止及び保護に関する法律」の紹介」『季刊 企業と法創造』13号(2008年)を参照に筆者作成。
[注2]中田喜文・宮崎悟「日本の技術者──技術者を取り巻く環境にどの様な変化が起こり,その中で彼らはどの様に変わったのか」『日本労働研究雑誌』606号(2011年)、また、よりわかりやすくまとめたものとして、中田喜文・電機総研編『高付加価値エンジニアが育つ』(日本評論社、2009年)
[注3]古井仁「研究開発技術者のモチベーションプロセスに関する一考察」『研究計画技術学会 年次学術大会講演要旨集』14号(1999年)201頁-206頁(ただし、学会発表の要旨(未査読)である。)
posted by かんぞう at 14:10| Comment(0) | TrackBack(0) | ☆不正競争 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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