2012年04月23日

[著作権]著作権法学会研究大会(2012年度)個人的なまとめ:(1)報告まとめ−石新報告、上野報告、京報告−

■報告まとめ
本概要は筆者の責任でまとめているうえ、ご報告者の方に断りなく公表しているものである。報告の全文は翌年の『著作権研究』で明らかにされると予想される。ここでの記述は全て筆者のバイアスがかかっているものとご理解いただき、あらゆる批判は筆者にだけ頂きたい。

(1)石新智規「米国における著作権リフォーム−Copyright Principles Projectを中心に−」
石新報告では、Pamela Samuelson教授(カリフォルニア州立大学バークレー校)が中心となって、2007年から3年間行われた、著作権の全面改正に関する議論を行うプロジェクト「Copyright Principles Project」の成果[注1]が紹介され、次いで、米国の著作権法全面改正を巡る議論の特徴と、そこからの示唆が報告された。

まず、「Copyright Principles Project」については、成果として公表された25の提案うち、以下の点が、日本法から見たときに興味深い点として指摘された。
・著作権の保有者の情報を入手できるよう著作物の登録を促すべきである(方式主義の復権)。たとえば、登録と非登録で権利の強弱をつけるべきである。
・フェアユースの予測可能性を向上させるため、著作権局が助言する仕組みを検討すべきである。
・権利侵害に対して差止請求以外の救済を付与する裁量を裁判所は活用すべきである(例えば、フェアユースの抗弁が合理的に期待できた場合には仮に侵害であっても差止請求は認めず損害賠償にとどめるべきである)。
・フェアユースには現行法で認識されている以上の目的が存在することを認識すべきである(Market Failureにのみフェアユースを認める厳格な見解が一般的であるが、Transformativeな場合に認めるべきとの立場がある[注2]。
・私的複製に対する権利制限について積極的な位置づけを与えるべきである(フェアユース規定で処理するのでなく、明確に認めるべきである)。

次に、米国の著作権法全面改正を巡る議論の特徴については、以下の点が特徴として指摘された。
・米国の著作権法改正の議論では、表現の自由との緊張関係が強く意識されていること。
・イノベーション政策としても強く意識されていること(See, Fred von Lohmann, "Fair Use as Innovation Policy", Berkley Technology Law Journal 23(1) (2008): 1-36)。
(なお、著作権の全面改正に関する学術界での議論はCopyright Principles Projectだけではなく、Jessica Litman、Neil Netanel、 William F. Party、Robert Mergesらも進めていることがあわせて報告された。)

以上を踏まえ、日本への示唆として、主に以下の2点を挙げられた。
・著作権課の機能の考察の必要性(米国著作権局とのスタッフ・権限の差異の考察)
・憲法との関係の考察

(2)上野達弘「ヨーロッパにおける著作権リフォーム−欧州著作権コードを中心に−」
上野報告では、欧州全体の著作権リフォームの提案プロジェクトの一つであるWittemグループ(Lionel Bently教授(Cambridge大学)ほか)の成果である「欧州著作権コード」の紹介が行われた。

まず「欧州著作権コード」の照会の導入として、欧州における、(1)著作権制度の一貫性の確保の必要性、(2)著作権に関する立法プロセスの不透明さ(とくにロビイングの影響による権利強化傾向への懸念が背景にある。一例として、隣接権の保護期間を70年とする近時の指令。)の解消、(3)加盟国ごとに属地的な著作権制度があることの不便さ・コンテンツ流通の阻害への課題認識、の3点を背景として、欧州での統一的な著作権制度の創設を提言するものとして作成されたことが説明された(なお、同コードは学術的な活動にとどまり、英語でのみ作成された)。

次に、大陸法と英米法の統合などの試みの結果、特徴的な点として主に以下の点が指摘された。
・欧州大陸法系著作権法では言及されることが少ない職務著作制度を打ち出した(なお、イギリス法には職務著作制度が存在する)。
。著作者人格権については、条件つきで不行使同意を有効とすることを打ち出した(なお、ドイツでは2002年の改正にあたって同意の有効性を明文化しようとしたが、改正に至らなかった)。著作者人格権の権利濫用を禁じる一般規定も提案された。
・権利制限については、一般条項が提案された(ただし、列挙した制限と同視でき、かつ、3ステップテストを満たすものとの規定である)。競争促進目的の権利制限も提案された。
・保護期間については、財産権の保護期間について現行の期間が長すぎるとの結論に至ったことが明示されている(ただし、具体的な保護期間については結論が得られなかったことが記されている)。
・クリエータの権利を重視し、創作者主義が貫徹され、著作権契約法が部分的ではあるが提案され(大陸法では詳細な著作権契約法が定められている)、さらにに、権利制限規定の中には報酬支払い義務を伴うものが提案されている(たとえば、学術目的のための利用についても報酬の支払いが定められている)。

以上の点を踏まえたうえで、自然人たるクリエーターが意識されている点、政策形成メカニズムに対する課題認識、の2点が日本への示唆となることが指摘された。

(3)京俊介「著作権法の立法過程分析:政治学の視点から」
京報告では、官僚・利益団体・政治家の三者に着目し、立法作業を行う官僚が他のアクターの行動をどう読んだ上で立法提案を行うかをモデル化し、事例を用いて検証した京俊介『著作権法改正の政治学』(木鐸社、2011年)の概要が紹介された。
まず、日本の著作権法立法過程については、多くの有権者が関心を持たないlow-salienceの政策分野であることが特徴として指摘された。これは選挙区を超えた利益に関わるものであり、イデオロギーとも無関係であるため、政治家も積極的に関与しないことが要因である(なお、ドイツでは著作権をイシューとした海賊党が躍進したが、これはドイツが比例代表制を中心的な制度としていることの影響であると考えられることが指摘された)。
また、これまで著作権の立法過程を巡る議論では、著作権法の内容が権利者に有利であること、権利者団体が組織化されている一方、利用者は組織化されていないことを踏まえて、「強い利益者集団」がいることが特徴であるととらえられているが、これだけでは立法者側の動機が明らかになっておらず説明として不十分(立法者側がブラックボックスになっている)ことが指摘された。

そこで、京(2011)は、次のようなモデルで検討を行った。すなわち、官庁が政策案を提示し(第一段階)、それに対して利益団体が評価し、必要であればロビイングをし(第二段階)、政治家は必要に応じて政策に介入する(第三段階)、とのゲーム(官庁、利益団体、政治家の三者の戦略的行動)と仮定する。そのうえで、官庁が利益団体・政治家の行動を読んだうえで政策形成を行うとの前提に立つ。(ゲーム理論を用いたことは、戦略的な読みあいを分析するため)
まず、利益集団の要求を聞き入れても政治家の特にならない場合は、官庁が望ましいと考えられる政策が提示され、それが受け入れられる。具体例としては利益集団である出版社が細分化されていて票にならなかった、写真の保護期間の延長(著作権法全面改正時。50年への延長)である。
次に、利益集団の要求を聞き入れることが政治家の得になる場合であり、かつ、ロビイング能力を官庁が充分に理解している場合は、限界まで官庁が妥協を行う。具体例としては応用美術の保護(著作権法全面改正時)である。
最後に、利益集団の要求を聞き入れることが政治家の得になる場合であり、かつ、ロビイング能力を官庁が充分に理解していない場合は、官庁が望ましいと考える政策が提示され修正が行われる。具体例としては、レコード二次使用の範囲(著作権法全面改正時)である。文化庁は例外なく徴収したかったが、利益集団の一つである飲食業界が免除を訴えた(しかし、文化庁との関係が薄かったため、官庁は予測できなかった)。飲食業界は票田であるため、政治家が介入し、飲食業界を例外とする立法が行われた。

このようなモデルでとらえた従来の著作権法の立法過程の下では、大きな変革は難しいことが指摘された。これは利益集団に重大な利益がかかる場合には政治ルートを通じて拒否権が発動されてしまうためである。また、立法を担う文化庁官僚にとって政治的リスクを負ってまで行うインセンティブが現在ところないことも要因として指摘された。

しかし、政治家が関心を持つインセンティブを持つ(例えば、全国区の比例代表制をとり、著作権を関心対象とする有権者層が一定数要る)、あるいは、独自の関心を持つ与党議員が登場する、野心的な文化庁官僚が登場する(例えば、文部科学省内の人事制度上もそのような試みを許容する、具体的には特定ポストに長期間つける)という条件が整えば著作権リフォームはできる可能性があるとの分析が示された。

[注1]日本語の翻訳バージョンはこちらから参照可能。
[注2]Pamela Samuelson,"Unbundling Fair Uses",UC Berkley Public Law Research Paper No.1323834 (2009).
posted by かんぞう at 18:22| Comment(0) | TrackBack(0) | ☆著作権 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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