2006年05月10日

[特許]冒認出願と第三者の出願の関係

「冒認出願、および、それに基づく特許権と、第三者、および第三者のした出願との関係」(ミニ研究ノート)

1.学説の状況
(1)冒認出願の後願排除効
冒認出願については、第三者の後願であっても先願としての地位を持たないと解されている(光石四郎先生、織田季明/石川義雄先生の見解)。これは39条の条文の定めとは合致する。

(2)冒認出願に基づく特許権の無効審判請求権者
冒認出願が権利化されたときに、無効審判を請求できる者は条文上は第三者も可能と読むことができるが、中山信弘先生はそうは捉えない。冒認出願による無効というのは公益的事由でないから、あくまで真の権利者に限るべきと考えている。なお、この考えには田村先生、茶園先生も同調されているようだ。

(3)冒認出願に基づく特許権の行使に対する無効事由の抗弁
冒認出願が権利化され、それを侵害するとされた相手方が、冒認出願であることを主張できるか?という問題点について、田村先生は(2)の中山先生の考え方に立ち、第三者がこれを主張することはできない、とされる。

2.疑問点
(a)1−(1)は真の権利者が出願したが冒認者に奪われた場合にも当てはまるか?
(b)論理一貫していないのでは?
1−(2)、1−(3)において通説は冒認出願の無効の効果はあくまで真の権利者に対するものだけであるとしているのに対し、1−(1)は対世効を持ち一貫していないのではないか?

3.検討
(1)(a)について
仮にそのように解すると、2点問題が生じる。
1点目は、冒認が無ければ本来権利を得ることができなかった後願者が権利を得る機会を得て、理不尽であるという点。これを認めてしまうと、後願者は故意に他人の出願の名義変更を狙ってくる可能性も出てくる(もちろん、実際そんなものが通用することはまず無いが。ただし、実例として偽造書類で名義変更をした例がいわゆる生ごみ処理装置事件)。
2点目は、裁判例・多数説ともに、奪われた権利の回復がありうる。当該出願が権利化する前であれば、特許を受ける権利を真の権利者の特許を受ける権利の確認で名義変更がなされる。権利化後であれば、真の権利者の特許を受ける権利との連続性があれば、移転登録請求が可能と解されている。
回復された場合、冒認とされた出願と第三者の後願が並存することとなってしまい、問題である。
ゆえに、あくまで冒認者による出願が39条の対象であると解するべきである。

(2)(b)について
仮に、1−(1)において第三者に対しては先願としての効力を持つとする。冒認出願後、第三者の出願があり、さらにその後、真の権利者が出願した場合において、問題点が生じるのである。すなわち、冒認出願が無くても、第三者出願により排除されていた真の権利者の出願が、冒認出願のおかげで排除されずに済んでしまうのである。あたかも冒認出願に対して出された真の権利者の出願日が遡及するかのようであり、問題である。
翻ってみれば、そもそも後願排除効はすでに公開が予定され社会にメリットが無い技術を排除するものであるが、冒認出願については発明者主義の名残なのであろうか。この点については疑問点として残る。
posted by かんぞう at 00:22| Comment(4) | TrackBack(0) | ☆特許 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
はじめまして、かんぞう様。
冒認関係で調べものをしているうちに
あなたのブログに来ました。
気になったことがあるので質問させて
頂きます。

1(2)(3)についてですが、特許庁の
hpの問い合わせ一覧という項目の中で
以下のように定義しています。
(権利帰属に関する審判請求人適格(利害関係人))
特123条2項但し書きの利害関係人とは真の権利者や実施権者等に限られず、当該特許発明と同一あるいは類似の物品、(中略)などの同業者も含むとされます。

と成っているので基本書などでは
違うのですが、実際には権利関係が無くても請求できることになっているようです。
したがって当然(3)も当業者であれば主張(請求)できるようなのですが実際はどうなんでしょうか。

ソース
http://www.jpo.go.jp/toiawase/faq/pdf/sinpan_q/03.pdf
のQ24を参照してください。

それでは
Posted by もっこ at 2007年02月01日 17:28
もっこさん、はじめまして。

恥ずかしながら特許庁が出しているQ&Aをフォローしていなかったので、ご指摘により勉強になりました。ありがとうございます。

特許庁の見解に沿うならば、おっしゃるとおりで、侵害訴訟においても冒認出願であることを理由とする無効主張が出来ることになると考えます。

ただ、「実際どうか」という点については、残念ながらわかりません。少なくとも現在のところまで、侵害訴訟で冒認に基づく無効抗弁が判断に影響を与えた事案が無いためです。

なお、特許庁と同じ見解に立つものとして、吉田助教授の論文を見つけました。吉田広志「冒認に関する考察――特に平成13年最高裁判決と平成14年東京地裁判決の関係をめぐって」知的財産法政策学研究10号(2006年)97頁あたりです。Webでも読むことが出来ます。ご存知かと思いますが、念のためご参考まで。
http://www.juris.hokudai.ac.jp/coe/pressinfo/journal/vol_10/10_3.pdf
Posted by かんぞう at 2007年02月07日 22:08
レス有難うございます。
吉田先生の論文たいへん参考になりました。
法律学を勉強しているわけではなく、零細企業の知財実務者としては、このような文献に接する機会はあまり無いので非常に勉強になりました。有難うございます。
解釈的には請求人適格があるとの見解法学的にあると理解できました。早くこの見解による訴訟が起きて、司法判断がどのように出るのか知りたいものです。
では
Posted by もっこ at 2007年02月08日 11:38
ご参考になったようで、一助になれて幸いです。
おっしゃるとおり、この見解が左右する裁判例が出てほしいなぁと期待してしまいます。
Posted by かんぞう at 2007年02月11日 23:35
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