2010年05月29日

[著作権]電子出版で出版社は権利の一部譲渡を受ける交渉をする余地ができた

2010年6月4日修正

Kindleに続いてiPadが発売され、電子出版がいよいよ加速する可能性が出てきた。
出版社側には単なる媒体の変化と捉えず、ビジネスモデル変革の機会と捉えている様子もうかがわれる。その中で、新たなビジネスモデルを守るためにも、これまでのビジネスモデルを守るためにも出版権の強化や著作隣接権の創設を求める意見が出版社側からは挙っている(注1)。

だが、本当に制度をいじる必要があるのだろうか?第三者の著作権侵害に対応するのであれば、思い切って著者と著作財産権を共有すればよいのではないだろうか(注2)。そのような手は使えないのだろうか?

ここでの結論は、これまでの慣習からそのような著作財産権の取得が難しかったものとの推測に留まる。が、そうだとした場合、電子出版がその慣習を打ち破るきっかけになるのではないかとも思う。

以下では、(1)出版社は共同著作者になることができないのか?契約で著作権の持ち分の一部譲渡を受けることはできないのか?、(2)慣習を打ち破るために電子出版をどのように利用するか?、について考察する。

■出版社は共同著作者になることができないのか?契約で著作権の持ち分の一部譲渡を受けることはできないのか?
そもそも出版社は共同著作者になる可能性はないのだろうか。出版社の機能、出版社が提供する付加価値から考えてみたい。

まず、出版社サイドからは、出版社の機能として、
1)才能の発見を行うことができる
2)権利の束としての性格がある出版物の利用にあたって窓口となり、かつ、調整役となることができる
等の点が挙げられている(注3)。

また、
3)情報の責任の所在を明確にしており読者の安心が担保できる(場合がある)
4)編集、装丁により著作物の価値を向上させる、あるいは著作物が伝えようとしている思想・感情をより引き立たせる(場合がある)
というところもあるように思われる。

このうち、(4)に着目すれば、出版社の編集作業は創作的な表現活動にあたる場合があるように思われるのである。

しかし、実際にそのような扱いをしている出版社は少ない。慣習として「編集なんてそれほどの価値はない」という謙虚な思いがあるのだろうか…。

契約で著作権の持ち分の一部譲渡が行われている、という例も、委員会制作方式の映画以外では聞かない。だが、出版社が著作物に付加価値を与えているならば、きちんと著者との間で交渉してよいし、するべきだと私は考える。もし仮に、それほどの付加価値を与えていないとするならば、そんな出版文化は守っても仕方ない。だが、出版社の付加価値はそのように低いものではないと私は信じている。
※ (2010年6月4日追記)この点について、編集者は創作的な活動に関わっていると言えるが、出版社名義で著作物が公表されていることはあまり多くなく、原始的に著作権を得ることは難しいとの指摘を頂戴した。
ご指摘の通りであり、著作者表示に関する慣行を変更しない限り原始的に著作権を取得することは難しい。
また、一部譲渡は、権利移転の事実を登録する必要があるため容易には進んでいないと考えられる。浅い分析であったこと、恥じいる次第である。

■慣習を打ち破るために電子出版をどのように利用するか?
では仮に出版業界がこれまで謙虚であったために、著作者から権利の一部の委譲ができていなかったとしよう。その打開策はないのだろうか?

私は電子出版によって、出版社がその付加価値を著者に示すことができる機会となると考えている。

電子出版では次のような実験が容易である。
・出版社が従前通り付加価値を与えたものを電子出版する。
・同時に、出版社が何ら付加価値を与えていないものを電子出版する。(その際に、付加価値をつけるために要した費用と等価の価格差を付けることが妥当である(注4))

もし出版社が適切な付加価値を生じさせており、かつ、読者が適切に出版社の付加価値を評価しているのであれば、前者がより好まれるはずである。こうすることで著者は出版社のありがたみを感じるだろう。

上記のような行動は実は単なる実験に留まらず、購買層をセグメント化し、上位層には高付加価値の電子書籍を、中位層以下にはお手頃な電子書籍をそれぞれ提供する、というビジネスモデルと置き換えても良い。

(注1)日本書籍出版協会「 知的財産戦略の推進についての意見」日本書籍出版協会Web(2010年)、平井彰司「出版の現在」文化審議会著作権分科会基本問題小委員会(平成22年第2回)資料1、文化庁Webサイト(2010年)。
(注2)もちろん著作権法64条によって共有著作権者全員の合意がないと権利行使ができないため、契約によりオーバーライドしておく必要はある。いずれにせよ契約で対処可能である。
(注3)前掲注1・平井。
(注4)電子出版の場合、限界費用が0に限りなく近いので価格差の付け方は難しいが…。
posted by かんぞう at 01:07| Comment(0) | TrackBack(0) | ☆著作権 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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