2010年05月22日

[知財一般]新設された「国際標準化戦略タスクフォース」のミッションに「仕分け」を行う余地がないような運用を望む

知的財産戦略本部が2010年4月22日に設置した「国際標準化戦略タスクフォース」について、私は疑問を感じている点がいくつかある。運用によっては解消できると思われるので、素人考えながら懸念点を整理して、望ましい運用を巡る議論の基礎としたい。なお、2010年5月22日段階においてインターネット上では懸念が示されていることはないので、私の杞憂かもしれないことはご容赦頂きたい。

■知的財産戦略本部 国際標準化戦略タスクフォースのミッション
知的財産戦略本部の資料(注1)によると、第一に「国際標準化特定戦略分野」を決定することとされている。報道(注2)によると、
1)次世代自動車
2)先端医療
3)省エネや電池などのエネルギーマネジメント
4)水
5)鉄道
6)クラウドや3Dなどのコンテンツメディア
7)ロボット
に決定されたようだ。

これからのミッションは、同じ知的財産戦略本部の資料では以下のように記されている。
知的財産戦略本部において「国際標準化特定戦略分野」が決定された後は、各府省・民間における各分野の戦略策定を支援するため、次のことを行う。
a) 各分野の戦略を策定する際の基本的な考え方を提示する。
b) 各府省・民間における戦略策定プロセスについて必要な指導・助言を行う。
c) 各府省・民間が策定した各分野の戦略案を企画委員会に報告する。


■国際標準化戦略タスクフォースのミッションへの懸念
国際標準の策定はそれぞれの企業がそれぞれの思惑を持って臨む、ある種、政治的な場である(注3)。そのような場で国がリーダシップをとることはどれほど必要で、適切なのだろうか。

国際標準化戦略タスクフォースのミッションはまだ詳細化されているとは言えないものの、私は、以下の5つを懸念する。
・戦略に関する情報が漏れ、交渉上不利になる可能性が生じるのではないか。
・どの企業(あるいはコンソーシアム)の戦略を国として採用するかについて、公正に決めることは難しいのではないか。
・仮に国として特定の戦略を採用した場合に日本企業が単一の方向性にまとめられてしまい、標準化に失敗した際や、ビジネスとして失敗した際に脆弱になる懸念があるのではないのか。
・官が関わる場合、透明性が求められることとなるが、透明性は私的な経済主体の駆け引きの場では足かせになりうるのではないか。
・官が関わる場合、標準化することが望ましくないと判断できる場合に、撤退することができるのか。標準化しないことも戦略であるが、標準化を作ることが自己目的化しないか。

そもそも、標準化戦略策定になぜ官が関わらなければならないのか、なぜ民間では出来ないのか(あるいは上手くいかないのか)が明確に示されていないように思う。この考え方は事業仕分けで通底していたはずである。ミッションを具体化する際には、一つ一つ仕分けに耐えられるようにした方がよい。

なお、最後に付け足しておきたいことがある。標準化に関しては「海外でも官民一体となっている」とのことが理由となっている点がタスクフォース設置の理由の一つとなっているが、海外ではそれは民間が決めたことを政治家が売り込みの支援をしているだけなのか、それとも役所がリーダシップをとって主導しているのか(そしてそれは役所がリーダシップをとったから上手くいったのか)を見なくてはいけないのではないだろうか。

(注1)知的財産戦略本部 国際標準化戦略タスクフォース「国際標準化戦略タスクフォースのミッションについて」(2010年)
(注2)日本経済新聞 2010年5月21日朝刊5面「自動車・先端医療など7分野、国際標準化を後押し、政府の知財推進計画」
(注3)原田節雄『世界市場を制覇する国際標準化戦略―二十一世紀のビジネススタンダード』(東京電機大学出版局、2008年)、山田肇『標準化戦争への理論武装』(税務経理協会、2007年)参照。
posted by かんぞう at 01:01| Comment(5) | TrackBack(0) | ☆知財一般 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
>標準化に関しては「海外でも官民一体となっている」とのことが理由となっている点がタスクフォース設置の理由の一つとなっているが、海外ではそれは民間が決めたことを政治家が売り込みの支援をしているだけなのか、それとも役所がリーダシップをとって主導しているのか

ですが、先進国の中で政府が国家規格を制定しているのは、日本だけです。その理由付けとしては、民間による自主的な規格制定が困難であることから、政府が標準化の主体であるべきとしています。一方で米英独仏では、政府は標準化関係の法令や政策の作成や支援に止まり、規格の制定自体は民間機関に委ねられています。

 先進各国の標準化機関は民間でも、日本だけは国であるべきだという主張が、所管省庁の経済産業省の方による下記のコラムで書かれています。
山中豊「事業仕分けと標準化」(情報処理学会 情報規格調査会ウェブサイト)
http://www.itscj.ipsj.or.jp/topics/nl85_yamanaka.html

 しかし、わが国の標準化機関を政府とすることについて、最近深刻な問題が発覚しています。それは、規格票の著作権です。
 各国の国家規格は、国際規格であるISO(国際標準化機構)やIEC(国際電気標準会議)の規格に合わせて作成しないとWTO協定違反となりますが、このISO/IECが規格のマニュアルである規格票のコピー、ネット送信などについて著作権を主張し、使用料を請求しています。ご存知のとおり、英語の規格票を日本語に翻訳するときには翻訳権が働くので、わが国の所管省庁(経済産業省日本標準調査会(JISC)事務局)も、ISO/IECの許諾を得て、政府は国際規格をJIS(日本工業規格)の原案として、審議会での審議・答申や主務大臣の制定を経て、利用されています。
 ここでまた問題になるのが、国の法令・通達等と同様に、大臣が制定したJISに著作権が認められるのかということです。著作権法第13条第2号で官公庁の通達は著作権の目的とならない著作物としていますが、経済産業省はJISには著作権が認められるという見解を採っています。その根拠としては著作権を主張するISOを原案としてJISを作成しているからとしていますが、同様の事例がドイツや米国の判例では認められておらず、経済産業省による立法の不備が下記の文献・ブログで指摘されています。

@ピリ辛著作権相談室 Q18:JIS規格って著作権で保護されるの?
http://urheberrecht.cocolog-nifty.com/blog/2007/11/18jis-2372.html

A鳥澤孝之「国家規格の著作権保護に関する考察 ―民間団体が関与した日本工業規格の制定を中心に―」知財管理Vol.59 No.7 [2009.7]793-805頁
http://www.jipa.or.jp/kikansi/chizaikanri/syoroku/59/7_793.html

B新たな「知的財産推進計画(仮称)」の策定に向けた意見募集(2010年2月)
個人からの意見 No.49 国際標準化戦略の推進方策について
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/ikenbosyu/100226/kojin.pdf

ISO/IEC規格を原案としたわが国のJISの規格票に著作権が認められなければ、ISO/IECといった国際規格の団体から非難や制裁が加えられる可能性があります。なので、わが国の国際標準化戦略は課題山積だと思います。
Posted by とおりすがり at 2010年06月11日 22:54
補足しますと、国際標準化機関のISO/IECは、スイス法に基づいて設立された民間非営利団体です。
Posted by とおりすがり at 2010年06月11日 22:58
とおりすがりさん、非常に詳細なコメントをありがとうございます。大変勉強になりました。

>米英独仏では、政府は標準化関係の法令や政策の作成や支援に止まり、規格の制定自体は民間機関に委ねられています。
DIN(独)、BSI(英)など、民間団体であったこと、全く知りませんでした。ISO/IECですら民間非営利団体だ、ということを考えるとなおさら…ですね。
お教えいただいた山中さんのコラムを読むと、山中さんの意図したところと逆の思いを持ってしまいました。デジュールの規格をJISC主導でやることについて意義が見えてこないですし、たとえば「時には,国と国の交渉ごととなる場合もありますので,この部分では,国の機関である方が有益」という場面に限っては欧州同様に国が支援すれば良いが、それ以外の場面では産業界主導で良いと思えてしまいます。

>規格票の著作権
鳥澤さんの問題提起を承知はしていたのですが、恥ずかしながら、理解できていませんでした。とおりすがりさんのおかげで、問題点がクリアになりました。JISCの報告書も併せて検討して、勉強してみたいと思います。
Posted by かんぞう(管理人) at 2010年06月13日 12:31
かんぞうさま、コメントレス、ありがとうございます。

>お教えいただいた山中さんのコラムを読むと、山中さんの意図したところと逆の思いを持ってしまいました。

ですが、JISCは平成13年の省庁再編前には、旧通商産業省工業技術院の付属機関で、事務局は同院標準部標準課が行っていました。
「審議会 日本工業標準調査会」
http://www.meti.go.jp/report/committee/commi_31/g_commi.html
「工業技術院の機構」
http://www.aist.go.jp/www_j/guide/kikou/kikou.html

平成13年の省庁再編の際には、工業技術院が独法化(産業技術総合研究所)することから、行政組織の減量・効率化の観点からJISCの位置づけが問題になりましたが、結局、中央省庁等改革大綱で「通商産業省の工業技術院標準実施部門について、一部民間で対応できない規格作成等を除き、民間移譲する。」とされ、規格制定部門については国営を維持することになりました

「中央省庁等改革に係る大綱・推進本部決定」
(平成11年1月26日中央省庁等改革推進本部決定)
VI 国の行政組織等の減量、効率化等に関する大綱
第1 事務・事業合理化関連
1. 廃止、民営化、民間委託等 D
http://www.kantei.go.jp/jp/990126kettei/9901taikou-6.html

山中豊課長補佐がコラムで書かれた内容は、以上のような経緯を踏まえたものと思われます。そのため、標準化機関の国営・民営化を議論する場合には、WTO/TBT体制に伴う国際整合化、それに伴うISO/IECの規格原案の著作権保護とともに、省庁再編の際の議論の内容を含めて、検討する必要があると考えられます。

参照
『昭和33年版科学技術白書』
第2部 科学技術発展の基盤 
第5章 標準化 
2 わが国標準化事業の沿革
http://www.mext.go.jp/b_menu/hakusho/html/hpaa195801/hpaa195801_2_084.html
Posted by とおりすがり at 2010年06月18日 16:11
とおりすがりさん、お返事が遅れて申し訳ありません。
山中課長補佐のコラムの背景、とくに歴史的なところを詳細にご教示いただきありがとうございます。なるほど、これで腑に落ちました。
背景も踏まえて規格の著作権保護の問題を考えてみたいと思います。
貴重な情報提供をいただきましたこと、心から御礼申し上げます。
Posted by かんぞう(管理人) at 2010年06月22日 22:38
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]

認証コード: [必須入力]


※画像の中の文字を半角で入力してください。

この記事へのトラックバック
×

この広告は1年以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。