2010年05月21日

[著作権]違法ダウンロード行為を抑止するために日本版三振(スリーストライク)アウト制を導入するとしてもISPによる自主的な取り組みを促すためには解決しなければならない課題

著作権の権利者団体の方がいわゆる違法ダウンロード行為(無許諾でアップロードされた著作物をダウンロードする行為)を抑止するために、日本版三振(スリーストライク)アウト制の導入を求めていく、と発言されたことを受けて、ここ半年、三振(スリーストライク)アウト制について議論が活発化している。

■三振(スリーストライク)アウト制度への批判
著作権を侵害するアップロード行為を抑止する手段を超えて、違法ダウンロード行為を抑止する手段として、三振(スリーストライク)アウト制を選択肢とすることについては以下のような批判がある。
1)インターネットとの接続を遮断することに伴う基本的人権の侵害が、著作権侵害を抑止することに伴う社会的利益と釣り合わない可能性がある
2)著作権侵害行為に対して国際的に手厚い救済手段があるにもかかわらず、さらに過剰な保護を与えることは合理的でない(もっとも、これは現在のところ刑事罰が科されていない違法ダウンロード行為には、有力な理由にはならないかもしれない)
3)家族、ルームメイトの1人が違法ダウンロードを行っていた場合に、そのISPを共同して利用していた人の表現、情報受領を妨げてしまうことは妥当でない(過剰な私的差止行為となる懸念)(注1)
4)著作権者にとっても負荷が大きい(注2)

1)、2)は価値判断にゆだねられるものであり直ちに結論を出すことはできないが、3)は立法にあたって十分に留意する必要があるだろう。

他方、4)については、インターネットサービスプロバイダー(ISP)側が自発的に著作権侵害をチェックする仕組みがあればよい、との意見もあると思われる。しかし、そのような反論に対しては、私は新たな課題として、
・ISP側が自発的に違法DLを監視し、接続を遮断することは現行法上期待しにくい
ことを指摘したい。

■ISP側が自発的に違法DLを監視することは現行法上は法的に期待しにくい
前述のとおり、著作権者の負担を軽減するには、ISP側が自発的に違法ダウンロード行為をチェックすることが求められることが推測される。

ISPが一方的に違法ダウンロードかどうかは判定できないため、おそらく違法にアップロードされた著作物のデータを特定し、当該データを含むダウンロード行為があったかをISPに判定させる、というスキームが想定される。(以下、この想定のもと議論を展開している点に留意いただきたい。)

その場合、ISP側はパケット解析をしてチェックを行うことが一般的になるものと思われる。その場合、単にアクセス先だけでは違法ダウンロード行為がどうかわからないため、パケットの内容を解析(ディープ・パケット・インスペクション(=Deep Packet Inspection(DPI)))することになる。

しかし、違法ダウンロード行為を自動的に判定するためにDPIを実施することは、通信当事者(この場合は、違法ダウンロード行為者と当該著作物がアップロードされているサーバー間)以外の者が積極的意思をもって通信の秘密を知ることになる。このようなことを行ったISPは電気通信事業法179条にいう「電気通信事業者の取扱中に係る通信の秘密を侵す」行為にあたると考えられる。

著作権者の利益を守るための行為であるから、正当防衛にあたると見ることもできるかもしれないが、憲法に定める通信の秘密を具体化したと解釈できる電気通信事業法の規定を正当防衛で一蹴できるかについては容易に判断しがたい。ISP事業者にとってはコンプライアンス上のリスクとなろう。ISP側の自発的な違法DLの監視を期待するのであれば立法上の対処をしておくことが望ましい。

もちろん、事前に通信当事者の同意を得ていれば電器通信事業法179条の問題は生じないが、「ホームページ上の周知だけであったり、契約約款に規定を設けるだけであったりした場合は、有効な同意があったと見なすことは出来ない。」との理解が一般的である(注3)。そうであるならば、事前に契約者に明確な同意を求めることとなると思われる(注4)が、違法ダウンロードを意図している者であれば、合理的にはそのような同意をしないであろうし、また、同意を求めないようなISPと契約することになるだろう。同意を求める場合、監視は実効的に機能しない。

このような事態を防ぐには、違法ダウンロードを監視するためのDPIを実施することを同意したユーザーとのみ契約することをISPに一律に求める立法を行うことも手であるが、これは国が間接的に国民の通信の秘密を侵すことになりうると思われる。憲法上の論点を整理する必要が生じることとなる。

■結論
違法ダウンロード行為を抑止するために日本版三振(スリーストライク)アウト制を導入するとしても、同制度では著作権者の負担は小さくない。これを解消するために、インターネットサービスプロバイダー(ISP)側が自発的に違法ダウンロード行為をチェックすることを期待する意見もあるかもしれないが、チェックのためにISP側がディープ・パケット・インスペクション(DPI)を実施することは、法的な課題があるため、自主的な実施を期待することは難しいと考えられる。

通信当事者の同意がない場合、電気通信事業法違反になりかねず、ISP側は実施することをためらうであろうから、自発的なチェックは実施されにくいと考えられる。また、通信当事者の同意があったとしても合理的には違法ダウンロードを行うような者しか同意していないと考えられるため実効性は担保されないだろう。

□参照
追記:
知的財産戦略本部 コンテンツ強化専門調査会 インターネット上の著作権侵害コンテンツ対策に関するWG「インターネット上の著作権侵害コンテンツ対策について 報告書(案)」(2010年5月)では、三振(スリーストライク)制度について継続的な検討を行う必要性があるとして、以下のようにまとめられている。

そのなかでISPの自主的な取組を期待する向きもあるが、過大な期待は出来ないであろうことを私は指摘したい。
 インターネット上の反復的な著作権侵害行為への対策として、フランスや韓国などでは、数回の警告を経た上でインターネットへの接続の制限(接続の遮断)やアップロード等のアカウントの利用の制限(アカウントの停止)を行う制度(いわゆる3ストライク制度)が導入されている。
 常習的で悪質な侵害者に対して、社会全体で取り組むことは重要な課題であり、また、こうした制度は特にファイル共有ソフトを通じた侵害には有効な対策であるが、実効性の確保の観点、自由の一定の制約とのバランスとの観点等について課題があり、現行制度における警察の取り締まりによる効果、諸外国における実施状況とその効果等も見極めながら、さらに検討を行う必要がある。
 なお、一部プロバイダは、自主的な取組として、プロバイダと利用者の契約約款において、侵害行為者に対してプロバイダがインターネットへの接続の制限等の必要な措置を取ることを定めている。こうした自主的な取組は重要であると考えられるが、通信の秘密との関係で許容範囲が明確でないため、その許容範囲の明確化や手続きも含め、検討する必要がある。

(注1)heatwaveさんのブログ記事「日本版スリーストライク法に断固反対する」『P2Pとかその辺のお話@はてな』(2009年12月16日記事)
(注2)小倉秀夫弁護士のブログ記事「スリーストライク法導入を検討するよりアップローダー対策した方が効率的では?」『benli』(2009年12月21日記事)
(注3)一例であるが、『利用者視点を踏まえたICTサービスに係る諸問題に関する研究会 第二次提言(案)』総務省Webサイト(2010年)54頁-59頁(右報告書は、DPI技術について法的検討を加えている(もっとも、より公共の利益とは関わりのない行動ターゲティング広告について検討を行ったものである)。今後、最終提言が公表される見込みである)。
(注4)余談となるが、私は実効的な同意の取得は可能であると考える立場にある。DPIについては別の機会で整理したい。
posted by かんぞう at 21:00| Comment(0) | TrackBack(0) | ☆著作権 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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