2010年04月13日

[意匠]意匠法24条2項の導入が禁反言法理に影響を与えるものでないことを明示した事例

〔ウェッジソール事件〕大阪地判平成21年11月5日 平成21年(ワ)第2726号(最高裁判所Weサイト 知的財産判例集掲載)
大阪地裁第21民事部
キーワード:意匠法24条2項、意匠の類否判断手法、禁反言

■事案
ウェッジソールに係る意匠の意匠権(意匠登録第1339016号、平成19年9月4日出願、平成20年8月1日登録。以下、原告意匠権といい、意匠権に係る意匠を原告意匠という)を保有する原告(X)が、被告ら(Y1、Y2)の輸入・販売するイ号物件がXの意匠権を侵害するとして輸入等の差止を求めた事案。
なお、原告意匠は筒部が5段になっているが、被告イ号物件は筒部が3段になっていた。
また、原告意匠に係る出願に対して公知であることを理由とする拒絶理由通知が下された際に、被引用意匠の筒部が3段であったが原告意匠は筒部が5段であることを強調し両者が類似しないことを強調していた。
さらに原告は原告意匠と同日に出願し、原告意匠の関連意匠としなかった意匠において筒部を3段とする意匠を採用していた。(下図参照)
100410IpGhost.jpg
図 原告意匠および原告出願意匠(参考)(出典:特許電子図書館 意匠公報)


■争点
以下の2点である。

(1)イ号物件は原告意匠に類似するか
なお、被告は複数の公知意匠が筒部が3段構造となっている点を指摘し、要部を筒部の段構造にあると主張している。他方、原告は段数の違いは共通点が与える美観を凌駕するものでもなく、また、意匠法24条2項制定(平成19年4月1日施行)後、物品の特定の部分をもって意匠の要部であるとする考え方は採用できないと主張した。

(2)原告の主張はいわゆる包袋禁反言にあたるか
前述の通り、原告は原告意匠に係る出願に対して公知であることを理由とする拒絶理由通知が下された際に、被引用意匠の筒部が3段であったが原告意匠は筒部が5段であることを強調し両者が類似しないことを強調していた経緯があり、イ号物件と原告意匠の類否の場面で段構造の違いの影響が小さいとすることは包袋禁反言にあたると被告は主張した。

(3)原告意匠権は無効事由を含むか
仮にイ号物件と原告意匠の類否の場面で段構造の違いの影響が小さいならば、そもそも原告意匠は公知であったと被告は主張した。

■判旨
結論として原告の請求を棄却した。

□(1)類否について
意匠の類否を判断するにあたっては、意匠に係る物品の性質、用途、使用態様、さらには公知意匠にない新規な創作部分の存否等を参酌して、意匠に係る物品について需要者の注意を惹きつける部分を意匠の要部として把握し、両意匠が要部において構成態様を共通にするか否かを中心に観察 して、両意匠が全体として美感を共通にするか否かを判断すべきものである。
原告は、意匠法24条2項制定後は物品の特定の部分をもって意匠の要部であるとする考え方は採用されないなどと主張する。意匠法24条2項は、意匠の類否判断が「需要者の視覚を通じて起こさせる美感」の類否に基づいて行われる旨を定めているところ、この観点でされる美感の類否判断の手法として、需要者の視覚を通じて起こさせる美感の観点から上記事項を参酌して本件意匠の要部を把握し、被告意匠がその要部における構成態様と共通するか否かを判断することは、むしろ同条項の趣旨に沿うものであり、かかる判断手法が同条項により排斥されたものとする根拠はない。
以上のように述べ、筒部の段構造が要部であるとしたうえで、要部が共通していないことを理由にイ号物件は原告意匠権を侵害していないと判断した。

□(2)禁反言について
傍論ではあるが、以下のように説示した。
原告は、本件意匠の出願経過において、本件意匠が 乙2意匠に類似し、意匠法3条1項3号に該当するとした拒絶理由通知に対し、本件意匠は乙2意匠に類似しないとする意見書を提出したものであるところ、原告は、同意見書の中で、…(中略)…筒部の絞りの段数の相違を強調して乙2意匠とは類似しないと主張していたのに、本件訴訟において、胴部の絞りの段数が乙2意匠と同じ3段である被告意匠との類否判断に当たり、段数の相違は需要者に与える美感に影響を及ぼさず、被告意匠は本件意匠に類似するなどと主張することは、出願経過における上記主張と相反するものというほかない。侵害訴訟である本件訴訟において原告が上記主張をすることは、禁反言の法理ないし信義則(民法1条2項、民訴法2条)に違反し、許されないものというべきである。そして、このように解することは、意匠法24条2項とは無関係に導き出されるものであり、同条項が制定されたからといって、かかる主張が許容されるものでないことは明らかである。

■コメント
□24条2項の制定が類否判断の手法に与える影響について

判決によると原告は以下の主張をしていたとまとめられている。
意匠法24条2項制定後は、物品の特定の部分をもって意匠の要部であるとする考え方は採用されない。すなわち、本件意匠は、意匠法24条2項によって、需要者の立場からこれを把握すべきである。

これまで物品の特定部分を要部とし、要部間の相違を比較する手法がとられてきた(注1)。上記「意匠法24条2項制定後は、物品の特定の部分をもって意匠の要部であるとする考え方は採用されない」との主張だけを一般化すると、従来にない考え方であると言えるが、このような見解(学説等)や裁判例は管見の限り見られず、一見すると不可解さが残る。

判決文ではこの記述の後に「古い時代の公知論を前提とする議論である」との記述があることから、おそらく原告側は、被告が公知である部分を除外し本件意匠の要部を把握するとの考えに基づいて主張したことが、従来のいわゆる創作説の立場に立った上で公知意匠との関係での要部の把握の仕方(公知意匠は要部認定において必ず除外する立場:公知意匠除外説)を採っていると評価した上で、創作説は24条2項制定後はとることができないのであるから、公知意匠除外説をとることは間違いであると批判しているものと思われる。その上で、混同説(注2)の立場に立った上で公知意匠との関係での要部の把握の仕方(公知意匠だからといって要部認定において必ずしも除外しない立場:公知意匠参酌説)を主張されたのではないか(注3)。

しかし、従来から公知意匠参酌説であっても公知意匠に関する部分は著しく低い評価が与えられていたことが指摘(注4)されており、本件の具体的判断において大きな影響を与えるものではないと推測される。

□禁反言について
類否判断の判断主体が需要者となったことで、あくまで需要者の目において類似していれば禁反言は問題にならない、との解釈は採ることができないと明示したものと考えられる。
そもそも意匠権者が権利範囲の外としたのであるし、意匠を創作する者の予測可能性を担保する点でも適切な説示といえる。

ところで、余談ではあるが、本件は禁反言との関係では興味深い可能性を示唆したように思う。
当事者の主張になかったようなので、仮定の話になるが、このような例も考えられる。
公知意匠と出願意匠の類否が問題となった場面で、ある構成要素の差異が出願時の需要者にとっては両意匠が類似していないとの評価を生み出す、との主張を意匠権者が出願経過においいてしていた。しかし、その後、権利行使の場面で、権利行使段階での需要者においては当該構成要素の差異があっても類似していると意匠権者は主張した。
意匠権者が以前の主張を翻しているものと評価すれば禁反言とすることは妥当であるが、単に出願時点での客観的現状を述べたものと評価すれば、これを禁反言とすることが躊躇われる余地もあるように思われる。需要者の視点は時の経過とともに変わる点が問題点を投げかけているように思う。

(注1)小谷悦司「登録意匠の要部認定と類否判断について」『牛木理一先生古稀記念 意匠法及び周辺法の現代的課題』(2004年、発明協会)240頁。
(注2)ただし、意匠法24条2項はあくまで判断主体を需要者とすると定めたのみであり、他の条文との関係を考えると混同説を採ったものとは評価することはできないとの指摘がある(小谷悦司「改正意匠法24条2項について」パテント60巻3号(2007年)6頁-16頁)。筆者もその理解をしている。
(注3)なお、両者の整理について意匠法24条2項制定前の文献ではあるが、加藤恒久「類否判断における意匠の要部」『判例意匠法』(1998年、発明協会)59頁参照。
(注4)加藤・前掲注3。
posted by かんぞう at 09:27| Comment(0) | TrackBack(0) | ☆意匠 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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