2010年01月01日

[特許]2010年は「特許権の無視」をしない年にしたい

マーク=レムリー(著)・島並良(訳)「特許権の無視」財団法人知的財産研究所・島並良『岐路に立つ特許制度―知的財産研究所20周年論文集―』(2009年)67頁-89頁(Mark A. Lemley, "Ignoring Patent", 2008 Michigan State Law Review, p.19- (2007)の翻訳)読書メモ

2010年の『新成長戦略』は示された。
さて、その基盤はどうか。

特許制度がこれからの経済の発達に寄与できるものであるかどうか、新年の初日に考えてみた。

"Patent Failure"や"Patent Crisis"という言葉が特許制度を巡って登場するようになった中、特許制度のあり方について、日本、米国、欧州、中国、インド、ブラジルの代表的な研究者・実務家が著した論文をまとめた、大変読み応えのある本が出ている。
この中に、スタンフォード大学のLemley(レムリー)教授が著された興味深い論文がある。
法学、経済学双方の観点から特許制度を研究されてきた教授が示された、望ましい特許制度像は、日本の制度のあり方に示唆を与えていると私は考える。

■Lemley教授が考える特許制度の課題とあるべき方向性
Lemley教授は、産業界の多くで少なからず特許権の存在を無視している、言い換えると、すべての特許権の非侵害を確かめた事業展開が行われていない、と指摘した上で、現在の特許制度の下ですべての特許権の非侵害を確かめた事業展開を行わせる社会の非合理性を指摘している。現在の特許制度の問題の根には、知的財産制度を所有権制度のアナロジーとして制度のあり方を考えていることがあると述べている。Lemley教授は、所有権制度のアナロジーとして制度設計を行った場合の、社会が負うコストとして、以下の4点を挙げられている(注1)。
・特許出願から、(少なくとも)出願公開まで、あるいは(より厳密には)特許権として設定登録されるまで、権利の存否が不明確であるために、確実に権利侵害を避けようとするならば事業化が著しく遅れる。しかも、米国においては継続出願(Continuation)により権利範囲が不明確である。
・特許権者が自ら実施しているのであれば独占的実施を、実施していないのであれば、より高額の便益(ライセンス料)を得るために、独占的実施許諾を、それぞれ行うために、技術のイノベーションが阻害される。
・権利行使される特許権の多くがそもそも無効か、権利侵害でない場合があり、そのような権利行使によって無駄な負担が生じる。
・1製品当たり多数の特許権が関与する場合、たった1つの特許権に所有権と同じく排他権を与えると、ホールドアップが生じる。

上記の4点のうち、第1の点に掲げられた継続出願以外は、国際的に特許制度が共有している点である。言い換えれば、現在の特許制度においては国際的に普遍な社会的コストということができるだろう。

ところが、あるべき特許制度の提言(注3)をみると、米国に特有の点に焦点が当てられているように見える。
・権利範囲の早期明確化と有効性の早期確定((1)審査の迅速化、(2)継続出願の制限、(3)全出願の出願公開、(4)ピアレビュー制度の導入、(5)特許登録異議制度の導入、(6)Gold-Plating制度(Lichtman教授とLemley教授が提唱する、審査官による特許要件に関する自発的な追加調査であり、出願人に先行技術提供を求めて行うもの)(注2)の導入)
・独立発明の抗弁または先使用権の導入
・故意侵害に対する懲罰的損害賠償制度の存在による、先行特許調査回避の排除
・合理的実施料算定方法の改革

■Lemley論文から伺うことができる示唆
上記の提言をみると、権利の有効性の早期確定に関するもののうち、特許登録異議制度とGold-Plating以外は日本の制度は既に達成している。そうだとすると、実は日本の制度は望ましいものであるのかもしれない。
少なくとも、米国の現状からみると、日本の制度は望ましいものとして映っている可能性がある。(もちろん、米国の現状から望ましいからといって日本の現状に適していると、直ちにいうことはできないが。)

振り返ってみて、日本の制度に置いて課題となっているものは何だろうか。強引な言い方をすると、グローバルな制度統一がもっぱらな課題ではないだろうか。
そうならば、一度、胸を張って日本の制度を海外の標準とすることを売り込むのも手かもしれない(注4)。

そのためには、日本の制度が競争力に寄与したことを実証していくことが必要だろう。
また、停滞気味の米国の特許制度改革法案を後押しする政治的アピールも適切だろう。
日本からできることは複数ある。

(注1)マーク=レムリー(著)・島並良(訳)「特許権の無視」財団法人知的財産研究所・島並良『岐路に立つ特許制度―知的財産研究所20周年論文集―』(2009年)70頁-74頁。
(注2)Douglas G. Lichtman & Mark A. Lemley, "Rethinking Patent Law's Presumption of Validity", 60 Stanford Law Review, p.45 (2007) available at SSRN
(注3)レムリー・前掲注1「特許権の無視」76頁。
(注4)ただし、グレースピリオドの導入に関しては、日本の制度には改良点があるとの議論がある。
posted by かんぞう at 23:50| Comment(0) | TrackBack(0) | ☆特許 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]

認証コード: [必須入力]


※画像の中の文字を半角で入力してください。
この記事へのトラックバックURL
http://blog.seesaa.jp/tb/137155364
※言及リンクのないトラックバックは受信されません。

この記事へのトラックバック
×

この広告は1年以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。