2009年10月19日

[知財一般]パリ条約上の優先権の効果を巡る解釈についての覚書

知的財産管理技能検定を受けることが私の周りでちょっとしたブームになっている。
こんな試験を受けると、いかに自分の勉強が足りないか明らかになってしまうのだが、勇気を持って申込みをし、慌てて勉強をしている。泥棒を捕えて縄を綯うとはこのことだ。

その中で、気になる問題があった。

「パリ条約上の優先権の効果は、第1国出願から12ヶ月以内に行った優先権を伴う第2国での出願における出願日が第1国出願の出願日に遡及するものである」
これは条約上「不利な取り扱いを受けない」に過ぎないのであり、「出願日に遡及する」と書いていないから誤った選択肢、とのことだ。

たしかに条約上は、以下のように定められている。
工業所有権の保護に関するパリ条約(注1)
第4条(優先権)B
…(略)…A(1)に規定する期間の満了前に他の同盟国においてされた後の出願は,その間に行われた行為,例えば,他の出願,当該発明の公表又は実施,当該意匠に係る物品の販売,当該商標の使用等によつて不利な取扱いを受けないものとし,また,これらの行為は,第三者のいかなる権利又は使用の権能をも生じさせない。…(略)…

しかし、効果を考えたら出願日遡及と捉えても良いのではないか?
日本国内では出願分割、出願変更は出願日遡及になっているので、同じように理解しても良いのではないか?と疑問がわく。
だが、調べて見ると、きちんとした理由があってそのように解釈しなければいけないことがわかった。ここでは(1)両解釈の差、(2)出願日遡及と解釈できない理由(国内法)、(3)出願日遡及と解釈することの問題点、を覚書としてまとめる(注2)。

■出願日遡及と解釈する場合と、不利な取扱いを受けないと解釈する場合の差
両者の違いは、優先権の基礎となる第1国出願の出願日と、第2国出願の出願日の間に、第2国において法改正があった場合に現れる。
出願日遡及であれば、改正前の法が適用されるが、不利な取扱いを受けないとの解釈であれば、改正後の法が適用される。

■出願日遡及と解釈できない理由(国内法)
少なくともパリ条約に基づく優先権主張を日本で行う場合においては、出願日遡及と解釈できない理由もある。

まず、明治32年法では出願日遡及とする規定であったが、その後、現行の文言「特許に関し条約に別段の定があるときは、その規定による。」(26条)に近い文言となり、パリ条約の文言が事実上採用されることになったようだ。
そうであるならば、立法者としては出願日遡及とする考え方を改めたと理解することは不自然ではない。

また、これまでの特許法改正において、改正前に優先権の基礎となる第1国出願が行われた特許出願についての遡及も認めてきていないことも理由として挙げられている(注3)。

以上のように、我が国の立法者意思を解釈の手がかりにするならば、日本の特許法においては出願日遡及と解釈することは適切でないだろう。

■出願日遡及と捉えるとこんな不都合もある!
また、出願日遡及と捉えると、特許・実用新案の優先権主張期間が条約上12ヶ月であることに対し、意匠・商標の優先権主張期間が6ヶ月であることの差がネックとなり、後者の意味が没却されることが指摘されている。

すなわち、実用新案登録出願を行い、優先権主張期間である12ヶ月以内に第2国出願として日本国で出願を行い、直ちに意匠出願に変更することが出来る。しかし、これは、優先権の基礎となる出願が意匠出願であれば優先権主張ができなかったはずである。
このような不都合が指摘されている(注4)。

(注1)特許庁訳に拠った。
(注2)以下はすべて後藤晴男『パリ条約講話 第13版』(発明協会、2007年)に拠った。
(注3)後藤・前掲注2 155頁。
(注4)後藤・前掲注2 157頁。
posted by かんぞう at 10:56| Comment(0) | TrackBack(0) | ☆知財一般 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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