2009年06月20日

[知財一般]小坂準記「知的財産信託の構造と課題」読書メモ

小坂準記「知的財産信託の構造と課題」知的財産法政策学研究14巻(2007年)281頁以下読書メモ

当時北海道大学法科大学院に在籍されていた学生さん(注1)の書かれた論稿なのだが、知的財産を基礎とする資金調達の法的仕組みと課題を非常にわかりやすくまとめていらっしゃり、また、制度設計時において知的財産研究所の指摘した法解釈上の課題について見解をまとめており、有益なものだった。
基本的には現状をまとめているものなので、概要には触れないが、小坂さんのオリジナルな見解については備忘のためにまとめておきたい。

■小坂さんの見解の概要
知的財産研究所は、知的財産信託制度が出来る前に検討事項として以下の2点の問題を挙げている(注2)。
・信託であることを登記していない場合、受託者の債権者が信託財産に強制執行を書けたり、受託者が破産し信託財産が破産財団に組み込まれたりすることを、受益者(原権利者)は信託であることをもって対抗できない。特許を受ける権利を信託財産とした場合、信託であることが登記できないと、前述のような不都合が生じる。
・自己の財産を信託することは信託宣言として無効になる(注3)。特許を受ける権利を信託財産とした場合、特許権の設定登録を受けると、信託宣言と解釈されうる。

この点について、小坂さんは、
・特許を受ける権利については特許法施行規則により信託である旨記載できることになっており(特許法施行規則26条1項、2項)、特許権の場合は特許登録令上、信託できることが定められているため、「信託の公示」にあたるかについて争いはあるかもしれないが、不動産信託の登記事項と同一であること、(閲覧可能な)公募に記載されることから、信託の公示に当たると解釈すべき(注4)。
・特許庁は信託であることを認識しているのであるから、職権で信託である旨の登記がなされればよく、しかも、信託宣言として無効とする根拠は、信託法上受託者の他人性が求められていること、財産隠匿の危険が論拠であるところ、特許を受ける権利が特許権となった場合においては、財産隠匿の危険があるとは言えず、また、他人の財産を管理していることには変わりないのであるから、信託宣言と解するべきではない(注5)。
と述べている。

■私見
上記の解釈は結論として妥当であるし、解釈論としてもほぼ無理が無い。ただし、後者については、特許庁が確実に職権で信託である旨の登記がなされることが施行規則等で明確化されておく制度設計を提言するほうか、余計な解釈論上の疑義を生じさせないように思う。

■小坂さんの見解(その他)+私見
上記に加えて、知的財産信託が活用されていない理由を信託銀行のノウハウ不足であることも指摘されている。
もっとも、著作権に関わる知的財産信託は、他の資金調達スキームで事足りていることもあるだろうし、あるいは、当事者が信託銀行という新たなアクターの参加に抵抗感があることが理由なのかもしれない。特にメリットの1つである倒産隔離機能は、実際のところ倒産による大きな弊害が無い可能性もある。
他方、特許権に関わる知的財産信託は、ライセンシー保護機能としての登録制度がいまだ有効に機能していない(注6)ことを考えると倒産隔離機能にはメリットがある。大田区の中小企業が知的財産信託を行った例はそのメリット生かした例だろう。他方、資金調達については、特許単独では足りず、結局のところビジネスモデルの評価となるのであろうから、既存の融資スキームで十分と考えられている可能性もある。

(注1)現・TIM総合法律事務所。
(注2)いずれも、財団法人知的財産研究所(編)『知的財産権の信託』(2004年、雄松堂)132頁-137頁。
(注3)小坂さんによると英米法では一般的な解釈のようだが、日本では争いがあるらしい。否定説として、新井誠『信託法 第2版』(2005年、有斐閣)122頁。
(注4)小坂・325頁。
(注5)小坂・326頁。
(注6)もちろん今後、特定通常実施権が活用される余地はあるし、制度の再設計の議論が進めば状況は変わりうる。
posted by かんぞう at 22:14| Comment(0) | TrackBack(0) | ☆知財一般 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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