2009年04月14日

[特許]医療行為を特許保護しない日本の制度は「遅れている」?

手術・投薬方法を特許付与対象とすることで政府で検討されていることが去る3月17日に報道された(注1)。

医療行為に関する発明について「産業上の利用可能性」がないとして特許保護を与えない現状の運用には、疑問の声もあるところであったし(注2)、また、医療関連産業振興のためには特許保護が望ましい、との意見も少なくないところである。

そのような意見には傾聴すべきところがある。

もちろん、このような問題意識は、これまで多々、議論が積み重ねられてきたところである(注3)。しかし、踏み込んだ結論は今まで出されていなかった。そのための期待感の裏返しなのか、医療行為に関する特許保護が手厚い米国との差異や、2006年、欧州では欧州特許庁審決を受けて治療方法に関する特許保護が認められるようになったこととの差を捉えて、日本の制度が「遅れている」と捉える意見が一部である。これに、私は疑問を感じる。

本当に遅れているのだろうか?

少なくとも米国との大きな差としては社会保険制度の違いが存在する。

医療行為に関する発明について特許保護を与えた場合(当然ながら、医師による医療行為は免責される制度設計となるであろうから(注4)、当該部分でのライセンス料は問題としない)、当該行為を支援する機器にライセンス料が上乗せされることとなる。そのような超過利潤の一部は、我が国では社会保険制度による診療報酬償還制度や税金によって賄われる。

欧州においても手厚い社会保険制度が存在するが、欧州連合で発言力の多いドイツ、フランスでは、公的負担の中でも保険料による部分が大きい。それ故、国の財政へ強く影響することは考えにくい(もっとも、イギリスなど国の負担が圧倒的に大きい国もあるため、欧州全体で同じことは言えない)。

我が国に目を向けると、社会保険に関する国の財政上の負担が課題となっている。医療行為に関する発明に対する特許付与に積極的になれない理由は、ここにもあるのではないか(注5)。

(注1)日本経済新聞2009年3月17日夕刊(東京版)
(注2)「外科手術の光学的表示方法事件」東京高判平成14年4月11日では、裁判所は「医療行為に係る技術についても「産業上利用することのできる発明」に該当するものとして特許性を認めるべきであり、法解釈上、これを除外すべき理由を見いだすことは出来ない、とする立場には、傾聴に値するものがある」と述べている。
(注3)霞ヶ関内部での議論としては、平成14年度の産業構造審議会知的財産政策部会特許制度小委員会医療行為WGなど。
(注4)医療行為に関する発明に対し特許保護を与える場合、医師の行為が免責される条項を付加することはほぼコンセンサスがあると考える。その一例として、上述の裁判例「外科手術の光学的表示方法事件」においても、現在の特許法上の運用を肯定する理由として、医師の行為が免責される条項が無いことを指摘していることが挙げられる。
(注5)「産業構造審議会知的財産政策部会特許制度小委員会医療行為WG第1回議事録」〔澤委員発言〕では、社会保障制度により賄われていることへの注意喚起がなされている。
posted by かんぞう at 23:26| Comment(0) | TrackBack(0) | ☆特許 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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