2009年02月16日

[つぶやき]派遣切りが無形資産を失わせる可能性を考える

派遣切りと一口に言っても、いろいろな意味がある。たとえばこんな例が挙げられる。
-生産ラインを担っている被用者を生産ライン縮小に伴い解雇する
-いわゆる「一般職」として働いていた被用者を事業縮小に伴って解雇する(このとき、当該事業に属していて、配置転換がきかない正社員も解雇する)
-業績悪化に伴って全社的にいわゆる「一般職」として働いていた被用者を解雇する

解雇されてしまった方には大変なことではあると思うが、今回は前者2つは対象とせず、後者に的を絞って議論を進めたい。後者のような場合、企業内部では「いつ首を切られるかわからない」というメッセージを伝えることになる。そのことがどのような弊害を有無かについて考えていく。

私が持っている懸念は「下手な派遣切りは、優秀な正社員/派遣社員の流出を招くのではないか」、ひいては、企業の無形資産が減少するのではないか、というところにある。

日本の「失われた10年」の中頃、リストラを進めた際にも指摘されたことであるが、首切りを行うと、優秀な人間も一緒に辞めていってしまう可能性がある。人間は不確実な状況を嫌うもののようであるし(注1)、優秀な人間はかえって給与が増えるかもしれないという期待を抱くこともあり(注2)、自然ななりゆきではある。

環境の違いはあるものの、米国で行われた解雇方針をとった企業の離職率の変化に注目した研究によると、たった1%の人員削減をおこなうだけで、離職率がこれまでに比べ3割程度上昇してしまうようだ(注3)。(日本の離職率に基づくいい加減な計算だが、日本の離職率の平均がおおよそ5%程度らしいので、1%上昇し、結果として、人員削減対象と同数離職者が生じることになる、ということだろう)。

特に、日本では女性の派遣社員の割合が高い。これまた米国の研究ではあるが、女性の方が、より人員削減に対して敏感に反応し、自発的な退職が増えることが指摘されている(注4)。「派遣切り」という獏とした用語が広まってしまっている今、「派遣切り」の選択肢をとる企業は、想像以上の人材流出を覚悟する必要がある(注5)(注6)。

(注1)私は詳しくないのでよくわからないが、リスクを過大に見積もる傾向があることが、行動経済学の分析によってわかってきているらしい。
(注2)これは自己の能力を過信しすぎている場合も含む。これまた行動経済学によると、一般的な傾向らしい。
(注3)Charlie Trevor & Anthony Nyberg, Downsizing Effects on Voluntary Turnover Rates: Human Resource Practices as Potential Moderators. 2008. Academy of Management Journal (April 2008)
(注4)Sylvia Hewlettらによる。Nancy Gibbs, "Married to the Job", Time Asia (Feb. 16 2009) p.52参照。
(注5)これが誤りでないならば、企業側は派遣切りに対するサンクションを負っていることがわかる。労働者の権利を守るという形で対処するとかえって被用者のためにならない可能性が指摘されることがあるが、このように、企業側もサンクションを負っているならば、被用者保護に過剰に介入しすぎない方がかえっていいのかもしれない(なお、そのような不利益を認識しない企業に所属する被用者は憂き目を見る可能性があるが、そんな企業、切られてちょうどいいかも?)。
(注6)人材流出にともなって生じる営業秘密流出に備えることも「必要」と考えられるかもしれないが、雇用情勢が悪化している状況では、専門的な技術を持った被用者が流動性を失い、せっかくの人材が埋没する可能性に留意が必要である。安易に営業秘密保護を強化することの弊害はここにもある。
posted by かんぞう at 00:33| Comment(0) | TrackBack(0) | ●つぶやき | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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