2008年12月28日

[著作権]北朝鮮映画事件控訴審判決が不法行為の成立を認めた点を考える

報道によると、北朝鮮で製作された映画の著作物の日本での保護を否定した判決(東京地判平成19年12月14日(注1))の控訴審判決(知財高判平成20年12月25日(判例集・最高裁判所ウェブサイト未登載))が下され、原審同様、北朝鮮の著作物のわが国での著作権による保護は否定されたものの、法的保護に値する経済的価値を認め不法行為の成立を肯定したとのことである。

判決文が現時点では公表されていないため、正確な分析ができないが、考えられる可能性に触れておきたい。

北朝鮮などのわが国が国家として未承認の国で創作された著作物がベルヌ条約上保護されるか(注2)という点については、おそらく原審のロジックに沿ったものであろう。すなわち、国家間の権利義務関係は未承認国家との間では原則生じないものの、保護すべき価値が普遍的価値を有する場合、例外的に権利義務関係が生じるとした上で、著作権の保護は普遍的価値とまでいうことができないと評価するロジックである。私は国際法に知見がないが、このロジックに異論のあるものではないと考えられるからである。

耳目を集める点は、不法行為の成立を認めた点である。
確かに、本来であれば著作権で保護されるものであり、十分に法的保護に値する価値であると評価できるが、著作権法の適用上の解釈として保護しないとなっているものについてこれを覆すことには違和感もある。
しかし、敢えて不法行為法上の保護を認めたことの背景には、わが国の著作物の北朝鮮での冒用行為に対する民事的なアクションを担保するため、との思いがあるのかもしれない。

条約の解釈として、わが国で北朝鮮の著作物が保護されない、ということは、北朝鮮においてもわが国の著作物が保護されないことを意味する。これでは、日本の利益に叶わない可能性がある。そこで、北朝鮮内で行われる著作権侵害行為の一部でも止める手段を確保するため、不法行為の成立を認める方向で検討された可能性もあるのではないかと私は考える。
ただし、この判決で示された不法行為法の解釈は日本の不法行為法の解釈である。これが意味を持つのは、北朝鮮でなされた著作物の冒用行為に対する準拠法が日本法となる場合に限られる。法の適用に関する通則法では、不法行為の準拠法は加害結果の生じた国であるが、例外的に「不法行為の当時において当事者が法を同じくする地に常居所を有していたこと」(法の適用に関する通則法20条)がある場合には、日本法が準拠法となる。
これをまとめると、北朝鮮でわが国の著作物の冒用を行っている者が日本に常居所を有する場合、不法行為法上の責任を問うことができる、ということになる(注3)。
実質面を考えると、北朝鮮に存在する者に対して請求を行ったとしても実効性に乏しいため、日本に常居所を有する者が対象になってさえいれば、良しといえるだろう。

もちろん、そうではなく、一般的な知的創造の成果は不法行為法上保護されるものであった、著作権法はこれにさらに特別に強力な保護(翻案行為に対する禁止権、差止請求権など)を付与しているものである、と考えていると捉えることもできる。特に、原審判決文では、両当事者の挙げていない世界人権宣言の規定への言及があった。同宣言への配慮である可能性もある。

これらの点については判決文を精査してみたい。

(注1)評釈として、猪瀬貴道「判批」ジュリスト1366号(2008年)など。
(注2)なお、北朝鮮はWTOに加盟していないのでTRIPs協定上の義務は生じていない。(この点は、原審判決が、台湾で創作された著作物の差異として明示している)。
(注3)裁判管轄についても議論が必要であるが、わが国で争うことが特段の不公平な事情とならないと考えられ、認められる余地は大きいのではないか。
posted by かんぞう at 15:00| Comment(0) | TrackBack(0) | ☆著作権 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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