2008年11月02日

[著作権]知財戦略本部からの著作権フェアユース規定の提言から考える規定ぶりに関する私見

著作権のフェアユースに関して、知財戦略本部の専門調査会から報告書案が出された(「デジタル・ネット時代における知財制度の在り方について(報告案)」)。
なお、この報告書全体については兎園さんの『無名の一知財政策ウォッチャーの独言』で詳しく分析をされている(「第124回:知財本部によるフェアユース導入の提言」「第125回:知財本部・デジタル・ネット時代における知財制度専門調査会の報告案に対する意見募集の開始」)。

■フェアユース規定に関する提言についての感想
報告書案は、情報通信技術を活用した新産業創出につながることを強調して、日本版フェアユース規定を提言している。同時に、個別規定との併存も提言している(当然、今後も個別規定を増やしていくことが必要であるとも提言をしている)。
さらに、規定ぶりについては広範・簡潔な規定ではなく、「著作物の性質」「利用の目的及び態様」を考慮すべきことを明示している。ただし、具体的な条文案までは提示するに至っていない。

これまで利用者側、権利者側いずれの立場の研究会で複数議論されているところを総合すると、情報通信産業においてはメリットが大きいことは間違いないであろう(たとえば、これら産業を資金的に支援する側もハイリスクの投資にはなるが直ちに違法な投資にならないという
点は大きい)。また、本ブログに頂いたコメントをふまえると、情報通信分野に限らず新しい著作物の利用が試みられる動機となることにもつながろう。

これらを考えると、フェアユース規定の導入を提言したことに積極的に賛同したい。

ただし、この規定のもとでは利用者はいずれにせよ、司法審査を経ることが望まれることになる。だが、司法審査は事案での判断であるのか、一般的な基準であるのかの見極めを慎重に行う必要がある。すると、権利制限を確立するには、フェアユース規定に頼って実際にスキームを作り、動かし、それが成功したことを以て、権利制限規定創設に持ち込むという流れが望ましいことになる点には留意が必要であろう。

■望ましい規定ぶりはなにか?
提言では踏み込んでいないが、「公正な利用は許される」とのようにしないのであれば、2つの方向性が考えられる。

一つは、米国の規定を参考にする方向である。以下の要素を考慮する条文とすることになる(注1)。
(1)使用の目的および性質(使用が商業性を有するかまたは非営利的教育目的かを含む)
(2)著作権のある著作物の性質
(3)著作権のある著作物全体との関連における使用された部分の量および実質性
(4)著作権のある著作物の潜在的市場または価値に対する使用の影響

米国の判例を応用できる点では楽でいいが、米国の制度とそろえるメリットがどこまであるのか検討することが望まれるし、米国と経済的・文化的な背景の違いを分析して参照すべき判例を洗い出すことも望まれる。

今ひとつは、ベルヌ条約等のスリーステップテストに沿った規定を導入することである(注2)。 ざっくり言うと、具体的には以下の要素を考慮することになる。
(1)特別の場合について
(2)著作物の通常の利用を妨げず
(3)その著作者の正当な利益を不当に害しないこと

条約を遵守し、他国から突っ込まれる余地を減らすという点では実質的な利益があろう。ただし、実質的な議論をすると、条約の規定をそのまま導入することが自国の利益に叶わないのであれば、適当でない選択肢になる。

自国の利益に叶わない可能性として、スリーステップテスト自体が不明確な基準であることがあげられる。この批判は世界的に存在しているから注意を払う必要があるだろう。
そうであれば、スリーステップテスト自体は自動執行性はないと理解されているのであるし、各国の立法裁量に委ねられる余地が大きいと考えられているのであるから、わざわざそのまま導入するよりは、具体化した基準にして導入する方が望ましいだろう(注3)。

私としては、国際的にはスリーステップテストの検討が欠かせないこともあるのだから、考える契機として、後者(スリーステップテストの具体化基準)導入を議論してはいかがかと思う。
今後、文化庁の著作権審議会に議論が移る。その展開が気になる。

(注1)訳は山本隆司・増田雅子共訳(CRICのWebページから引用した)。
(注2)斉藤博「著作権の制限又は例外に関する一考察(その2)」知財管理55巻10号1360-
1362頁(2005)。
(注3)権利制限規定の解釈においてスリーステップテストを解釈指針とすることを批判的に検討するものでフェアユース規定に述べるものではないが、参考になる論文として、駒田泰土「3 step testはどこまで有用な原則か ――フランスにおける議論を参考に――」上智法学論集51巻3・4号(2008年) 。
posted by かんぞう at 11:56| Comment(0) | TrackBack(0) | ☆著作権 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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