2008年10月26日

[著作権]「インターネット上での違法な公開・共有への対策に罰則が有効」は一人歩きさせるべきではない

私は著作権侵害罪に対しては構成要件が広すぎる、と考えており、折に触れて本ブログでもそのような情報発信を行っている。他方、罰則については実証的検証は必要だが、ある程度適当なのではないか、と考えていた。

しかし、罰則の程度に関する興味深い情報があり、考えさせられた。
内閣府が実施した「知的財産に関する特別世論調査」の結果《内閣府Webサイトへのリンク》である。

■平成20年度(2008年度)知的財産に関する特別世論調査にみる興味深い結果
内閣府が全国の20歳以上の者1,770人に個別面接調査を行った結果によると、「インターネット上での違法な公開・共有への対策として有効な手段」として「違法行為に対する罰則強化」が53.8%を超えていた。

なお、内閣府による同様の調査が平成16年(2004年)に行われている。この調査では、いわゆるニセブランドを念頭に置いた「ニセモノ」に対する有効な対策として「罰則の強化」が58.0%に上っていた。(なお、その後の2006年改正で商標法、意匠法等の罰則が強化されている。)

このときも「罰則の強化」を有効な対策と答える人が最多であり、しかも、割合も同じである。「約半数の人が対策を聞かれると、条件反射のように罰則の強化と答えるのだ」と考えることも出来るかもしれない。しかし、当時と違って知的財産権に関する罰則は確実に強化されている。多くの人がそれを知らないと最初から決めてかかることは適切でないだろう。

では、文字通り約半数の人は罰則の強化を願っているのであろうか。
ここで「罰則の強化」が3通り解釈できることに注意しなくてはいけない。
○他人の著作物の無断アップロード行為に対する刑事罰のさらなる加重
○他人の著作物の無断アップロード行為に対する刑事罰および民事的責任の加重
○他人の著作物の無断アップロードがなされた著作物のダウンロードに対する刑事罰の新設

もっとも、3番目の意味に捉えるには、「ダウンロード違法化」が決まったばかりの今段階では不自然だ。そもそも「違法」と捉えていない人が少なくないはずである。
ここでは1番目の観点で検討してみる。

■他人の著作物の無断アップロード行為に対する刑事罰のさらなる加重?
ご存知のように平成17年著作権法改正で、著作権侵害罪は上限が懲役10年になった。これは窃盗罪、詐欺罪と同じであり、1丁の拳銃所持をした場合(銃砲刀剣類所持等取締法31条の3)などとも同じである。
これを加重すると、傷害、強盗や殺人並の刑事罰となり、生命身体の侵害と同列に論じることになりかねない。これには違和感がある。本当にそんなものを望んでいるのだろうか?

■アンケート結果の解釈余地
著作権侵害で人を大けがさせたのと同じような取り扱いにすることを望んでいるとアンケート結果を理解することには私は違和感がある。アンケート結果を腑に落ちるものと捉えるには2つの可能性が考えられる。
○著作権法改正(罰則強化)後の運用が甘い事実があり、それが知られている。
○そうでなくて、著作権侵害罪の罰則の上限知られていない。

■平成17年著作権法改正(著作権侵害罪の罰則の強化)以降の刑事罰の適用事例
第一法規のデータベースで平成17年10月以降の著作権侵害罪に関する裁判例を調べてみた(注)。
京都地判平成18年12月13日〔Winny著作権侵害幇助事件〕 罰金150万円(注:控訴中)
…これでは少ないので、新聞でも調べてみた。
長崎地裁佐世保支部判平成19年2月22日〔違法着メロ配信事件〕 懲役2年(執行猶予3年)
京都地判平成20年5月16日〔アニメーション静止画像入りコンピュータウイルス(原田ウイルス)頒布事件〕 懲役2年(執行猶予3年)(注:著作権侵害および名誉毀損事案)
やっぱり少なかった。

確かにこれらを見ると、上限の罰則が科されているものは無く、裁判所の運用が甘いのかもしれない。しかし、凶悪犯罪を除けば、他の犯罪でも同様の傾向があるようにも思われる。

しかも、内閣府のアンケートが前提としているようないわゆる海賊版頒布を行ったど真ん中の著作権侵害事案は〔違法着メロ配信事件〕に限られることに注意しなければならない。たった1案件では判断が難しい。これは国民にとっても同じことだろう。

そうすると、著作権法改正(罰則強化)後の運用が甘い事実があり、それが知られていると考えることはどうも無理がありそうだ。

なお、内閣府のアンケートでは、一部の回答者が「罰則の強化」との言葉を民事的な制裁を含めて理解している可能性も存在する(少なくともアンケートでは明示的に刑事罰に限定していない)。
本当は海賊版頒布行為に対する損害賠償額についても見るべきなのかもしれない。

■著作権侵害罪の罰則の上限は知られているのか?

残された可能性として、そもそも著作権侵害罪の罰則の上限が知られていない可能性は無いのだろうか。これはアンケート調査で明らかにすることは簡単だと思う。

もし上限が知られてないとすればいくら罰則を強化しても意味が無いだろう(もちろん、「死刑」を上限にすれば相応のアナウンス効果はあるだろう。だけど、著作権侵害で死刑にする社会はなかなか素敵で、素敵すぎて涙が出てきそう(笑)(注1))。

そうすると、必要なのは法制度の周知でしかない。

■私の懸念:ダウンロード行為の拙速な罰則化につながらないでほしい
著作権侵害罪の罰則をこれ以上重くすることは違和感があるし、おそらく意味も無い(仮に罰則が知られてないとすればなおさら)。

では、本アンケート結果は政府の中でどのように用いられる可能性があるだろうか。あえて使おうと思えば、既存の罰則の強化ではなく、新たな罰則の新設の契機の一つとされるのではないか。

杞憂かもしれないが、私としては、本アンケート結果が海賊版のダウンロード行為への罰則導入が拙速になされることにつながらないか懸念している。ダウンロード違法化にあたって議論で挙った懸念点について十分な調査・研究と検討なしにダウンロード行為に対する罰則を導入の動きへ向かわないように願う(注2)(注3)。すくなくとも、本アンケートで国民の約半数が望んだ「罰則の強化」の意味を確かめるべきだ。

(注1)正確には改正著作権法の適用例を見ることが正しい…が結果は上記の通りであった。
(注2)好みの問題で恐縮なのだが、私はどこかの国のように情報を統制することが好きじゃない。たしかに「海賊版」は問題だとわかるが、著作権保護の実効性確保のために情報受領行為自体を規制することは、適切な手段なのだろうか?この国を歪めてしまわないだろうか?私はこの疑問に対する腑に落ちる答えが欲しいと願っている。
(注3)というものの、研究会の場でお見かけする内閣府知的財産戦略本部の方や文化庁著作権課の方は、冷静な判断の元に政策立案をなされるものと思うし、おそらく「あー、いつもの国民の反応だねー」と流されていると思う。むしろ、政治家であまりこの分野に通じていない方が思いつきで介入することの方が怖いかも。
posted by かんぞう at 15:32| Comment(0) | TrackBack(0) | ☆著作権 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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