2008年09月15日

[著作権]編集著作物の一部を構成する著作物で、入手が不可能なものを図書館が他の図書館のために複製することってどう扱われるんだろう(その2(完))

■31条の意味
まず、31条の意味に立ち返ってみる。
この規定が無いと決定的に困る、という性質のものではなく、政策的に望ましいことを規定しているものと考えるのが自然だろう。しかも、著作権者に不利益を生じさせる可能性があり、また市場の失敗が生じている場面でもないので、何らかの望ましい価値を保護することを政策的に決定したと考えられる(注4)。
ここで望ましい価値とされているのは、国民の情報に対するアクセスの保障であろう(注5)。

■31条3項の意味
翻って3項の意味を考えてみる。
1項、2項と異なり、これがないと情報に対するアクセスが保障されないというものではない。国民によるアクセスが保障された国立国会図書館が資料を所蔵し、31条2項を活用して資料の保存を行っているのであるから、資料にアクセスできないと言うことはない。
3項が実現していることは、国立国会図書館へのアクセスを行うまでもなく、各地の図書館でのアクセスを容易にする、ということにあるのではないだろうか。
(しかも、31条1項が絶版に成った場合であっても、著作物全部へのアクセスを認めていないことに鑑みれば、3項が保護する範囲は限定的と解する方が、文言には整合する。)

これは価値判断になるが、そのような利益はさほどの優越性を有していないのではないか(少なくとも憲法上保護することが必須の利益と見ることは難しいと考える)。

そうすると、31条3項の解釈にあたっては、文言に表れた事項以上の解釈をすることは適切でないであろう。また、著作権者の被る不利益との利益調整も十分に考慮することが適切であろう。

■31条3項の解釈
前に触れたように、文言からの解釈は難しい。
そこで、著作権者の被る不利益との調整を検討する。

必要な論文部分だけ複写されると、掲載元の編集著作物は販売の機会を1回分失うことに通常なる(注6)。
編集著作物の販売部数に応じて著作権者に利益が還元されている場合には、著作権者の利益が失われることとなる。
他方、決まった原稿料で保障されている場合や、そもそも、著作権者には掲載元の編集著作物からの利益の還元が無い場合には、直接的な利益の喪失はない。敢えて言うならば、必要な著作物のみの複写が認められることにより、(実質上わずかではあろうが)利益が損なわれる編集著作物の著作権者が、優れた論文を自誌に掲載するインセンティブが失われる、という可能性が生じる程度であろう。

しかし、著作権者にどのように利益が還元されているか、外形からは判断できず、また、著作権者にしてもそれを公表したくないことが事実上多いであろう。そうであるならば、制度としては、図書館資料とは掲載元の編集著作物を指すものと解することが望ましいように思われる。

もっとも、上述したように、必ずしも著作権者の利益を害する場合が多いわけではない。図書館による編集著作物の一部の入手にあたっては、「入手することが困難」の事情を緩やかに解する余地があるのではないだろうか。

追記:
遊びで書いていたらいつの間にか分量が増えたものであるが、先行研究を全く参照していない。既に適切な検討がなされた論点である可能性もある。
さしあたって眼についた論文(読まなきゃいけない論文)は
○松川実「米著作権法上の著作権の制限規定 図書館及び文書資料館による複製(1) (2)」青山法学論集49巻4号、50巻1号(2008年)
○白井亨「図書館における著作権の問題について―公共図書館を中心として」経済資料研究37巻(2007年)
だろうか。

(注4)本枠組みは山本隆司弁護士の提示されていたものである。山本弁護士は31条について「優越的価値」を保護していることが決定的な説明要素であると分析されていた(「権利制限の共犯従属性」〔著作権法学会2008年度研究大会 配付資料〕)。私もこれに賛同する。
(注5)本規定が制定された昭和45年以前から、図書館が「知る権利」「知る自由」のツールであるとの認識が存在したようである。堀部政男「日本と世界の知る権利・情報公開論議」衆議院・憲法調査会人権小委員会(平成15年5月15日)資料1参照。
(注6)古書市場でのみ流通されている場合には、著作権者や編集著作物の著作権者の利益に還元されない。
posted by かんぞう at 19:36| Comment(0) | TrackBack(0) | ☆著作権 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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