2008年09月06日

[特許]不実施補償を巡る意見の違いを制度的に解消することについての若干の検討

産学連携の成果として特許権が生み出された場合に、大学側が不実施補償を求めることがある。最近は一時期ほど問題(注1)でない感も窺えるが、今でもときどき耳にする。

この問題の根には、大学と企業が特許権を共有した場合、大学側と企業側、お互いの思惑が衝突しているところにあるように考えられる。大学側は「ライセンスしようとしてもお前らが拒否するから(注2)金あつめられへんねん、金払えやぁ」、他方、企業は「共有者は実施するの勝手やろうが!(注3)」という思いを持っている。

こんな不毛な議論、無駄だよね、と言う指摘もある(注4)。
他方で、特に国立大学を中心に、大学側は自律的な運営を求められているため(そして、産学連携部門にはライセンス収入が乏しいとのプレッシャーがかかっており)、易々と妥協できない状況である。不実施補償を求める気持ちはわからないでも無い。

そこで解決できる余地を考えてみた。もちろん、産学連携の実務の現場の方はとっくに考えられていることであろうから、先行研究があると思う。あくまで頭の体操がてら…である。より深い議論があればお教えいただければ幸いである。

■交渉により解決すると?
そもそも、共有にしないことも手である。
最初から譲渡してしまうと楽で良い。しかし、特許の内容の評価を初期の段階で行わなければならないことを考えると、ハードルが高い。
評価の不確実性を考慮すると、企業側は価格を抑えようとするだろう(しかも、交渉が決裂しても共有になり自己実施は補償されるため、妥協する必要性に乏しい)。

そうしたときに、職務発明の承継対価を巡る問題が起こるとややこしい。特許権が譲渡された場合、譲渡価格に基づき相当対価が求められることとなっている規程がおそらく多いと思う(注5)が、その価格の適正さについて発明者が不満を持つかもしれない。

■制度的に解消すると?
そうすると、制度的解決が望ましい可能性がある。

大学側の不満は、特許法73条3項を廃止することによって解消できる(注6)。実務上は、変なライセンスをされないように、大学ー企業間でお互いの合意なしにライセンスしない同意を結ぶことになるだろう。その場合、「ライセンスしない」という意味の「不実施補償」を求めることは、契約上行いやすくなるように考えられる。

ただし、そのような介入を行う必要があるのか、と言う点は議論の余地がある。個人的には、現状のままでも良いのでは、と思うのだが…。

(注1)山口大学知的財産本部「産学官連携推進のために知的財産を運用する上で生じる特許法等の問題点と課題に関する調査報告書」(2006年)
(注2)特許法73条3項により、共有者の一人にすぎない大学は独自にライセンスできない。
(注3)特許法73条2項。
(注4)Web上で探した限りでは、三浦義弘「大学知財と産学連携。今、本当に競争すべき相手は誰なのか?」MRI TODAY(2008年5月記事)など。
(注5)なお、規程が無い場合に、譲渡価格に基づくと考えるものとして、中村彰吾「企業再編と職務発明の実績補償金請求権の債務者の変動」パテントVol.56 No.10(2005年)6頁。鈴木將文「共同研究の成果の権利化及び活用を巡る法的諸問題」(財)知的財産研究所編『特許の経営・経済分析』(雄松堂、2007年)は、特許流通の阻害の観点から同様の観点に立っている。
(注6)鈴木・前掲(注5)によれば、中山一郎「共有に係る特許権の実施許諾に対する他の共有者の同意について」AIPPI Vol.47 No.2(2002年)82頁が役立つようだ。見ておこう…。
posted by かんぞう at 23:50| Comment(0) | TrackBack(0) | ☆特許 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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