2012年05月17日

[著作権]出版社への著作隣接権の創設は、実体上は出版社への権利制限として働く可能性があるのではないかという暴論を言ってみる

出版社への著作隣接権付与が政府で議論されている。

出版社への著作隣接権の付与に対しては、新たな権利を創設することで、爾後、当該出版物を利用したい場合に権利処理の負担が増し、著作物の利用を阻害するのではないか、と懸念する声がある。

また、報道によると、当該著作隣接権は電子的な複製を行う権利を含める予定とある。そのため、当該検討案が仮に立法されると、著作者が紙媒体で出版後、他の出版社から電子出版を行おうとすると、特別の契約がない限りは当該電子出版が止められうることとなる。

ただ、結局のところデフォルト・ルールの変更に留まると思われる。力のある作家は特約で著作隣接権のうち電子出版に係る権利は留保させることができるだろう(逆に力のない作家に対してはそのような留保は認めないという運用が採られる可能性がある)。契約次第でなんとでもなる[注1]。

むしろ、次のように場合分けして考えると、実体上は出版社への権利制限として働く可能性が考えられてしまう。

1)出版社として、出版物に対する寄与・貢献が大きい場合
出版物の企画や編集、装丁のいずれかを行っている場合が想定される。このとき、完成された出版物について、本当に作家だけが著作者なのだろうか?ケースバイケースの判断にはなるが、出版社(厳密には編集者の機能をもつもの)も共同著作者と評価できる余地があるのではないだろうか[注2]
もしそうだとすると、出版社側は本来はフルセットの権利を持つ著作権者になることができるにも関わらず、事実上敢えてその地位を放棄して、権利の内容に限りがある著作隣接権者の地位に留まることにならないだろうか(もちろん、著作隣接権に加えて、著作権者としての地位を求めることもできるだろうが、社会通念上は難度が上がるだろう)。

2)出版社として、出版物に対する寄与・貢献が小さい場合
出版社として出版物に対する寄与・貢献が小さい場合に、著作隣接権を付与することにおそらく一般的な違和感があると思うのだが、そもそもの話としてこのような出版社は作家側に選ばれ続けるのだろうか?

出版社の機能を非常に荒く分解すると、
 企画→資金調達→創作支援→編集→校正→製本→広告→配本
という流れに整理できると思われる。

このうち、企画、編集→校正については、創作的な行為であると私は考えており、関与する出版社は著作権者としての地位を持ってもよい場合があると考えている。仮にこの箇所に出版社が創作的に関与していない場合については、実は中抜きをしてもよかった場合のように思われる。
資金調達や創作支援については、典型的な書籍の出版においては執筆それ自体に多額の費用が必要になることは現代においては考えにくいので、クリティカルな要素ではない。
次に製本、広告、配本機能が問題になるが、製本については印刷事業者に独自に発注できるし、広告も代理店に頼むことができる。残るは配本だけである。ここは議論があるところではあろうが、電子書籍を第一に考えるような時代になれば、配本に作家が頭を悩ますことは減る。

…と考えると、出版物に対する寄与・貢献が小さい出版社は中抜きをされてしまうだけではないか、という思いに至る。だとすると著作隣接権を付与しても、作家が合理的な判断をする限り問題がない。

というわけで、少なくとも現在および将来の出版業界事業を考えると、出版業界は実体上は自ら権利を制限することを申し出ているのではないか(あるいは著作権が出版社にとっては使いにくい権利であるので、権利をスリム化した独自の権利者の地位に立ちたいと言っているのではないか)と思える。

[注1]アンチ・コモンズの悲劇を避けるために、おそらく著作隣接権は作家の著作権に劣後する権利として定められるはずである(なお、アンチコモンズの原論文にあたると、「同じ対象に対して同一もしくは別個の核となる権利を有する、という状況が連続し、これらの権利の間に階層付けがなされておらず、権利衝突を解消するための明確なルールもないとすると」アンチコモンズの悲劇が生じる、としているMichael A. Heller, "The Tragedy of the Anticommons: Property in the Transition from Marx to Markets", Harvard Law Review 111 (1998): 621、訳は田村善之・立花市子に拠った(Nari Lee(著)・田村善之=立花市子(訳)「標準化技術に関する特許とアンチ・コモンズの悲劇」)。
[注2]この点は争ってはいけないパンドラの箱なのかもしれないが…。
posted by かんぞう at 00:43| Comment(0) | TrackBack(0) | ☆著作権 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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