2012年04月26日

[著作権]著作権法学会研究大会(2012年度)個人的なまとめ:(4)筆者考察

■考察
□日本の著作権政策形成を考えたときに、改正をするために望まれる活動

著作権法の全面改正を行う、または、意見集約が難しい著作物の利用者や小規模なクリエーターにとって利便性のある改正を行うためにどういう手段があるのだろうか。今研究大会で得られた知見を基に、次の3つを簡単に考察する。
1)著作権の政治イシュー化
2)条約・現行法との整合的な代替案の提案、懸念点の払拭
3)立法事実の「見える化」

□1)著作権の政治イシュー化
京報告や討論で行われたように、現行の選挙制度の下では、著作権が政治的なイシューとなることは容易ではない。著作権法の全面改正が現行の政策形成過程の下で行われるためには、他の政治家とは異なる事情(選挙に強く、かつ、著作権問題に関心があり、かつ、政治的に有力である)を持つ政治家が登場することを待つしかない。ただ、すでに関心を持つ議員は与野党にいる。今、著作権に関心を持っていることが明らかな政治家を支援する、ということも手ではある。ただし、時間はかかる。

次に、草の根の活動で、若年層の票の掘り起こしになる、と思わせるようなインパクトを与える運動も考えられる。また、著作権法の改正が経済成長につながる、と思わせるような主張と論拠を提供する運動も考えられる。

このような活動は、Think C、MIAU(先進ネットユーザーの会)、あるいは、ロージナ茶会等の私的な団体が先駆者だろう。

□2)条約・現行法との整合的な代替案の提案、懸念点の払拭
京報告で紹介された研究成果を読むと、文化庁当局(官僚)は以下の点を考慮するようである。
・条約との整合性
・法体系との整合性

このモデルが正しければ条約・現行法と整合する代替案を提供することは、立法者側のアクターの一人である文化庁官僚には受け入れやすい。

討論で半田名誉教授が述べられたように、著作権課のマンパワーが限られ、大規模な法改正ができないこともあるので、代替案の提案は受け入れられる余地が少なくないだろう。半田名誉教授が提案されたように、学会として著作権法の改正案を提案することは大きな一石となる可能性がある。

ただし、民法改正案の先例を見ると過度に期待はできないように思う。民法改正案は学術側から複数案が示されているにも関わらず立法化はなかなか進んでいない。民法の改正は「市民社会のありように関わる」との学術側の期待[注1]とは裏腹に、進んでいない。産業界としては目立った反対はしていないが、積極的に支援もしていない様子である[注2]。現行のルールに基づいて、様々な契約手順を整備してしまっているため、仮に現行法が不便でもそれを改正する動機がないのだろう。産業界側から積極的な反対が行われている様子は改正をする動機があるとすれば、これまでの民法に対する知見の蓄積の少ない新規参入者、あるいは、中小規模の事業者に限られるのではないか。このような者の意見は集約しがたい。

まずできることと言えば、政府(官僚)が気にする点をつぶすことだろう。

討論で指摘されたとおり、権利制限に対しては3ステップテスト[注3]の考慮が欠かせないとされている。改正を検討するときに3ステップテストは重要な要素となるだろう。3ステップテスト自体の曖昧さ自体を問題視する学術論文もアメリカでは見られている。3ステップテストの解釈や、その妥当性について整理を自発的に進めておくことが大切なのではないだろうか。

また、外国の制度の運用を詳細に紹介することも欠かせないように思う。表面的な制度を比較するだけではなく、その裏に何があるかを見せることで立法の弾みになる。その点では、(私ではない)ブロガーの方や若手研究者が熱心に取り組まれており、心強い。

□3)立法事実の「見える化」
立法に携わるのは著作権所管当局(文化庁)だけではない。討論で示されたように日本版フェアユース規定創出にあたって内閣法制局の影響が無視できないことがうかがわれた。そして、内閣法制局は立法事実(立法が必要な事態の発生)を求めていることが示唆された。

そうであるならば、次の2つの手段で立法事実ができるとよいのではないか。
1:任意な団体による積極的な著作権行使によって現行著作権制度の課題が認識される。
2:外国等がよりよい制度を作り、制度を巡る国家間競争が意識される。

1:攻撃的なフォーラム
まず、現行の著作権制度の課題が顕在化すると、十分に立法事実は意識されるだろう。

例えばフェアユースの一般条項がないことに対しては次のようなアクションが考えられる。

現行の著作権制度ではフェアユース領域が限定的であるため、権利制限の対象となる写り込み等を除けば、わずかな著作物が含まれているだけでも著作権侵害となりうる(もちろん、裁判上、著作物性が否定されたり、複製行為該当性が否定される可能性はあるが)。

つまり、理論的には「著作権の薮」が生じてもおかしくない。
しかも著作物がデジタル化され、侵害を発見することが難しくない[注4]。

そこで、Creative Commonsのように、相互に条件を守る限りでは自由に許諾し合うフォーラムを作り、その上で、Creative Commonsとは異なり、条件を守らない者に対して積極的に権利行使を行う団体ができると興味深いことになるのではないだろうか。

2:制度の国家間競争
次に、ユーザー側にとって利便のよい制度が国、または、特定の条件・領域において定められ、その効果が目に見える形で現れる(例えば、クリエーターがその国、地域に移転する)とさすがに意識せざるを得なくなるだろう。

例えば、中国では次のように米国型のフェアユース規定を入れ、経済の発展につなげようとしている[注5]。
技術革新の促進と産業の発展において必要とされる特別な状況において、作品の使用行為の性質と目的、使用される作品の性質、使用される部分の数と量、作品の潜在的な市場あるいは価値に対する使用の影響等の要素を考慮し、作品の通常の利用を妨げず、著作権者の正当な利益を害さない場合には、合理使用と認めることができる。(出所:最高人民法院「知的財産権の裁判の機能的役割を充分に発揮し、社会主義文化の発展・繁栄及び経済の自主・協調的な発展を促進するための若干の問題に関する意見」。訳は[注6]に基づく)

さらに、中国社会科学院知的財産権センターのグループが国家版権局の指示に基づいて検討した著作権法の改正案では権利の束をシンプルに束ねる方向での提案がなされていた[注7]。

もちろん、これらの提案は条約で定める保護水準を下回る保護を定めるものではない。だが、理屈の上での話として、自国で生み出された著作物については条約を下回る保護を与え、外国で生み出された著作物については条約に定める保護を与え、以て自国で生み出された著作物を利用した創作活動を推進する仕組みは、ありうるのではないだろうか。

これは外国でその実験が進むと面白い。

また、国の制度としてではなく、特定の条件・領域において生み出された著作物の著作権を制限する手段も考えられる。

やや目的は異なるが、アメリカの国立衛生研究所(NIH)[注8]の取組が参考になる。同研究所の研究資金に基づく研究成果に係る論文は、同研究所が定めるサイトに必ず掲載しなければならないとされている。これは言い換えると、NIHからのグラント(競争的資金)を受け入れることで、その成果の著作物の公表権が制限され、公衆送信権の許諾を強制させられているのである。しかし、これにより研究成果が公衆によりアクセスされるようになり、より成果が生きることになると理解されている。

「○○パークに入るためには、著作権の行使制限をするように」などという政策を作ることはそれほど難しくないように感じる。このような仕組みは日本でもできる。Cool Japan特区(orインキュベーション施設)を作るなり、Cool Japan補助金なる著作権の行使制限を入れた補助金制度ができると面白いのになぁ、と思う。

[注1]大村敦史『民法改正を考える』(岩波書店、2011年)
[注2]法曹関係者からの反対論は存在する。
[注3]ベルヌ条約9条(複製権(録画、録音行為を含む)について規定されている)、TRIPs協定13条(排他的権利について規定されている)。
[注4]学生さんは「コピペルナー」に気をつけていただきたい。
[注5]中国著作権法のはらむ問題はあるのだが、そこは目をつぶって、フェアユースだけに焦点をあてている。
[注6]兎園「第268回:中国の著作権法改正案と最高人民法院のフェアユースに関する意見」(ブログ:2012年4月9日記事)『無名の一知財政策ウォッチャーの独言』(2012年4月23日閲覧)
[注7]李明徳「中国著作権法の改正及び提案」早稲田大学グローバルCOE《企業法制と法創造》総合研究所『国際シンポジウム 東アジアにおける知的財産の利用システムの研究』2012年1月28日開催。中国社会科学院グループの案が直接改正案になるものではないことには注意が必要である。
[注8]研究プロジェクトへの資金配分だけで164億7600万ドル(2011年度)(出所:NIH, NIH BUDGET HISTORY)に上る。
posted by かんぞう at 19:00| Comment(0) | TrackBack(0) | ☆著作権 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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