長らく実務側から要望されていた、冒認出願に対する真の権利者からの移転請求制度導入が検討されている。
その中で、移転請求と侵害訴訟についての論点が気になった。私としては立法的対処が必要な点であると考える。
■移転請求と侵害訴訟についての論点
特許庁「冒認出願に関する救済措置の整備について」産業構造審議会 知的財産政策部会 第27回特許制度小委員会 資料3(2010年)13頁には、冒認者の権利行使に対する抗弁の主張に関連して、「移転請求制度を導入した場合であっても、冒認者の権利行使に対する抗弁の主張は、真の権利者以外の者にも可能とするべき」
とし、その上で以下のように述べている。
「なお、真の権利者の救済を目的として移転請求制度を導入する趣旨からすれば、真の権利者に特許権が帰属した後においては、真の権利者による権利行使が否定されないこととすることが妥当である。」
これは、次の2つの意味で読むことができる。さて、後者の読み方をして良いものだろうか。
・侵害訴訟が係属中であれば、真の権利者への特許権の移転により抗弁の基礎となる事情が治癒することを確認する趣旨。
・冒認出願に基づく抗弁が採用され請求棄却の侵害訴訟が確定した後であれば、真の権利者への特許権の移転により、再審請求が可能とする趣旨。
■私見:再審請求を可能とすべきかも含めて立法的対処が必要
再審を認めると、侵害者とされた第三者の法的な立場は不安定になる(もっとも、真の権利者への移転前に侵害訴訟が結審する事例はそれほど多くないのではないかと想定される)。他方で、真の権利者の救済につながることは間違いない(もっとも、真の権利者には侵害訴訟が結審するまで放置していた――ただし、侵害訴訟発生の事実は真の権利者には覚知し得ないが――という落ち度があると評価もできる)。
私見では、冒認出願の抗弁を行った時点で真の権利者の存在を覚知しているのであるから、侵害者の立場の保護は、真の権利者の救済より劣後してよいと思う。結論として、再審は認められてよいと考えている。
いずれにせよ、抗弁の基礎となる事実が解消された場合として一般的には評価出来ると考えられ、民事訴訟法338条1項に掲げる再審事由のいずれにもあたらないものと私は考える。そうであると再審を認めるのであれば立法的対処が必要となる。