2010年06月04日

[知財一般][著作権]法の正当化過程:著作権保護期間延長を求めるのであれば審議会委員の選考の中立性を権利者側が求めてみたほうが戦略的に良いのでは?

法律の正当化にあたって政策プロセスに着目するアプローチも悪くない、とくに、法の経済学分析との関係では良さがある、と述べる論稿(得津(2009))(注1)に、知的財産権に関する言及があった。考えさせられる点があるので、拙いながらも考察を加えたい。

なお、同論稿は日本における法の経済学分析の中で大きな力を与えている藤田友敬教授、森田果准教授の採る考えの根底にあると思われる点への疑問点を述べたものである。具体的には両教授とも国家の介入の正当性については実証を伴うべきであるとの考え(以下では便宜的に「実証主義的な法の経済学的分析アプローチ」と呼んでみる)であるように見える(注2)が、常に実証可能なものだけではなくそのような考えを一貫することは難しいし、他にも正当性が担保できる場合がある、との指摘を行っているものである。

■実証主義的な法の経済学的分析アプローチから見た知的財産権制度
創作インセンティブ説から知的財産権制度が説明できるとすると、以下のように評価できるという。
「知的財産権制度によって効率性〔筆者注:具体的には情報の豊富化が挙げられる〕を改善する「理論的な」可能性があることを示したに過ぎないはずである」(得津(2009)355頁)。
このとき、仮に法の経済学分析に関して日本において主流の立場が採る前提(=国家の介入は市場の失敗があり、かつ、国家による介入によって改善するという場合に限られるべき)に立った場合で、かつ、介入の正当性はまず実証されるべきであるとの考え方に立つならば、知的財産権制度の導入により具体的に効率性が改善していることの実証研究が乏しい現状においては、「とりあえず廃止すべき制度ということになる」(得津(2009)355頁)。

また、「生産者個人の情報の利益」>「生産者個人の情報生産コスト」(=「社会全体の情報生産コスト」)という自然に情報の豊富化が達成される状況においても、情報に対する排他的な利用権が設定され取引費用が発生してしまう可能性があることも併せて指摘している(注3)。

もっとも、米国の研究を見ると実証研究は既に実施されている(注4)し、排他権を伴う形の知的財産権制度の歴史が長い(注5)ことも効率性が達成されていることの傍証になると思われる。実証主義的な法の経済学的分析アプローチに立ったときに、「とりあえず廃止」といえるかという点については疑問もある。もちろん、かつては効率性が実証されていたが、現在はそうではない(あるいは沿うではない領域が明確になっている)という批判を否定するものでは無い。

■法制度の正当性を担保するalternativeが政策プロセスにあるとするならば、著作権制度を巡る議論で権利者団体は何をしなければならないか
さて、これがこの記事の本題である。

知的財産権制度は一般に創作インセンティブにその根拠を求めざるを得ないと考えられている。自然権的な立場を採ることは難しい(とくに法人著作や著作隣接権などの規定がある我が国の著作権制度では自然権に根拠を求めることは難しい(注6))。

例えば著作権を巡ってはその保護の強化に対して議論が分かれている。前述のように自然権の立場に立つことが出来ないため、保護の強化を正当化するには、
1)法目的が達成されることを実証(すくなくともモデル化して示す)する
2)政策プロセスの正当性を担保する
のいずれかを採ることになる(もし第三の正当性の担保の手法があるのなら別)。

著作権の保護期間延長問題を例に取ると、日米の実証研究では否定的な結論が導かれているものが複数ある(注7)。そうすると、2)に正当性を求めるしかない。

しかし、著作権政策を巡っては審議会の委員の選考過程で所管官庁の作為が入り込んでいるとの政治学的研究成果(ただし、過去の政治過程を分析したものであり、現在は妥当しない可能性がある)があるとおり、官庁での審議会→国会審議という流れでは政策プロセスとしての正当性担保が十分でない可能性が出てくる。

であるならば、例えば著作権延長を求める側は、審議会の委員について反対意見を唱える者をより含むように求めることが、かえって利益になるのではないか。もしそれが出来ないのであれば、その主張の正当性には疑問がつく。

(注1)得津晶「《法の経済分析研究会(1)》負け犬の遠吠え−多元的法政策学の必要性またはその不要性」新世代法政策学研究1号(2009年)341頁-373頁。
(注2)果たして常に実証を求めているのかという疑問はあるが…。
(注3)〔ヨミウリオンライン事件知財高裁判決〕(知財高判平成17年10月6日平成17年(ネ)10049号)などは著作権を認めることにより取引費用が課題になることを懸念し、創作性判断によって著作権による保護を否定した事例と捉えられないこともない。
(注4)David M.Grould and William C. Gruben, "The role of intellectual property rights in economic growth" Journal of Development Economics 48(2) (1996): 323-350.
(注5)石井正『歴史のなかの特許 発明への報奨・所有権・賠償請求権』(晃洋書房、2009年)
(注6)創作の労力に対する見返りとしての著作権であるのならば、自然人の成果が当然に法人に帰属することとなっている法人著作規定はあまりに酷な制度設計をしている。また、創作行為とまで評価されない著作物の流通を促す行為に著作隣接権を与えることも十分な説明が難しい(これらは創作、情報豊富化のインセンティブであるとしないと説明がつかない)。
(注7)田中辰雄・林紘一郎『著作権保護期間―延長は文化を振興するか?』(勁草書房、2008年)、Paul J. Heald, "Property Rights and the Efficient Exploitation of Copyrighted Works: An Empirical Analysis of Public Domain and Copyrighted Fiction Bestsellers", Minn. L. Rev. 92 (2008):1031-、Amici Curiae in support of Petitioners(2002)。
(注8)京俊介「著作権政策形成過程の分析(1)(2)―利益団体,審議会,官庁の行動による法改正メカニズムの説明―」『阪大法学』第57巻第2号、第3号(2007年)。
posted by かんぞう at 23:00| Comment(0) | TrackBack(0) | ☆その他 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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